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2003.12.28


「ははは・・佐久間はん、ほんまでっせ。わしはあんたなら、この山本建材を任せてもええと思うてましたんやで」
談笑していた2人であった。
「いやいや・・。でも、良かったじゃ無いですか。加奈さんも好きな人と一緒になれて」
「死ぬっちゅうて言われたら、男親にはどないも出来しませんわ。弱いもんですわ。娘が可愛いさかいなあ・・」
「ところでですね。その旦那さんの国男さんに会わせて頂けませんか?」
不思議そうな顔をした山本社長だった。
「・・かましまへんねんけど・・何か国男に用事でっか?」
「あ・・他でも無いんですよ。実は友人のバイクショップのリフォームを、国男さんにデザインして頂けたらと・・」
「ははあ・・成る程。せやけど、養子には来て貰うたけど、冴えん男でっせ。未だに加奈が何で、一緒になりたい言うたんか、理解出来ませんねや」
大反対をした山本社長だ。心にかなりのしこりがあるようで、しばらくすると、その国男が応接室へやって来た。山本社長は席を外した。
「設計部長の山本です。今日はようこそ」
大人しい感じの、確かに風体は上がらない男であった。叩き上げの山本社長には、物足りないと写るのは無理らしからぬ事だと、米次も思った。
米次は工藤の店の説明をした。
「分かりました。そしたら、今日今からでもお伺いして、工藤さんのご意見を聞いて参りましょう。立地条件も見ませんと」
真面目そうな人だと思った。任せても安心出来そうな気がした米次だった。山本建材を出ようとした米次だったが、ふいに、その国男さんの奥さんになった加奈さんに、呼び止められた。
「あ・・お久しぶりです。加奈さん。この度はおめでとう御座います」
「ね・・少し時間下さらない?」
「あ・・良いですよ」
加奈が、米次の車の前を走り、追走する事3キロ程の喫茶店に。見合い以来久し振りに加奈と向かい合った米次であった。相変わらず、美しい女性だ。米次は思った。
「国男ね・・父からは好かれて無くて・・」
加奈が淋しそうな顔をして言った。
「はあ・・でも、義理とは言え、息子さんになったんですから」
「佐久間さんのような、精力的で、行動力ある男の人が、父は喜んだと思うし、そうなれば良かったんでしょうけど」
「もう、済んだ事ですよ、加奈さん。お互いに好きな相手と一緒になった訳ですし、打算じゃ無い筈ですよ、結婚ってのは・・ところでご用件は?」
「佐久間さん・・これを見て欲しいの」
そう言って、加奈は一枚のデザイン画を米次に見せた。
「ほう・・夢のある素晴らしいデザインだ。・・・これを国男さんが?」
「国男のデザインには、暖かい優しさを感じるわ。父は、即断即決で今まで会社を築き上げて来たけど、それはそれで、尊敬するけど、私は、国男の才能を信じてるわ」
「俺、今日、国男さんにお会いしましたよ」
「あ・・そうなの?」
「この人なら安心して任せられそうだ。そんな誠実さを感じました。実は国男さんに、友人のバイクショップのデザインをお願いしたんですよ」
「まあ!本当!嬉しい・・佐久間さんに認めて貰ったら、国男も父に認めて貰えるかも知れない。これはチャンスだわ!有難う!佐久間さん」
加奈の喜びようを見て、心から彼を愛している事を米次は悟った。その加奈が分かれ際、
「佐久間さん・・裏表の無い、お優しい奥さんとお幸せに・・」
「あ・・はあ・・」
加奈と別れた後・・
「・・・美弥子とは面識無い筈だけどなあ・・」
米次は首を捻った。
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「なあなあ、最近りーねーの顔、明るうなった思わへん?」
千崎が田村に言った。
「思う、思うで、千ちゃん。大将とええ感じやん。ひょっとして・・」
「そやったら、ええなあ。お似合いやし」
千崎、田村が、そう話し合っていた時、
「お邪魔します」
冴えない風貌の山本国男が、工藤バイクショップにやって来た。