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2004.1.30


「見てみいな、修治の奴、早やから尻に敷かれてんで」
工藤が笑った。
「あれで、ええねん」
理沙が笑った。工藤達は1週間で帰国。米次達は2週間オーストラリアに滞在予定で、勿論工藤達帰国後も恵利は、米次達と行動を共にする予定だ。クーポン券は全て羽崎社長が出してくれた。この旅行が一向達にとって、楽しい休暇であった事は言うまでも無く、精神的、肉体的にも米次にとって、休養になった事も言うまでも無い。工藤達、米次達との間、そして、修治、恵利の関係にも、益々の縁を深めたのであった。
人生・・人それぞれに生まれた境遇や、生き様があり、自分の人生観の尺度も万人皆違うもの。人生を諦めて生きるより、どう生きたかによってそれが、絶望であったり、希望であったり、喜びであったりするもの。無意味に生きて浪費する人生よりも、生を受けて、どう人生を積み重ねるか・・それが人の生き様のように思うのだ。遙に諦めよりも、今踏みしめている一歩が大事なのでは無かろうか・・。
そして・・年が明けて、三週間経った。
米次に連れられて、西郷競翔連合会総会に参加する事になった、修治だった。羽崎社長は、先に会場へ来ていた。会員数30余名の大きくは無い連合会だったが、この年から米次は、羽崎のハンドラーと言う立場を離れる事となった。既に、徐々に羽崎社長は米次、信一郎に要職を譲るべき動いていて、米次達の双肩も重くなっているからだ。その中で、社内に年明けから1つの動きがあった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お呼びですか?」
社長室を市村がノックした。
「入り」
中から声が聞こえて、市村が社長室へ入ると、そこには、米次、信一郎が座っていた。
「おう・・まあ、座り」
4人は、丸いテーブルの4角に座った。
言い出したのは、市村だった。
「わしも、管理部門の役員です。今回の人事はよう聞かせて貰わなあきまへん」
年明けに人事の変更が突如行われて、市村の下であった、脇課長が、管理部長に、イベント企画部の桜井が部長補佐に、そして、イベント企画部の主任であった、貝原が課長に昇進した人事の事だった。
「のう、市村君。君は入社して何年になる?」
「わしの場合は銀行からですさかい、15年程ですわ」
「君は今59歳やったな」
「そうです。来年60歳になります」
「脇君は入社30年のベテランや。今年55歳になる。部長に上げるのが遅かった位で、充分に勤まる男やと思うとる」
「・・それは認めます。そやけど、役員会で諮ってしませんでしょ?今回の人事は」
憮然として市村は言う。
「この3部門を独立採算性を持った会社にしたんは、各部署間の今まで無かった、活力や新しい発想転換を図る為や。特に、販売部門は、佐久間君、流通部門は、山本君、新川君に担当して任せとる。結果も出とるのや。その中で、市村君のイベント企画部は今までの羽崎の殻を破った部門として、新たな地位として、統合して脇君に任せようと思うとる。桜井君はそのの手腕で、脇君の補佐として、是非やって貰いたいねや」
「異存ありません」
米次、信一郎が答えた。
「はあ・・・」
市村は生返事をした。いまいち、羽崎社長の言う事が理解出来ないのだ。
「つまり、イベント企画部を格上げするちゅう事や」
「ほんまでっか!それは有り難い事ですわ」
市村は途端に顔色が変わった。
「そこで、相談やがな。脇君を取締役に抜擢したいねや」
「えっ・・・!」
市村の顔が凍った。
「それでな、君を呼んだ訳や」
「せ・・せやから、役員会で、それは・・」
「何ゆうてんねん、市村。これが役員会や無いか。わしと、佐久間。新川はんが、流通部門に移った事で、信一郎君と、お前の4人。これで成立や。後は、脇君を承認して貰うたら、それで、臨時役員会が開催出来る。それでは、この脇君の承認についての決を執らせて貰うで」
市村が唖然とする中、3名の手が上がった、市村も手を上げざるを得なかった。こうして、脇が、入室。
新たな、イベント企画部の部門が、販売・管理部門に立ち上がった。販売・管理部門の社長に、米次、専務として、信一郎。イベント企画部取締役管理部長として脇静男。HZKが半分の株を持つと言う事で、その人事の中には、どこにも市村の名前は無かった。
「わ・・わしは、どのポストですねん」
わなわな震えながら、市村が質問をした。どのポストであったとしても、もはや、米次、信一郎の下である事は間違い無い模様でもあった。