トップへ  次へ
2003.11.21

「話してやるか?工藤。今日は修治の就職が決まった日だし」
「何!そうか、ほな、今から祝いに飯食いに行くで、めでたい、めでたいのお!」
呆気に取られる修治をよそに、工藤達の段取りは素早かったが、行った先は近所の居酒屋だった。
こんなもんやな・・修治は思った。工藤も佐久間もがんがん飲んでいた。
「全くよ・・おかしな縁だぜ。なあ、修治」
修治は、返事をせずもくもくと食べて居る。
「まあな、こんな付き合いになるのも、変と言うたら、変やで。なあ、佐久間」
工藤が代わりに答えた。
「なあ、聞かせてや、さっき言いかけた事」
修治が口を開く。
「そうだなあ・・まあ、修治もこうやって縁が出来た事だし、いいか?工藤」
「ああ、かまへん」
「もう、5年になる。俺が大学4年の時だ。市内の「ラ・ポール」と言う喫茶店で、働いていた亜紀と言う女の娘に惚れちまってな」
「ぷ・・」
修治が笑う。いかつい顔には似合わないと思ったからだ。
「ちぇ・・俺には似合わんかも知れんがな。そりゃあ優しくて、気が付くし、良い娘だったんだよ。俺はこんなだから、女性とは口を聞くのは苦手でな。毎日、そこへ通ってたんだ。そんなある日、その喫茶店に、工藤が姿を現わしたんだよ。今見ても分かるけど、相当当時やんちゃをやっててな。もう、亜紀ちゃんにナンパしまくりで、俺はもうむかついて、むかついて・・当時、何てったかな?お前のチーム」
佐久間が工藤に聞く。
「ああ・・雷神連合や」
修治が大きな声を出した。
「えっ!雷神連合ゆうたら、関西の族を一本にした、あの雷神?え・・?確か・・総長ってゆわんかった?」
「若気の至りで御座いますわよ、わははは」
工藤がふざけて笑った。
「す・・すげえ・・初代総長や・・ほんまもんやったんか・」
修治が、尊敬の眼差しで、工藤を見つめた。
「こらこら、修治。お前は、もう家具職人の道を選んだんだ。そんなもんに憧れるような目をするんじゃねえよ」
佐久間が言う。
「何、ゆうてんねん、初代総長ちゅうたら、伝説の関西の猛虎ちゅうて言われた位、喧嘩上等連戦、連勝でとうとう、極悪の族を一本にした凄い人やねんで。せやけど、突然総長降りはって、今は、雷神には2代目を継ぐ人も無うて、「我悪羅、鬼羅亜、鬼怒羅」ゆう、3つの族に分裂しとんねん。どんだけ偉大な人やったか、分からんくせに」
「おい、おい、尻がこそばいがな。けどな、修治。わしは、一回だけ喧嘩に負けたんやで」
「え・・?ほんまですか!そんな奴が居ったんですか?」
修治は工藤に対して、敬語になった。
「おう・・目の前に居るがな」
「えっ・・米次・・?」
「こら、佐久間さんだろ?だが、それも違うんだ。工藤と俺は、雷神連合か何か、知らんが、南港でタイマンを張ったんだよ。俺も空手やってて、まあ、それまで喧嘩には負けた事も無いがな。工藤は、そりゃ強かったぜ。喧嘩は、夜明けまで続いて、双方引き分けだった」
「引き分けちゅうのは無いねん。俺らにはな。そやから負けやねん」
交互に修治は工藤と、佐久間の顔を見た。自分はどんな縁で、この化け者達と知り合えたのか・・と。
「ま、女の事で、真剣に喧嘩をしたのは生まれて初めてだったよ。それで、次の日、俺は付き合ってくれと、亜紀さんの所にフランケンシュタイン見たいな顔して行った訳だ」
「ほんで、ほんで。振られたんやろ?やっぱり」
修治がにこにこして、結果は出ている、当然と言う顔をして言った。
「アホ・・そんな生易しいオチじゃねえよ」
「ぷ・・わはははは」
工藤が吹きだした。
「なんや、なんや、どないなったん?」
修治が身を乗り出して聞く。
「どっかのな、冴えん中年のおっさんと駆け落ちしよったんじゃ、前の日に・・がははは」
「ははははは」
修治も笑った。腹の底から笑えた。佐久間が渋い顔をしてビールをぐいぐい飲んだ。修治の中で何かが弾け飛んだ。

この2人が友達になったのも分かるような気がした。