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2003.11.25

日頃から恵利の通学路でもある、工藤修理工場だ。顔はお互い良く知っている。
「何が・・あったんや?とにかく中へ入り」
制服の一部は破れているし、髪も乱れている。只事では無い事を悟った工藤は、事務所の奥にあるソファに恵利を座らせた。くすん・・くすんと恵利は泣き続けている。
少し間を取って、工藤は恵利の前にハンカチを出して、コーヒーを勧めた。
「さあ・・顔でも拭けや。べっぴんさんが台無しやっちゅうねん」
恵利がハンカチを取ると、
「きったなあい・・何やねん、このぞうきんは!」
泣いてた筈の、意外に冷静なその反応に工藤は苦笑いした。
「は・・その分じゃ大丈夫やな。ほな、コーヒーでも飲み?」
恵利が一口コーヒーを飲む。
「まっずー・・・おっちゃん、早う嫁貰いいや」
「余計なお世話や。それにな、おっちゃん言われる年ちゃうで。まだ20代や、わし・・傷つくなあ、ほんまに。ほんで・・泣いてた烏がもう笑うたや無いけど、何があったか言うて見い」
「うちな、さっきそこの公園の所で2人組の覆面男に襲われたんや」
「な・・何やって、そ・・そらえらいこっちゃがな!体大丈夫か、何ともあらへんのか?」
「大丈夫、逃げて来たんや」
「ぶっそうやなあ・・ここら辺も。それやったら、警察行かなあかんわ」
「ええねん・・うちな、思いっきり、一人の覆面の腕、血出る程噛んだったし、もう一人の男の横っ面もこれで殴ったったねんやんか!・・え・・嫌・・嫌あ・・これ壊れてるしぃ・・うわーん」
叉恵利は泣き出した。
「ど、どないした。どっか痛いんか?」
「違うねん。これ・・壊れてしもた。うちせっかく金村君に貰うたのにぃ・・あーん、しくしく」
「何やて・・?金村って・・修治の事かいな」
「おっちゃ・・いや、工藤のあんちゃん。知ってんの?」
恵利が、工藤の顔を覗き込むように見た。
「知らいでか。それよりな・・何で修治?」
「工藤のあんちゃんこそ」
今度は、にこにこしながら恵利が聞き返す。
「あんたも・・泣いたり、笑うたり、忙しい娘やなあ・・しかし。修治は、まあ・・わしの弟分見たいなもんや」
「ほんま!うちな、これ・・このオルゴールを壊した事、謝りたいねんけど、卒業式までもう僅かやし、金村君に会われへんかったら、どないしょ」
「修治なら、ここへ叉来るよって、よお言うといたるわ。それより、あんたもさっきそんな怖い目に逢うたのに、そんなオルゴールの心配なんかして、そっちの方がショックやったやろ?」
「おおきに・・でも、もうだんだん落ち着いたわ。今はこのオルゴール壊した事の方が辛いねん」
「修治がその言葉聞いたら、小便ちびる程嬉しがるやろな。あんた見たいな可愛い娘にそこまで大事にして貰うたら・・それって、卒業前に作るオルゴールやろ?わしも作ったわ」
「うちな・・金村君って、やんちゃやってるけど、このオルゴール見た時、めっちゃ感激したんやんか。こんな優しくて、綺麗なデザイン作れる子やったって思ったら、金村君ってきっと真っ直ぐで純粋な人やって思うたんよ」
「あんた・・名前も聞いて無かったけど・・・ほんまええ娘やな」
「いややな、あんちゃん惚れたらあかんで、うち、新田恵利」
「がははは。流石関西人、ええ突っ込みしてるわ。よっしゃ、恵利ちゃん。あんちゃんが、これから家まで送ったるわ」
工藤は家まで送り届けると、すぐ工場に戻った。修治がちょうど、その時に現れた。
「おう!修治、ええ所に来たやんけ。ちょっとこっち来い」