第14回 国営讃岐まんのう公園リレーマラソン大会
今年も四電ペンギンズの初レースとして、2013年1月13日(日)、第14回国営讃岐まんのう公園リレーマラソン大会が開催された。
この季節、当然ながら天候が悪いと寒い。9年前の第5回大会の時は、会場へ着くと一面の雪でびっくりした。今日は西から天気が下り坂との天気予報だったけど、夕方までは雨は降らないみたい。曇ってはいるものの、風が無いから、そんなに寒くはない。とは言え、じっとしていると、やっぱり底冷えがしてくる。
(幹事長)「せっかくの楽しいレースなんやけど、もっと暖かい季節にあったらええのになあ」
(ピッグ)「何言ってるんですか。このレースに出て、今年も新しい年を迎えたっていう気分になれるんじゃないですか」
確かに、そらそうだ。毎年、四電ペンギンズの活動はこのレースと共にスタートする。新年を迎えるには欠かせない行事だ。このレースを戦うことによって、心機一転、気持ちも新たに、再び厳しい戦いに挑戦する気力が沸いてくるというものだ。
(石材店)「嘘ですね」
(幹事長)「はい。嘘です」
この遊び半分ていうか、遊び全分のレースで、そなな新たな意欲が沸いてくるはずがない。真剣に走るのなら、動物の格好で走ったりはしない。2月初めの丸亀マラソンは、日本でも有数の高速コースで自己ベストを狙って真剣勝負するから気合も入るけど、この満濃リレーは、正月気分が抜けないまま楽しく仲間と走るお遊びレースだ。
ただ、お遊びレースではあるが、第1回から今年の第14回まで14年連続で出場している僕にとって、このレースは重要な位置づけにある。丸亀マラソンや瀬戸内海タートルマラソンは病気で欠場したこともあったけど、この満濃リレーだけは欠かさずに出てきた。なぜなら、このレースは我が四電ペンギンズの原点と考えるからだ。タイムは気にせず、無理せず楽しく走るペンギンズの理念に沿ったレースだ。それに、普通のマラソンレースでは、チームメイトと言えどもライバルであり、熾烈な戦いを繰り広げることもある。その点、このレースはみんなで力を合わせて戦うレースなので、唯一、一体感が高まるレースなのだ。
(石材店)「可能な限り自分は走らない幹事長とは思えないお言葉」
(ピッグ)「スキを盗んでは、こっそりうどん食べて早々にリタイヤしてますからねえ」
(支部長)「しかも自分のタイムだけは異常にこだわってるしなあ」
このレースは、なだらかな公園の丘陵地の1周2kmのコースを全部で21周してフルマラソンの42.195kmを走るというレースだ。トータルの距離はフルマラソンだが、1人が1回に走る距離は僅か2kmだ。なので、基本的に全力疾走となる。長い距離のレースだと、前半は無理せず抑えて走る、とかレース展開を考える余地もあるけど、僅か2kmでペース配分なんか考えても仕方ない。この短距離の全力疾走というのは、トレーニングとしてはうってつけだ。理想的には、普段の練習の時からインターバル走なんか取り入れてメリハリを付けるべきなんだろうけど、そんなん、なかなかできない。ひたすらチンタラだらだらと走るだけだ。なので、丸亀マラソンを3週間後に控えた時期に、2kmを全力疾走するってのは、悪いことではない。
(幹事長)「しかーし諸君!このレースには、実はもっと重要な目的が隠されている」
(ピッグ)「えっ?何ですか?」
(幹事長)「新人女子部員の獲得だ」
(ピッグ)「えっ?そうだったんですか?」
(支部長)「おや?知らんかったん?」
世間では空前のマラソンブームで、「ええっ?まさか、あの人がっ!」っていう腹の出たおじさんやおばさんが大挙してマラソンを始めているが、健康のためにせっぱ詰まって走り始めるおじさんやおばさんと違って、若い女子は、多少、マラソンに興味を持ったとしても、なかなか一歩が踏み出せない。そこを、甘い言葉で誘うのだ。
このレースは、1人が1回に走る距離は僅か2kmなので「たった2km走るだけの楽なレースだから、試しに出てみたら?」なんて甘いささやきで誘って参加させるのだ。
もちろん、「2kmだから楽」なんて事はない。決して、ない。むしろ僕なんかにとっては、このレースが一番心臓がしんどい。距離が短いから最初から最後まで全力疾走するからだ。距離が長いレースも、もちろん、しんどいけど、それは足が痛くなるっていうしんどさで、心肺が苦しいのは距離が短いレースだ。しかし、初心者は「距離が短ければ楽なのかなあ」なんて勘違いして、気楽な気持ちで参加してくれる。第8回大会の時なんか、一挙に4人も新人女子部員が参加した。
ただし、たいていの新人女子部員は、1回走ったら、あまりのしんどさに懲りてしまって、もう二度と参加しなくなる。
(幹事長)「考えが甘いよなあ」
(ピッグ)「自分が誘っておいて、よく言いますねえ」
(幹事長)「そもそも若い女子が何を好き好んでマラソンなんかするのか、わしには全く理解できん」
(支部長)「しっ!そなな事をおおっぴらに言ったら、もう集まらないよ」
事実、最近、新人女子部員の集まりが悪い。
(石材店)「完全に自業自得ですね」
なんと、去年は、遂に女子部員の参加がゼロになってしまったのだ!さすがに、これはまずい。なぜなら、女子部員の数が少ないと、男性部員の参加が減少するからだ。
(ピッグ)「えっ?そうだったんですか?」
(支部長)「おや?知らんかったん?」
てなことで、さすがに今年は危機意識を持って新人女子部員のスカウト活動に力を入れた。
(石材店)「成果はどうだったんですか?」
まず、責任を痛感した幹事長の私は、知人の避暑部長のパワハラを活用して、避暑部員の勧誘に成功し掛かったんだけど、あと一歩というところで、永遠のライバルチームである土木チームにさらわれてしまった。
(石材店)「避暑部長のパワハラを使っても通用しなかったんですか?」
(幹事長)「どうやら敵は役員の権力を使ったようだ」
で、最後の頼みは支部長だ。これまで数限りない女子部員の勧誘実績を残してきた支部長が、最後の手段で部下をパワハラで強引に勧誘してきた。
(幹事長)「さすが支部長。えらーい!」
(支部長)「私の偉大さを再認識したかな?」
てことで、今年は新人のライオン3号が参加することとなった。それから去年は所用で欠場した不動のレギュラーゾウ坂出も今年は復帰したから、今年の女子部員の参加は2人となった。男性の方は、僕と支部長、ピッグ、石材店のほか、去年から参加している元短距離選手の國宗選手と、國宗選手の元上司も参加する。実は、阿南支部からはピッグのほか、トリ君も参加する予定だったんだけど、去年11月のひだか茂平マラソンで膝の古傷が悪化し、結局、直前になっても治らなかったので、急遽、欠場となったのだ。残念。
(幹事長)「僕も最近、練習してて、時々膝がピリって痛むことがあるんやけど、大丈夫かなあ」
(石材店)「それだけ練習量が少なければ、故障はしないでしょう」
レース当日の朝は、カッパの格好で待っていると、今年はトラになった支部長が車で迎えに来てくれる。
(カッパ)「そのトラって、誰のやったっけ?」
(トラ)「仕出し屋のいとはんのトラでんがな。ええ香りしまっせ」
(カッパ)「それ一昨年のレースでテニス君が着てたやんか。それテニス君の臭いやで」
トラの車には既にピッグと新人ライオン3号が乗っている。
(ライオン)「この格好って、結構、走りにくそうですねえ」
(カッパ)「ふふふ。今頃になって気づいても、もう遅い。お前はもう第一線を踏み越えてしまったのじゃ」
(ライオン)「か、カッパ大王さま!お許しをっ!」
て言うか、実際にレースに出ると、走りにくさより恥ずかしさの方が重大だって事に、新人ライオンさんはまだ気づいていない。
國宗選手は去年と同じくペンギンになり、元上司のクマさんと別の車で現地集合だ。
石材店も例年通り馬で、ゾウ坂出を乗せて現地集合だ。
集合時間は9時半にした。
(ピッグ)「随分、早いですねえ」
(幹事長)「通常ならスタートギリギリに行くのがうちのポリシーだけどな」
(支部長)「ウォーミングアップは市民ランナーの敵やからな」
しかし、このレースは、最近、遅く行くと場所の確保が難しくなってきたのだ。このレースは一昨年までは3連休の真ん中の日曜日に開催されていた。当初は参加チームは100チーム程度だったので、のんびりと和気藹々とした草レースだった。どこでも好きな場所に、芝生の上にシートを広げてピクニック気分で場所を取れていた。ところが空前のマラソンブームを反映して、最近は参加チームが激増し、一昨年はなんと400チームを超えてしまい、会場はギュウギュウのすし詰め状態で、遅く行くとシートを敷ける場所が見つからなくなったのだ。
あまりに参加チームが増加し、円滑なレース運営ができなくなったため、去年から2日間に分けて開催されることとなった。部門別に2日間に分けるのだ。部門の振り分けは、今年は1日目が一般部門、職場仲間部門、ファミリー部門、2日目が男女混合部門、女子部門、高校生部門、中学生部門、小学生部門、マスターズ部門となっている。去年と振り分けが異なったが、たぶん、去年は2日目より1日目の方が2倍くらい参加チームが多かったから調整したのだろう。ただ、一般部門と職場仲間部門って、違いがあいまいだ。うちのチームは四電ペンギンズって言うくらいだから職場仲間部門とも言えるが、厳密に言えば社外の人も多いので一般部門とも言えるし、もちろん男女混合部門でもいい。
(カッパ)「動物部門とかあれば迷う余地は無いんだけどな」
(トラ)「カッパは動物なのか?」
もちろん、カッパ大王様は神を超越した偉大な存在だから、何にでもなれる。
てことで、みんなの都合に合わせて参加する日を決め、部門は後から適当に選ぶ。去年は2日目の方が都合が良かったから職場仲間部門で出たが、今年は1日目の方が都合が良かったから一般部門で出た。他のチームも、どうせ似たような状況なので、今年も結局、1日目の方が2日目より2倍くらい参加チームが多く、なんと382チームも参加している。こんな状況だと、かなり早めに行かないと場所の確保なんてできない。って事で、スタート時間が11時なのに、今年は1時間半も前の9時半を集合時間としたのだ。
(カッパ)「こらーっ!集合時間やというのに、誰も来んやんかーっ!」
(馬)「すんません。30分遅れました」
(ペンギン)「すんません。1時間遅れました」
今年の参加メンバー8匹 (左からカッパ、クマ、ライオン3号、ペンギン、馬、ゾウ、トラ、ピッグ)
全員が揃ったのはスタート時間30分前だ。ここで1周だけウォーミングアップをする。本来ならウォーミングアップはペンギンズのポリシーに反しているのだが、新人ランナーがいる時はコースの下見を兼ねて1周だけ走るのだ。普通のマラソンなら、レース序盤はウォーミングアップ代わりに抑えめに走るところだが、いきなり全力疾走するこのレースでは、ある程度体を温めていないと、いきなりの全力疾走はきついのだ。
(ライオン)「ええーっ?私は走りませんよ。体力を温存しときますぅ」
などといきなりワガママをかます新人ライオンの尻を叩いて、とにかく走り出す。ところが、いつの間にかライオンが行方不明に。
(カッパ)「あれ?どこ行ったん?」
(トラ)「逃亡してしもた」
体も暖まったところで、走る順番を決めなくてはならない。このレースは、1周2kmのコースを全部で21周するのだが、メンバーの誰がどこで何周走っても自由なので、走る順番がキーポイントとなる。
(カッパ)「去年のジャンケンは緊張感があって好評だったので、今年も最初からジャンケンで決めるぞ」
(トラ)「大いに賛成だな」
(ピッグ)「それって、お二人は勝ちまくったから良かったでしょうけど、私らしんどかったですよ」
去年は参加メンバーが6人だったので、ジャンケンが弱かったピッグなんかは4周も走るはめになったのだ。今年は8人で走るから、うまくいけば2周くらいで済むかもしれない。
(馬)「相変わらず自分だけはサボろうサボろうとしてますねえ」
(カッパ)「本当はもっと走りたいんだが、若手育成のために我慢しているんじゃよ」
ただし、最初だけは全員が1回ずつ走ることにする。
(カッパ)「いくらなんでも1回くらいは走らんとな」
(トラ)「私は最初からジャンケンでもええんやけどね」
(ピッグ)「二人とも、完全に勝ち続ける気ですねえ」
で、ジャンケンの結果、@ゾウ、Aクマ、Bライオン、Cトラ、Dピッグ、Eペンギン、Fカッパ、G馬の順番となった。
一番プレッシャーのかかる第1走者はゾウ坂出なのだ。
(ゾウ)「いやだよー!第一走者はプレッシャーがかかるぅ!」
(カッパ)「心配するでない。今日のレースの勝敗は、全ておぬしにかかっておる」
(トラ)「プレッシャーかけて、どないすんですか」
早くもスタートの時間が近づいてきたので、初めての第一走者のプレッシャーに押し潰されそうになるゾウさんをスタート地点に引きずっていく。第1走者だけは0.195km分がよけいに付いてくるので、ちょっとだけ長い。しかも、第2走者以降は、ごちゃごちゃになって誰が先頭なのかなんて分からなくなるけど、1周目だけは早いのか遅いのか丸分かりだ。プレッシャーがかかる理由だ。
いよいよスタートだ。ゾウさんは控えめに後ろの方にポジション取りしているので、よく見えない。カメラを構えていたんだけど、結局、走る群れの中に埋もれて分からなかった。
(カッパ)「ゾウとかクマは色が地味で分かりにくいから、スタートは色が派手なトラやライオンにすべきやなあ」
(トラ)「これこれ、カッパも同色ですがな」
ちょっと距離が長かったこともあって、ゾウさんは、かなりバテて帰ってきた。
(ゾウ)「でもこれで調子が出てきたので、2周目はタイムを狙いますよ」
次の第2走者はクマさんだ。クマさんは、体型的に外見で判断する限り、僕より遅いんじゃないか、なんて思っていたら、なんと、すごく早くて、8分45秒で帰ってきた。
(カッパ)「どひゃーっ!めっちゃ早いやんか!」
1周8分台は、カッパはこの2〜3年、出したことがない。去年も駄目だった。それをいきなりクマさんに出されたので衝撃は大きい。
(カッパ)「エコエコアザラク、エコエコザメラク」
(トラ)「呪ったらいかんがな」
(ピッグ)「何言ってるのか意味が分かりません。世代の断絶を感じます」
次の第3走者はいよいよ期待の新人女子部員ライオン3号だ。
(ライオン)「誰が期待してるんですか?」
(馬)「えっ?スポーツ万能って聞いたけど」
(ライオン)「ええーっ?誰がそんなこと言ったんですかっ!?」
(カッパ)「いやあ、今日は本当に良い天気やねえ」
実はライオン3号の本職は自転車だ。自転車と言えば、最近はトラやペンギンが手を出し足を出しているが、それもライオン3号の影響だ。今年は10月にしまなみ海道の橋を走るサイクリング大会が開催される予定で、これには僕もぜひ参加したいので、ライオン3号の指導で準備を進めたいところだ。
(馬)「で、マラソンは?」
(カッパ)「まあまあ、ええやないか。肉食獣は持久力が無いもんや」
て事で、こんなきついコースとは思ってもなかったライオン3号は息も絶え絶えに1周を走り終えた。
次の第4走者はトラだ。永遠のライバルのトラだ。しかも、かつては私が常勝していたのに、最近は負けることの方が多くなったトラだ。彼は、ここんとこ、ずうっと好調を維持しており、去年も8分台のタイムを出している。
(カッパ)「その好調の秘訣は何なん?」
(トラ)「ひたすらトレーニングやな」
毎朝、欠かさず坂道を上ったりしているのだ。老人性早起き症で、時間つぶしに暗いうちから徘徊しているのだ。これじゃあ、かなわない。で、今回も、トラさんは8分台で帰ってきた。
(トラ)「こんなもんやな」
(カッパ)「まずい。まずすぎる。このプレッシャーを力に変えなくては!」
トラの次の第5走者はピッグだ。ピッグは一昨年は8分台を出したが、去年は僕と似たようなタイムだった。彼の良い点はムキになってカッパ大王様に逆らおうとしないところだ。で、今年もピッグの1周目は9分を少しオーバーしたタイムだった。
(カッパ)「ふむふむ。よしよし。それくらいのタイムが調度ええ」
次の第6走者は元短距離走者のペンギンだ。初レースだった去年は、ペース配分が分からず、いきなり短距離走のペースでアホみたいなスピードでダッシュしてスタートしたため、終盤、足がつって足を引きずりながら帰ってきた。ただし、あろうことか、リレーゾーン手前では歩き始めてしまったにもかかわらず8分台のタイムを出したのだ。最後に歩いたのに8分台だなんて、普通なら有り得ない。今年はその経験を生かして、かなり早いタイムが期待されたのだが、なんと8分36秒という速さで帰ってきた。
(カッパ)「あまりに素晴らしすぎて、目標になりませんがな」
(トラ)「さあさあ、どうする?」
どうするったって、次の第7走者はカッパ大王様だ。走らざるを得ない。一応は、作戦を考える。僅か2kmなので、ペース配分なんて考えずに最初から飛ばしまくるのが基本だ。だが、近年の不調を考えると、もしかしたら最初は少しセーブした方がいいのではないか、なんていう思いも無いことはない。てことで、去年は取りあえず最初の500mは少しだけ抑え目に走ってみた。そして、その後は一気に全力疾走に切り替えた。だが、最初が抑えめのペースだと、後からスピードアップしようとしても、なかなかスピードが上がらず、結局は惨めなタイムとなった。
(カッパ)「だから今年は、やはり、最初から全力で突っ込むぞ!」
(トラ)「他に無いやろ。ゴチャゴチャ考えても意味無いって」
て事で、今年はタスキを受け取って、いきなり全力でスタートする。最初の500mは人間ランナーどもを、かなり追い抜いた。気持ちいい。カッパは今年も人気者で、あちこちから「カッパさん頑張ってぇ」なんて声援が飛んでくる。もちろん、声援には必ず手を振って応える。例年のことだけど、相変わらずガキんちょから「あっ、カメや」なんて声も出る。そういう時は、すかさず「カッパやで!」と頭のお皿を見せる。
(トラ)「そういう事してるからタイムが悪くなるんやって」
500m地点で時計を見ると、まあまあ悪くないタイムだ。そこを過ぎると下り坂なので、思いっきり飛ばす。1000m地点で時計を見ると、これも、まあまあのタイムだ。勝負は長い上り坂の次の区間だ。ここでも今年は踏ん張って、なんとかまあまあのタイムを維持した。後はゴールまで最後の500mを必死で頑張るのみだ。最初から全力で飛ばしたせいで、この辺りから心臓も痙攣しそうだし、足もガクンと重くなって前に出なくなってきた。それでも最後の全力を振り絞ってなんとかスピードダウンすることなくタスキをつないだ。これならトラさんと良い勝負だろう。
と思ったんだけど、あれれ?信じられないほどタイムが悪い。
(カッパ)「うっそーっ!もっと速かったはずやあ!時計が壊れとる!」
カッパの異議申し立ては認められず、今年もいきなり敗北してしまった。最初から突っ込んだのに、最初を抑えて失敗した去年と似たようなタイムだ。どうなってるの?
(カッパ)「えーんえーん、しくしくしく」
(馬)「タイムは気にせず無理せず楽しく走る理念は、どこへ行ったんですか!」
1巡目最後の第8走者は馬だ。馬は速い。前から速い。いつも速い。調子が良ければ平気で7分台を出す。なのでカッパ大王様やトラやピッグとは異なる基準が適用される。なので、今日も最初から8分ジャストの好タイムだったにもかかわらず、全く評価されない。悲しい馬の宿命だ。それにしても、馬、ペンギン、クマ、トラと、なんと4匹もが8分台だ。すごいなあ。
さて、全員が1回ずつ走った後は、恐怖のジャンケン地獄が待っている。ここから先は、運が良ければ走らないでも済むが、運が悪ければ何回でも走らされることになる。ただし、連続で走るのは無しとする。それどころか、去年は慈悲深く、1回走ったら3周分休めることにした。
(カッパ)「しかし、3回も休むなんて、ちょっと休み過ぎじゃない?」
(トラ)「全く同感ですな」
(ピッグ)「だから、お二人は自分たちが勝つ事しか考えてないでしょ!」
心を鬼にしたカッパ大王様は、今年は休めるのは2週分にする、と宣言した。つまり、走っているランナーと、帰ってきたばかりのランナーだけは除外して、ジャンケンするのだ。
まず第9走者を決めるジャンケンに参加するのはゾウ、クマ、ライオン、トラ、ピッグ、ペンギンの6匹だ。そして、いきなり貴重な新人女子部員のライオン3号が負けてしまった。
(ライオン)「えっ?何ですか?私ですか?えっ、えっ?どういう事ですか?」
制度をよく分かってないまま強制的にジャンケン地獄に参加させられ、いきなりの事態を冷静に理解できないライオンさんは戸惑うばかりだが、ペンギンズの世界にビギナーズラックという言葉は無く、ビギナーズバッドラックの世界だ。1周目で息が絶え絶えだったライオンさんは、2周目で完全に生きる屍となって帰ってきた。
次の第10走者を決めるジャンケンでは、早くもトラに土がついた。
(トラ)「あれえ、こんなはずではなかったのに」
さすがに1回目よりはタイムを落としたが、それでもそんなに悪くないタイムでトラは帰ってきた。
続く第11走者のジャンケンは、ペンギンが負けた。ペンギンもそんなに悪いタイムではなかったけど、驚異的に速かった1回目に比べれば30秒も遅かった。
(カッパ)「う〜む。波が激しいと言うか極端やなあ」
第12走者を決めるジャンケンには、ライオンさんも参加する義務があったが、さすがに死にかかっているので、そうっとしておく。で、走るのはクマに決まった。
クマは1回目よりは多少遅くなったが、それでも2回連続で8分台で帰ってきた。これは、すごい。だいたい、みんな、1回目で8分台を出しても、次はかなり遅くなるのが普通だ。クマさんの実力には恐れ入った。
この辺りで、少しお腹が空いてきた。このレースって、11時スタートで15時頃に終わるから、何か食べないとお腹が空く。しかし、走る順番が決まっていれば計画的に何か食べられるが、ジャンケン地獄制度を採用しているもんだから、食べた直後に走る羽目になるかもしれない。なので、食べるタイミングを見計らうのが難しい。ゾウさんなんかは、ちょこちょことこまめにバナナをかじっている。そんなもの持ってきてない僕は、こっそり抜け出して、ここらで思いきって屋台の打ち込みうどんを食べる事にした。柔らかくて消化に良さそうだし、暖かくて美味しかった。お腹いっぱいになって、まったりしていると馬が探しにきた。
(馬)「探しましたよ!次のジャンケンの時間ですよ。また何か買い食いしてたでしょ?」
なかなか馬の鼻は鋭い。慌てて戻って第13走者のジャンケンをしようとしたら、死にかかっていたライオンさんが起き上がってきた。
(カッパ)「もう少し死んでてええよ」
(ライオン)「どうせ負けませんから」
ジャンケンに負けないという根拠の無い確信を胸に、早々にジャンケン地獄に復帰したライオンさんだったが、なんと、このジャンケンで、いきなり負けてしまった。
(ライオン)「えっ?私ですか?えっ、えっ?どういう事ですか?」
だから言わんこっちゃない。ビギナーズバッドラックの怨念は、早々消えるものではないのだ。ライオンさんは、微かに残っていた最後のエネルギーも使い果たして、亡霊のようになって帰ってきた。
第14走者を決めるジャンケンでは、ここまで4連勝して、ライオンさんと同様に、負ける気がしなくて気軽にジャンケンしていたカッパ大王様が、なんと、パーを出したら他の全員がチョキで、絶望的な鮮やかさで負けてしまった。6匹でジャンケンしていると、なかなか決まらないんだけど、こうも鮮やかに負けてしまうと、まさか、うどん食べてる間に、みんなつるんで八百長されたんじゃないかって勘ぐってしまう。
(トラ)「誰がそこまでしますかいな」
1回目のタイムが思った以上に悪かったカッパ大王様は、これ以上、頑張っても良いタイムが出る可能性がゼロなので、2回目は軽く流すことにした。最初から軽く流しておけば、終盤になって足が動かなくなるって事はない。心臓も苦しくない。さっき食べた打ち込みうどんが喉からあふれ出てきたらどうしようと心配していたけど、全然気分も悪くならない。
(カッパ)「いやあ、思った以上に楽やったなあ。これなら、あと何周走ってもいいぞ」
(馬)「いいえ。こんな悪いタイムではチームの足を引っ張りますから、もう走らなくても結構です」
(カッパ)「声援にも余裕をもって愛嬌を振りまくことができたぞ」
(クマ)「カッパさんは分かりやすくて良いですよねえ。クマなんて分かりにくいから、ネズミって言われたりするんですよねえ」
(カッパ)「確かにクマは一番わかりにくいなあ。ていうか、それ、ほんとにクマか?」
(馬)「なんと、今頃になって大胆な疑問提議。クマでなくて、何なんですか?」
(カッパ)「だって、それ灰色やぞ。クマは茶色やろ?」
同じ色系統のゾウも分かりにくい。ちゃんと鼻とか牙が見えていたらゾウだと分かるけど、走っていて頭が脱げちゃうとクマと同じ状況だ。
(ゾウ)「さっき走っていて、沿道のおじさんが『それ、何ぞう?』なんて聞くから『ぞう』って答えましたよ」
[香川県方言講座]
香川県地方の方言が分からない人向けに解説しますと、香川県のおっさんは、『それは何だい?』って聞くときに『それ、何ぞう?』って言います。
次の第15走者はペンギンだ。ペンギンも3回目だ。1回目から2回目で30秒以上タイムを落としたペンギンは、3回目ではさらに30秒もタイムを落とした。
(カッパ)「ほんとに極端やなあ」
(ペンギン)「もともと短距離選手ですから」
次の第16走者も3回目となるクマだ。クマもだんだんタイムは悪くなってきているが、それでも結構、速いタイムを維持している。大したものだ。
さて、ここで、賢明な読者は気づいたと思うが、第一走者だったゾウさんは、まだ2回目を走っていない。
(カッパ)「ここまで休んじゃうと、マズくない?」
(ゾウ)「絶対に良くないですよねえ」
せっかく第一走者を走って体を温めて次は記録を狙うつもりだったのに、もう3時間近く経ってしまって体が冷え切っている。いくら風がないとは言え、3時間も屋外でひたすら待っていると体が冷え切る。
(トラ)「もう、こうなると、最後まで勝ち逃げする事を考えた方がええんとちがう?」
(ゾウ)「そうですよねえ」
なんて言ってたけど、次の第17走者を決めるジャンケンで、遂にゾウさんが負けてしまった。
(ゾウ)「一番恐れていたパターンですよう!」
しかし、ゾウさん、なんとか頑張って帰ってきた。実はゾウさん、昨日も20km以上トレーニングしたそうだ。
(カッパ)「な、な、な、何を考えとん?て言うか、何でそんなに走れるん?」
(ゾウ)「来週、瀬戸大橋駅伝があって、それに出るんですよぅ」
瀬戸大橋駅伝ってのは、坂出市内の地区対抗駅伝で、小学生から一般まで10人でチームを組んで走るんだけど、彼女は一般女子の部で走らなくてはいけなくなったのだ。
(カッパ)「同じ駅伝って言っても、このレースとは大違いで、プレッシャーがかかりそうやなあ」
ようやくゾウが2回目を走ったところで、次の第18走者も、ようやく2回目となった馬だ。馬は速い。前から速い。いつも速い。デジャブのようだが、馬は速い。なので、多少遅くなった2回目のタイムも、他のどのメンバーの1回目のタイムより速いのだけど、全く評価されない。悲しい馬の宿命だ。
この時点で、まだ1回しか走ってないのは、なんとピッグだけとなった。ジャンケン10連勝だ。去年、僕は9連勝という大記録を打ち立てたが、その記録を破ったのだ。去年は総勢6人で、かつ3回休みルールだったので、ジャンケンは3人でやっていた。それに対して今年は6人でジャンケンしているので、負ける確率は半分になったから、連勝が出やすくなったのは事実だ。しかし、それでも10連勝はすごい。
(カッパ)「そろそろかな?」
(ピッグ)「いやいや、もう走ることより、ジャンケンに勝ち続ける歓びに夢中ですよ」
で、次の第19走者を決めるジャンケンに、なんと再びライオンさんがゾンビのように蘇って参加しているではないか。
(カッパ)「ちょっとちょっと、もうええってば」
(ライオン)「どうせ負けませんから」
ついさっき、その根拠の無い確信が間違っていた事が身に染みたはずなのに、なぜだ?この立ち直りというか、無謀さは、どこから来るんだ?恐い。見ているこっちの方が恐い。なんてハラハラしていたら、クマがいきなりの4回目の敗者となってしまった。
(クマ)「えっ?まだ1回か2回しか走ってない選手がいるってのに、もう4回目?」
さすがのクマも、4回目ともなると、かなりバテた。ご苦労さん。
そして、次の第20走者のジャンケンでは、なんとゾウさんが負けてしまった。
(ゾウ)「もっと満遍なく走りたかったですよねえ」
(カッパ)「この最悪のタイミングを乗り切ってこそ、真のパワーを授かることができるのだぞよ」
てことで、相変わらず勝ち続けているピッグだけが1回しか走っていない。ここまで勝ち続けると、次は負けるかも知れないっていう恐怖は無くなり、根拠無く、勝って当たり前っていう気分になってくる。
(ピッグ)「よく分かりますね」
(カッパ)「去年のわしがそうじゃったからな」
で、この根拠のない自信を胸に、次のジャンケンも早々とピッグは勝ち抜けしてしまった。しかし、さすがにここで非難の嵐が巻き起こり、有無を言わせずピッグがアンカーに仕立て上げられた。それでもジャンケンに勝つことにのみ喜びを見い出していたピッグは大喜びだ。
(ピッグ)「いやあ、もう最後まで勝ち続けた喜びでいっぱいですよ。この勝利の笑みでアンカーを務めさせていただきますっ!」
計算すると、6人でジャンケンして13連勝する確率は5/6の13乗で9.3%だ。去年、3人ジャンケンで9連勝したカッパ大王様は2/3の9乗で2.6%だから、それに比べれば、だいぶ起こりやすい。てことは、参加者が多ければ、結構、勝ち続けることが可能だ。
(カッパ)「最初っからジャンケン地獄をやって勝ち続けて、1回も走らなくても済む可能性も大いにあるってことやな」
(馬)「いったい何しに来るんですか」
結局、ピッグ、カッパ、トラ、馬が2回、ライオン、ゾウ、ペンギンが3回走り、唯一クマだけが4回走った。
ゾウ | クマ | ライオン | トラ | ピッグ | ペンギン | カッパ | 馬 | |
第1走者 | @ | |||||||
第2走者 | A | |||||||
第3走者 | B | |||||||
第4走者 | C | |||||||
第5走者 | D | |||||||
第6走者 | E | |||||||
第7走者 | F | |||||||
第8走者 | G | |||||||
第9走者 | ○ | ○ | × | ○ | ○ | ○ | ||
第10走者 | ○ | ○ | × | ○ | ○ | ○ | ||
第11走者 | ○ | ○ | ○ | × | ○ | ○ | ||
第12走者 | ○ | × | ○ | ○ | ○ | |||
第13走者 | ○ | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
第14走者 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ | ||
第15走者 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ | ||
第16走者 | ○ | × | ○ | ○ | ○ | |||
第17走者 | × | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
第18走者 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | |||
第19走者 | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
第20走者 | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
第21走者 | ○ | |||||||
勝敗 | 8勝2敗 | 4勝3敗 | 2勝2敗 | 9勝1敗 | 13勝 | 6勝2敗 | 8勝1敗 | 7勝1敗 |
出走回数 | 3回 | 4回 | 3回 | 2回 | 2回 | 3回 | 2回 | 2回 |
ジャンケンに最後まで勝ち続けた勝利の喜びで有頂天になって、気合が全く入ってない走りでピッグがアンカーを走り、最後はみんなで手をつないで一緒にビクトリーランを決める。
だが、我々がゴールした時は、なんとなく、走っているチームが激減している。総合順位を見ると382チーム中、294位だ。
(カッパ)「えっ?遅いやん。なんでこんなに遅いん?いつも半分くらいにはおったやろ?」
(トラ)「おかしいなあ。タイム的には例年に比べて、そんなに特に遅いとも思えないけど」
(馬)「大会がレベルアップしてるんじゃないですか」
昨今のマラソンブームで、普通の大会なら、遅い初心者の参加が増えて、相対的な順位は良くなったりもしているんだけど、このレースは、僕等は遊び半分で出ているけど、マジで出ているチームが大半だから、相対的に順位が悪くなっているのかなあ。ま、ええですけど。
(ピッグ)「それにしても、何年経っても他に動物チームって出てこないですねえ」
(カッパ)「明石海峡大橋開通記念駅伝大会のときは10チームに1チームくらいの割合で仮装チームがいたんだけどなあ」
(トラ)「みんな、この大会をはき違えてるなあ」
レースの後は、うどんを食べながらの反省会だ。例年のように長田うどんへ行く。
(幹事長)「次は丸亀マラソンなやあ。日本有数の高速コースやから、自己ベストを狙うのは当然として、
今年は3週間後の東京マラソンの練習の場でもあるからな」
(支部長)「私は、さらにその2週間後の京都マラソンを睨んでのレースになりますな」
(ピッグ)「睨むのはいいですけど、ちゃんと練習できてるんですか」
(幹事長)「こう寒いとなあ」
うどんを食べた後は、ライオンさんのリクエストで近くにある西内花月堂というケーキ屋さんへ行く。こういう世界については全く無知なんだけど、有名な店なんだそうだ。見た目で適当にドーナツとか選んで買って帰ったら、娘に好評だった。
(幹事長)「コタツ入ってドーナツなんか食べてたら、ほんと、何が嬉しくて寒い中、走るんや、っていう気持ちになるよなあ」
(ピッグ)「お願いですから、東京マラソンは完走してくださいね」
〜おしまい〜
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