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2003.11.12

「坊主、お前の名前は?」
少年は横を向いたまま喋ろうとはしなかった。佐久間は溜息を付きながら言う。
「やれやれ・・見たところ、14、5歳のようだが、どうせ免許も持って無いだろうし、単車も盗んだ物か?」
「じゃかあしんじゃ!関係ないやろ?」
「吼えるな、坊主。何なら、動けんように、足一本折ったっていいんだぜ?」
佐久間が睨んだ、背も大きいし、肩幅もある。おまけにいかつい顔だ。少年は少し目を伏せた。
「おいおい・・佐久間君、乱暴はあかんぞ」
「はい、会長。しかし、どうしますか?こいつの仲間は戻って来ないようですし、このまま放って置く訳にも行きませんし」
「そやの。もう夜も明ける。少し可哀相やけど、夜が明けるまでは、このトラックに居て貰うで」
「予定の放鳩地とは違いますが、まあ・・しょうが無いですね」
佐久間達2人は真ん中に、その少年を挟んで、トラックの中に乗った。
「ほら・・顔を拭け。」
佐久間が左手を差し出した。少年は渡されたタオルで、顔についている泥を拭った。
「なあ・・薄情なもんじゃないか。仲間は誰も戻って来ない」
「関係無い・・あいつらとは」
「一緒に走ってたんじゃ無いのか?」
「・・・後にくっついて走っとっただけや」
「少しは会話出来そうだな・・・じゃ、どう言う関係だよ」
「俺は、鬼羅亜ちゅうチームに入れて貰お思もて、付いて走っとっただけじゃ」
「そんなら止めとけよ。そんな薄情なチームに入るのは」
「何やと!こら!」
少年が怒る。
「おお、おお、元気が良い坊主だ」
「ち・・なんも分からんくせに・・」
少年はうつむいたまま、口を閉ざした。
「ほれ・・坊主」
羽崎がポットから熱いコーヒーをコップに注ぐと、少年に渡した。
かすかに頭を下げて、少年はコーヒーを受け取った。
佐久間は、その様子に少し微笑み、ハンドルを握ったまま、前を向いた姿勢で言う。
「会長・・もうすぐ夜明けですね」
「おう・・それじゃ、そろそろ放鳩しよか?」
少年がきょろきょろしている。佐久間は、羽崎が降りた助手席側から、両手を広げて、少年も降りろと言う仕草で促した。その仕草が気に要らないのか、少年は、顔を歪めたまま、佐久間の横に飛び降りた。途端、少年の顔が苦痛に歪んだ。
「馬鹿・・」
佐久間は、軽い笑い声を上げた。(まあ・・この調子なら大丈夫だな)彼は、そう思った。