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2004.1.27 「俺・・オーストラリア、行きとうない」 修治が言った。 「何で?修ちゃん」 美弥子さんが、少し悲しそうな顔をして聞いた。 「家で、鳩と一緒に居るわ。せやから、ゆっくりしといでや。米あんちゃんと」 修治の心遣いであった。 「駄目よ。この旅行はね、羽崎社長さんの私達家族へのプレゼントなんやから」 「俺の体調が悪うなったゆうたらええやんか」 修治が答える。 「工藤さん達も一緒やで?」 「知ってるわ」 「向こうで、のんびりすればええやないの。もう、パスポートも取ってんのよ?」 「米あんちゃんも、お母んも忙しかったやろ。せやから、コブが居らんとこで、2人でゆっくりしたらええねん」 「有難う、修ちゃん。でもね、工藤さんとこにも、コブがついてんのよ」 美弥子さんがにこにこしながら言う。 「はあ?コブって・・」 修治が、不思議そうな顔をした。 「あのね、恵利ちゃんが、工藤さん達と一緒に行くらしいのよ」 「何・・新田・・?」 しばらく恵利とは会って無かった修治だが、時々電話が入っていた。そんな話は聞いても無かった。 「そうなのよ。だから、修ちゃんが自分でコブってゆうのなら、コブはコブ同士でお願いね。何しろ、地理案内や、通訳を全部お任せするって言う事やから」 「・・・何で、こないだの電話の時言わへんかったんやろ・・」 修治が首を傾げた。 佐久間夫婦、工藤夫婦、修治、恵利のオーストラリア旅行の日がやって来た。空港のロビーには、羽崎社長夫妻、信一郎、鈴木の姿があった。 美弥子が羽崎社長婦人の響子さんの手を握った。既に何度も家に行き来している間柄ではあるが、 「奥様、有難う御座います。このような旅行をプレゼントしていただきまして」 「何ゆうてますねん、美弥子さん。米ちゃんの事、私はほんまの子や思うてます。貴女が何から何まで一生懸命やってくれはって、私達は感謝しきられしません。これからも、安生お願いします。米ちゃんには、会社の事、プライベートな事、ほんまに無理ばっかりゆうてます。この位、何でもあらしません。それより、新婚旅行もさせてあげられんと、ほんまに済まなかったわね」 「勿体無い言葉です。有難う御座います。」 美弥子の目が潤んだ。心底から言ってくれる言葉であった。 「ほな!千!亮!行ってくるわ。鳩の事頼んだで!」 「おう!修ちゃん、楽しんで来てや。大将!後は任せとって下さい」 千崎、田村はすっかり頼もしい存在になって居た。 「おう!」 工藤は、照れながら答えた。 「それじゃ、行って来ます。社長」 米次達は手を振って、搭乗ゲートをくぐった。しかし、さっきまで元気一杯だった修治が青い顔をしている。 「さっきから・・どないしたん?修君」 恵利が心配そうに修治の顔を覗き込む。 「お・・おう・・何や・・飛行機乗るん、生まれて初めてやさかいな」 「きゃはは。何や、修君、飛行機乗るんが怖いんか?」 恵利が笑う。 「あ・・阿呆ぅ・・大きい声で言うなや」 修治が、小声でそう言った。 美弥子がにこにこしながら、恵利に言う。 「恵利ちゃん、安生面倒見たってな」 「はい、おばさん」 恵利は修治と腕を組んで、飛行機の中へ。 「はは。頼もしい彼女だな」 米次が微笑んだ。 |