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2004.1.15


「えっ・!正月から2週間もオーストラリアに行くんか・・ええのう」
工藤が、うらやましそうに米次に言った。
「工藤も一緒にどうだ?新婚旅行を兼ねて。それに、式は何時やるんだ?」
「まあ・・そう言うの・・柄ちゃうしなあ。最近結構客が増えて忙しいんで、すぐには無理や」
「理沙さん、正月の2週間は無理としても、1週間でも5日でも良いじゃないですか。どうです?」
米次は、理沙に話を転じた。
「そやねえ・・」
「こらこら、何でわし外して、理沙に言うねや」
「はは。経理は理沙さんだ。そう言う俺ん所もそうだがな。わはは」
「かなんのう・・わはは」
結局工藤達も、1週間オーストラリア旅行に行く事に決まったのだった。
「えっ!ほんまですか。社長さんが?嬉しい・・何と言っても、よーちゃんが休めるように気遣ってくれはる事が一番嬉しい」
美弥子は、米次の体調を非常に心配して居り、栄養面も工夫していた。少し以前より食の細った米次が心配であった。実際米次は肉体的、精神的にも疲れていた。しかし、頼れる信一郎、鈴木の加入で、ぐっとそれまでより精神的に楽になった。
その暮れ、忘年会の席上で、多田と、鈴木が顔を合わせていた。
「ほう、多田君は同志社大学ですか。同じ京都の大学ですね。俺は立命館ですわ。どこかで顔を合わせました?年も一緒やし」
「どこかで会ってるかも知れんですね、鈴木君とは。はは、今日は飲みましょう、飲みましょう!」
2次会になって、多田と、鈴木はミナミの飲み屋をはしごして、最後に立ち寄ったのが、玉造のスナック「カオリ」だった。
「いやあ・・多田君ってほんまによう色んな事知ってるわ。俺なんか毎日帳簿ばっかり見てるから、ちっとも社内の情報なんか分からへん。なるほどねー。羽崎専務派と、羽崎社長派ってそないになってるんや」
「そんな事は、鈴木君も、もう少し働いてれば分かるわ。それより、鈴木君は、HZK入社するまで、会計事務所をやってたんやてね、凄いエキスパートが入社したった噂やで。誰かの紹介?」
「いやいや・・そんな大層なもんや無い。自分一人で事務所を抱えてやってても到底食べて行ける程のコネも無いし、結局募集のちらしを見て応募しただけ。自分は少々算盤をやってて、暗算が得意なんで、先日、佐久間担当に色々テストされた見たいやねん。」
「ああ、成る程。君の場合は、面談やなくて、実力テストのようなもんだったのかあ。じゃあ、市村担当に見せろと言われて断ったちゅう、気骨のある人物やって話はどうやの?」
「ははは。そんなんちゃうわ。あれね、加藤課長にきつく言われてましてん。市村担当には、何も見せたらあかんって。俺の直属の上司やろ?むしろ、何で?ちゅう思いはあったけど、そっちを優先しただけや。何せ、役員がどうのこうのって怖さも、入社したばっかりの俺には分からへんからな。ははは」
「ははは。そやったんか。」
「ああ、その時のテスト用紙持ってるで。見る?」
「あ、見せてや」
鈴木が見せたのは、10何桁の剰余算であった。
「うわ・・こんな計算用紙を・・?」
「俺な、算盤10段やねん、それで面接の時にそれ言うたら、佐久間担当が、これ持って来て、その場で暗算やって見ろって持ってきはったねん。それに、俺は剣道もやってたし。その事もあったんや」
「へえ・・鈴木君は剣道もやってたんか。それにこんな計算が出来たんや・・」
「へへ・・まあ・・」
「鈴木君、俺と同期やし、これからも仲良くしてくれよ」
「そら、こっちもお願いするよ」
こうして、鈴木、多田はちょくちょくお互いの情報を交し合う仲となって行った。