|
2003.12.26 修治の頑張りは、師匠、善さんの叱咤が最近、減った事でも証明されていた。新川社長が善さんと談笑していた。 「もう、かなりの仕事を修治に任せられるようになりましたわ。あいつは手先が器用な事もあるけど、最近目の色がちゃいますわ」 「鬼の師匠の善さんがそう言うてるなら、間違いないやろ。わしも安心したわ。ところでな、善さん、ちょっと相談があんねや。社長室まで、来てんか?」 「へえ・・何でっしゃろ?」 善さんは、社長室へ付いて行った。社長室へ入ると、新川社長がすぐ、 「実はな、長男の信一郎の事や。家内が死んで、もう20年経った。イギリスから呼び戻して、羽崎はんの所や、木村木材で営業の勉強や、材木の勉強をさせて、この新川家具へ戻らせて3年経った。幸いな事に、しっかりした嫁も貰うて、孫も3人居る。信一郎も、もう42や。ゆくゆくこの新川家具を継いで行かなならん身や。善さんの目から見て、あいつ・・どない思う?」 「へえ・・信一郎さんは、イギリスの学校で、経済学を学びはって、頼もしい専務はんや思うてます」 「親の欲目ちゅう事もあるかも知れへん。わしも信一郎に任せられる準備はして来たつもりや。それにな、そろそろ、羽崎はんから、羽崎グループに入らへんかちゅう話があんのや。どう思う?」 「羽崎はんは、社長と親しい間柄にありますさかい、わし等がどうこう言えるもんでもありません。決めはった通りにさせて貰いますで。わし等は」 新川は少し黙っていたが・・ 「今、羽崎はんは、社内改革を進めてはって、佐久間はんを無任所役員として、昇格させはって、色々やってはるようやけど、一人の駒では大変やゆうてる。信一郎に手伝って欲しいゆうて来てんのや」 「そうでっか・・信一郎はんを佐久間はんと、一緒に・・」 「そや。わしは受けよと思うとる。」 「わしには、どうこう言えませんが・・佐久間はんは、実のあるお方や思います」 善さんが言った。 「そや・・わしも同じや。ただ・・羽崎に信一郎をやる事は、修羅場をくぐらせる事になるかも知れへんのや・・」 「信一郎さんは、芯のある方や。この前の共和物産からの大型発注を断ったのも信一郎さんやおまへんか。新川のブランドを守ってきはったから今がある。そやから、儲けだけの為に仕事はせえへん・・言うの聞いて、じいんと来ましたで。間違い無く、社長の信念を受け継いでくれはる方ですわ」 「そうか・・ほな、決断をするわ」 新川社長の腹が決定した日であった。新川が、善さんとこんな話の最中、やはり、羽崎社長室では、米次とこんな話をしていた。 「・・・成る程。共和物産は市村と組んで、傘下にこの羽崎を取り込もうと画策しとんのかい」 「共和物産の岡村部長は要注意ですよ。通称壊し屋とか、乗っ取り担当の男らしいです」 「剛史も噛んどんのかいな」 「さあ・・本人に意識が無くても、踊らせる側も踊らされる側も、同じ穴の狢と言う事でしょう」 米次はきっぱりと言った。羽崎専務は、権謀術数を操るような人物では無いが、周りに蠢く人物達は、それぞれ魑魅魍魎のような連中ばかりであった。 「うーーむ。やはりお前には駒が居るのう・・信一郎君が来てくれればのう・・」 羽崎社長が言うと、 「それは、新川社長が、グループ加入を承諾と言う事ですね?」 「まだ、返事は貰うとらん。わしはな、ゆくゆくは佐久間、お前が社長で、信一郎君が専務と言う人事を考えとんのや」 「それは・・身に余り過ぎる事ですよ。信一郎さんは別にしても」 米次は少し、表情を固くして答えた。 「まあ・・これからの事やわい・・どうにかせんといかん・・」 羽崎社長の表情も固かった。 |