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2003.12.13 「名前を、あいつが米次にして変えないのは、この世でたった一人必死で育ててくれた身内である、じいさんへの思いを持ってるからや。あいつは、きっと墓場まで持って行くやろう、この名前を。丁度、小学3年生になった時やった。
工藤はその場に土下座した。友人の為にここまでやれるのか・・そして、この友人をここまでさせる佐久間の事を思った。決して、良い出会いでは無かったかも知れないが、修二にとっては良いあんちゃんとして、これまで、付き合って来ていたのだから・・。 「先輩・・先輩に、そないな真似までさせる訳にはいきませんわ。止めて下さい・・」 修治は工藤の手を取った。修治は泣いた。工藤の友達を思うその気持ちに泣いたのだ。 「修治、済まん。佐久間の事認めたってくれるか?わしは、お前の兄貴にはなれるで。これまでも、これからもや」 こんな、工藤と修治の会話がなされている頃、佐久間と美弥子は・・ 玄関前で、土下座をした佐久間に美弥子は、 「どうか・・どうか頭を上げてください、佐久間はん、貴方は、そんな安い頭やありまへん」 「いえ、上げません。俺は死ぬほど美弥子さんが好きです。一緒になって下さい」 ぽろぽろ涙を零しながら、美弥子は土間に裸足で降りて来て、こう言った。 「佐久間はん、裏表の無い、私も貴方が好きよ。でも、こんな7つも上で、大きなコブ付きで・・貴方は将来のある人や。羽崎を継いで行かはる人や。私ではあかん」 「社長には、明日辞表を出します。俺はね、小学校3年生の時に、羽崎社長に孤児院から引き取って貰って、大学まで出して貰いました。本当に大恩ある人です。実の親父以上に思ってますし、経営者としても尊敬してます。けど、自分は決して羽崎を継げる人間なんかじゃないんです。俺がもし、そんな事になれば、羽崎の親戚一同がこぞって反対して、会社は大変な事になるでしょう。ただ、社長が現役で居る間はこの命に代えても、守りたいと思っています。美弥子さん、俺には、父親も母親も居ません。たった一人の身内である祖父も3つの時に死にました。天涯孤独の身です。今更失うものなど何もありません。けど、美弥子さんを失う位なら、死を選びます」 美弥子さんは、佐久間の体に覆い被さり激しく泣いた。 「死んだら・・死んだらあかん!そないな事ゆうたらあかん!うち、うち、もうたくさんや、叉うちを不幸にしはるんか・・うう・・ううううう」 「美弥子さん」 佐久間はきつく美弥子を抱きしめた。 そして・・夜は明けた。修治は戻って来なかった。佐久間の胸に顔を埋めて美弥子が横で寝ていた。 |