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2003.11.20

「ああ・・ええですよ」
白髪混じりで短い髪の、いかにも職人らしい頑固そうな顔をした人だった。この人は、新川家具の最古参で、尤も、新川社長の信頼も厚い、家具職人の須山善次郎と言う人だった。
修治に一瞥すると、彼は腕組みをした。
「ここにな、余り材料は一杯ある。さっき見たいなもん、まあ、思う形でもええわ。鳩の巣箱作って見てくれ」
新川が言う。
修治が善さんと言う職人さんを見る。その目はどれでもええから使え・・そんな表情だった。
「あ・・そやそや・・この道具を使ってくれや」
新川社長が、修治にさっきのお父さんの形見だと言う道具を差し出した。善さんの顔が、ぴくっとなった。
「社長・・すんまへん、ちょっとその道具見せておくんなはるか?」
「おう・・」
新川社長が善さんにその道具を見せると、
「ほぅ・・・かなり使い込んどるようやが・・ほぅ・・このカンナと言い、ノミと言い・・こりゃあ、相当腕のええ職人さんの道具や・・」
「分かるか?善さん」
「わしも、この道40年でっせ。ここまで使い込むには、相当な年季が入ってますわ。こりゃ、凄いわ・・」
感心して善さんはその道具を眺めた。
修治が余り材料を集めて来た。
「あの・・カンナ」
善さんが握っているカンナを修治が求めた。
「あ・・おう」
善さんが、修治にカンナを差し出す。
修治が丁寧にカンナで材料を削った。中学生だと言う事だから、技術家庭科の勉強位はしているだろう。
「ほぅ・・・」
善さんの目が光った。修治は、もくもくと材料を削り、1時間後・・その完成した巣箱を新川社長に差し出した。
「出来た・・」
修治が言う。にこやかな顔をしていた、新川社長だが、その時、鋭い目に変わった。思わず、ドキッとした修治だった。佐久間と羽崎は奥で、家具を見ながら談笑している。
「善さん・・どない思う?」
新川社長が善さんに見せる。
「ふ・・・こんなもんでは・・飯は食えませんわ」
職人さんの評価は厳しかった。修治少年の顔に赤みが刺す。だが、善さんは続けて言った。
「見様、見真似で道具を使った割には、父親の素振りを覚えていたんか、カンナの使い方、鋸の挽き方。教えて中々身に付くもんやあらへん・・。けど、鳩の巣箱なら上等やおまへんか?社長」
「おう!わしもそう思うとる。金村君、有難うよ。この巣箱、さっきの「川上稚内号」の専用巣箱にするよってにな」
修治の顔が、少し綻んだ。
「ははは、修治良かったじゃないか。この道40年の職人の善さんから見りゃあ、当然の評価。だけど、新川社長は認めてくれたんだ。」
修治の肩をポンと叩く。何故か悪い気はしなかった。