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2003.12.27


既に、羽崎グループを取り巻く動きは、非常に活発になっていた。その中で、共和物産の岡村一と言う切れ者の営業部長が、盛んに羽崎専務達と接触をしていた。
「ははは、岡村はん。今回の展示会が終わったら、近い内に増資の件の話も出ますやろ。花井照明はんや、岩井運送はん所も力を貸してくれはったら、資本金比率もあっち(羽崎社長)が新川家具や、木村木材を抱え込んでも、ほぼ今度は互角になりますわ。わしの発言力も増すし、役員総会でも過半数に近い所まで行くさかいな。後はお宅(共和物産)の方で、社長派の役員を一人、一人潰して貰うだけですわ」
「ええ、分かってます。株式上場の際には、共和物産からも資金を投入しますさかい」
岡村はにやりと笑った。彼が、羽崎専務の良い様に利用されている男には見えなかった。黒い眼鏡の奥から光る目は、野心を持った鷹のようだった。市村は、黙ってやりとりを聞いていた。
双方の思惑は利害の違いこそあれ、一致はしていた。波乱の幕開けを予感しそうな会話であった。
「それにしてもやで・・新川はんも、なかなか読めん人や。まさか、あんな美味しい仕事を蹴るやなんて」
羽崎専務が言った。
「断ったのは、息子の専務ちゅうて聞いてますわ。」
市村が答えた。
「はは・・市村はん、あんた少し欲かき過ぎたんですわ。新川はんの所に持ち込む際に、その信一郎はんとか言う専務に、契約書を先に調印させといて、それから進んどったら新川社長も断る事が出来んかった事やろうし、そんな反故の話になれば、わしの方から違約金の形で、請求出来たんですわ」
「そうやで、市村、岡村はんの言う通りや。詰が甘いねん」
羽崎専務が言う。
「ぼろくそでんな。せやけど、この資金は羽崎専務、あんたの工作の為のものでっせ。自分の為やおまへん」
市村は少し憮然とした表情で言った。岡村がそんな市村の心を見透かすような目で、少しにやっと笑った。
「分かっとるがな。せやけど、いまいましいんは、佐久間のガキや。あいつが今回の件でちゃちゃ入れんかったら、土壇場でこないな無様さらさんでも良かったんや」
羽崎専務は、酒をあおった。
「せやけど、若いけど、なかなかの切れ者らしいやないですか。法学部も出とるちゅうとるし・・」
岡村が言う。
「四郎が拾うて来たガキや。四六時中、四郎のボディーガードも兼ねとって、傍、離れんわ」
いまいましそうに羽崎専務は言う。
「羽崎社長の両翼が、山本建材とグループ入りが有力視されとる、新川家具でっか?」
岡村が言うと、羽崎専務は頷いた。
「そんな所やな」
「分かりました。ほんなら、ちょっと木村木材の方、何とかして見ましょ」
「そうでっか、お願いしまっさ、岡村はん」
この時間、その米次が山本建材に来ていた。