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2004.1.25


数日後、多田が岡村に鈴木の事を報告していた。
「ああ、そうか。鈴木は直接には、社長派とは関係無いんか。それなら使えそうやな」
「ええ。なかなか口も軽い男で使えそうですわ」
「峰岸、お前の方はどやねん」
「はい、反社長派と呼ばれるまでは行きませんが、HZKの社内改革で、若返りと言う事になり、年配を中心とした社員連中には、色々不満分子が多いですわ」
「そやろな。色々情報を集めとけ」
「はい」
「後、4ヶ月ちょっとや。決算期までに株式上場の話を加速させて、株主総会で、社長退陣まで追い込めば、株式の過半数を仕手グループが押さえて、実質的に共和物産が、HZKを吸収するのや。関西で新たな拠点としてのHZKは、我が共和物産の重要な原動力となる。一気に、HZKの全国展開や」
「はい」
「それに、次期グループ入りが検討されている(矢吹硝子、川中工業、春居商店、赤塚設備)これらの社長連を動かして、HZKに接待攻勢や。情報を出来るだけ持って来てくれ。資金はどんどん出す」
「はい」
動きが加速した。米次は間に合うのか・・。勿論米次も活発な動きを展開していた。相手の動きが見えれば、対策も講じられると言う事。岡村と米次の闘いは、参謀の力量の差で決まる。米次は、各部長連を個別に呼び出し、異例の訓示を行っていた。4月の株主総会まで、一切の接待を受けるな、違反者は容赦無く切ると言う厳しいものであった。その中では、ただ一人、課長職である、桜井と喫茶店で個別に米次が話をしていた。
「・・・と言う事です」
「分かりました。最近、赤塚設備とか、春居商店等の接待が特に増えています。気をつけます」
米次より5つ上の34歳の桜井であるが、生真面目で、剛直な一面を持つ異色の人材だ。不満を訴える部長も居たが、今回の指示は、辞職すら勧告すると言う強いものであった為に、従う他は無かった。この業界で、接待無しと言うのは、異例の事でもある。HZKは大きく変わろうとしていた。
「・・やって来よるなあ・・。そんな御布れが出とんのかい」
「相当厳しいですよ、岡村部長」
峰岸が言った。
「ああ、多田!そっちの鈴木はどうなんや?」
「はい。ここにコピーがあります」
「おう!でかした。これで、株主総会で、市村を叩いて経営陣の不正をつく材料が出来る」
「あの・・・」
峰岸が言いかけた。
「何や・・」
「市村はんと言えば、岡村部長、羽崎専務と言うラインでは無かったのでしょうか」
「ふん。峰岸、市村は元銀行員で、多額の使い込みをやった奴や。銭に汚い奴は、利用もし易い。羽崎専務はんも彼を散々利用して来たが、今はもう、何の影響力も発揮出来ない閑職。所詮そこまでの男や。」
「はい・・」
峰岸は、岡村と言う男の徹底した冷徹な面を見て、それ以上はもう言わなかった。
「これは、当面の資金や。外からの接待が無いのやったら、お前達が情報収集に使え」
資金は500万円ずつあった。若い2人は少し震えた。岡村が少し、にやっと笑った・・。
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「えっ!オーストラリアに行くの?」
新田が理沙に尋ねている。
「まあな・・ふふ」
嬉しそうに理沙が答える。
「うちも行く!」
「ええ?」
「理沙姉さん、うちがオーストラリアに留学しとったん知っとるやろ?うちが案内してあげる」
「そやって・・恵利・・学校は?」
「何ゆうてんの、冬休みやんか。お父さんに、留学先の友達の家に遊びに行くゆうたらOKしてくれると思うし、それに修君も行くんでしょ?」
「何や・・恵利っぺの目的はそっちかい・・あはは」
「てへへ」
「こいつ・・」
理沙が恵利の頭を少しコツンとやった。