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2003.11.21

「おい・・金村ちゅうたな・・ちょっと手、見せて見い」
善さんが、金村の手を掴んだ。
「苦労・・しとらん綺麗な手えや・・。けど、指の長い器用そうな手や・・おやっさん(新川社長)この子、わしに預けるゆわはるんですね?」
「そうや・・どや、面倒見たってくれへんか?善さん」
「事情は聞かへんときますわ。ただ、この道具見た時から。何や、久し振りに職人としてのビビッと来るもんがありましたんや」
「よっしゃ、決まったで、金村君。お前がここで働く気なら、中学卒業と同時に来てくれ」
「あ・・あの、ちょっと・・」
修治が少し慌てた。就職の面接に来たつもりなんか全く無かったからだ。佐久間が少し言葉を付け足した。
「なあ、修治。工藤の所のバイクも直さないとな。あのバイクは、一から部品を組み立てしなきゃならんようだ。到底お前一人で直せるもんじゃないし、工藤にも甘えては居れんだろう。新川さんが、こう言ってくださってるんだ。お前にとっても、父さんと同じ道。家具職人てのは悪くは無いぞ。滅多に弟子等取らない善さんが、預かると言ってくれてるんだ」
金村は、しばらく考えていたが、善さん、新川社長にぴょこんと頭を下げた。
「そうか!よっしゃ、決まりや」
ひょんな巡りあわせから、修治少年にとっては、当に、運命とも言える出会いであった。
佐久間が、残ると言う羽崎社長の車を運転して、待ち合わせした喫茶店まで修治を載せて戻って来た。
「一端、工藤の所へ戻るが、修治はどうする?」
佐久間が聞いた。
「俺も行くわ・・なんや、狐につままれたような日やった・・」
「物好きと言えば、物好き。俺も羽崎社長の物好きに拾われたようなもんだ」
「えっ?」
「はは。叉、機会があれば言うよ。何にしても、慌しい一日だったよな」
佐久間はにこりとした。修治は頭をぼりぼり掻いた。
「嫌・・ちゅうて言える雰囲気ちゃうかったわ」
修治が言う。
「はは、最初に飯は効いたか?」
「あんたと、ちゃうっちゅうねん」
「ははは。俺はいつもあそこで、どんぶり飯5杯は食う」
「・・信じられへんわ・・ゴリラ」
佐久間と、波長がどこかで合ってるような気がした。修治は佐久間に対して、警戒感は無くなっていた。
工藤修理工場に戻った、佐久間と修治だった。
「よお・・戻って来たか・・あ、修治、ちょっとこっち来い」
戻る間も無く、修治を呼ぶ工藤。
「これ見い」
「あっ!マッハのフレーム!」
「そや・・苦労したで。西町のバイクショップの倉庫にあった奴を、拝み倒して譲って貰うたねん」
「おおきに!」
「へ・・礼をお前に言われたら、こそばいやんけ」
工藤は苦笑いした。
「流石、元総長だけあって顔効くなあ、工藤」
「えっ?」
修治が目をくりくりさせた。