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2003.12.20


「案の上や・・山本はん加入と一緒に、佐久間をくっつけて来よったわい」
「ゆくゆく、佐久間専務→社長への道でっか?」
「四郎の思うようにはさせんわい。元々はわしの親父と、四郎の親父(先代)が戦後間も無く興した会社や。今は、あっち(四郎)の方に実権が行っとるが、五分五分の間柄やった筈やで」
「せやけどでっせ。これで専務とわしを合わせて、持ち株が30%。現社長が30%、佐久間が10%、山本はんが10%、社長の奥さんが10%、残りが親戚縁者・・ちゅう事は、残りの10%をこちらが抱え込めば、発言力も増しますやろ。今回で、佐久間に自分の株を割いた事で、専務とわしで、社長とは5分でものが言えますさかい」
「そやのう、これで増資の件と、グループ参入企業の中の何社かを押さえとけば、どないかなるかも知れへん」
「任しとくなはれ、そこの所は」
「元、銀行屋のお前や、安生頼むでえ」
市村常務は、銀行務めだったが、使い込みで危うく首になる所を、羽崎剛史専務が拾った男だ。狡賢くて、業者からのわいろの噂も絶えない男だが、専務には、固い忠誠心を持っていた。
「それにしてもやな、あんな孤児院出の子を引き取って、自分の飼い犬に育ておって。それにやな、最近どこぞの後家はんか知らんけど、大きな瘤つきと一緒になったそやないかい」
「へ・・?専務は祝いの席に呼ばれてしまへんのか?披露宴はやらへんちゅう事やったけど、てっきり身内は呼んで、祝いをした筈ですやろ。それに、専務知らへんのでっか?佐久間の嫁はんちゅうのは、うちの経理をやってたんでっせ?」
市村が、不思議な顔をして聞いた。
「何やて?うちとこの事務員やて?ち・・好き勝手しくさって。それにやな、その祝言にしたかて、わしには何も連絡もあらへん。正味、四郎と佐久間だけで、祝いしたらしいわ」
「何で・・ですやろ?」
「分からへん・・公に出来へん事情があんのか、それとも日を改めてやるんか、どっちかやろ」
「そっち、ちょっと調べときますわ。何ぞ出るかも知れまへんな」
そんな訳で、どこの会社でも派閥はあるもの。まして、血縁同士の争い程醜いものも無い。虎視眈々と、現社長派を転覆させんと、策略を練っている所。叉同時刻、こちらでも、やはり会合は開かれていた。
「・・・と言う訳でな。山本はんにはショールームの関西での展開と、住宅リフォームとインテリアを総合した部門をこれから育てて行って欲しい訳ですわ」
「承知致しました。精一杯頑張ります」
山本役員が答えた。
「それと、佐久間には特に、仕入れ部門を見て欲しいのや。最近売れ残りの在庫が急に増えとってな。市村の動きをよお観察しとって欲しいねん。共和物産関連の品の商いが急増しとるのや・・」
「それをつつけば、専務と揉める事になりますが・・」
「かまへん。どうせ、あいつらも今ごろ、こちょこちょやっとんのや。この羽崎は、わしの目の黒い内は、あいつ等には好きにさせん。先代には悪いが、この時代はもっと明るい目を持たんとあかんのや」
「はい・・・。あ・・山本さん、お嬢さんがご結婚話決まったそうですね、遅ればせながらおめでとう御座います」
「あ・・いやいや、佐久間はんのような方やったら、わしも喜んで承諾したんやけど。はは。何で、加奈の奴が国男を選んだんか、よお分からんのですわ」
猛反対を山本さんがしたとは聞いていたので、米次もそれ以上は会話に突っ込まなかった。