トップへ  次へ
2003.11.27

卒業式の朝が来た、修治は、母親美弥子さんにこう言った、殆どこの3年間、ろくに口も聞いた事も無かった母子であった・・。
「お母ん、俺・・日本一の家具職人になるんや。ほんでな、お父んと、姉ちゃんの仏壇、俺が作ったるさかい」
「修ちゃん・・・」
美弥子の眼から滂沱と溢れる涙。
「お母ん、泣かんといてくれや。俺な、やんちゃやっとったけど、工藤はんのように、立派に更生してる人見て、俺もやらなあかん思うたんじゃ。それにな、俺・・鳩飼いたい思うてんねん」
「・・鳩?でも、ここ長屋やし」
「それもな、佐久間ゆうあんちゃんが、俺が一人前になったら、鳩やるゆうねん。鳩ゆうてもな、何百キロ、何千キロも離れた遠くから離されても、戻って来るような賢くて、綺麗な鳩やねん。」
「そう、修ちゃん、頑張らなあかんな」
美弥子さんは、顔を覆った。嬉しくて涙が止まらなかった。父親、姉を亡くしてからは笑わない子だった。中学に入るとすぐ不良グループに入って、何度も警察の世話にもなった。美弥子は何度、修治を殺して、自分も死のうと思った事か。しかし、亡くなった修治の姉の恵の顔、夫の一志の顔を思い浮かべては、踏みとどまった。生きて行く為、女の細腕一つで必死で働き、充分にかまってやる暇も無かった。随分淋しい思いをさせて来たと自分を責めた。しかし、この子は立ち直ろうとしている。それが嬉しかった・・。
「おう!金村!・・お前、髪黒くしたんだな。そうか、卒業式出てくれるんか」
担任の三宅が金村を迎えた。嬉しそうな笑顔だった。
「へへ・・先生、無茶ばっかりやっていろいろ迷惑掛けました」
三宅の眼に、少し涙が浮かんだ。
「ほんまや・・長い3年間やった。せやけど、今お前がここにこうして居る。それが嬉しいわ」
その様子を見ていた、金子と言う保健の先生が言った。
「三宅先生、金村君、見違える程変わりましたね。あんな笑顔初めて見ました。」
三宅は無言だった。その肩が震えていた。金子先生はそっとハンカチを差し出した。三宅は、体当たりで、金村達と向き合って来た熱血先生であった。
教室に入った、修治は恵利に紙袋を差し出した。
「・・・・これ」
「えっ!金村君、これ・・直してくれたの!わあ!嬉しい!おおきに、ほんまおおきに!」
体一杯で、喜びを表現する恵利だった。修治は少し照れ臭そうな顔をした。
「金村君、ほんなら・・うちもプレゼント」
「え・・?」
恵利が渡したのは、キーホルダーだった。修治と言う名前が入っていた。
「あのね。金村君のバイクが直ったら、うち・・乗せてくれる?」
「え・・うん・・ええけど・・?」
「わあ!嬉しい!ね、約束よ、きっとよ。金村君」
突然の恵利の言葉に、面喰った修治であった。