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2003.12.29


「はあ・・成る程・・はあ・・それじゃ、明日叉お伺いします」
国男は、殆ど生返事のような応答で、工藤と理沙が、お互い顔を見合せた。大丈夫かいな・・この人・・。そんな顔であった。その国男だが、千崎、田村にも声を掛けていた。2人の話も聞いて帰って行った・・。
「オーナー・・佐久間さんの紹介やけど・・うちらの希望、理解してくれたんやろか・・あの設計士さん」
「うーーーん・・煮えきらん男やのう・・。せやけど、まあ、明日来るちゅうとるから、気に要らんかったら、やり直しさせりゃええわ」
工藤達の反応はこうであった。
国男が事務所に戻って、設計ルームでイラストを書き始めたのを見て、
「へえ・・」
設計室のスタッフが回りを取り囲んだ。国男のこんな姿等誰も見た事が無かったからだ。そして、それはまるで別人のような筆致となって、周囲を唸らせた。女性スタッフの山下千佳が言う。
「わあ・・何か、凄い優しそうなデザインやわあ」
男性チーフスタッフである、緑川信二も感心したように言った。
「部長のデザイン初めて見たわ・・凄い色使いやし、夢感じますねえ」
国男のデザイン画が、設計室全員を魅了していた。それ程、才能を感じさせるデザインであった。その話はすぐ山本社長にも伝わった。
「ほう・・こないな才能を国男は隠しとったんか」
この道30年の山本建材社長の目を持ってしても、その才能は確かなものに感じた。
「明日、施主さんの所にこれ持って行かはるようです。部長は」
「わしも、国男と一緒行くわ」
突然の山本社長の言葉に驚いた国男であった。加奈と結婚して、それまでの設計室チーフからいきなりの設計部長への抜擢・・周囲の目は冷ややかなものであった。しかし、この日、国男はこのデザイン画で一発で、周囲の信頼を勝ち取ったのだ。その夜、
「えっ!パパが一緒に?」
加奈の驚きであった。加奈は国男に抱きついた。肩が震えていた。優しく国男は加奈を抱きしめた。
そして、次の日の事・・。
工藤と理沙が、見せられたデザイン画に感嘆の声を上げていた。
「・・このきちゃない、わしの工場が・・嘘見たいや。どこかのショールーム見たいやで・・。それも、昨日わし等が言うた希望も、全部取り入れてくれてはって。ほんまに・・・こんな具合に出来まんのか、社長はん」
山本社長は、にこにこしながら、
「勿論ですわ。工藤さんさえ良かったら、このショップ、私のとこのパンフレットにも使わせて貰いたいんでっけど、どうでっしゃろ?」
「えっ・・そらあ、勿論ですし、光栄な事ですわ。せやけど、ほんま佐久間はええ人紹介してくれた。おおきに、おおきに」
山本社長は帰り際、車を上機嫌で運転しながら、国男に言った。
「ようやった、国男。わしな、決めたで。羽崎はんに進言して、これからリフォーム専門の部署を立ち上げる。お前がそこの責任者になれ」
「社長・・・」
国男の目から、涙が落ちた。初めて、山本社長が国男と呼んでくれた日であった。
その晩、上機嫌で、山本社長は国男、加奈を家に呼んでいた。
「わははは。加奈!お前は男を見る目があるわ」
「良く言うわ・・180度違うじゃないの、パパ」
加奈が口をとぎらせる。
「わしはな、国男。この山本建材を創業した時、お客さんに喜んで貰える会社を理想にやって来たんや。確かにわしは、ワンマンでやって来た。わき目も振らんで、猪突猛進でやっても来た。せやけどな、商売はハートや。それが無かったら、お客さんには喜んで貰われへん。一番は心なんや。国男にはそれがある。それが、わしには嬉しいんや」
「パパ・・・」
加奈が両手で顔を覆った。