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2003.12.21


「美弥子、ちょっとこの伝票調べといてくれ」
そう言って米次は、出かけて行った。特に、最近帰りが遅くなっていた。修治も帰りがやや遅くなって、最近は眠そうだ。昼間は勤め、夜間は学校。工藤の所へもしょっちゅう行っているようであるし、幾ら若い彼等と言っても、体の事も心配だ。美弥子の心配は当然でもある。
「ふぁ・・・眠ぅ・・あれ?あんちゃん、もう仕事行ったんか?」
「最近、関西中のグループ内を回ってるらしいわ。大変そうやわ・・」
「うん。まあ、でも、体力だけはあるよってな、あんちゃん・・あれ?お母ん、その書類どないしたん?」
美弥子が手に持っている分厚い資料を見て、修治が尋ねた。
「ああ・・これ?仕事の資料よ。修ちゃんも、早う食べて会社行き」
「うん・・あ・・そや。今度の日曜日な、羽崎社長はんの家に呼ばれてんねん」
「そう・・?よーちゃんは何にもゆうてへんかったけど・・」
修治の2腹目も、ようやく巣立ちを迎えようとしていた。
修治を送った後、美弥子は分厚い資料に目を通していた。
「あれ・・?」
昼頃になって、経理の仕入伝票がおかしい事に気づいた、美弥子は、更に資料に目を通した。何かが・・叉変化しようとしている午後であった・・。
米次は、昼過ぎに新川家具工場へ来ていて、新川社長となごやかに談笑していた。
「わははは・・そうでっか・・ほな、修治君も呼んで、一緒に飯食いまひょ」
食事を米次と取る事になった修治だが、同居していながら、顔を合わす機会が少なくなっている米次の顔を見た。幾分疲れているような顔だった。しかし、米次はどんぶり飯で、5杯食った。少し、修治は安心した。食事が済んで、米次が、新川社長の社長室で再び会話となった。
「それが・・でんなあ、最近妙な事があったんですわ」
「妙な事?」
「へえ。共和物産っておまっしゃろ?そこから、テーブル200の修理注文を受けたんですわ」
「ほう・・しかし、共和物産は当社でも大口の取引先ですが・・」
「ええ。知っとります。けど、持ち込まれたテーブルをちょっと確認しましたら、先々月倒産した、九州の方の家具屋製造になってまんねん」
「倒産品ですか・・ははあ・・そのテーブルだったら、今度羽崎グループがやる展示即売会に出す目玉商品かも知れません」
「それだけの事やったら、うちも大きな仕事ですさかい、受けよと思うたんですわ。せやけど、共和物産が持ち込んだその修理費が問題でんねん」
「安かったんですか?目玉商品ですからねえ」
「いえいえ、ちゃいます、その逆ですねん。たかが、ネームと一部の部品取替えに、一台につき10万円ちゅう価格ですねや」
「・・・詳しく聞かせて貰えますか?」
「ほう・・ほう・・成る程・・良く分かりました」
小声で、頷く米次。さっそく本社に戻って、展示会の出展品目に目を通していた。それは、目玉商品となる、200点の食卓テーブルであった。
「おい・・佐久間、何調べとんねん」
羽崎専務が佐久間の傍に寄って来る。