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2004.1.5


「それでは、ご賛成の方、起立をお願いします」
圧倒的な不利・・羽崎専務も市村も起立をせざるを得なかった。まして、今の市村の立場では、もの言う資格さえ弱かった。
「賛成多数と言う事で、本案は可決致しました」
役員会後、羽崎の社長室で、
羽崎社長、山本、新川、米次の4名が話し合っていた。
「まあ・・ここまでは、佐久間の読み通りに進んだ。せやけど、これからは、共和物産の切れ者岡村が牙を剥いて来よるやろ。どないな手を打って来るかも知れん。信一郎君に管理、事務部門を任せるとして、もう一枚、経理の者が欲しいのう」
「そうですね、木村木材もあわやと言う寸前までやられました。それは、ジャブのようなもので、その気になれば、このHZKの本体を叩いて来る事も予想されますし、内通者の事や、これからの全国展開を考えると、色んな妨害も予測されます。大きな取引を装って、いきなり、売掛け金の回収と言った手口もありますから、かなり細部まで目を光らせとかないと」
米次は言った。
「佐久間はん、あんたがなんぼ若いちゅうても、無理がある。羽崎社長も2枚も3枚も人材を佐久間はんにつけへんと、倒れてしまいまっせ」
新川が正味だと言う事を付け加えて、羽崎社長にそう言った。
「そや・・わしも公私に渡って、少し佐久間に頼り過ぎとるわ。せやけど、山本はんも、新川はんも加わってくれた。心強うおまっせ」
「あの、信一郎をここへ呼んで、よろしおますか?」
新川が言った。
「ええ」
羽崎が答える。米次も良く知っている、頼りになる兄貴分のような人物だった。
間も無く、長身で、新川社長には余り似ていないが、きりりとした眉毛の人物が入室した。言われるままに米次の横に座った。
「皆さんも知ってはる通りです。信一郎君は、これから、羽崎の総務部門の役員として辣腕を振るって貰います」
「よろしくです。新参者ですが、力一杯頑張ります」
役員連中の中では、米次に次ぐ若さだ。
「ところでな、信一郎。佐久間君には、もう一枚駒が欲しいゆうてはるんや。お前の紹介出来る男は居らへんか?」
新川社長が言うと、少し信一郎がにやっと笑って、
「そう仰るのではと予想してましたので、一人会計事務所に勤務している男で、鈴木大介と言う28歳になる男が居ます。紹介したいと存じますが」
「おう!流石に、信一郎君や、佐久間どうや?」
「お任せします」
米次は頭を下げた。
「私の私見ですが、社内には、内通者が共和物産から送り込まれているか、或いは、反社長派の人脈が居ると思いますので、この鈴木君については、緊急募集の形を取って頂けますか?出来れば、市村さんの下で」
「よっしゃ」
頼りになる人だ・・米次は思った。既に、信一郎は、かなりのHZK内の動きを感じ取っているようだ。少し張った肩の荷が軽くなったような気がした。
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「くそ・・面白うない・・何でわしがインケツやねん」
行きつけのクラブで、深酒を呷る市村であった。
「あれあれ・・市村はん、ご機嫌悪うおますな」
岡村がそう言った。
「岡村はん、何でわしばっかりババ踏みますねん、今度はわしもこの通りですがな」
そう言って、市村は手足を引っ込めた、相当酔っている様子でもあった。つまり、だるまになったとでも言いたいのであろうか・・。
「まあまあ、そやけど、羽崎専務はんの立場も厳しいんと違いまっか?社長派の、がちがちの部長連中やさかい、四面楚歌の中仕事せなあきまへん」
「岡村はん、なんぞええ手おますやろか。負けっぱなしではわしも浮かばれしませんで」
「なかなか・・佐久間ゆう人は若いけどやりますなあ・・まさか、こんなに早うCI変更で、増資の件をこうも見事に持って来るとは思いませんでしたわ。見事な地盤固めですわ」
「あんな馬の骨にええようにされて堪るかいな。わしも、この道で何十年も生きて来たんや」
そう言って、叉市村はがぶがぶと酒を呷った。
「まあ・・見てておくなはれ。この岡村、手は打ってまっせ」
「何!ほんまでっか!岡村はんがそう言うてくれはんねやったら、わしも待ちますわ。辛抱よう」
「はは・・」
岡村はクラブを出て、そして笑った。
「ふふ・・使いもんにならへん男やのう・・市村はんも」
そう言いながら、岡村は夜の街に消えて行った。