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2003.11.24

工藤の所へ、ある男が訪れた。金村が帰った後だった。
「珍しいやんけ、伊藤」
鬼羅亜の総長、伊藤雄二だった。長髪で、長身の男だ。
「ご無沙汰しとります」
低い声で、伊藤は言った。
「どないした?」
少し、工藤の顔が険しくなった。
「初代に少し、相談したい事がありますねん」
「まあ・・上がれや。奥の座敷で話しよ」
工藤は修理工場奥にある、4畳程の休憩室代わりの部屋へ伊藤を通した。
この男が、関西第2と言われる暴走族、鬼羅亜の2代目総長だ。工藤はその鬼羅亜の初代総長でもあった。
「・・・そうか、我悪羅と、鬼怒羅が、こそこそおかしな動きをしとんのかい」
「今の所は大きなトラブルも無いんで、静観してます。」
「今、我悪羅のアタマは誰や?」
「石井・・石井浩二の弟の、石井達也がやってます」
「ほうか・・。伊藤、わしは、2代目をお前に任せて引退した。そやから、族の世界からはもう足を洗うとんのや。で・・そのわしに相談とは何や?」
工藤の目が光った。
「わし・・雷神連合をまとめよ、思うてます、もう一回関西を束ねたいんですわ」
「何でや・・今は3つに分かれとるが、抗争はあらへん。叉騒動を起こす気いか?」
工藤は険しい顔になっていた。
「いえ・・我悪羅の石井は、薬や、恐喝、その他別働隊を組織して資金を集め、組関係にも通じてますし、最近急に兵隊を増やしてます。どのみち、わし等と抗争する手筈ですねん」
「お前が雷神2代目名乗った時点で、争いの幕が開かれるんと違うか?」
「いえ、雷神名乗ろうとしとるのは、その石井の方ですねん。わしは、それを阻止する為に2代目を名乗るんですわ」
伊藤の目をじっと工藤は見た。
「もう一つ聞くで。そしたら、鬼怒羅のアタマは誰や?」
「橋本道和です。飯村はんがアタマやった時の、特隊の副隊長してました」
「伊藤・・飯村が、何で死んだか知ってるやろが。その飯村の兵隊が何で、我悪羅と組むねん?」
「・・・本気で、橋本が石井と組むとは思うてません・・せやけど、石井は、兄とは全く違う男ですねん」
「分かった・・・伊藤。わしは、お前が次に居るから引退したんや。そやけど・・無茶するなよ」
「はい。今日は夜分に済みませんでした。あの・・初代の所は大丈夫とは思いますが・我悪羅の別部隊が、バイクを漁ってますねん、気をつけとって下さい。それもゆうとこ思いまして」
「分かった」
外で何名かが伊藤が出て来るのを待ってたらしく、複数のバイクの音が聞こえ、次第にその音は小さくなって行った。
それから数日後の夕方であった。
「あっちゃん、ほなバイバイ!」
「恵利ちゃんもさいなら!」
中学校からの帰りの道中に新田恵利だった。交差点で友達と別れ、自宅へ戻る途中の公園の前を通る所であった。
突然、覆面の男2人が恵利に襲い掛かった。
「きゃあ!何すんの!」
「静かにせえ!殺すぞ」
1人の覆面の男が言った。恵利は気丈な女の子だ。羽交い絞めにした、もう一人の覆面男の腕に噛み付いた。
「い・・痛!いたたた!」
一方の手に持っていた袋で、今度は後の覆面男の横っ面を思いっきり殴った。
「がっ・・!」
相手がひるんだ隙に逃げて走った。
「あ・・こら!待て!」
1人が追いかけようとしたが、もう一人が止めた。
「止めとけ・・こうなったら、もうしゃあないやんけ」
覆面を取ったその男達は、同級生でもある、仙崎と田村であった。
恵利は息が切れるまで走った。どうにか、追いかけて来ない事を確認すると、無性に涙が溢れて来た。丁度、工藤の修理工場の前であった。
「お・・どないした。ぺっぴんさんが台無しやんけ」
工藤が声を掛ける。
「う・・おっちゃあん。わあん・・しくしく」