第63回 丸亀マラソン大会

〜 ペースランナーとして大活躍 〜



2009年2月1日(日)、第63回香川丸亀国際ハーフマラソン大会が開催されました。

(幹事長)「なんと今年は、ペースランナーとして登場だっ!」
(石材店)「考えられないような大活躍ですね!」
(幹事長)「来年は招待選手を狙おうぞ!」
(石材店)「そ、それは、ちょっと・・・」


事の起こりは去年の年末に新城プロから届いた一通のメールだった。

(矢野)「てっ、てぇへんだ、てぇへんだっ!とんでもねぇ依頼が届きましたぜっ!」
(幹事長)「なんでぇ、トラの野郎じゃないか。一体なにがそんなに大変なんだい?」
(矢野)「俺たちにペースランナーをやらないか、っていう依頼が来たんですよ!」


新城プロから来た依頼メールとは次のようなものだった。
丸亀ハーフマラソンのプロデューサーを務める金哲彦氏より、大会をより充実したものにしたいとの趣旨で、ペースメーカーの募集について依頼がありました。私も候補のひとりですが、他にもメンバーを探しております。ペンギンズの皆さん、どうですか?
金哲彦氏とは、日本陸連の女子長距離マラソン強化部長で、日本で開催されるマラソン大会のテレビ中継には必ず解説者として登場する人だ。新城プロと金氏は、昔からのマラソン仲間で、非常に親しいことから、このような依頼があったのだ。

(幹事長)「しかし、おめぇ、ペースランナーって言ったら、好記録を引き出すために途中まで先頭を引っ張って走るランナーだろ?
       新城プロならできるだろうけど、俺たちにゃあ無理じゃねぇかい?」
(矢野)「いやいや、そういうのじゃないらしいんですよ」


金氏から新城プロへの依頼は、次のようなものだった。

   香川県在住の市民ランナー
   人 数 : 4名
   ペース : 1時間半、2時間、2時間半、3時間の4種類
   方 法 : ペースが記載されたゼッケンと色違いの風船をつけ、イーブンペースで走ってもらう


そう言えば、去年の徳島マラソンで背中に大きく「5時間ペース」とか何とか書いた人が走ってて、その後ろに大勢のランナーが着いて走っていたのを見た。あれがペースランナーか。

(幹事長)「こら、なかなか面白そうやなあ。でも、なんで我々のようなド素人に依頼が来るんだろ?」
(矢野)「丸亀マラソンはコースが平坦で好記録が出やすい大会なんで自己ベストを狙って出場する人が多いんですよ。
     だから自分の記録を犠牲にするボランティアのなりてが少ないらしくて」


確かに香川県のランナーにとって坂の無いレースって言ったら丸亀マラソンくらいしかなく、たいていの人は丸亀マラソンで自己ベストを出している。1年間の練習の成果を見る絶好のレースだ。他のレースならまだしも、このレースでタイムを犠牲にして走る人は少ないかもしれない。

(幹事長)「しかーし!地域と共に生き、地域と共に歩み、地域と共に栄える我々四電ペンギンズとしては、
       またとない地域貢献のチャンスだ。みんな、自己犠牲してボランティアに徹しようぞ!」
(矢野)「ま、我々、頑張ったところで大した自己記録も出ないから、あんまり失うものが無いんですよね」
(幹事長)「しーっ!それは秘密!」


今まで丸亀マラソンは自己ベストを更新できる高速レースとして1年のうちでも大きな目標だったが、今回は別の意味で重要なレースとなった。今までとは違った面白さが感じられ、俄然、やる気が沸いてくる。

まずは役割分担だ。1時間半のペースランナーは矢野選手が立候補した。彼ならちょうどいいペースだろう。2時間のペースランナーは私がやることにした。あとは2時間半と3時間だ。まず坂出支部長に打診してみる。

(支部長)「私もやるんなら2時間がいいですよ。2時間半とか3時間は、ちょっと遅すぎてしんどいですよ」
(幹事長)「やっぱりぃ?」


確かに、2時間半といえば1km7分のペースだ。レースの前半で飛ばしすぎて終盤に力尽きて足を引きずるようにして走っているペースだ。その超スローペースを最初からずっと、というのは結構しんどそうだ。ましてや3時間なんて1km8分半のペースだから、早歩きと変わらないくらいの超々スローペースだ。3時間もゆっくりゆっくり走るってのは、とってもしんどいと思う。

(幹事長)「そもそも2時間半とか3時間のペースランナーなんて必要なのか?
       かつて丸亀マラソンは制限時間が2時間くらいだったけど、最近はそんなに遅いランナーも出ているのか?」
(矢野)「去年から制限時間が3時間になって、遅いランナーがどっと増えたのは確かですけどねえ」


結局、とりあえず1時間半は矢野選手、2時間は私と支部長、2時間半と3時間はいない、ってことで新城プロに返事した。依頼は各ペース1人ずつだったけど、2時間はペアで走らせてもらうことでお願いしたのだ。
新城プロが金哲彦氏に相談した結果、各ペースごと2人ずつのペースランナーを設けることになった。ただし、2時間半と3時間のペースランナーが見つからない。

(新城プロ)「なんとかなりませんかねえ」
(幹事長)「止むを得ません。支部長を2時間半に出させましょう」
(支部長)「ちょっとちょっと、勝手なこと言わんといてくださいよ!」
(幹事長)「支部長は100kmウォーキング大会に出たくらいだから、スローペースの長距離は得意だろう?」
(支部長)「それとこれとは違いますがな!」


しかし、さすがは地域貢献を人生の第一目標に掲げる支部長だ。最後は涙を呑んで2時間半ペースを引き受けてくれた。我々の他には、香川大学の陸上部の若者たちがボランティアを引き受けてくれることになり、1時間半、2時間、2時間半ともに我々と香川大学生のコンビとなった。

(幹事長)「で、3時間はどうします?」
(新城プロ)「もう仕方ないから私がやります」


3時間は新城プロと、四国電力陸上部OGの真鍋さんが引き受けることとなった。真鍋さんと言えば、今は陸上部を辞めてしまったが、現役時代はチームのエースとして名古屋国際女子マラソンでも上位に食い込むなど大活躍した選手だ。

(幹事長)「ええっ!?真鍋さんと走れるんなら僕も3時間にしようかなあ・・・」
(新城プロ)「えー、こほん。さて、ペースランナーの役割ですけど、2時間ペースと言ったって、
       ゴールしたら結果的にちょうど2時間だった、なんてのは駄目ですよ」
(幹事長)「当たり前やがな。それくらいは僕でも分かるぞ」
(矢野)「問題は、どれくらいの精度が求められるかですよねえ」
(新城プロ)「精度は高い方がいいですけど、そもそも参加者が多いためスタート直後は混雑するので、
       ペースをつかんで走るのは無理ですから、機械のような精度は求められていません。
       極端なタイムのアップダウンがなければいいのではないでしょうか」


2時間ペースなら、1km5分40秒のペースだ。そんなに速いペースではないので、このペースを維持して走るのは、そんなに難しいとも思えない。

(矢野)「でも、そもそも2時間でゴールする選手って、最初から1km5分40秒のペースを守ってゴールするんじゃなくて、
     最初はもっと速いペースで走り、終盤はペースダウンして仕上がりが2時間になるんですよねえ。
     そういう人の目安として走るのなら、同様に最初は速めで終盤を遅めにした方がいいんじゃないですか?」
(幹事長)「そうだそうだ。最初から1km5分40秒のペースで走ってて、最初はそれに合わせて走っていた人が
       終盤に力尽きると、2時間でゴールできなくなるぞ」
(支部長)「そうだそうだ、そのとおりだ」
(新城プロ)「えー、こほん。みなさん、勝手に色々と設定したりせず、最初からイーブンペースを心がけてください!」
(幹事長)「かなり精密なランニングマシーンになれ、と言うことですな」
(矢野)「ランニングマシーンって言ったら、ルームランナーを想像しますが」


かなりの正確さが求められているようなので、ここは心を入れ替えて年末年始の休暇中に気合を入れて練習してみた。すると、意外に難しい事が分かった。1km5分40秒のペースってのは決して速いペースではなく、楽勝のようなイメージだったが、これを21km維持するのは予想外に難しい。最初からこのペースで走っていると、速いペースでないにもかかわらず、どうしても終盤はペースダウンしてしまう。21kmを2時間で走るのは簡単だけど、最初から最後まで同じペースっていのは、意外に難しいのだ。非常に不安になってきて、1月初旬の国営讃岐まんのう公園リレーマラソン大会の前日もしつこく練習したくらいだ。

(矢野)「まんのう動物リレーを犠牲にしてまで練習した成果は、どうですか?」
(幹事長)「いかん、やばい、難しい」
(矢野)「僕もそうなんですよ。仕上がりで1時間半で走るのは可能ですけど、最初から最後までイーブンペースで
     走るのは難しくて。僕、2時間ペースにしようかなあ、なんて思ったりして」
(幹事長)「えっ、そうなん?じゃあ僕は2時間半にしようかなあ」


て事で、急遽、予定変更して、1時間半は香川大学生にお願いして、2時間ペースを矢野選手、2時間半ペースを私と支部長のペアで走ることにした。

(幹事長)「2時間半なら、いくら終盤でペースダウンしても大丈夫だよねえ」
(支部長)「ふっふっふ、それはどうかな?私も丸亀マラソンでは2時間をオーバーするようなことはないけど、
       オリーブマラソンでは2時間半をオーバーしたこともあるからねえ。何があるか分からないよ」
(幹事長)「それは支部長がペース配分を無視して最初から飛ばすからだってば」


まんのう動物リレーの翌日には、金哲彦氏が高松にやってきて、レースの関係者も入れて一緒に打ち合わせした

(幹事長)「打ち合わせというか、ほとんど飲み会だったけどね」
(矢野)「えっ、そうですか?僕は色んなアドバイスを頂いて、非常に有意義でしたよ」


打ち合わせの結果、
   ・各ペースごとに色を変えたビブス(サッカーの練習で選手が着けているベストみたいなもの)を着け、
    それに目標時間を書いたナンバーカードを付ける
   ・同じ色の明るい帽子を被る
   ・風船を付けたりノボリを持つのは止める

って事が決まった。風船を付けると走りにくそうなので、それが無くなったのは嬉しい。

レースまでいよいよ2週間となったところで、一度、みんなで練習することにした。ところが朝からあいにくの雨で延期となり、レースの1週間前の合同練習となった。普通、レースの1週間前ともなると、疲労を残さないように軽めの練習にとどめるところだが、今回はゆっくり走るので何の問題もない。練習には、新城プロの指導のもと、矢野選手、私と支部長のほか、一般参加のゾウ坂出も参加した。

(幹事長)「ゾウさん調子はどう?」
(ゾウ坂出)「初めてハーフマラソンを走った去年の小豆島タートルマラソンの記録が結構良かったから、
       今回は2時間を目標にします」


坂の多い小豆島タートルでの好記録達成を考えると、コースが平坦な丸亀マラソンなら2時間を切ることも可能だろう。

(新城プロ)「じゃあ今日は2時間半ペースくらいで走ってみましょう」

なんて言いながら走り始めたんだけど、これが難しい。1km7分ってのは、想像以上に遅く、油断するとついついペースが上がる。相当意識してペースを落とす必要がある。これが結構、疲れる

(支部長)「普通に走るより、よっぽど疲れるなあ」

わざとゆっくり走るには、ピッチを減らすのは難しいから、ストライドを狭くしなければならない。ということは、同じ距離を走るには歩数が多くなる。てことは、同じ距離を走るのに、自然に走るのより疲れる。ゆっくり走っているのに疲れるってのは、なんとなく妙な不自然な疲労感だ。2時間半でもこれなんだから、3時間になると、どうなるんだろう。

(幹事長)「新城プロは3時間のペースランナーだけど、普段、3時間も走ることなんてないでしょ?
       フルマラソンでも、もっと速いでしょ?」
(新城プロ)「確かにレースはもちろん、練習でも3時間も走る事はないですねえ」


いくら疲れても、さすがに1km7分のペースなので、終盤になってもペースダウンするようなことはなかったけど、なんとなく足取りが重くなった。そのせいか、20km地点の表示を探しているとき、足元への注意が散漫になり、歩道の段差でつまづいて転んでしまった。子供なら体も柔らかいし、とっさに受身の体勢になるんだろうけど、この歳になると体が硬直してて、転んだだけでもダメージが大きい。そもそも、つまづいて足が出ないってのが情けないんだけど、そのまま上半身から倒れこみ、なんとか頭はカバーしたものの腕を強打してしまった。肘に激痛が走り、擦り傷で血まみれになってしまった。足の打撲が軽度だったのが救いだったけど。

(矢野)「やっぱり歳ですねえ」
(幹事長)「倒れこむときに周りがスローモーションのように見えたよ」
(新城プロ)「私も経験がありますよ。私の場合、顔から突っ込んでいって大変でしたけど」


怪我はしながらも、ペース感覚はなんとか習得できた。しかし、肘の打撲はかなりひどく、数日後には腕が曲がりにくくなったほどだ。ま、しかし、走るのにはあんまり関係ないけど。

その後、今年の大会への参加が未定だった石材店が、なんとか都合がついて参加できることとなり、急遽、彼も2時間半のペースランナーになることとなった。



さて、この丸亀マラソンは毎年、レースの前日にジョギング教室がある。ゲストは豪華だ。4年前は野口みずき選手がアテネオリンピックで金メダルを獲った後の初レースとして丸亀マラソンに出場し、前日のジョギング教室のゲストにもなった3年前には、Qちゃんこと高橋尚子様がお見えになり、我々ファンと一緒に至福の時を過ごされた。さらに一昨年は、金哲彦氏が千葉真子を連れてジョギング教室をやった。そして今回は、そう!そうなのだ!金哲彦氏がQちゃんこと高橋尚子様を連れてジョギング教室をやってくれるのだ。

(幹事長)「さすがに金さんともなれば、一声かければQちゃんもすぐ来てくれるんですか?」
(金)「いやまあ、都合が付けばですけどね」
(幹事長)「飲みに行こう、なんて声をかければ、どこでも来てくれるんですか!」
(金)「いや、それは無理じゃないですか」


なんて言ってるけど、金氏の絶大なる力をもってすれば不可能の文字はないだろう。

(金)「勝手に妄想を膨らまさないように!」

Qさまが来るとなれば、親の葬式があろうとも、最優先で駆けつけなければならない。3年前にQさまが来たときは、雪がちらつく寒さの中、何時間も前から震えながら開門を待ったくらいだ。
今年は本番でペースランナーを務めるため、ジョギング教室でもお手伝いをすることとなった

(幹事長)「お手伝いって言ったって、どうせ交通整理か何かやろ」

なんて思っていたら、なんとジョギング教室でもペースランナーを仰せつかった。そのため、Qさまとは同じ控え室で、チームQのスタッフや金哲彦氏も含め、一緒にサンドイッチなんかをつまみながらの打ち合わせとなった
3年ぶりに生でみるQちゃんは、やはり圧倒的に可愛かった。テレビでマラソン中継なんか見てると、レースに出る時は身体を絞っているので、Qちゃんはちょっと細すぎる印象がある。しかし、レースから離れた時のQちゃんは顔つきもふっくらして、本当に可愛い。

(幹事長)「なあなあ、やっぱ、めっちゃんこ可愛いよなーっ!」
(矢野)「ほんとですねえ。こんなに可愛かったなんて知らなかったですよ」


とは言え、足はかなり細めだ。あのか細い足で走り続けてきたのかと思うと、おもわず熱いものがこみ上げて来る。

(幹事長)「あ、あの、あの、わたくし、Qさまの大ファンで・・・、うるうるうる・・・」
(矢野)「ちょっとごめんなさいよ。これサインして下さい」
(Q)「はい、いいですよ」


僕がオロオロしている横で、すかさずサインを求める矢野選手であった。

Qさまを囲んで記念撮影
(左から金氏、新城プロ、矢野選手、Qさま、わたくし、石材店)


(石材店)「おや?Qちゃんとのツーショットは掲載しないんですか?」
(幹事長)「うふ。あれは僕だけの宝物!」
(石材店)「て言うか、これまでも散々、勝手にQちゃんとのツーショットを合成して捏造してきたから、
       本物だって言っても誰も信用してくれないかも」


Qちゃんとの楽しいひと時の後はジョギング教室の開催だ。我々も演台に上がって紹介してもらった。う〜む。予定外の重要な役割だ。

ジョギング教室でもペースランナー
(わたくし、新城プロ、矢野選手、石材店)


最初にストレッチのやり方なんかを丁寧に教えてもらったあと、いよいよ軽くジョギングすることとなった。明日のレースのゴール目標時間が1時間半、2時間、2時間半の人の3グループに分かれて、ペースランナーと一緒に走るのだ。2時間半を目標にしている人なんていないだろう、なんて思っていたら、予想外に多かった。て言うか、どう見ても、明日のレースに参加する人じゃなくて、高橋尚子が来るから見に来ただけ、って感じの人が大勢いる。なので2時間半なんていう超スローペースにもかかわらず、最初からゼイゼイいって倒れこみそうなおじさんもいる。参加者から色々と質問されて、なんとなく専門家になったような気分だ。

(矢野)「我々にアドバイスを求めるなんて、無謀ですよねえ」
(幹事長)「ま、大した質問はないけどな」


後半は金さんがQちゃんをモデルに、色々とアドバイスをしてくれた。3年前のジョギング教室のときは、ほとんどアドバイス的なものはなくて、和気藹々と一緒に走っておしゃべりしたファンの集いと化していたが、今年は内容のあるジョギング教室だった。

(石材店)「でも幹事長はQちゃんを凝視するだけで、何も聞いてないでしょ?」
(幹事長)「参加者のほとんどが、そうだってば」


多くの参加者はアドバイスなんか聞いてなくて、と言うか、どう見てもマラソンとは縁の無さそうな人も多くて、単にQちゃんを間近で見たかっただけみたいだ。

楽しいジョギング教室は1時間ほどで終わり、控え室に戻る。Qちゃんはマスコミの取材が殺到し、さらに1時間ほど経ってから戻ってきた。人気者は大変だよなあ。
Qちゃんは本番のレースでは、みんながスタートした後から追いかけてスタートし、みんなに声を掛けながら追い抜いていくそうだ。
それから今年のレースにはフジテレビの平井理央アナウンサーがマラソンデビューするとのことだ。彼女は3月の東京マラソンに挑戦するらしく、その前哨戦だ。



レース当日は、例年に比べ、かなり早めに現地に集合する。我々の控え室は招待選手と同じ部屋だ

(幹事長)「なんだか待遇が良すぎない?偉くなったような気分」
(矢野)「自己犠牲のボランティアですからね」
(幹事長)「昨日はQちゃんと一緒だったし、ぜーんぜん自己犠牲してないぞ」


今年は、大会のタイトルが第63回香川丸亀国際ハーフマラソン大会っていうように「国際」が付け加わった。これが何を意味するかというと、海外の有力選手を招待選手として招いたのだ。女子では北京オリンピックに出場したイギリスのマーラ・ヤマウチ選手など。男子ではハーフマラソンを59分台というアホみたいに早いタイムで走るモグス選手なんかが世界新記録を狙って出場する。こななすごいランナーが参加する一方で、制限時間3時間ギリギリでゴールする市民ランナーも大挙して参加する。同じレースとはいえ、全く別の世界が展開されるのだ

一般参加者は屋外で待機しなければならないので、この季節は寒さが堪えるが、今年は暖かい屋内で待機できる。部屋が暖かいので、何を着るか迷ってしまう。例年なら、このレースは気合が入っているので、どんなに寒くても当然のようにTシャツに短パンだ。しかし、今年は超スローペースで走るから、それじゃあ寒いと思う。しかし、この暖かい部屋にいると、寒さが身に浸みないので薄着でもいいかなあ、なんて思ってしまう。

(矢野)「とりあえず軽くウォーミングアップしましょう!」
(幹事長)「ええ〜っ?僕ら超スローペースだからスタートしてからがウォーミングアップだしぃ・・・」


なんて渋っていたけど、時間を持て余し気味だったので、大会役員の特権として、招待選手と一緒にトラックを軽く走ってみる

(幹事長)「なんだか無茶苦茶寒いぞ。風が強くて凍えちゃうぞ」


震えながら走っていると、ペンギン中村君がスタンドから声を掛けてくれる。彼もハーフマラソンに出場する。それから漆原選手は、なんとゼッケン番号が2009だ

(漆原)「2009年に2009の番号を付けて走るなんて、まさに僕のためのレースみたいですよねえ」

最近、彼は真面目にトレーニングを積んでいて、今日は好記録を狙っている。

それにしもて、走ってみて良かった。とっても寒いことが分かった。余りにも寒いので、上も下もウィンドブレーカーを着る。矢野選手も石材店も長袖上下のトレーニングウェアだ。一方、汗っかきの支部長は、こんな寒い日でも短パン姿のままだ。

(幹事長)「それって見てるだけでも寒そうだけど」
(支部長)「実は短パンの下にはタイツをはいてるのよ」


ロビーに戻ってくると、新城プロが招待選手の土佐礼子選手夫妻と楽しそうにおしゃべりしている。新城プロの顔の広さに感心する。

外は相変わらず寒いので、できるだけ室内で待機していたけど、スタート時間が近づいてきたので、スタート位置を確認するために外に出る。出場者は、招待選手が前方に並び、その後ろに一般参加者がペース順に並ぶ。なので1時間半と2時間のペースランナーはそれぞれのペース順に並ぶ。しかし2時間半と3時間は、最初は最後尾からスタートすることにした
今年は国際大会になったことや、去年から制限時間が大幅に緩くなったことなどから、参加者が急増し、ハーフマラソンの部だけで7000人もの参加者がいて、後ろのほうに並んでいると、なかなかスタートできない。スタートのピストルが鳴ったときは、後ろのほうは、まだゾロゾロとスタート地点に向かって移動中だった。満員電車状態のままスタート地点まで辿り着き、なんとか走り始めたのは、スタート後5分くらい経過したときだった。
しかし、これは我々超スローなペースのペースランナーにとっては好都合だ。なぜなら最初に遅れると、その遅れを取り戻すために、少しだけ速いペースで走れるからだ。

(幹事長)「やったーっ、借金ができた!」
(支部長)「普通と逆やねえ」
(幹事長)「ほんとほんと。普段なら序盤でどれくらい貯金を作れるかが勝負になるのにね」


最初に5分の借金ができたのだが、これを取り戻すとすれば1km当たり15秒ずつ早く走ることができる。1km7分のペースで走らなければならなかったところを、1km6分45秒のペースで走ることができる。1kmで15秒ってのは、小さいようだが、結構、違うものだ。

今日は気温が低く、冷たい風に当たるとかなり寒い。ただ、風は思ったより強くないので、真剣に走るランナーにとっては絶好のコンディションだ。超スローペースのペースランナーにとっては、少し寒いかも、と思ったのだが、天気が良いため、走り始めて日が射すと暖かさも感じられる。

(幹事長)「て言うか、なんだか暑いぞ。ウィンドブレーカーの上下は失敗だったかなあ」
(支部長)「だから言うたでしょ。着すぎだってば」


それにしてもランナーが多い。参加者7000人だから多いのは当たり前だが、そういう意味ではなく、我々のように超スローペースで走っているランナーが多いのだ。全くの素人とか、高齢者の方とか、結果的に2時間半でゴールする人はいるとしても、最初からそんなペースで走る人が、こんなに多いとは思わなかった。かつて制限時間が2時間程度だった頃には絶対に参加しなかったような人が大勢出ているわけだ。マラソン人気の裾野が広がっているという意味で、喜ばしい限りだ。
一方で、トップを争っているのは世界記録を視野に入れた黒人ランナー達だ。このギャップというか、同じレースでありながら2つの世界に分かれているのが面白い。

Qちゃんが出ていることもあり、沿道では例年以上に大勢の人が応援してくれている。地元なので時々知人もいるが、例年は必死で走っているので沿道から声を掛けられて初めて気付く。しかし今年はゆっくり走って余裕があるから、と言うか、ゆっくり過ぎて暇なので、こっちから沿道の人たちを見ながら走る。何も知らない知人からは「えらい遅いやんか」なんて言われるので、「今年はペースランナーなんやがな」と言って胸のゼッケンを見せる。支部長に至っては、大勢の部下に応援を要請しているため、部下を見つけると写真を撮っていた。

(幹事長)「普通、応援している方が写真を撮るやろ?」
(支部長)「休日に動員をかけてるから、サービスで写真撮ってあげんといかんのや」


数キロ走った辺りで、ふと後ろを見ると、「マラソン初めてですっ」みたいな若い女性が一生懸命走っている。すかさず支部長が声を掛ける。

(支部長)「頑張ってくださいよう。一緒に着いて来たら2時間半でゴールできるよ」
(女性)「分かりました。着いていきます!」


さすがは支部長。あふれ出る人徳により、若い女性がすぐ食いつくなあ。
ただし、支部長は女性に声を掛けたり、応援者の写真を撮るのに忙しく、ペース配分を全く考えていない。ついついペースが速くなる。時々「おーい、もっとペースを落として」と声を掛けて引き止めないと、どんどん前へ行ってしまう。
そのため、給水所ではたっぷり時間をかけることにする。普段は走りながら、水をこぼしながら、むせながら飲むんだけど、今日は立ち止まってゆっくり飲んで時間を使う。

我々が6kmほど走ったところで前方から反対車線をテレビ中継車がやってくる。なんと早くも先頭ランナーが折り返してきたのだ。トップは予想通りモグスとダニエルの争いだ。2人ぴったり寄り添うように走ってくる。異常に早い。全く別世界だ。この2人の後の3位集団は、すごく遅れている。大集団なんだけど、トップの2人を無視するかのごとく、熾烈な3位争いをしている。

(幹事長)「3位争いもいいけど、もっと勇気をもってトップの2人に喰らいついていく日本人選手はいないんかなあ」
(石材店)「どうあがいてもかないっこないから、そんな自殺行為はしないんでしょ」


女子ではマーラ・ヤマウチが2位を大きく引き離して先頭を走っている。土佐礼子はあんまり無理をせず、マイペースのようだ。

(幹事長)「ところで、我がQちゃんはどこを走ってるんだろう?」
(石材店)「全然、姿かたちが見えませんねえ」


みんながスタートした後から出発して、みんなに声を掛けながら追い抜いていく、っていう設定だったはずだが、我々を追い越すことはなかった。

(幹事長)「もしかして、最後尾じゃなくて、どこか途中から合流したのかなあ」
(石材店)「昨日のジョギング教室で楽しいひと時を過ごしたんだから、もういいじゃないですか」
(幹事長)「やだやだやだーっ、もっと触れ合いたいっ!」


天気は基本的に晴れで、心配した風もさほど強くなく、ちょうどいい感じ。て言うか、上下ウィンドブレーカーを着込んでいるので、風が無くなると暑いくらい。給水所で時間調整しながらも、非常に正確にイーブンペースを維持しながら走り続け、ようやく折り返し点に来る。この辺りから、沿道の人たちから大声援がかかるようになる。

(幹事長)「おおう。沿道の人たちは理解が深い。ペースランナーにも暖かい応援をしてくれるなあ」
(支部長)「いやいや、なんとなく声援の矛先が違いますよ」


よく見ると、決して我々に対して声を掛けてくれているのではなくて、すぐ後ろの集団を応援している。

(幹事長)「誰や、あれ?」
(支部長)「フジテレビの平井理央アナウンサーやがな」


おおう、あれがそうか。僕らのすぐ後ろを走ってくるではないか。隣にはサポート役の女性ランナーとか小さなテレビカメラを持ったランナーとか、さらにはガードと思われるランナーも含めて小さな集団で走ってくる。

(幹事長)「むっちゃ可愛いやんか!コスチュームも可愛いし」
(石材店)「Qちゃんとどっちが可愛いですか?」
(幹事長)「そら、あんた、モゴモゴモゴ・・・」


テレビの女子アナなんて、ほんと、タレントと同じ。ものすごく可愛い。すかさず支部長が声を掛ける。

(支部長)「頑張ってくださいよう。私に着いて来たら2時間半でゴールできますから」
(平井アナ)「私の目標が2時間半なんですぅ」


支部長の女性に対するアプローチには、ほんと感心させられる。

(石材店)「幹事長が声をかけると欲望がギラギラして警戒されるのにね」
(幹事長)「ほっといてくれ」


平井アナは言葉通り、本当に2時間半を目標にしているらしく、ずうっと我々の後ろをピッタリついてくる。あんまり振り返るわけにもいかないのがもどかしい。
あと5kmの表示が見えたので、ここぞとばかりに振り返りながら大きな声で「あと5kmですよっ!頑張りましょう!」って叫ぶ。すると平井アナグループを含む後ろにいた人たちから一斉に「はいっ」っていう返事が返ってくる。素晴らしい一体感に酔いしれる。
ところが、そこからしばらくすると「お先に行きま〜す」なんて言いながら、僕らを追い抜いていった。目標タイムは2時間半だったはずだが、結構いけそうなのでペースを上げることにしたらしい。2時間半なんてのは異常に遅いタイムだから、仕方ないんだけど。

(幹事長)「一緒について行きたいなあ」
(支部長)「抑えて、抑えて。我々はペースメーカーなんやから」


平井アナの後ろ姿を淋しく見ていると、前半からずうっと我々の後ろを着いてきていた初心者女性も、ここぞとばかりにペースを上げて我々を追い抜いていく。みんな、ゴールが見えてきたので頑張り始めたようだ。しかし我々は相変わらず正確にタイムを刻んでいく。まさに走る精密機械だ。あと3kmの表示のところで再び振り返りながら「あと3kmですよっ!」って励ましながら走る。

いよいよあと1kmの地点に最後の給水所がある。おや?さっき頑張ってスパートをかけてペースを上げた初心者女性が、すっかり立ち止まって水を飲んでいる。

(支部長)「おや?もう少しですよ」
(女性)「無理してスパートしたら足が動かなくなっちゃいました」
(幹事長)「大丈夫、大丈夫。もう後は歩いても2時間半でゴールできるよ」


実は、我々は公式の時計で2時間半ジャストでゴールする予定なのだけど、参加者の個人のタイムは、各人が身につけているチップで計測するようになっていて、各人がスタート地点を通過した時からのネットタイムだ。なので、後ろの方からスタートした初心者は、公式時計のスタート時間から自分がスタート地点を通過したまでの数分間の貯金があるのだ。てことで、僕らに着いてきてくれたみなさんは、みんな余裕で2時間半を切る事ができた。

(支部長)「ゴールしても、こんなに余裕がある丸亀マラソンは初めてやなあ」
(幹事長)「走りの点では不完全燃焼というか、走った気分になれないけど、ものすごく充実感があるなあ」


微力ではあるけど、レースを盛り上げる手伝いができた喜びが沸いてくる。天気も良かったし、気持ちが良い。何の実力も無い我々なのに、頼りにしてくれる参加者がいて、なんだか偉くなったようで、ほんとに気分は爽快。

僕らより一足先にゴールしたゾウ坂出は惜しくも2時間は切れなかったが、それでも好タイムだった。この調子で行くと、支部長が負けるのは時間の問題だと思われる。

(支部長)「ってことは、幹事長が負けるのも時間の問題やないの?」
(幹事長)「はい、その通りでございます」


一方、毎日のようにトレーニングを積んで満を持して出場した漆原選手は、調子に乗って前半を飛ばしすぎて終盤で足が動かなくなり、彼にとっては不本意なタイムに終わったとのことだ。

(漆原)「ペース配分って、ほんとに難しいなあ」
(幹事長)「プロでも永遠の課題だもんなあ」


最後は3時間もかけて最後尾を走ってくれた新城プロと真鍋選手が走り終えて、ご苦労様でした。

大役を無事果たして、ほっと一息ついていると、マスコミの取材が殺到した

(矢野)「むっちゃ大げさですよ。たった2社ですがな」

たぶん、記事にはならないんだろうけど、取材を受けるのは気持ちいい。



レースの夜は、金哲彦氏を囲んで打ち上げ会を開催した。2月1日は、なんと偶然にも金氏の誕生日とのことで、我々でこっそりバースデーケーキをプレゼントした。

金氏によると、来年以降もペースランナーを設定したいとのことなので、我々もぜひとも協力したいと伝えた。

(支部長)「こんなに楽しいとなると、希望者が殺到するかも」
(幹事長)「じゃ、ローテーションでいこう。たまには僕らも真剣に走って自己ベストを狙いたいし」


ということで、来年もペースランナーで活躍する可能性が高いぞ。みんな、応援してねーっ!



翌朝、新聞を見てびっくり。我々の活躍ぶりが報道されているではないか。地元の四国新聞には「四電ペンギンズ」の名前で紹介してくれていた。

ニューヨークタイムズのスポーツ欄を飾る私らの記事

(石材店)「幹事長が大嫌いな朝日新聞には幹事長の実名入りで出てますよ」
(幹事長)「ふむ。朝日新聞も悪くはないな」

(石材店)「ところで、幹事長。3月1日の異動で恐ろしく寒い地方に転勤になるそうですね」
(幹事長)「そうなんよ。ピッグ増田と同じ職場になるのよ」
(石材店)「レースには帰ってくるんでしょ?」
(幹事長)「もっちろん!移動は一日がかりだけど、万難を排して帰ってくるぞ」


てことで、これからも四電ペンギンズは不滅ですよ〜!


〜おしまい〜




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