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2003.12.23


「いら・・っしゃいませ」
米次の顔を見て、理沙の言葉が少し詰まった。
「工藤は居るか?あんた・・ここの従業員?」
米次は、理沙を見て、少し驚いたように尋ねた。
「はい・・少々お待ち下さい・・」
いつの間に・・こんな綺麗な従業員を雇ったのだろう・・米次は思った。
理沙が・・。
「オーナー・・最近・・・危ない事・・してません?」
工藤の顔を覗き込むようにして尋ねる理沙に、
「おい・・おい・・。何や・・何ゆうてんねん、理沙、お前・・」
工藤が理沙とそんな会話をしている所に、叉事務所へ一人の男が入って来た。
「ちわーー・・あれ?」
米次の次に入って来たのは伊藤だった。2人は顔を見合わせた。
「何か・・見覚えのある顔だなあ・・」
「わしも・・知ってる気がしますわ」
2人がそう言っている。
今度は理沙達・・。
「何かなぁ・・マル暴の刑事見たいなんが来てるねん」
「はぁっ?何で、わしの所に来るねや」
「そやってオーナーって叩けば、埃ばっかり出て来そうやんか」
理沙が真顔で言う。
「アホ抜かせ!人は殴っても、金取らんぞわしは」
そんな漫才見たいなやりとりは日常茶飯事で、千崎達も苦笑している。
「なあ、叉やってはるわ。オーナーと、りー姉」
千崎は理沙の事を最近、「りーねー」と呼ぶ。すっかり理沙が、工藤の所の一員となった証でもある。工藤がいぶかりながら事務所へ戻って来る。
「ああ・・何やねん。佐久間と、伊藤やんけ・・おい!理沙!誰が刑事やねん。どアホ!」
「何・・知り合いやったん?いかつい顔とごっつい体してはるから・・つい」
「あれえ・・理沙さんや無いですか。何でここに・・?」
「ん・・あ・・伊藤。あんたこそ、何でここへ?」
工藤が大笑い。
「わはは!まあ、まあ座り。理沙、コーヒー容れてくれや。一人ずつ紹介したろやないけ」
米次も笑った。
「はは。まさか刑事に間違えられたとはなあ・・。最近ここもすっかりご無沙汰してるし、この工藤の所へ・・神藤理沙さんが事務員として入った訳だな?」
「ま・・ちょう違うけど、W1が直るまでの間、担保見たいなもんや」
工藤が答える。
「工藤先輩、こちらの方は、お友達ですか?以前お会いしたように思うねんけど」
「ああ。覚えとるやろ?7年前、南港で、タイマン張った男じゃ」
「7年前ちゅうと・・・確か飯村はんの、W1の後ろで・・・あっ!思い出しましたわ。関西で唯一総長がタイマン張って五分やった方ですか」
伊藤が言う。
「はは、佐久間と言います。あんたが雷神2代目の伊藤君ですか」
「伊藤です。よろしゅうに・・あの・・工藤先輩、聞いても良ろしいか?」
「・・理沙の事やろ?」
言いかけた工藤だが、理沙がコーヒーを運んで来ると、
「うちが言うわ」
各自にコーヒーを渡すと、工藤の横に座って、理沙が言う。
「工藤オーナーのとこ来たんは、全くの偶然。事故ったバイクを押して来て入ったのが、ここやった訳。で・・古い単車やし、部品もあちこち探して貰って、今修理中やけど、私もプーやし、直るまでここで人質見たいなもんや」
「ま、ちゅうこっちゃ」
「そうですか・・あの、レディース我夢を解散しはって、もう3年になりますけど、W1まだ乗ってはったんですね?理沙さん」
「伊藤・・要らん事はもう言わんとき」
理沙の目が光った。
「すんません・・要らん事言いました」
伊藤が目を伏せた。何があったんだろう・・?米次は思った。深い事情があるのだろう・・そう感じた。
「あ・・それより、伊藤。何や?今日は」
工藤が聞く。
「あ・・わしのFZちょっと見て貰お思うて・・」
「ちょっと奥へ回してくれや。田村ちゅうのに見させるよって」
「田村って・・あの時の・・ですか?」
伊藤が聞く。
「そやねん。勉強は出来んでも、田村は、メカには詳しいよって、今では、かなりの事任せられるわ」
「そうですか・・」
伊藤が頷いた。
「ふうん・・」
米次もそう言った。
「千の方もな、この所休みの度にサーキット走っとんねん。なかなかええセンスしとるらしいわ。馬鹿やっとる奴等やけど、なかなか一芸に秀でた所もあるもんやで」
工藤が、米次に言った。
「成る程なあ・・それじゃ、もう行くよ。あ・・理沙さん、コーヒー美味しかったよ、ごちそうさん」
にこっと理沙は頭を下げた。米次は忙しそうに叉車を走らせた。