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2004.1.7


「おい!茶や。茶位、容れてくれんかい」
つまり、実質市村は、何もするな、してはいけない立場に追い込まれているようで、直属の課長連中にしても桜井と言い、マーケティング課長の加藤と言い、頑固一徹の骨太の人材であり、容易には扱える男達では無かった。
市村が苦虫を噛んで居る頃、今度は、米次が人事部長の筧の所へ来ていた。
「これが最近一ヶ月内に入社した従業員のリストです」
グループ内で、勿論鈴木も入れて12名が中途入社をしていた。その中で、資材部と、営業部に配属された2人の男について米次が筧に質問した。
「はい。峰岸四郎君と、多田政直君ですね?えーーと・・」
筧が分厚い履歴書の束の中から2人を探して米次に見せた。
「あ・・ありました。これが履歴書ですわ」
「ふうん・・峰岸君が関西大学経済学部、多田君が、同志社大学ですね・・峰岸君が、大学卒業後トラック運転手?・・多田君が写植会社に勤務ですね・・へえ・・・」
「あの・・何か2人に?」
「あ、いやいや。その2人の履歴書をコピーしてください」
米次がその履歴書のコピーを受け取ると、その2人の職場に向かった。30分程経って、資材部の正木部長に会った。
「ちょいちょい、多田は席を抜けるんですわ。仕事はてきぱきこなすんでっけど、注意はしてますねんけど」
米次は、少し正木に強い調子で怒って、その部署を後にした。そして、今度は営業部の峰岸の所へ行くと、丁度営業部長の所で怒られている最中であった。長身で、動作も機敏そうで駄目社員には見えなかった。米次が峰岸を呼んだ。年は27歳と大して米次と変わらない。
「成る程・・峰岸君は、大学を卒業してから運転手をしていたのは、人手が足りなくて配属されて。それが面白くなくて退社したんだね?」
「はい。そうですねん。一応経済学部出てますし、肉体労働は勘弁してくれ・・そう思いながら2年勤めました。」
「ははは。そうだよねえ。ところで、君の勤めていた運送会社って、岩井運送の社長が良く来てただろ?」
「え・・?いえ・・自分は外へ出る事が多かったので・・ちょっと・・」
「あ、そう、そうなの?いや・・有難う。こうして、新入社の人と話するのも役目でね」
そう言って、米次は営業部を離れ、叉先ほどの資材部へ戻って、席を外していた多田と面接をしていた。
「同志社大学の経営学部を出て、何で写植会社のDTPのオペレーターの道を選んだの?」
多田も27歳の年であった。
「あ、自分は元々文系志望でしたので、そう言う文字を扱う仕事をやりたかったんですよ」
「そうなの。ところで、君の勤めていた会社に俺の友人が居るんだ。緑川って言うんだけど、知ってるかな?」
「あ、俺はすぐ営業に回されて、写植のOPの方の名前までは余り知らないんですが・・」
「へえ・・そうなの?いや・・有難う」
短い応答で、すぐ米次は本社に戻り、羽崎社長室で話をする。
「よっしゃ。分かった。わしの知ってる所へ頼んで見るわ」
ふう・・米次は社長室を出ると大きく溜息をついていた。
次の日、米次はもうすぐグループ入り目前である、岩井運送を訪問していた。
「はははは。佐久間はん、そら殺生でっせ。毎月の油代、運転日報を見せてくれと言われても、わしの所はある程度決まっている顧客で、決まったコースを走ってますねん。明朗会計ですから」
「いやいや、そう言う事では無くてですね。岩井さんの経理状況を確かめたいのとは違うんです。今度流通部門は、岩井運送を加えて、流通部門の要として、トラック一台に至る入れ替えや、修理にしても書面をきちっとやっとかないと、何しろ、羽崎社長は、うるさい人ですから大変ですよ。これからは」
「そうでっか・・そやったら、2、3日内に資料を揃えてお持ちしますわ」
岩井運送の社長、岩井一平は、深く羽崎専務と内通している人物。帳簿を見れば、必ず繋がりが見えてくる。米次は羽崎社長命令の形を取って暗黙の了承で、岩井に提出を求めたのだ。岩井もここまでグループ入りの話を進めて来たからには、今更この話をおじゃんにする気は無い、2、3日内に揃えるだろう。そして、動きも・・。