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2003.11.28


「こら、千崎、おどれ、どないなっとんねん!金村はどないしたんじゃ!」
我悪羅の特攻隊長、稲村が電話の向こうで、吼えた。千崎、田村が震えた。
「どなんしょ・・亮ちゃん、稲村さん、こっち来るゆうとるで」
「千ちゃん、あの人を怒らせたら、何するか分からへん。どないする?」
「修ちゃんのあの様子やったら、にわかの話にならんやろ。かと言うて女連れてくゆう話は、失敗したし」
「そやな・・もうやるしかあらへんがな」
「バイクか!」
「せや。あの工藤の所にな、ええバイク置いとんねん、あのな・・・・」
千崎が田村に耳打ちする。
「よっしゃ、やろうで!」
こうして、千崎、田村は、この夜工藤の修理工場に忍び込む事となる。しかし、この出来事が、大きな騒動に繋がる事とは・・・。
丁度その頃であった。鬼怒羅の橋本と、鬼羅亜の伊藤が、泉南の公園で対峙していた。
鬼羅亜のテリトリーに鬼怒羅が進出して来たのだ。一瞬即発の様相であった。
「おい!橋本!われ・・何の真似じゃ!」
伊藤の言葉に、橋本がバイクに乗って前に出た。
「何寝言抜かしとんねん。ここは、元々雷神のもんや無いか、わしが走って何があかんのじゃ」
「ほう・・雷神背負う、器量がおのれにあるちゅうんかい。そんなら見せてみい!」
「おお!」
橋本が走り出た。伊藤が受けて立った。怒号が飛ぶ、手出し無用。タイマンで決着をつけるのが彼等のやり方だ。
「ぐわっ!」
伊藤が橋本の右のストレートパンチをまともに受けて、3メートル程後に飛ばされた。
「へっ・・」
橋本が笑った。
「何や・・こんなもんか、おのれのパンチは」
口の中が切れたのだろう、伊藤は真っ赤なツバをぺっと吐き出すと、今度は橋本の胸目がけて、強烈な前蹴りをお返しする。
「ぐうう!」
橋本も3メートル位後に飛ばされた。
「どないした・・終いか?」
伊藤が言う。
「へっ・・アホこけ!」
橋本が、よろよろしながらも立ち上がった。
橋本も関西では名の売れた男。この勝負互角と誰もが見たが、意外と決着は早く、一方的な伊藤の勝利に終わった。
「よっしゃあ!こら!鬼怒羅!雷神継ぐのは、この鬼羅亜の伊藤じゃ!戻って、我悪羅の石井にもゆうとけ!お前等束になっても、この伊藤は倒せんとな!」
この鬼怒羅、鬼羅亜のアタマ同士のタイマンは、あっと言う間に、この晩関西に広がった。
シーンは再び千崎達に移る。
「おい・・あれや、FZ」
「おう・・あれなら文句無いやろ」
忍び込んだ、千崎、田村であったが、何となく憎めないと言うか、今一つなのがこの2人。
「うおん!わおおおおーーーん!」
突然猛犬が2人に襲い掛かる。この不良共、所詮下っ端の兵隊にしか成り得ぬ男達。
「ひぃ・・ひぃーーー」
猛犬・・実はシェパードを、ここ一週間前から借りて来ていた工藤であった。
「おい!ガス、止め!」
組み伏せた、2人の攻撃を止めたシェパードのガスであった。
「へへへ・・飛んで火に入る夏の虫ちゅう奴や。こら、顔見せんかい!」
工藤がにやにやしながら、懐中電灯を照らす。千崎、田村の顔が浮かんだ。
「へ・・?まだガキやないけ。こら、観念せえよ。逃げてもあかんぞ、このガスはやれゆうたら、ほんまに食い殺すまでやりよるさかい」
「ひ・・ひえ・・に、逃げませんわ」
間抜けな泥棒達は、工藤の事務所に連れられた。
「白状せんかい、何を盗みに入った」
「俺等・・バイクの修理しょお思うて、部品取りや」
千崎が答えた。
「ほお、部品取りかい。さよか・・ってっゆうか!ボケえ!」
工藤の迫力に2人は完全に気負されていた。
「まずはや・・不法侵入に、窃盗未遂・・お前等な、未成年や思うて罪が軽なる思うてるやろけどな。どうせお前等の単車も、どこかで盗んだもんやろ、叩けば、なんぼでも埃が出るわい。少年課の新庄はんもよう知ってるで、わしは」
「堪忍してください、ほんま、出来心ですわ」
「ふうん・・お前等の面と格好見て、そない思わんけどのお・・うん・・おい、お前、ちょう腕見せて見い」
その腕の傷はどう見ても、人の歯型のようだった。
「もう、一人のお前・・その額横の傷はどないした」
「ぶつけたんですわ。何の関係がありますねん」
千崎が答えた。
「2人組・・どう見ても、中学出たばっかりゆう顔やしの・・どこの中学出たんやねん」
「どこでもええですやん。それより、何も盗ってないんやから、早う帰らせや」
「ボケがあ!この工藤さんは、そない甘い男や無いねや。お前等、中央第一中学やろが」
工藤の目が光る。
「それが、どないしたっちゅんねん。何の関係もあらへんがな、おっさん」
逆切れしたように、千崎が言う。
「こら・・おのれら、ただのこそ泥やったら、帰したろ思うてたけど、事と次第によったら、タダでは置かんぞ。お前等、修治のタメか?」
「な・・何で、修ちゃん知ってんねん」
田村が答えた。
「よっしゃ、待っとけ。今から修治を呼ぶさかい」
その言葉に、ほっとしたような顔になった2人だった。修治がきっと助けてくれる筈。そう思ったからだ。
同じ不良仲間。男気のある修治なら、きっと・・。
2人はガスを見た、牙を剥いて、唸る。
「ひ・・」
2人は震えた。
10分ほどして修治が来た。猛犬ガスは尾を振って出迎えた。
「へへ、ガス・・どないした」
修治はガスの頭を撫でた。従順なガスであった。
「何ですの?先輩」
先輩って?何で、この猛犬が、修治に尾を?千崎と田村は顔を見合わせた。