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2003.11.19

「な・・凄いだろ?新川社長の鳩は、関西でも指折りの長距離系で、北海道の稚内と言う所からも戻って来る凄い鳩が一杯居るんだ」
「ふうん・・」
修治は、じっと鳩舎を眺めている。
「わはは。お互い、鳩飼い。鳩を見せてくれと言われて断る訳にはいかしませんわなあ」
羽崎社長が笑った。
「ほんまでっせ。はははは」
新川社長がにこにこして案内する。
「どや、金村君。そっちの鳩舎を見てみるか」
「え・・うん・・」
修治は案内されるまま、階段を上がった所の鳩舎の金網を離れて、真ん中の鳩舎の前に立った。
「うわ・・・綺麗な鳩が仰山居るわ」
少年の素直な感情そのままに、言葉がそのまま出ていた。
佐久間が新川に代わって、説明を始めた。
「この鳩舎はな、種鳩と言って、仔を取る為のものだ」
「へえ・・・」
童顔の顔そのままに修治は頷いた。
「もう一つ、こっちの鳩舎を見てみろよ」
佐久間が指差す鳩舎を修治は見る。
「え・・・ここ?」
修治は少し、意外そうな顔をした。
「な、少し違うだろ?分かるか?修治」
「さっきの鳩と・・全然ちゃう・・何ちゅうんか・・羽とか色艶が違うと言うか・・」
「その通りだ。ここの新川社長のように大羽数の鳩を飼ってると、色んな鳩が迷い込んで来る。けど、迷い込んで来た鳩を一緒に飼う訳にも行かないし、放しても叉戻って来る。それで、愛鳩の雑誌とか、迷い込み鳩の広告を出したり、連絡のつかない鳩は、欲しいと言う人にあげたりしてるんだ。中々真似出来ない事なんだぞ・・これは」
「ふうん・・」
修治はとりわけ、この鳩舎を熱心に見た。
「せっかくわしの鳩舎を見たんや・・金村君、こっち来て見ろや」
新川社長が、階段側の鳩舎に案内した。
「この鳩舎の中へ入っといでや」
修治が入る。その中の一羽の鳩を捕まえ、新川社長は修治に差し出す。修治はこの前佐久間に教えて貰った通り、右手の一指し指と中指で、鳩の両足を挟んで、左手でそっと、胸にあてた。
「これ・・・凄い・・」
何が凄いのか形容し難いが、とにかくこの前触った鳩とは、全く違うその鳩の感触を修治はそう表現した。
「この鳩はな、青森の竜飛崎から2回、北海道の羽幌と言う所から一回、稚内から2回、戻って来とる鳩や。その竜飛崎の一回と、北海道の稚内は関西でそれぞれ総合3位と、総合7位になっとる。CHの称号を貰った「川上稚内号」っちゅう鳩や」
「へえ・・凄い鳩なんやなあ・・」
修治は、そう呟いた。燃えるような目が、断然光って見えた。
「なあ・・ちょっとお願いがあんねや?」
新川が金村に言った。
「え・・?」
「そこに巣箱っちゅうて、四角い箱があるやろ?」
「あ・・うん」
「その巣箱・・良う見とって、後で同じもん作ってくれへんか?」
「え・・?」
「材料は下に何ぼでもあるさかい、ちょっとな、この鳩の巣箱を作ったろ思てんねん。何・・形は任せてもええけど、どや?」
「けど・・」
「何・・遊びや思うてくれたらええわ、金村君」
修治は躊躇していた。
「あかんか・・?」
新川が再度聞く。修治は「川上稚内号」を見る・・そして・・
「いや・・あかん事無いけど・・」
「おう!そうか。ほな、下へ降りるか、うん、うん」
新川は早足で、階段を駆け下りた。
羽崎と佐久間が顔を見合わせ、にっこりとする。
「一体・・どないなっとんねん・・」
修治がぶつぶつと言いながら、下へ降りる。新川が先に扉を開けた所は作業所のようだった。初老の職人さんのような男が一人その中に居た。
「善さん、済まんけど、そこの作業台、ちょっと使わせて貰うで」
新川社長が言う。