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2004.1.3


「おう、修治、どうだった?工藤の所・・え・・あれえ」
久し振りに家でくつろいでいた米次が、驚いた。美弥子もだ。
「あ・・れ・・修ちゃん・・」
「お邪魔します、修治君の同級生で、新田恵利と申します」
「あ・・ああ、いらっしゃい」
米次と美弥子が顔を見合わせた。照れ臭そうな修治がそこに居た。
「恵利に・・鳩見せるよって・・」
ぺこりと恵利が頭を下げると、修治の後をついて行く。
「まあ、しっかりしたお嬢さん」
「あんな、可愛い娘、いつの間に・・」
米次と美弥子が、再び顔を見合わせた。
「わあ・・これ修君が作ったの?修君って本当に器用やね。わあ・・可愛いー。ねえ、触らせて、鳩の赤ちゃん」
恵利が、きゃあきゃあ言いながら子鳩を触っている。米次がその様子を眺めている。
「なかなか、良い感じだよ。ただ・・あのレーシングスーツと、ヘルメットはなあ・・」
そこへ恵利が、
「お邪魔しました。今日はこれで帰ります、失礼しまあす」
小一時間程鳩小屋に居て、修治と恵利は、工藤の店に戻った。工藤を中心とした周囲は順調な流れの中、回転していた。だが、米次の周囲は新たな局面を迎えようとしていた・・。
その一つ、木村木材には、共和物産から多量の木材が入荷していた。
南米から輸入した、主にラワン材の原木だ。年末を迎えると言うのに大量の在庫を抱えて、木村政雄社長は苦悩していた。
「この分やと、年を越されへんわ・・困った」
岡村からの要請で、一時預かりの形で、仕入れた材木が、突然の受け入れ先のキャンセルの為に、売り手を失い、売掛金が入らない状態になっていたのだ。何度も岡村に交渉はするが、
「木村はん、済んませんなあ・・何とか、来年になれば、うちとこで半分は責任を持って処理しますさかい」
来年まで、とても持てない状況に木村木材は追い込まれようとしていた。木村社長は、懇意である羽崎専務の所へ相談に来ていた。
「・・そう言う訳で、困ってまんねや。羽崎専務はん、何とか助けて貰われへんやろか。大量の材木を抱えて、資金繰りに行き詰まってまんねや・・」
疲れ切った表情で、木村社長は言った。
「そりゃあ、お困りでっしゃろ。せやけど、岡村はんも、自分の受けはった仕事の後始末を、木村はんに持って来るのは非道おますなあ・・」
「来年になれば、半分は責任を持つ言うてくれはってまっけど、その半分だけでも、今年中に何とかせんと、危ないかも知れまへんのや、うちとこも」
「木村はんとこがそないなったら、うちとこも困りますわ。よっしゃ、わしが、何とか動いて見まひょ」
「ほんまでっか!羽崎専務。恩にきますわ・・」
木村社長は立ち上がって、羽崎専務と握手を交わした。
全ては、岡村の策略であった。それは、羽崎グループに加入予定である、木村木材を共和物産が乗っ取る為の序説に過ぎなかったのである。
そして、数日後、木村は岡村に呼ばれていた。
「いやいや、木村はん、ご迷惑お掛けしました。羽崎専務からも頼まれてます、今回の件でっけど、私の所が無理言いました。そこで、その材木についてでっけど、木村はんの所へ卸した2億の金額やけど、どうですやろ?1割引かせて貰うて、1億8千万円で、引き取らせて頂くちゅうのは」
「・・来年になって金利が嵩むより、・・それより、うちが持ちこたえられまへん。しょうがおまへん。それでよう、おます」
こうして、まんまと岡村は、材木を転がしただけで、2000万円の利益を得たのだ。新川家具でやろうとした手口も同じだ。今期の赤字決済を余儀なくされて、木村木材は仕方無くこの条件を呑んだ。こうやって、そう言う状況に追い込んで行くのが、岡村の手口だ。黒字経営を続ける木村木材とて、羽崎グループの一員となったあかつきには、山本建材のように中核としての立場に立てる筈が、このような赤字決算を出していては、グループ企業の下に置かれる。ここで、羽崎専務派として組み込まれる訳だ。
そして、羽崎グループの臨時役員会が開かれる日がやって来た。
「・・と言う事で、今回は羽崎グループの増資の件と、グループに新たに、木村木材さん、岩井運送さん、新川家具さんの参加と言う形で、増資の件のご了解を頂きたいと思います」
全員に異存は無く、賛成であった。
「続きまして、羽崎グループの新たな一員となられた3社を加えまして、グループの再編と言う事で、提案をしたいと存じます」
羽崎社長が、少し間を置き、一同に書面が手渡された。