テオの誕生日
今日はテオの誕生日だ。付き人は、だからご馳走をつくったのに、テオは遅い。
子牛肉のビール煮も、川魚の香草焼きもすっかり冷えてしまった。
「カシム・バジル様のところに用があるっておっしゃったんだけど」
クレオは時計に目をやった。もう八時を過ぎている。
「坊ちゃん、もうおやすみください」
「父上におめでとうと言いたかったのに」
付き人は、不満げな坊ちゃんの頭をなでた。
プレゼントにするんだといって、一生懸命テオの絵を描いていたのだ。
「テオ様の絵は、明日の朝見ていただきましょう」
テオが帰宅したのは、小さなリアムが眠ったあとだった。
「お帰りなさ……」
彼を見て、グレミオは口をつぐんだ。顔も首も、返り血を浴びて真っ赤である。
今、人を斬ってきたばかりらしい。
「闇討ちに遭った。遅くに悪いが、風呂の仕度をたのむ」
「は、はい。でもテオ様、お怪我はありませんか」
「大丈夫だ。とりあえず手当てはした。この血を何とかしたい」
グレミオは慌てて浴室に向かった。急いで湯を沸かし、風呂おけに湯を張った。
風呂から上がったテオは、そのまま自分の部屋にこもった。
グレミオは、彼の分の夕食を温めて部屋に運んだ。
「テオ様……」
「すまない、今日はもういらない」
「一口だけでもいかがですか」
「……うまそうだな」
川魚はテオの好物だ。少し辛口の白いワインとよく合う。
「どうぞ」
「お前も飲めばいい」
すすめられて新しいグラスを出した。
「あの、テオ様……」
「何だ」
「今日は、テオ様のお誕生日です。おめでとうございます」
「そうだったか。忘れていた」
「大変な誕生日でしたね」
「たしかにな」
テオの目つきが厳しくなった。知的な黒い目に、殺気がみなぎった。
「何度でも返り討ちにしてくれる」
浅黒い皮膚の下、頚静脈が透けて見える。
硬そうな黒い髪は、血を洗い流して、もう乾きかけている。
頬骨の上を間一髪よけたらしい、赤い傷が一本、走っているのが見えた。
悩ましいその色。
落とし穴に落ちたように、唐突に彼はテオに欲情した。
「傷の手当てをさせてください」
生傷の絶えない坊ちゃんのため、いつも彼は傷薬を持っている。
すぐに消毒しないと、化膿してからでは治りがおそい。
「これくらいかすり傷だ」
「剣の傷を甘く見てはだめです、膿んだら厄介ですよ」
硬い髪をかきあげて傷薬を塗った。
「傷はこれだけですか?」
「ちょっとだけかすった。薬は塗ったが、たいしたことはない」
「包帯をしておきましょう」
「おれにさわりたいだけじゃないのか」
「……それもあります」 正直に付き人は白状した。
「試してみればいい」
息を止め、目をつぶってテオに顔を近づけた。口に触れるまでの時間は長かった。
目測が狂い、グレミオの口はテオの鼻に直撃した。
薄目を開けると、テオが小ばかにしたように見ていた。
「キスの仕方も知らないのか。くそ真面目な奴だ」
「いまキスしたじゃないですか」
「ここでは、そんなのはキスのうちには入らない」
「じゃあ、どうするんです」
「教えてやってもいいが、前みたいに泣かれると困る」
「それぐらいで泣くような根性してませんよ」
「泣くだけではすまないことになる」
もう一度グレミオがテオにキスをすると、あるじはそれに答えた。
テオの舌が自分の舌に触れたとき、目の裏に光が走り、グレミオは恐れて声を上げた。
そして、あるじは付人に迷う時間も与えなかった。
気が変わらないうちに、とでもいうように、テオはグレミオをベッドに引きずり込んだ。
テオがグレミオの服に手をかけたが、付人は自分で脱いだ。
「どうしてくれようか」
「私に聞かないでください。」 付人は抗議した。
「自分でもわからないんですから」
「どうしてほしいか、言ってくれないとわからない」
邪魔な長い髪の毛を、絡まないように頭の上に流しながら、テオはもう一度聞いた。
「……テオ様が欲しい……」
「それだけじゃ分からない」
「テオ様! これ以上何を言えっていうんです!」
グレミオは進退きわまった笑い声をたて、テオの頭を抱きしめた。
テオの体は温かく、すぐに汗ばみ、悩ましい匂いを撒き散らした。
体の中心を触られて、付き人は思わずテオにかみついた。
「山猫のような子だ、そんなに噛みつくな」
「だって傷だらけじゃないですか。いまさらひとつふたつ増えたって……」
「そんな可愛げのないことをいうと本当に犯すぞ」
グレミオは驚愕した。本当に、犯す? じゃあ、今していることは?
「こうやって!」
テオがグレミオの脚を大きく広げ、付き人は恐怖の叫びを上げた。
「待ってください、テオ様!心の準備が」
「……そんなものはいらない」
付き人は黙ってテオの目をみつめた。心はいらないといわれたようで、ショックだった。
ショックのあまり付き人の思考はさまよい始めた。
食前にはお祈りをする。死に際にもお祈りをする。
この場合お祈りはしなくていいのだろうか。
天にましますわれらが父よ。願わくはわが罪を許したまえ。
私は、救いがたいほどに淫乱です。
ここから、二通りの描き方があります。お好みの方を選んでくださいませ。
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2)ソフトで短いベッドシーンへ
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