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2004.3.6 恵利が店の奥へ入って行くと、 「まあ、恵利ちゃん。ええとこ来たわ。悪いんやけど、和哉ちょっと見てくれる?」 「まあ、和ちゃん、可愛い・・お姉ちゃんと遊ぼ」 奥の部屋へ恵利が和哉を連れて入って行った。 「大変そうですね、理沙さん」 修治が言うと、 「おう!修治。ほんでも、大変なんはこれからぢゃ!」 理沙さんは、相変わらず元気一杯で明るかった。 「ほんでも、あんた達も、安生行っとるようやね」 「あ・・まあ」 少し照れながら修治が答えた。 「どや?もう済んだんか?」 理沙があちこちを片付けながら言う。 「はあ?」 「何とぼけとんね。した?って聞いてんねん、恵利と」 「ちょ・・理沙さん、待って下さいや。そっくりですよ、最近口調が先輩と」 「え・・あはは。ま、せやけどな。修治。恵利も来年大学受験や。色々悩んでる見たいやで。あんたは、その後まだ一年学校あるしな」 「はあ・・・」 「あんたは、着々と家具職人の道を歩んでるけど、あの娘は新田不動産の一人娘や。父親は関西でも指折りの資産家。娘可愛さで、今までは、奔放に育てて来はったけど、これからはそうもいかんやろ。あの娘も色々大変なんや」 「俺・・何も知らんかったですわ」 修治が、恵利の事情を初めてこの時知った・・。 「けどな、あんた達は、まだ17や。それぞれの人生設計もあるし、夢もあるやろ。けど、うちらかてそうや。10人の大所帯になって、現実は厳しいわ。特に、レースは金が掛かるさかいな・・」 理沙の本心の言葉だった。表面上は、明るく振舞っている彼女だが、その大変さは修治にも理解出来た。 2、3時間程、工藤ショップに居て、再び修治と恵利は、マッハに乗って走り出した。恵利がバイクの後ろで何か言った。 「修君・・かまへんで、うち」 「え・・っ?聞こえへん」 「かまへん、ゆうてんの!」 「何・・があ?」 「もう!鈍感!止めて」 修治のバイクが止まったのは、ホテル街だった。 「入ろ、修君」 「ま、待てや・・恵利」 強引に恵利に引っ張られて、とうとう修治達はホテルの中に入った。 初めて入るホテルの部屋をきょろきょろと修治は見回していた。 「なあ、座って」 「お、おう」 修治が恵利に言われるままに座ると、恵利が首に手を巻きつけて来て、キスをした。修治も抱きしめた。しばらくその状態の2人であった。 「なあ、修君。うちの事好き?」 「ああ」 「ほな、うちを抱いて」 いつもと違う恵利に、修治はこの時ふと我に戻った。 「お前・・どないしてん・・今日、ちょう・・変やで」 「変な事あらへん。好きな男の人とホテル入って何が変やねん」 「そやけど・・やっぱり何時もの恵利とちゃう。あのな、今日工藤ショップに行って、理沙さんにちょっと言われた事あるねん」 「え?何を・・?」 改めて、修治と恵利は向き直って対座に座った。 「お前・・進学の事で悩んどんちゃうか・?」 修治の目は真っ直ぐ恵利を見た。恵利の目から一筋涙が零れた・・。 「・・うん・・。実はそやの。お父さんが、東京行けって」 「そうか。・・ほんで、お前、どない思うてんねん」 「行きた無い。学校なら、関西にも一杯あるし、それにこっちには修君が居るし、理沙姉さんも居てる。そやから・・」 恵利は顔を覆った。 「・・あのな、恵利。俺は賢う無いし、偉そうな事は言われへんけど、恵利の夢は旅行社に勤めて、ツアーコンダクターになる事やろ?」 「・・うん」 「そやったら、お父さんの言わはる東京の大学行くんが、一番と違うんか?お父さんは、恵利の事一番に考えてくれはってるんと違うんか?」 「そやけど・・そやけど」 恵利は泣き出した。 「俺な・・。恵利の事めっちゃ好きやで。そやけど、今ここで一緒になったら、俺はもう恵利を離されへんようになる。どこへもやりとう無うなる。恵利・・合格発表は4月や。お前、合格してたら、東京へ行け。せやけど、あかんかったら、関西へ残るかどうか、もう一回考えて見いへんか?俺な、夜間高校出たら、どないしょ思うてたけど、あんちゃんの生き方見てたら、やっぱり俺もな、通信制の大学行くか、夜間の大学通うて見ろ思うてんねん」 「・・うん、修君」 2人は力強く抱き合った。そして、バイクに乗って帰って行く。 次の日曜日、修治は休日返上で、新川家具へ出社していた。 「お・・修治。今日は出勤しとったんか?精が出るのう」 丁度、700キロの競翔で、新川社長が予定よりかなり早くに戻って来た鳩を打刻した所であった。 「今日も早いんですか?社長」 「今日はそうでもあらへんようや。ええ天気やさかいな。この血統は悪天で強いさかい」 「社長の血統は長距離系やからですね?」 「おう。短距離も長距離も同じような分速で戻ってきよるわい。わはは。修治・・その家具は善さんから任されたもんか?」 「あ、はい」 「どれどれ」 新川社長の目が厳しくなった。仕事の目だった。 |