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2004.2.25

岡村と羽崎専務が、イベントの2日後、某料亭で会っていた。
「専務はん、あんたも冷とうおますな。市村はんは片腕やったんと違いまんのか」
「そうは言うてもやな。接待禁止令の他に、各事業部には、HZK本社直属の経理担当課長が居る。不明な伝票や決裁は、管理部門の佐久間の所へ回される。3つの事業部やゆうたかてやな、実際は、佐久間が中心や。その佐久間はHZK統合本部直属やで。手出されへん。その中核に居る筈の市村が、閑職へ追い込まれ、肩書きだけがかろうじて残っとった訳や。遅かれ、早かれ、市村には、退社しか無かったんや。下手にわしが手出せば、こっちもアウトやさかい」
岡村は続けて言う。
「で・・?どの道・・このままやったら、羽崎専務、あんたもアウトと違いまんのか?」
「せやから、株主総会まであんたが手打つゆうてるさかい、わしもこうして協力して来たんやないかい」
羽崎専務は少し怒った口調でそう言った。
「羽崎専務、そりゃ、あんた虫が良すぎやしませんか?」
「な・・何やて!」
岡村の顔が厳しくなった。
「せやかて、動いてるのは殆どこの共和物産のわしや。あんた、ただ座ってるだけやおまへんか」
「な・・何ゆうてんねん。今まで共和物産が倒産品を買い叩いた品物を、どんだけわし等が捌いて来た思うてんねん。岡村はん、あんたも潰し屋ちゅうて呼ばれた人や。けど、わしもこの道40年飯食って来てんのや!」
羽崎専務の顔は上気して、赤くなった。
「流石・・羽崎社長はんのご一統や。えらい迫力でんな。せやけど、その自信は一体どこから出て来まんねや」
岡村の目が光った。
羽崎は、岡村・峰岸・多田の密会写真、そして岡村、羽崎専務、市村の密会写真、そして市村の行っていた不正経理のコピーを机の上に投げ出した。
「これは・・」
「ええか、岡村はん。社長はとっくにわし等の関係、あんたが送り込んだ2人の事知ってたんや。市村が今度の株主総会で突き上げの材料になる事も。せやから、まず市村が切られたねん。せやけど、市村はわしが銀行で使い込みして危ない所を助けた恩は忘れてへん。最後にこう言うもん見せてくれたわ」
「羽崎・・社長も食えん人や・・」
「岡村はん、もうあかんねや。せやから引いてくれ」
「何ゆうてまんねん」
岡村は厳しい顔のままそう言った。
「こんなもんが、撮られたからちゅうて、何も驚く事もあらへん。これが何の証拠になりまんねん。現に2人とも共和物産から籍は抜けてるし、あんたらとわしが密会?そんなもん商売の話や。」
「えっ・・」
「それが、企業ちゅうもんや。ええか?羽崎はん。わし等がこのHZK乗っ取りに失敗したかて、共和物産から切られるだけや。成功したら、地位も上がる。そんなもん覚悟してやってまんねや」
「乗っ取り・・?そうか・・岡村はん、最初からそう言う目的でこのわしに接近してたんか」
「わはは・・何子供見たいなボケかましてんねん、羽崎専務。共和物産は年商1兆円。関西のHZKは今や年商500億に迫る企業や。これから株を上場して、全国展開するには、共和物産のようなグループに寄りかかるんが一番や。地上げにしてもそうですやろ?そう思うからこそ、あんた等が、この岡村と手を組んだんや。共和物産がその気になったら、HZKがこれから建てる店舗の近くに、同じような店舗を建てて潰す事も出来まんねんで。どないや、羽崎専務」
「くう・・最初っから、そのつもりやったんやな」
「当たり前でんがな。商社ゆうのは、損する商売はしまへんで」
羽崎専務はわなわなと震えた。
「羽崎専務・・ここまで一緒にやって来たんや。あんたの株買取りまひょ。今の相場の2倍でどうでっしゃろ?」
「な・・何やて・・?」
「どうせ、あんたが持ってても、近い内に切られまんねん。そやったら、今の内に共和物産に売った方があんたの得や」
「何でや・・何で売らなあかんねん」
「教えてあげまひょ。HZKは上場と共に、今の持ち株は相場の5倍になりますやろ。500円が2500円でっせ。あんたが今1000円で売って見なはれ。仮にあんたが3000株持ってたとして、3千万円や。その株即座に7500万円に化けるんでっせ。まだまだ上がりますわ。何しろ、共和物産の息が掛かった仕手筋が一気に20倍上げた時点で売り抜けや。あんたもわしも大儲けちゅう、話や。どうでんねん。こんな美味しい話がありまっか?羽崎専務やから、教えてあげてまんねや」
「く・・くう・・」
羽崎専務はやっと、今全てを理解した。しかし、気付くのが余りにも遅すぎた。
「ははは。羽崎専務。わしは、共和物産の社員で収まる男やおまへん。この資金を元手に仕手筋を牛耳って、関西・・いや日本経済界にうって出るのや」
これほど恐ろしい男だったとは・・羽崎専務は、身震いした
血も涙も無い化け物に岡村は企業に育てられていたのだ・・。
「まあ、時間はありますよって、羽崎専務、よう考えとくなはれ、ははは」
その言葉を背後に受けて、羽崎専務は逃げ去るように、夜の街に消えて行った。
数日後・・羽崎専務が一身上の都合により、HZK監査役に退く人事が発表された。佐久間はHZK本部長に。信一郎が、管理部門担当役員に。それぞれの人事が速やかに異動していた。そして、多田であるが、正式にイベント事業部配属主任となって、各結婚式イベントに派遣される事となる。4月の決算期を迎えて、急ピッチにHZKは人事異動の発表があった。株式上場は一端据え置き、木村木材の悪どい商売始め、中古家具売買の情報が週刊誌によって暴露、共和物産の商法違反と言った記事が取り上げられた。工藤の結婚披露宴から僅か1ヶ月余りの間に、情勢は大きく変化していた。
しかし、それは更なる試練へと向かうHZK周囲の序章に過ぎなかった・・・・。