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2003.12.22


「あ、専務、ちょっと時間頂けますか?」
「おう・・」
米次は専務室へ入り、叉、ぼしょぼしょと専務と話を始めた。急速に何かが動き始めていた。米次はこの夜、11時を回って帰宅した。美弥子が待っていた。
「おう・・待ってたのか、寝てたら良いのに」
米次は疲れた様子でそう言った。
「修治は?」
「この頃、眠いゆうて、もう寝てますわ」
「仕事と学業の両立だからな、大変だ、あいつも・・」
「それは、よーちゃんもですわ。」
「・・うん・・。少々疲れてる。けど、正念場だからな、頑張らないと」
「体だけは、気をつけて下さい。心配で・・」
美弥子が、緑茶を勧めた。
「大丈夫だ。独身の頃は無茶もやったが、今は家族が居る。俺は頑張るよ。そうでなきゃ、一志さんや、めぐみちゃんに申し訳無いからな」
「おおきに・・。よーちゃんが、一日も欠かす事なく仏壇に手を合わせてくれてるの、ほんまに有り難いと思うてます。」
「それに、俺の死んだじいさんの分もあるさ」
美弥子が涙を拭った。
「俺が守ってやる。必ず幸せにしてやるから」
美弥子は、米次の胸に飛び込んだ。籍こそ、入れたものの、披露宴も、結婚式も挙げてはいない。それは、社内のごたごたが片付くまでと言う米次の希望からだった。美弥子には申し訳ないと、米次は思っていた。
「・・・ちょう・・間が悪いのう・・・」
修治は、こそっと階段を降りる足を戻して自分の部屋に戻った。修治なりに、2人に気を遣っているのだ。それは家族だからだ・・。
次の日の事だった。専務室に、市村が呼ばれて居た。
「・・そんな。今更、この自在テーブル変更やなんて、殺生でっせ。展示会までもう一ヶ月切ってまんねん。」
「分かっとるわ・せやけど、この一台30万円ちゅう額、市村、どこから捻りだしてん?」
「そりゃあ、仕入れ原価と、販売経費、搬送費・・色々でんがな。何で、今更専務がクレーム付けはりまんねん」
「このテーブル、共和物産から、新川家具へ持ち込んで断られた品やそうやないかい」
「わしは、そこまで感知しとりまへんがな」
市村は少し怒り口調で答えた。
「まずいで・・。新川はんの所は、いずれ羽崎グループに入る有力候補や。四郎とも懇意の仲や。からくり読まれたんと違うか?市村」
「けどでっせ。ここらで、短期間でこの品捌けるゆうたら、新川はんの所や。せやから、特別無理してまで、一台10万円もの修繕費と言う、美味しい話を共和物産からして貰うたんや無いですか。全部で2千万円と言う大金でっせ。断るちゅうのは、読めまへんで、実際」
「確かに美味しい話や。仕入れは一台5万円も掛かっとらん。せやけど、そこで、10万円の仕入れを上積みする事で、30万円と言う仕入れの倍で、目玉ちゅう事にしたんやろけど、新川はんの所は叩き上げで一代で作って来た会社や。大量生産より、ブランドを大事にする人や。損得より、義理を立てるような人やさかい、そやからまずかったゆうとんや」
「で・・どないせえゆわはんのでっか?」
「共和物産が、他の流通に流せばええこっちゃ。腹は痛まへんやろ。とにかく、今回はこれ引いとけ。どっから、痛い所突かれるかも知れんよって」
「・・うーーーん」
市村が苦悩の表情を浮かべた。仕入れ原価は実は2万5千円だ。新川家具で修繕費10万円払っても、20万円でそれを羽崎に卸す。共和物産は伝票処理だけで、1000万円の利益を生む事になる。羽崎グループが、運送費、その他経費を引いたとしても、1000万円以上の利益が出るのだ。今回の目玉と称して、実はボロイ儲け話であった。市村がその仕入れを5万円と報告しているように、2万5千円の差額は、共和物産の岡村一と言う部長と、市村で分け合う・・。そんなからくりであった訳だ。銀行でも使い込みがばれる寸前であったように、市村は共和物産の岡村と深く繋がっていた。勿論専務も、そのおこぼれを自分は動かずとも拾う次第。このような、会社を食い物にする輩が既に巣食っている。米次は、それを調べている最中だった。
「成る程・・よお分かった。何・・まだ氷山の一角。これは預かっとくわ」
羽崎社長が米次に言う。
「はい・・」
反社長派・・露骨なまでの旗印を鮮明にした専務派、汚職。それは、株主を買収する資金なのか、私腹を肥やす為なのか分からないが、一波乱も二波乱もありそうな、雰囲気であった。
慌しい日程をこなす米次だったが、久し振りに工藤の修理工場に顔を見せていた。