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2003.11.30


千崎と、田村が顔を見合わせた。
「工藤先輩、おおきに。よろしゅう頼んます」
修治が頭を下げた。そして千崎達に言った。
「ええか!千、亮!お前等。罪ほろぼししたいんやったら、ここで、一生懸命働けや。分かったの!」
工藤の大きさに、修治は心酔していた。この夜の出来事をきっかけに、大きく修治は変わって行くのだった。
新川家具工場で働き始めた修治は、善さんに、挨拶から始まり、毎日厳しい指導を受けていた。しかし、厳しいながらも卓越した善さんの職人としての技量、そして、垣間見える、人間らしい暖かい人柄に、修治には畏怖では無く、尊敬に近い気持が芽生え始めていた。
そんな様子を佐久間は、眺めていた。
工藤の修理工場へ、又鬼羅亜の伊藤が叉現れたのは、ぽかぽか暖かい春の一日だった。
伊藤の来訪に、千崎、田村が聞き耳を立てていた。
「総長・・・我悪羅と、鬼怒羅がくっつきよりました」
「え・・?総長・・?誰の事やねん」
千崎、田村が顔を見合わせた。2人はあの日から一日も休む事なく、この修理工場で真っ黒になりながら働いていた。
「何でや?鬼怒羅の橋本はどうした?」
「話ですが、稲村が鬼怒羅のカシラになったそうですねん」
「おかしな話やのお・・その橋本はどないしたねん」
「今・・千頭病院に入院してますわ」」
「事故か?」
「妙な噂ですけど、内部抗争ちゅう事ですわ」
「それも、妙な話やのお・・鬼怒羅は、あんななる前(雷神解散当時、そして、飯村の死)は、飯村がアタマやっとって、一枚岩の結束誇ったチームやで。石井となんやら言う話も先日しとったけど、橋本ゆうのは、その頃特隊の副隊長やっとった剛の者や。格から言うて、稲村の下に居る奴やあらへんで」
「先日、わしと橋本がやったんは聞いてはります?」
「おう、聞いたわ。そやけど、お前が一方的やったちゅう話やないけ」
「あのタイマン・・橋本は途中から殴られるままになったんですわ。何でや・・思うとりました」
「ふうん・・橋本は、お前とタメ張る器量やと思うたがのお。で・・?」
「気になるんですわ・・・」
「どう言う事や?」
「鬼怒羅が稲村になって、急速に兵隊を増やしとります」
「烏合の衆が何ぼ増えようが、関係あらへんやないか」
「はあ・・そうですけど、鬼怒羅は極悪ちゅう特隊作って、もう無茶苦茶やり始めてますねん。既に、鬼羅亜ともかなり・・」
「そうか・・伊藤。雷神束ねるんは、容易や無うなったちゅう事か?」
「いえ、工藤はんが降りはった、雷神の2代目はわしが継ぎます。あんな腐れに継がす訳にはいかへんですわ」
そのやりとりを千崎、田村が聞いていた。
「す・・すげえ・・工藤はんて、稲村はん、追い帰して只者や無い思うてたけど、雷神の初代総長やったんや。あの伝説の怪物やで・・うわ・・」
「な、千ちゃん。わし等も恩返しや、動こうで」
それぞれの思惑を呑み込みながら、動きは加速していた。大きな騒動が起きる事を予感しながら・・。
「誰や!」
声が聞こえる。
「済みません、橋本はんの見舞いに来た者です」
「・・誰や、お前等」
「はい、雷神連合の者です」
橋本の眼が光った。
「おのれら、今度はわしを探りに来たんか。石井の手のもんかい!」
「ち・・違います。わし等は鬼怒羅、我悪羅とは関係ありません」
「ほな、鬼羅亜かい。何の用じゃい」
「いえ、鬼羅亜とも今は関係ありません。わし等は、我悪羅の石井の兵隊にもう少しでなる所でした。けど、ある人に助けて貰うて目が覚めたんですわ。それで・・その人のためになれば思うてここへ来ました」
「何の事か、分からへんし、お前等を信じろちゅうても無理な話やの」
橋本が低い声で言ったが、少なくても敵意のようなものは目に無かった。
「俺ら見たいなぺーぺーに話してくれとは言いません。そやけど、俺ら、自分の目指す道が分かったような気がするんです。それは我悪羅や鬼怒羅で無い事だけは確かです」
「・・その誰かとは鬼羅亜の伊藤か?・・お前等、これ以上もう、首を突っ込むな」
橋本が低い声でそう答えた。
千崎達はおじぎをすると、病院の外へ出た。
「どうする?千ちゃん」
「何か・・ある・・。それだけは確かやで」
千崎達は夜の街へ消えて行った。
「先輩!」
修治が工藤を呼んだ。
「おう・・」
少し、にこっとしただけで、工藤の表情は少し冴えなかった。
「・・どないしはったんですか?」
「今日な、千崎と田村が揃って来てへんのじゃ。あれから一日も休んだ事あらへんのに。連絡も無い」
「真面目に2人は勤めてると聞いてますけど」
「おう、一日も休まんと、来とるで。わしも見直したんや。ほんまにバイクが好きやゆうの分かっての」
「・・どないしたんやろねえ・・今日」
2人がケツを割ったとは、到底思えなかった。
「あ・・そや、修治。今日はどないした?」
「あ・・今日は会社休ませて貰うて、免許取りに行ってたんですわ。一発試験で、合格しましてん」
「おお!そうか!良かったの、修治」
修治は工藤に誇らしげに、免許を見せていた。その時であった、事務所に何者かから電話が入った。