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2003.11.14

羽崎が名刺を少年に差し出す。羽崎インテリアショップ社長 羽崎四郎とあった。
「ほんじゃ・・」
「ああ、ここに居る人は坊主も知ってるだろう、関西にも10何店舗を抱える、総合インテリアショップのオーナーだ。俺は、そこの会社の営業主任兼運転手兼、鳩の飼育を管理するハンドラーだ。会長と言ったのは、鳩に関する訓練や、プライベートの時で、西郷連合会と言う競翔連合会の会長もされているからだ。たまたま今朝は訓練の為に、会社の出勤前にこうして、放鳩車を運転してきたが、この車は、連合会で使うもので、勿論会長が個人で寄付したものだが、坊主がたまたま俺達が放鳩に行く途中で事故を起こしていたから、助けたまでだ。オートバイは修理しなけりゃ動かないだろうし、この寒空にお前を放っとけないし、このままにしとけば、間違い無くお前は警察の世話になるだろう、それでも良かったのか?」
「わあったよ・・」
少年は呟いた。
「何だって?」
佐久間は聞きなおした。
「だから・・分かったゆうとんやんけ!」
「それが人にお願いする態度か、ったく」
間髪を入れずに少年は早口に言った。
「それなら、お願いします・・せやけど、金無いで」
佐久間はハンドルを握りながら、眉間に皺を寄せたまま、言った。
「マッハVなんて、古いバイク・・どこの解体屋で見つけて来たんだ?本当にバイクが好きなんなら、もっと大事に使え」
少年は黙っていた。
「まあ、まあ・・何はともあれ、わし等はこれから社に戻って仕事をせにゃならん。坊主、名前を言いたく無いんならゆわんでもええ。わし等も詮索はせん。わしは、これから、坊主を新町の「木崎接骨院」に連れて行こうと思っとる。坊主がそこを知っとるか、お前の家が近いか、まず、それだけ聞いとくわい」
「・・木崎のやぶなら昔から・・知っとる・・家もすぐじゃ」
「そうか・・それなら大丈夫やな」
「おねがい・・します」
少年は頭を下げた。そこまで送れば、自分達の役目は終りだ。佐久間もそう思った。
トラックは止まった。そこは工藤修理工場と言う所だった。
「あ・・」
少年は声を出した。
「何だ・・知ってるのか・・」
佐久間は言った。
「はぅ・・・何やねん、佐久間、こないに早うに・・」
2階の窓から眠そうに無精ひげを生やした男が顔を出した。
「こんな朝早く叩き起こせるのは、工藤の所しか無いからな」
「ふあ・・降りて行くわ。待っとれ・・」
工藤が2、3分して降りて来る、羽崎に頭を下げると、横に乗ってる少年に向かって言った。
「あれ・・お前・・修治・・金村修治か?」
罰の悪そうな顔で、その修治と言う少年がトラックから降りた。
「ははあ・・事故ったんかい・・やると思うたわ・・あんなマッハ転がしとりゃ、当然や」
「知ってたのか、工藤」
「ああ、この辺じゃ有名な不良のガキや」
「なるほど」
「け・・」
修治はふて腐れたように、横を向いた。羽崎は降りなかったが、佐久間が叉一人で、バイクを抱えて降ろした。
「おいおい・・無茶すんなあ・・馬鹿力っちゅうのは、こう言う時に使うもんやあらへんで」
工藤が笑う。
「どれどれ・・あちゃあ・・ひどいわ、これ。事故だけちゃうで。フレームからやっぱりいかれとるわ」
「最初から、悪かったと言うのかい?」
「おう・・こないなバイク・・まっすぐ走りよらんかったやろ・・・のう、修治」
少年は黙ったままだ。
「なるほど・・納得したよ」
佐久間が頷いた。
「のお・・修治。お前、これどないするんや?」
「わしが直すんじゃ!」
「そうやって、叉事故るんけ?死にたいのか?お前・・」
工藤の目が光った。修治と言う少年は目を伏せた。
「まあ・・ええわ。2、3日預かっとくわ。修治、考えてから、叉来い」
「それじゃ、頼んだぞ、これから木崎さん所行くから」
「おう・・その足、診て貰らわんとな、修治」
「金村・・修治と言うのか」
「ふん!」
「ま、どうでも良いけどな、俺は佐久間米次(よねじ)」
「ぷっ・・」
少年は少し吹きだした。名前が可笑しかったらしい。
「・・この名前で、散々小さい時からからかわれたよ。ま、お前に話す事じゃ無いけどな、修治」
佐久間は今度はきちんと少年の名前を呼んだ。
「ふん」
少年は顔を横に向けたままだ。