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2003.12.1


「こら!石井!いつまですっ込んどんねん!早う出て来い!」
工藤が大声を出す。ようやく、石井が、奥から姿を現わした。しかし、この時、石井は千崎の喉元にナイフを突き立てていた。
「千!」
修治が叫んだ。
「へ・・へへ。動くんやないで。下手に動くと、このガキ殺てまうで」
石井が、不敵に笑う。
「ごら・・何の真似じゃ、そりゃあ・・」
工藤の目が怪しく光る。
「へ・・どない間違うたんか知らへんけど、まさかこのガキが、初代の所に勤めとったとは思わなんだわ。せやけどな!やい!工藤。わしの兄貴が降りたってのお、わしは、雷神連合2代目名乗って、てっぺんに立ったるんじゃ!」
「石井・・おんどれの兄貴はのお、自分の身代わりになって死んだ飯村の血見て、そのほんまの心見せられて、自ら降りたんじゃ。けどの、おどれ見たいな腐れとは違うとったで、お前の兄貴は。わしは、信(石井の兄の名)が望んだら、喜んで総長を譲っとった。おどれ見たいな汚い真似する奴に、この関西を任せる訳にはいかんのじゃ。特攻隊長の特攻服見て何も思わんのけ!飯村はお前の兄貴の身代わりで死んだんじゃ、その気持がお前には分からんのか!」
「うるさいわ・・!工藤、おのれさえ、居てへんかったら、この関西は兄貴のもんやった。飯村も死ぬ事は無かったんじゃ。わしは違うで・・どないな事しても降りへん」
その時、伊藤のバイクが工藤の後ろに到着した。橋本も降りて来た。役者は揃ったのだ。
「こら・・石井。何で飯村隊長がお前の兄貴を庇ったか、分からんのか!」
伊藤の目が怪しい光を放った。
「なんじゃ・・おのれ」
石井が怒鳴る。
「手・・離さんかい!石井」
修治が怒鳴った。
「しゅ・・修ちゃん、御免・・叉ドジ踏んでもうた」
「阿呆ぅ・・世話掛ける奴っちゃで・・」
「動くな!刺すぞ!」
石井が構える。
「どこまで性根の腐った奴じゃ」
工藤が歯噛みする。修治は、今にも飛び掛らんばかりの姿勢だ。
その時であった。
「この野郎!」
石井の頭を、背後から殴った男が居た。田村だ。一瞬石井がナイフを落とした隙に、修治が千崎を抱きかかえた。石井が吼えた。
「この、くそガキが!」
石井が、修治に襲いかかる。
「危ない!修ちゃん!」
田村が修治を庇った。
「ぐぅ・・・!」
石井のナイフが田村の背中を切り裂く。
「この野郎!」
修治の右ストレートが、石井の横っ面に入る。もんどりうって、石井は倒れた。
「このガキャ・・!」
石井が、立ち上がる。
「こらこら・・相手を間違うなよ、わしが相手じゃ」
伊藤が石井の前に立ちはだかった。とうとう観念したか、石井と伊藤のタイマンが始まった。
その時、稲村と、橋本のタイマンも始まろうとしていた。
工藤が怒鳴った。
「修治!早う、田村を医者に連れて行け!誰か、バイクを貸せや!」
我悪羅の一人がキーを渡した。余りにも汚い石井のやり方に、ツバを吐いた一人だった。
千崎を見る修治。
「俺は、大丈夫や、修ちゃん。亮ちゃんを頼む!」
黙って修治は頷き、猛スピードでバイクを発信させた。背中に、田村をくくりつけて。
「さてと・・」
工藤は、橋本と稲村のタイマンを見た。双方ふらふら状態であったが、橋本の包帯をした腹からは鮮血がしたたり落ちていた。
「仲間使って、わし刺して・・ど汚ねえ真似しくさって・・。稲・・そないして鬼怒羅欲しかったんかい!」
「へ・・勝ったもんが正義やろが!」
「これで、安心したわ。思いっきり、おのれをしばけるからの!」
「死にぞこないが、そのまま死んどきゃ良かったのお!」
その言葉と同時に、2人は飛び掛った。
橋本の後ろ蹴りが、稲村のこめかみに入った。稲村は口から泡を吹いて倒れた。
「よっしゃ!この喧嘩、橋本のもんや!文句ある奴は居てへんの!」
誰も、文句を言うものは居なかった。更に工藤が怒鳴った。
「おい!鬼怒羅の大将が怪我してんのや!誰も動く奴は居てへんのか!おどれら、我悪羅の稲村なんぞに手先にされよって、恥ずかしゅう無いのんかい!ええっ!こら!」
一人が前に出て来た。特攻隊長の日坂と言う男だった。
「わし等・・誤解しとったんですわ。石井、稲村に、橋本はんが伊藤はんに負けたんで、引退するっちゅうて聞いて。あの伊藤はんとの一方的な喧嘩見て、橋本はんもカシラの格好つけへんよって・・そう思ったんですわ。せやけど、今晩の喧嘩見て、よお分かりました。あの喧嘩は、伊藤はんが真に雷神2代目として相応しい人がどうか、橋本はんが確かめた喧嘩やったって」
「お前等・・」
橋本が、笑った。
工藤が少しにやっとした。そして、言う。
「よお・・分かってるや無いか・・・早う病院連れてき・・。」
「はい・・」
鬼怒羅は叉一つになって、帰って行った。