|
2003.12.30 「・・と言う訳で、国男にリフォーム部門を任せたい思うてるんですわ」 「任せますわ、山本はん。思うようにやらはったらええ。そんな事やったら、この羽崎のテナントデザインもやって見てくんなはれ」 羽崎社長が答えた。 「有難う御座います!社長!」 気持ちには気持で答える。折しも景気が上昇中の時代。羽崎グループは大躍進の芽を着々と育てていた。 さて、工藤のバイクショップは、急ピッチでリフォーム工事が開始され、3週間と言う短期間で、完成していた。その落成式には、羽崎社長と、米次、山本社長、山本国男が参列していた。 「ははは。いやあ、佐久間、おおきに。見違えたで、わしの工場。何や、別の店になった見たいやわ」 「施主さんに、こない喜んで貰えたら、業者冥利に尽きますわ」 山本社長が答えた。 「それに、急ピッチでえらい急がせてしもうて、済んませんでした。それも含めて感謝申し上げますわ」 工藤が、改めて礼をする。 「国男さんは、凄い才能の方ですなあ。自分も、こんなインテリアの仕事を長い事してまっけど、曲面と平面のハーモニーちゅうか、混然としているそのものを一体化するような、奥ゆきの深さと包み込みような暖かさがありますわ。全く今までに無い、新しい感覚でんなあ・・。周囲の風景にも溶け込んどりますし、且つ機能性も追及していて・・何より素晴らしいのは、廃材の利用も考えてはって・・・・この羽崎。感服しました」 羽崎社長の最大限の賞賛だった。それがお世辞でない事は、ここに集まっている全ての人の顔が証明している。 「勿体無いお言葉です。グループのトップの社長さんにそう言って貰えるのは光栄です」 国男は最敬礼をしていた。 理沙がコーヒーを運んで来た。 「めっちゃ、感動しました。私、ここ完成して、思わず涙が出ました。有難う、山本さん」 おや・・米次が思った。理沙の態度が随分変化している。その目線、気遣いが、工藤に向いている事を感じた。 「おい・・工藤。お前・・」 米次がにやにやしながら、工藤の肩をぽんぽん叩く。 「な・・何やねん、佐久間」 米次のその動作の意味が分からず、きょとんとしていた。 山本国男・・この羽崎グループに無くては、ならない存在となる日も近かった。人材は羽崎グループ内に居る。羽崎は、この時そう思った。 それから数日後の事だった。 「あれ・・工藤のあんちゃんの所、めっちゃ綺麗になってるやんか」 約一年振りに姿を見せた、新田恵利がそこに立って居た。 「お・・久しぶりやんけ、長い事どないしとったんや」 工藤が言う。 「うちな、中学卒業してから、オーストラリアに一年間留学しとってんやんか。ほんで、来月からこっちの高校に編入する事になってんのよ。あれ・・こちらの綺麗なお姉さん、事務員さん?奥さん?」 「まあ、可愛い娘。ケーキでも食べる?」 理沙が上機嫌で、恵利に言うと、 「おおきに!」 理沙が台所に行くと、恵利が 「あんちゃん、ええ女性見つけたな」 「あ・・阿呆ぅ・・そんなんちゃうわい。せやけど・・留学やなんて、世界が違うのお、俺らとは」 「お父さんが、何事も経験やって言うから、行ったのよ。それより、あんちゃん、何してんねん、早う押し倒さな、あかんやんか」 「ぷ・・」 飲んでいたコーヒーを噴出しそうになった工藤だった。 「あ・・あれれれ・・何してんねん、オーナーは」 理沙が零れたコーヒーを拭く。工藤の服に掛かったコーヒーも丁寧に拭き取った。 「ふうん・・・」 恵利が頬杖をつきながら、にやにや笑っていた。 「あ・・お姉さん、うち、新田恵利と言います。ここのオーナーは、工藤のあんちゃんって呼んでます」 「うちは、神藤理沙、よろしゅうに」 「これから、うち、毎日この前の道通るし、ちょこちょこ顔出してええかなあ」 「どうぞ、どうぞ。妹が出来たみたいで、嬉しいわよ、恵利ちゃん」 「わあ、おおきに。ほんならうちも理沙姉さんて呼ばせて貰うし」 恵利の、底抜けの明るさに苦笑いしながら、工藤は 「ほんま・・調子狂うで、この娘は・・ははは」 「げ・・・あれ・・新田恵利・・なんでここに・・?」 千崎が言う。 「うわ・・何か気まずいのう・・千ちゃん」 田村も答える。 「ああ・・あれ、千崎、田村とちゃうの?」 恵利が彼等を見つけた。 「あっちゃあ・・気付いてもうたか・・しゃあないのう・・」 工藤が苦笑いした。理沙が不思議そうな顔をした。 |