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2003.11.15

トラックは、木崎接骨院の前で止まった。しばらくして、白髪、白髭の医者が出てきた。
「朝早うから・・どうした?」
「院長、久しぶりですなあ」
羽崎が言う。
「おお、羽崎はん、久し振りです。どうでっか?腰の方は、その後?」
「すっかり、先生のお蔭で良うなりました。その節は」
満足そうに、木崎は頷いた。玄関の戸はぎしぎしと言ってるし、医院もあちこち痛んでいる。建物はボロイが、腕は確かな先生だな・・佐久間は思った。佐久間が修治少年の背中を押して、木崎の前に。
「おや・・金村か・・どうした?」
修治少年は黙っていた。
「叉、悪さをしおって、怪我でもしたか・・こっちに来い」
診察台に修治少年を乗せると、木崎は診察を始めた。それが、佐久間の目には相当乱暴な仕草に見えて、「痛い、痛い」を連発する修治少年の姿を見て、にやにや笑っている。
「まあ・・心配無いやろ、2、3日したら、痛みも取れるわい」
羽崎と佐久間はほっとした顔をした。
「金無いで」
修治少年は木崎に言った。
「わしは、貧乏人から銭は取らん。金持ちからふんだくるでな。それより、修治。母さんに心配ばっかりかけたらあかんや無いか。ほんまにしょう無い奴っちゃで」
木崎が怒る。そして、頭をごつんをこづいた
「痛あ・・・何さらすんじゃい!このヤブ!」
修治少年は、目を見開いて怒った。その修治より更に、老人とは思えぬ大声で、木崎は怒鳴った。
「馬鹿たれ!自分を必死で育ててくれた、母さんを泣かして、毎日何をしとるんじゃ。死んだ父さんや、姉ちゃんの分まで、お前が親孝行せなあかんやろが!」
金村はその迫力に黙った。
「先生はこの子の事、知っとりまんねんな?」
羽崎は木崎に聞いた。
「ああ、良う知ってまっせ・・」
「止めや!俺の家の事べらべら喋りよったら、火つけるぞ、このヤブ!」
そう言って、修治は足を引きずりながら、出て行った。
「おい!待てよ」
佐久間が止めようとしたが、羽崎が止めた。
「もう、ええ、ええ。わし等の役目はもう果たせた。仕事に戻らなあかん」
「はい」
「あ・・羽崎はん・・叉良かったら、近い内に寄って下さい。今の事で、少々話がありますねん」
「はあ・・」
礼をして、羽崎と佐久間は木崎医院を出て行った。
「何か・・複雑そうですね」
羽崎は黙って頷いた。