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2003.12.10


「あんちゃん、俺、レース早うやって見たいわ」
「ああ・・その事だけどな?確かにイチ号は、ファブリー系の純血だが、言った通り、順調な生育をしていない鳩だ。それにケイ号にしても、南部×今西系で、血統は悪く無いんだが、200キロレース後日帰りの、競翔鳩としては、パッとしない鳩なんだ。だからな、2羽ともお世辞にも良い鳩じゃないんだ。なあ・・」
言いかけた佐久間より早く、修治は答えた。
「あんちゃん、そんなんええねん。本でも言うてはるやんか。成績を追い求めて、競翔しているのでは無い。自分は、遠い所から鳩が戻って来た、あの感動を忘れない・・って。そやから、あんちゃんの鳩がどんな血統であれ、俺は、そんなん全然求める気もあらへんし、鳩レースに子鳩を参加させたいだけなんや」
「修治・・お前、良い奴だな」
「ば・・何ゆうてんねん!あははは」
修治は笑った。
「さあ、出来ましたよ。どうぞ」
ちょっとの間に作ったにしては、かなりの食材が並んでいた。
「美味い!美味い!」
佐久間は料理を頬張る。この食いっぷりに呆れながらも、まだまだ育ち盛りの修治も食べる。その様子を微笑ましそうに見る美弥子。本当の家族のような温かい雰囲気だった。
「あーー満腹した。美弥子さんは料理が上手ですから、いつも幸せ一杯って気分になりますよ」
「あら、お上手や事、佐久間はん」
「いえ!本当ですよ、美弥子さん」
強く佐久間は、言った。少し美弥子は頬を赤らめて、台所へ・・。
「なあ、あんちゃん、見ぃたあでえ・・」
修治がいじわるそうな顔をして、言う。
「見たって・・何を?」
「あんちゃん、この前の日曜日、淡路島行っとったやろ」
「え・・?知らんぞ・・そんな事は」
佐久間が一瞬間を置いて、答えた。
「あれ?ちゃうの?綺麗な女の人と腕組んでたやろ。大磯で」
台所の美弥子さんの手が少し止まっていた。
「ば・・馬鹿言うなよ。そりゃ、見間違えたのと違うのか?」
「え・・?ほんまのほんまに、知らへんの?」
「あ・・ああ。俺は、そんな所行って無いし」
覗き込むように佐久間の顔を見る修治。
美弥子さんが、叉にこにこしながら洗い物を始めた。
「ほんなら、日曜日、えらいめかし込んで、どこ行ってたんや?」
「ああ・・日曜日だったら、知り合いの社長に頼まれて、大事なお客さんの送り迎えしてたんだ」
「なあんや・・そうかいな・・がっかりやなあ・・」
「がっかりなのか?何でだ?」
佐久間が聞く。
「そやって、あんちゃんのこの体と、いかつい顔やさかい、女の人にモテル筈ないやろ言うたら、お母んが、佐久間はんは、会社でもバリバリ仕事しはるし、羽崎社長の信頼も一番や。その人が分からん女の人は見る目が無いちゅうてな・そやから、淡路で、見た時は、お母んのゆうとおりやったって見直したんや、あんちゃんを」
「何だ・・そりゃ済まなかったな。でも、美弥子さんにそう言って貰えるだけで嬉しいぞ、俺は」
茶を運んで来た美弥子さんが言った。
「佐久間はん、私は見る目があるって思うてますから」
佐久間の顔が赤くなった。
「何、顔赤うしてんねん、気色ぅーー!」
修治がからかった。