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2004.1.8


岡村が、峰岸、多田と市内の料亭へ入る写真が、探偵社、春野芳正によって手渡された。
「ふむ・・これではっきりしたわ。佐久間ようやった」
羽崎が満足そうに頷いた。
「鈴木君からも報告が届いています。市村さんの経理不正操作は明らかですし、この2名が共和物産からのスパイである事も間違いありません」
「来年4月の決算までには、片付けとかなあかん問題や。わしも来年で66や。これからの余生、のんびり鳩レースでも楽しみたい。新川はんも、わしより2つ上の68や。同じ事ゆうてたわ」
「そうなされる為には、会社に大きなメスを入れて、大改革も必要でしょう。まだまだ人材を活用しなければ・・」
「その通りや・・話は変わるけどな。佐久間、お前、正月ちょっとオーストラリアに行って来い」
「え・・?」
この忙しい大事な時期に、突然何を言うのかと、佐久間は羽崎の顔を見た。
「お前には、この数ヶ月せわしい目をさせた。もうチケットも取ってある。家族で行って来い。新婚旅行も行かせとらんし、ほんまにお前には済まんと思うとる」
「社長・・・」
米次の肩が震えた。
「わしは、お前を息子・・いや、それ以上に思うとる。この羽崎を継ぐのはお前しか居らん。わしや、新川はんが隠居したら、山本はん、信一郎君と力を合わせて、このHZKを守って、発展させて欲しいのや」
「何度も言いますが、自分にはそんな大役は・・」
「お前なら大丈夫や。鈴木君を腹心に使うたらええ」
「しかし・・」
米次が言うのを制して、羽崎は言った。
「お前には、信一郎君を始め、山本はんも感服しとる。この件が片付いたら、骨を埋めるつもりで、お前の下で働きたいと鈴木君も言うとる」
「それは・・心強いですが・・」
米次は、羽崎に深々と礼をして社長室を出て行った。この時、まだまだ羽崎社長には現役で居て欲しい・・そう思っていた。その為には、この一件では断じて負ける訳にはいかない、新たな決心もしていた・・。
さて、その岡村達が写真を撮られた時の、料亭での会話であるが・・。
「そうか・・佐久間が、2人の面接をしたんかいな」
「ええ・・まあ、1ヶ月内に中途入社した12名の社員全員ですが」
多田が答えた。
「ほんで、どんな事を聞かれたんや?」
「自分は、岩井運送の社長を知ってるだろうと聞かれました」
峰岸が答える。
「・・それで?」
「自分は運送の方に出てましたので、良く知りませんと答えました」
「峰岸・・その返事はまずいで」
岡村の顔が厳しくなった。
「え・・?」
「よお、考えて見い。お前が勤めた事になっとる合田運送は、岩井運送の下請けや。その社員であるお前が、岩井運送の社長の顔を知らんでも、岩井運送ちゅうのを知らんゆうのはまずいやろが」
「申し訳ありません。そこまで考えが至りませんでした」
「まあ、ええわい。それでも、共和物産からスパイとして、入社してるとは思いもよらんやろし、結びつくもんもあらへんさかい。せやけど、佐久間言う男は油断のならん奴や。気いつけとけ」
「はい・・」
「ほんで、多田。お前はどうやねん」
「同志社大学を出て何で、写植の会社に就職したのかと」
「ま、誰でも聞くわいな。他には?」
「その写植会社には、佐久間はんの同級生が居る。緑川言うんやけど、知らんか・・と」
「・・それで・?」
「自分は、営業の方だったんで、余り知りませんと答えました」
「・・まあ、実際知らん訳やし、答えようも無いわのう・・答えたら墓穴を掘る」
「はあ・・」
「それだけか?」
「それだけです。その後、鈴木の所へ面接に行くゆうてはりました」
「そうか・・」
岡村は、2人に酒を勧めた。
「それで・・組織的には完全に市村はんは、外された格好やな?」
峰岸が答えた。
「はい。イベント企画課の桜井課長は、もう露骨に市村はんに逆らってますわ。元々偏屈で扱いにくい人だそうですけど。それに、マーケティング課の加藤課長は、完全に無視です。他の部署の部長連中も、ほぼ同様ですわ」
「そうか・・もう市村はんは、あかんな。ま、羽崎専務の片腕やちゅうだけで、今まで来た人やさかい」
「あの・・ちょっと気になるんですが」
多田が言う。
「何や?」
岡村の目が光った。
「その鈴木でっけど、管理部門に配属されて、この前、市村担当が、書類を見せろゆわはった時、佐久間担当から預かった書類ですから、見せられないと断ったそうですねん。自分達と同じ新入社員で、少し不自然では無いかと思いました」
「ほう・・新人のくせに、そない大事な書類を任されとんのかい」
「まあ・・管理課全員がそんな感じなんですけど、話では、鈴木はどっかの会社からヘッドハンティングされて来た人材やと言う事です」
「確かか?」
「いえ・・確かめた訳ではありません」
「もう少し、その鈴木の事を調べといてくれ。もしかしたら羽崎社長派の息が掛かっとるのかも知れん」
「はい・・」