第66回 丸亀マラソン大会
2012年2月5日(日)、第66回香川丸亀ハーフマラソン大会が開催された。
毎年、ペンギンズの初レースと言えば、1月の満濃公園リレーマラソンだけど、あれは動物チームで出る余興みたいなもので、マジなレースとしては、この丸亀ハーフマラソンが初レースとなる。しかも、このレースは、ほとんど坂が無い日本陸連公認コースを走るもので、高速コースとして名高い。女子のハーフマラソン日本人最高記録は、6年前のこのレースで福士加代子が出したものだし、男子のハーフマラソン日本国内最高記録も、モグスが5年前のこのレースで出したものだ。ただ、今年はロンドンオリンピックが開催されるため、有力選手はオリンピックの選考レースを優先して出場しているので、このレースに参加する選手は少なく、福士加世子も野口みずきも居ないのが、ちょっと寂しい。
僕等は、と言えば、一昨年まではペースランナーとしてお手伝いをさせてもらっていたため、一般の参加者としては去年、4年ぶりに走った。で、まずまず快調だったので、今年も楽しみなレースである。
レース当日の朝、今回も支部長が迎えに来てくれる。ここんとこ、ずっと支部長にお世話になりっぱなしだ。
支部長の車に乗り込んで、先日の満濃動物リレーマラソンでペンギンズデビューしたペンギン2号の國宗選手を迎えに行く。
(支部長)「せっかくペンギンズにデビューしたペンギン2号なのに、まだメンバー紹介に載ってないで」
(幹事長)「うわあ、完全に忘れてた。というか、そういう発想が無かった!」
(石材店)「女子部員なら、まだ走ってもいないうちから勝手に載せたりするくせに」
さっそく載せなければ。
國宗選手をピックアップしたあとは、今度はピッグ増田の家に。ところが、ピッグは家族が風邪でダウンしたため、急遽、不参加になってしまった。本人はピンピンしてるのだけど、家族の世話が大変らしい。ただ、せっかく参加料を払っているので、記念品のTシャツだけでも貰わないといけないので、参加証を預かっていく。
次は坂出へゾウ坂出を迎えに行く。待ち合わせ場所に立っているゾウさんは、なんだか雰囲気が違う。
(幹事長)「何かが違う。でも、何が違うか分からん」
(支部長)「いかんねえ。そういう所は、すぐに気が付かんと」
ゾウさん、実は髪を10年ぶりにバッサリと切り落としていたのだ。
(幹事長)「そうか。なんか雰囲気がすごく軽やかになったと思ったら」
(ゾウ)「実際に頭が軽くなったんですよ」
30cmも切ったらしい。
(幹事長)「えっ?10年間で30cmしか伸びんのか?僕なんか毎月2cmくらい伸びるから、10年も経てば2m以上伸びるぞ」
(ゾウ)「10年間、美容院へ行かなかったわけじゃないですから」
(支部長)「て言うか、髪の毛が2mもある人なんか見たことないで」
レース会場である丸亀競技場へ着いたのが8時頃。
(ゾウ)「今年は早いですね」
(幹事長)「僕の思想からすれば、受入れがたい早さじゃ」
僕は、だいたい受付時間終了間際に駆け込むことをモットーとする。
(支部長)「受付時間終了前なら、まだマシな方よね」
11月の徳島マラソンの時は受付時間を過ぎてから到着した。たいていのレースは、受付時間を多少過ぎても全然OKなのだ。早く行ってウォーミングアップなんかするような真面目な選手なら早く行く意味もあるかもしれないが、僕らのように、レース序盤をウォーミングアップと考えて、レース前はひたすらじっと縮こまって体力を温存する者としては、早く行っても退屈なだけだ。おまけに冬場のレースなら待っている間が寒いので、できるだけギリギリに行きたいところだ。
(幹事長)「なんで、こんなに早く行くん?」
(支部長)「石材店も常々指摘してるけど、幹事長って、ほんまに記憶力が無いなあ。去年、ギリギリに行って辛い目をみたやないの」
そう言われて去年の記事を見ると、確かに「5人を乗せた車が丸亀競技場に着くと、せっかく近場の駐車券を確保していたにもかかわらず、既に近場の駐車場は満杯で、かなり遠い不便な駐車場へ停めさせられた」って書いている。
(幹事長)「誰が書いたんや?」
(支部長)「あんた以外に誰がおるんな」
て事で、不本意ながら今年は僕の感覚からすれば2時間も早く到着した。駐車券は私がゲットしたものだ。支部長らは、申し込みが遅かったので、駐車券がもらえなかったのだ。
(幹事長)「すべて私のおかげじゃ!ありがたく思えよ!」
(支部長)「誰の車に乗ってると思ってんの?」
(ゾウ)「幹事長は申し込みだけは早いですよね」
アルツハイマーが深刻な私だが、申し込みだけは忘れない。庵治マラソンや丸亀マラソンは早めに申し込まないと近場の駐車場を確保できないので、即、申し込むようにしている。徳島マラソンに至っては参加すら危うくなるので、秒を争って申し込んでいる。他のメンバーにも、しつこいほど周知して、早めに申し込むように促している。
(幹事長)「あれだけ直前までしつこく注意喚起していたのに申し込めなかった支部長って、やる気あるの?」
(支部長)「取りあえず残りの抽選枠で申し込んでますぅ」
しかも支部長はゾウさんの分も一緒に申し込むことになっていたから、ゾウさんも運命共同体だ。
(幹事長)「ゾウさんが出られなかったら、どう責任とるんや!?」
(支部長)「抽選枠で当たりますからぁ」
もちろん、抽選枠で当たる根拠は皆無だ。抽選枠はインターネットが使えないお年寄りのために設定されているものであり、インターネットでの先着順の枠が9000人もあるのに対し、郵送での抽選枠はたった1000人だ。インターネットが使えないお年寄りが大勢いるうえ、先着順で漏れた人が殺到するから、ものすごい競争率になるのは目に見えている。
(支部長)「えっと、これは丸亀マラソンの記事であって、徳島マラソンの記事ではないのであって・・・」
この件については、次回の徳島マラソンの記事で詳しく書くぞ!
さて、8時頃に着いたから、かなり近い場所に駐車することができた。レース前なら、多少遠くても問題ないけど、レースが終わってから足を引きずって遠方まで行くのは辛いので、近場に停められたのは有難い。
受付を済ませて競技場の観客席の一画に場所取りする。今日は気温は低いけど、風が無いから、そんなに寒くはない。この時期は、寒い年は、時折雪が散らつき寒風が吹き付けてくる。そうなると寒さで体中がカチコチになって厳しいレースになる。今日は風が無いから、その心配は無用だろう。むしろ、風が無くて気温が低いから、絶好のコンディションと言えるかも。
しばらくすると、ジュニアを連れた石材店と合流する。なんと今年は石材店ジュニアも参加するのだ。
(幹事長)「えっ?もう参加資格の18歳になったんか?」
(石材店)「アホな。やっと小学校5・6年生対象の1kmの部に出られるようになったんですがな」
この大会は、ハーフマラソンだけではなく、小学生や中学生が出る部門もあるのだ。競技の順番は、
・9時 1kmの部(小学校5・6年生)
・10時35分 ハーフマラソン(登録A)
・10時40分 3km(一般、高校生、中学生)
・10時50分 ハーフマラソン(登録B、一般)
となっている。登録Aの部は、男子ならハーフマラソンで過去3年以内に1時間8分以内の実績が必要だ。
(幹事長)「もう、おっしゃってる意味が」
(石材店)「女子なら1時間35分以内だから、僕でも出られますよ」
(幹事長)「生物学的に無理やろ」
以前は、そういう偉い人たちも私ら下々の者どもも同じスタートだったんだけど、なぜか最近はスタートが分離されているのだ。
(幹事長)「なぜだろう、なぜかしら」
(石材店)「参加者が増えすぎて混雑がひどいからですかねえ」
確かに、異常なまでのマラソンブームのせいで、このレースも例に漏れず毎年、参加者が増えてきて、一応、定員は1万人ってことになってるけど、抽選とか先着順とかないから、実際の参加者は1万人を超えている。だから偉い人たちがスタートして落ち着いてから我々のスタートにするのだろう。
(幹事長)「でも、その間に3kmの部があるけど、これは何?」
(石材店)「よう分からんですねえ」
とにかく、我々はスタートが10時50分なので、まだ2時間半もある。
(幹事長)「めっちゃヒマやなあ」
(國宗)「ウォーミングアップとかせんのですか?」
(幹事長)「禁句やな」
(支部長)「禁句禁句。小出監督の本にも、素人はウォーミングアップに手を出したらあかん、て書いてある」
特に、今日みたいに寒い日は、ヘタにウォーミングアップして汗でもかいたら、汗が冷えて体が寒くなる。どうせやるんなら直前にやらないと意味ないけど、30分前には集合することになっているので、意味のあるウォーミングアップをする時間はないのだ。
(ゾウ)「30分も前に集合するんでしたっけ?」
(幹事長)「僕の主義に反するなあ」
30分前に集合するとしても、まだ2時間もある。風が無いから今日は寒くない、なんて感じてたのは、暖かい車から出た直後だったからであり、こうやって競技場の観客席にボウッと立っていると、だんだん体が冷えてきた。
(支部長)「今日は長袖にしようかなあ」
(幹事長)「悩むところやなあ」
冬場のレースの場合、いつも僕は長袖にするか半袖にするか悩んでしまう。去年は、今の職場で設立した陸上部でユニフォームを作ったので、嬉しくてそれを着たけど、ランニングシャツだけでは寒いから、半袖Tシャツの上にユニフォームのランニングシャツを着た。袖が短いのを重ね着でカバーしたような状況だ。今年は風が無いから、日が射している時は暖かさすら感じるから半袖で十分のような気がするけど、曇ると、とたんに冷えてきて長袖でも寒いような気がする。
(支部長)「よし、両方着よう!」
(幹事長)「え?」
なんと支部長は長袖に上に半袖を重ね着すると言う。支部長と言えば暑がりの汗っかきで、脱水症状になることも珍しくないというのに、重ね着とは大胆な。いくら寒いと言っても、それは着すぎではないか?ま、まだスタートまで時間あるから、決断は先送りしよう。ゾウさんは半袖シャツだけど、両腕にアームウォーマーを付けている。
(幹事長)「それって、結局、長袖と同じじゃん」
(ゾウ)「暑くなったら、いつでも取れるところがミソですね」
なーるほど。そうか。暑くなったら取ればいいのか。
ゾウさんは、さらに、ふくらはぎにワセリンっぽいものを塗っている。
(幹事長)「それって筋肉痛用?」
(ゾウ)「筋肉疲労しないように」
(幹事長)「痛くなってから塗るんじゃなくて、走る前に塗るの?」
(支部長)「常識ですがな」
支部長も借りて塗っている。
(支部長)「貸してあげよか?」
(幹事長)「ゾウさんのやろ?」
なんとなく冷たそうなので、寒さに弱い僕は遠慮しておいた。
受付で貰ったパンフレットなんかが入った袋を見ると、中にスニッカーズのチョコバーのミニサイズのが入っている。
(幹事長)「おっ、ラッキー。でも、スニッカーズって、こんな小さいのもあるんやなあ」
(ゾウ)「えっ?普通のサイズですよ」
なんと、ゾウ坂出の袋には、普通の大きいスニッカーズが入っている。
(幹事長)「女子だけ優遇!?」
(支部長)「ひどいっ!ひどすぎるっ!」
たまたま大きいのが紛れ込むなんてあり得ないから、やはり女子だけ優遇なんだろう。差別だっ!
なーんて、うだうだしてたら、ようやく小学生の1kmレースが始まった。石材店ジュニアも参加する。男女とも2組ずつレースが行われる。子ども達の、のどかなレースをのんびり観戦するのも悪くないだろう、と思って見ていたら、これが大違い。ものすごいハイレベルなレースをしている。どの組も、トップ争いをしている子ども達は、ちゃんとしたランニングシャツのユニフォームを着ている。小学生でもクラブとか、あるのかなあ。しかも、異常に速い。ありえないくらい速い。女子も含めて、どの組もトップは3分少々でゴールした。
(幹事長)「あいつら本当に小学生か!?50m10秒を切っとるぞ!」
(支部長)「あり得ん。あり得ん過ぎる!」
最初から最後まで全力疾走だ。いくら1kmとは言え、最後まで全力疾走するのは我々には不可能だ。石材店ジュニアも3分36秒の好記録で上位でゴールした。大したもんだ。
ただ、出場している小学生でも、かなりレベルの差がある。上位の子は、あり得ないようなスピードで最後まで駆け抜けていったが、最後の方の子は足を引きずるように走っている。かなり遅い。とっても遅い。たぶん、何かの団体で強制的に全員が参加させられているんだろう。八戸うみねこマラソンで上官の命令により強制的に参加させられて死にそうになっていた米軍の肥満体軍団を思い出す。
(ゾウ)「でも、タイム悪くないですよ」
(幹事長)「ん?5分ちょっと?なんとかーっ!」
1km5分なら、全然遅くない。もちろん、彼らも最初は全力で走って後半に力尽きてガクンとペースダウンしてるからゴール前では歩くようなスピードだけど、それでも1kmトータルで見れば、5分だから遅くない。僕らハーフを1km5分では完走できない。小学生を侮ってはいけないなあ。
予想外に面白かった小学生の1kmレースが終わっても、まだ1時間以上もある。ヒマだからってこともないけど、みんなTシャツにゼッケンを付け始める。支部長も國宗選手も半袖のTシャツにゼッケンを付けている。
(幹事長)「おっ、半袖にしたか。寒くないかなあ」
(支部長)「いや、やっぱり重ね着しようと思って」
結局、支部長も國宗選手も、長袖を着た上に半袖を重ね着するという。
(幹事長)「さすがに、それって、暑くない?」
(支部長)「いやあ、今日は結構、冷えるよ」
う〜ん。悩むところだ。今まで、どんな寒いレースでも、重ね着したのは去年の丸亀マラソンだけだ。しかも、それはユニフォームのランニングシャツではさすがに寒いから半袖の上に薄手のランニングシャツを着ただけだ。支部長が着ようとしている厚手の長袖プラス半袖は、どう考えても暑いような気がする。結局、僕は薄手の長袖1枚にする。
その後もひたすら体を小刻みに動かして待つが、体はどんどん冷えていく。このままだと、確かに長袖でも寒そう。でも、たまにお日様が顔を出すと寒くない。
(幹事長)「天気が良くなったら、重ね着は暑いぞ」
(支部長)「もう天気は良くならないって」
確かに、空を見ると、もう晴れることはないかも。ギリギリまで迷ったが、僕も重ね着することにした。ただ、長袖にゼッケンを付けててしまっているから、それを付け替えるのも面倒くさいので、半袖を下に着た上から長袖を着る。
(ゾウ)「そろそろ集合場所に行きましょうよ」
(幹事長)「まだ早いって。寒いよ」
と止めようとするのだけど、みんな腰を上げるので、仕方なく僕もグラウンドの中へ降りていく。
重ね着で好タイムを狙うペンギンズ精鋭軍団
(左から ゾウ坂出、支部長、國宗選手、石材店、幹事長)
ところが、寒いと思われたグラウンドの中は、すごい人混みのために意外に寒くない。
(幹事長)「こら寒くない。ラッキー」
(ゾウ)「来て良かったじゃないですか」
集合場所では予想タイムのプラカードが並んでいて、自分が予想するタイムのところに並ぶのだ。どうせタイムはICチップによりネット計測してくれるので、何も焦って前の方からスタートする必要はない。前の方からスタートすると、大混雑で思うように走れない。後ろの方からゆっくりスタートしたほうが空いていて走りやすい。
(幹事長)「なーんて思うのは、甘い!」
(國宗)「えっ、違うの?」
これが、参加者の少ないレースなら、それでよろしい。しかし1万人以上が参加するレースでは、多少、後ろの方からスタートしたからと言って、空いてるなんて事はあり得ない。最後尾から出たって、結構、混雑している。なぜなら、後ろの方の人は最初からゆっくり走るから、全然バラけないのだ。しかも、後ろの方には、最初から仲間同士でおしゃべりしながらゆっくり走ろうというおばちゃん軍団なんかがいて、こいつらは集団で固まって走って隙間が無いから、絶対に抜けないのだ。こんなんの後ろになると、もう悲惨だ。なので、自分ではかなり頑張らないと難しいくらいのタイムの所からスタートする方がよろしい。
(國宗)「そうなんですか。知らなかった」
(支部長)「去年、痛い目を見たもんねえ」
去年は、最初はウォーミングアップ代わりやからな、なんて支部長と話しながらゆっくり走ってたけど、友達同士で話ししながら固まって走るおばちゃん軍団のせいで、いつまで経っても混雑が解消されず、かなり焦ったのだ。混雑状態の時に、右へ左へと人混みを掻き分けて走っても、体力を消耗する割にはタイムは大して変わらないから、最初はスローペースでも我慢して焦らずに無理せず行った方が良い、というのが漆原選手から聞いた鉄則なんだけど、あまりに遅いのが続くから、無理して追い越していったのだ。なので、今年は遅いおばちゃん軍団が居なさそうなタイムのところに並ぶ。
しかし、それでも周囲を見ると、怪しげな連中がいる。まずは段ボール箱をリュックのようにかついだおっさん。中に何が入っているのか気になる。それから女子高生の制服のようなのを着ている女子がいる。ほんまものの女子高生なら嬉しいけど、ハーフマラソンの参加資格は18歳以上だから、まずあり得ないだろう。でも、気になる。顔を見てみたい。てことでわざわざ顔を見に行った。
(幹事長)「どひゃーっ!」
(支部長)「どうやった?」
(幹事長)「思てたんより年齢が4倍はある!」
(支部長)「15歳×4=60歳?え?どひゃーっ!」
とんでもないコスプレばあさんだった。
(ゾウ)「しかも制服がちぎれそうですよ」
よく見ると、体型より制服が小さくてボタンが合わず、安全ピンで留めている。力入れて走っていると、裂けそう。
他にも僕らが満濃リレーで着るような動物の着ぐるみをきた奴とか、色んなもんを頭に付けた連中とかがいる。
(幹事長)「こいつら、本当にそんなに早く走れるんか?」
(ゾウ)「でも、コスプレおばあさん、足にテーピングしてますよ」
ん?本当だ。かなりマジなランナーかも。
さて、ここで、今日のレースの目標を設定せねばならない。もちろん、どんな時でも、どんなレースでも、大会自己ベストを更新するのは当然の目標だ。ただ、それが可能性の低い単なる願望の場合もあれば、現実味のある目標の場合もある。今回は、去年の秋のフルマラソン2戦連続大惨敗の記憶が生々しいだけあって、あんまり野心的な目標は考えられない。去年最後のレースであった瀬戸内海タートルマラソンは、ハーフマラソンなので惨敗ではなかったけど、超平凡なタイムに終わった。
(幹事長)「その流れから言えば、まあ、そこそこのタイムでゴールできれば良し、とせねばな」
(ゾウ)「私は、今年こそは2時間を切りたいけど、これまでの実績から言えば、難しいかなあ」
支部長は特に目標は設定してないけど、最重要ライバルであることは変わりない。オリーブマラソンや庵治マラソンのように坂があるマラソンなら、どんなに前半でリードされても、支部長は坂で必ず力尽きるので逆転することはたやすい。しかし、最後まで坂が無い丸亀マラソンでは、そのまま逃げ切られるケースがあるのだ。どんなに前半を好タイムで飛ばしても、支部長は力尽きたら一気にペースダウンするから、こちらが力尽きない限り、終盤で捉えることが可能だが、たまにペースダウンせずにゴールするから要注意だ。
目標タイムをどう設定するかによらず、なんと言っても重要なのはレース展開だ。ここ2〜3年前に、私は遂に悟りを開いた。「最初に無理して飛ばすと、絶対に終盤に潰れてしまう」という宇宙の真理を体得したのだ。「そんなん、悟りを開かんでも、小学生でも分かりますよ」という批判はあったが、もちろん、私もそれくらい最初から分かっている。要は程度の問題だ。最初にどれくらい頑張るか、という程度の問題なのだ。最初から歩くようなペースで走れば、そりゃ、最後までペースは落ちないだろう。しかし、適度に頑張らないと良いタイムは出ない。これまでの経験からすれば、最初に過度に無理すれば終盤にガクンと落ち、最初にそこそこ頑張れば終盤には緩やかな落ち込みで済む。なので、終盤にガクンと落ちずにギリギリで緩やかなペースダウンで済む程度に前半を頑張る、というレース展開の作戦をとっていた。目標タイムをクリアするには、終盤に緩やかなペースダウンで済むギリギリで、前半にどれだけ貯金できるかが勝負の分かれ目と考えていたのだ。しかし、当然ながら、そんなにうまくはいかない。前半に計画通りの貯金をするのは難しくはなく、ちょっと頑張れば、なんぼでも貯金は出来るが、終盤のペースの落ち方は、たいていの場合、想定した以上に大幅にガクンと落ち込んでしまい、前半の貯金など、一気に無くなってしまうのだ。前半に貯金すればするほど終盤はその何倍も借金を返すような羽目になる。その結果は、惨敗だ。そこで、ある時、ハタと気が付いた。そもそも前半で貯金しようとするから、終盤にペースダウンするのだ。前半で1kmあたり10秒や20秒の貯金をコツコツとしていったって、終盤で足が止まって歩いたりすると、何の意味も無い。前半の、ほんの少しの無理が、終盤には大きな負担になって返ってくる。逆に言えば、前半に適度に頑張るのを止めて、かなり抑えたペースで走っていれば、終盤もペースダウンしないはずだ。そうすれば前半で貯金する必要も無いって訳だ。「あまりに当り前すぎる結論で、呆然としますけど」という批判はあったが、その当り前の事をできるかどうかが問題なのだ。前半をかなり抑えたペースで走れば、終盤でも全くペースダウンしないかも知れないので、結果的にその方がタイムが良くなるかもしれないってことは、頭では分かっているつもりでも、いざレースに臨むとついつい色気が出て、好タイムを狙ってしまって、前半に過度に無理をしてしまうのだ。普通に走っているつもりなのに、前半のタイムが良いと、何となく調子が良いような気がするのだ。実は単に、周囲のランナーのハイペースにつられてオーバーペースになっているだけなんだけど、レース本番で興奮状態にあるため無理している自覚が無いから、勘違いしてしまうのだ。そして、終盤に一気に力尽きてしまうのだ。それが、たまたま前半が強烈な向かい風のため超スローペースになったレースのとき、終盤でもそれほどペースダウンしなかった経験をしてから、開眼したというか、一種の悟りを開いたのだ。それ以来、前半をできるだけ抑えて走っているため、むしろ後半の方が速いという展開が多くなってきた。5月のオリーブマラソンなんか、前半は坂が無くて後半は坂また坂という厳しいコースなのに、2年連続して後半の方がタイムが良かった。
(幹事長)「しかし、ここでまた、考えたわけよ」
(支部長)「もう、何も考えずに、素直に走ったらどうよ」
前半を抑制すると結果的には良いタイムが出やすいが、一皮向けたような大きく飛躍するようなタイムは出ない。後半の方がタイムが良いと言ったって、前半に比べれば多少は速かった、という程度であり、大したことはない。て事は、驚異的なタイムは出るはずがないってことだ。
(支部長)「どんな作戦考えても、驚異的なタイムは出ないって」
驚異的なタイムまでは出ないとしても、作戦が功を奏して最後まで快調に走れた場合は、なんとなく不完全燃焼感というか、余力が残って、ちょっと後悔したりするのだ。もうちょっとだけ最初から頑張れば良かったかな、なんて思うのだ。ゴールと同時に全力を使い切るというのが理想なんだけど、なかなかうまくいかないのだ。そもそも、最初、抑えたペースで走っておきながら、途中からペースを上げるなんて、なかなかできるものではない。どうしても最初のペースを引きずるし、疲れ始めてからペースを上げるなんて、実際には不可能に近い。
おまけに、今は多少、スランプの時期にある。このスランプの状態の中での抑制したペースって、かなり遅いペースだ。そんなんで走ったところで、うまくいっても、そこそこのタイムしか出ない。
(幹事長)「そんなんじゃつまらんだろ?」
(支部長)「で、どうするの?」
(幹事長)「最初から突っ込む!」
かつての「前半を適度に頑張って、後半は緩やかなペースダウンで踏みとどまる」という作戦から「前半は意識的に抑えて、終盤までペースを維持する」という作戦に変えていたのを、逆に「後半のペースダウンを恐れずに前半から飛ばしまくる」という画期的な作戦に変えて、久しぶりに前半から飛ばすのだ。そして、一気にスランプから脱出だ!だからこそ、多少、無理して前の方からスタートするのだ!
(幹事長)「今日は最初からガンガン飛ばすぞ!着いて来れるもんなら着いて来い!」
(支部長)「気持ちは分かったけど、練習はしてるん?」
それを言われると、辛い。去年の秋ごろからの大スランプの中で、練習がイマイチできてないのだ。単にサボってるんじゃなくて、なかなか長距離が走れないのだ。以前は週末だと20kmくらい走っていたのに、最近は10kmが限界で足が動かなくなってしまうのだ。さすがにレース本番になると気合も入るのでハーフマラソンくらいは完走できるが、練習で十分に走れてないと、終盤に失速するのは当然だ。11月の瀬戸内海タートルマラソンは終盤まで大きなペースダウンは無かったが、それは最初からスローペースだったからだ。大スランプの中、最後までなんとか持ちこたえたのは嬉しいが、超平凡なタイムに終わったことは大いに不満が残った。なので、今回も練習不足は同じだけど、最初から飛ばそうと考えるのだ。
ただ、今回は秘密兵器がある。ランニング用のゼリーだ。
(支部長)「そんなん秘密でもなんでもない。私は2つ持ってきたで」
(幹事長)「えっ?2つも?」
僕は全然知らなかったんだけど、マラソンでゼリーを食べるのは常識らしい。特にフルマラソンの場合は、いくら事前に十分な食事を摂っていても、42kmも走るうちにエネルギーが枯渇してしまうから、絶対にエネルギー補給が必要だ。だから僕は給水所なんかにある食べ物は片っ端から食べていたんだけど、実はタイミング的には、それでは遅いようだ。どんなマラソン大会でも、食べ物が置いてあるのは20kmを過ぎてからの後半だ。その辺りになるとお腹が空いてくるから、ガツガツ食べて満足はするんだけど、消化と栄養吸収の観点からは、時すでに遅いらしい。10km〜20km辺りで吸収性の良いゼリーなんかを食べるのがよろしい、て言うか、常識らしい。
(幹事長)「そうか。そうだったのか。それで終盤、足が止まっていたのか」
(石材店)「それだけじゃないですけどね。て言うか、僕は何も食べないけど、最後までペースダウンしませんけど」
練習が十分な人は、それでいいのかもしれない。でも、練習不足の僕らは、ゼリーに頼れば最後までペースダウンせずにゴールできるかも。苦労しなくても良いタイムが出るのなら本末転倒・・・、もとい濡れ手に粟じゃ。
(幹事長)「今回はハーフマラソンだけど、試しにゼリーを持ってきたのだ」
ハーフマラソンなので、スタート直前に食べることにする。こんなん持って走るのも鬱陶しいし。支部長が持ってきた2つを見ると、1つは僕のと同じだ。それを一緒に食べてみる。
(幹事長)「う、うまい!」
(支部長)「なかなか、いける!」
予想外の美味しさに、元気も沸いてくる。支部長はもう1つも持って走る。そんなん持って走るのは鬱陶しいようだけど、支部長はいつもウエストポーチを付けて走ってて、その中には携帯電話なんかも入っているから、気にならないらしい。
(幹事長)「石材店は体調はどんなん?」
(石材店)「とにかく練習できてないんで不安ですね。完走できれば良し、ってとこですね」
石材店の場合、練習できていないってのは、僕らのようにサボっているという訳ではなく、故障のため走れてないってことだ。まだまだ万全ではないようだ。ま、そうは言っても僕らよりは圧倒的に速いだろう。
それにしても、すごい混雑振りだ。1万人もいるんだから混雑して当たり前だけど、人混みのせいで暖かい。て言うより、むしろ暑いくらい。
(幹事長)「これ、暑くなるんと違う?支部長なんて暑がりなんやから、大丈夫?」
(支部長)「スタートしたらバラけてきて暑くなくなるって」
(幹事長)「そうかなあ。どう考えても暑いよ。こら、まずいんと違うか?」
(ゾウ)「もう時間ないですよ」
(幹事長)「よし、決断だ。1枚脱ごう!」
(支部長)「え!?ここで?」
背に腹はかえられない。こんな所ではあるが1枚脱ぐことにする。ただし、上に着ている長袖にゼッケンを付けているから、下に着ている半袖を脱がなくてはならない。なので、一度、全部脱ぐ。上半身裸になると、さすがに寒い。大急ぎで長袖を着て、脱いだ半袖は付近の木の枝にくくり付けた。
(幹事長)「これで思い残すことは無い」
(ゾウ)「もう後戻りはできませんね」
しばらくすると、偉い人たちのスタートが終わったようで、我々の大群衆もスタート地点方面へダラダラと動き始める。そうなると、人混みが少しはバラけたりして、暑くなくなる。て言うか、ちょっと涼しくなる。て言うか、はっきり言って、少し寒くなる。
(幹事長)「いかん、ちょっと寒いわ。1枚脱いだのは失敗だったかも」
(ゾウ)「もう遅いーっ!」
今年は割りと前方の方にポジションを取ったため、はるかかなたではあるけど、前方にスタートの場所が小さく見える。
いよいよスタートの時間が来た。あまりにも遠いため、スタートの合図は聞こえないけど、しばらくしたら放送で「ただいまスタートしました」なんて言ってるのが聞こえた。スタート直後に小さい上り坂があるから、ようく見ていると、先頭集団が上り始めたのが微かに分かる。
しばらくすると、ようやく我々も動き出す。もちろん、ゆっくり歩くだけだ。だんだんスタート地点が近づいてくるが、相変わらずゆっくり歩いていく。しかし、スタートラインを越えた瞬間に、走れるようになった。去年なんか、スタートラインを越えてからも、しばらくはゆっくり小走り的だったが、今年はまあまあのペースだ。ウォーミングアップと考えればちょうどいいペースだ。周囲の迷惑を顧みないおばさん軍団もいないし。
(幹事長)「やっぱり、この辺りからのスタートがちょうどいいなあ。来年のために覚えておこうな」
(支部長)「すぐ忘れるのは幹事長だけやって」
そうは言っても、さすがに最初の1kmは多少は混雑があるから、少しは遅い。でも、ほとんどロスは無いくらいだ。なかなか良い感じ。ふと横を見ると、例の段ボール箱をリュックのようにかついだおっさんがいる。箱の中に何か入っているらしく、走るたびにガサガサ音がする。気になったので「それ、何が入ってるんですか?」って聞いてみたんだけど、えらく無愛想なおっさんで、「何も入ってない」ってぶっきらぼうに言う。絶対に何か入っている音なんだけど、それ以上、聞ける雰囲気でもないので、仕方なく引き下がる。そんな目立つ格好しておきながら、無愛想って、一体なに?
次の1kmも、同じくらいの混雑ぶりで、タイムも同じくらいだったけど、それを過ぎた辺りになると、だいぶ走りやすくなってきた。他のランナーを抜こうと思えば抜ける人口密度だ。ここらで、ちょっとペースを上げることにした。なんちゅうても、今日は最初からガンガン飛ばす作戦だし。適当なペースランナーはいないかな、と思って探してみると、なかなか締まった良い体型の女性ランナーが快調に走っている。ほんのちょっとだけ僕よりペースが速いって感じで、着いていくにはちょうど良い感じだ。多少、速いとは言え、そんなに無理しているペースでもないから、しばらくは行けそうだ。このペースなら支部長は着いてこられないだろう。今日は序盤から一気に差を広げよう。
3km地点で時計を見ると、思った以上にハイペースだ。こんなに飛ばして大丈夫かいな、っていう不安が頭をよぎる。しかし、そんなにきつくはない。まだまだ混雑はしているけど、なんとかペースランナーを見失わないように着いていく。もし仮に、このペースで最後まで行ければ、かなり良いタイムになる。
5km地点の直前に橋があり、少しだけ上り坂になる。ここをなんとか越えて5km地点で確認するが、まだタイムは良いペース。全然落ちていない。ペースランナーは正確にペースを刻んで行っている。ただし、ペースランナーに着いていくのが、だんだんきつくなってきた。やはり、ちょっとペースが速すぎるのかも。
空は曇ったままなので、気温は低いままだけど、相変わらず風が無く、予想した通り少しだけ暑くなってきた。やはり1枚脱いで良かった。て言うか、半袖1枚でも良かったくらいだ。
5km地点には給水所がある。汗をかいて少し喉も渇いてきたけど、まだまだこんな所で水を飲んでいるヒマはないのでパスして走った。でも、給水所前の混雑の中でペースランナーを見失ってしまった。ここから自分でペースを維持するのは難しい。でも、ここで気を緩めたら、一気にペースダウンしそうなので、頑張ってガンガン走っていく。
この辺りで早くも折り返してきたトップランナーとすれ違う。以前は、中間の折返し点の3kmほど手前ですれ違っていたんだけど、最近はスタート時間が僕らより15分早いから、だいぶ早く帰ってくるのだ。先頭はキソリオだ。去年、ハーフマラソン世界歴代3位の58分46秒を記録したケニアの若手有望株だ。2位以下に圧倒的な差を付けたダントツの1位だ。5年前に59分48秒の大会記録で優勝したモグスは不調なのか、だいぶ遅れている。
それから、今回は人気絶頂の公務員ランナー川内選手が出ている。彼はロンドンオリンピックを目指して2月末の東京マラソンに出るんだけど、その練習の一環で出場している。なんちゅうても、去年12月の福岡国際マラソンにも練習がてらに出場したものの、ついつい本気になってしまって日本人トップになり、それだけでもロンドンオリンピックの候補になったんだけど、あくまでも東京マラソンで好タイムを出してオリンピック出場を確実にするつもりのようだ。それが吉と出るか凶と出るか分からないけど、へんな小細工というか駆け引きというか、そういうことをせずに正々堂々と戦う姿勢が素晴らしい。実業団の選手と違って平日はなかなか練習ができないから、こういうレースに出て実戦で練習を積んでおり、今日のレースも目的は優勝とかではないから、トップ集団ではないけど、沿道の声援はダントツだった。
ペースランナーを見失ってから自分だけで戦うのが厳しくなってきて、つい油断したらペースが落ちそうになってきた時、本当のペースランナーを見つけた。2年前まで僕らがやっていたような役割の人だ。僕はペースランナーと言っても、最後尾の2時間半ペースだったから、一定のペースで走ることだけを考えて最初からチンタラ走っていたけど、今、見つけたのは1時間45分のペースランナーだ。これに着いて行くのが、ちょうど良い感じだ。ちょっと嬉しくなって声を掛けてみる。
(幹事長)「陸上部の人ですか?」
(ペース)「え?ああ、そうです」
(幹事長)「僕は四電ペンギンズっていうサークルやってるんですよ」
(ペース)「ああ、あのホームページ書いている?」
ちゃんと知っててくれた。嬉しいことです。
そのまま着いて行ってたら、9km地点の手前に2つ目の給水所が見えてきた。さすがに喉も渇いてきたので、今度は水を飲む。水を飲んでいたら、せっかくめぐり合ったペースランナーを見失ってしまった。僕がペースランナーやってたときは、2時間半ていう超スローペースだったから、目印に風船を付けて走っていたんだけど、1時間45分のペースランナーで風船付けてたら走りにくいだろうし、風船が後ろにたなびいてランナーの邪魔にもなるだろうなあ。
ペースランナーを見失った動揺に加え、混雑した給水所で水を飲んだりしたせいで、この区間のタイムは少しだけ落ちたけど、まだまだそんなに遅くはなっていない。
と思った頃に、なんと、驚いた事に、支部長が横に並ぶ。
(幹事長)「うわあ、どしたん、快調やんか!」
(支部長)「ふっふっふ」
支部長は汗まみれだ。
(幹事長)「暑いん違うか?」
(支部長)「暑いねえ」
なーんて言いながら、涼しい表情で走っている。一体、どしたんやろ。かなり速いペースで走っているはずなのに、一緒に着いてきてたなんて。しかも、ペースが落ち始めた僕を抜いていこうとする。このまま支部長に着いて行こうかとも思ったけど、無理して着いていかなくても、そのうち絶対に自滅するやろとタカをくくってやり過ごす。それにしても、もう半分近く来たというのに、こんなハイペースで大丈夫なのか、支部長?去年の徳島マラソンでは、前半の20kmで2kmも差を着けられて呆然としたけど、当然のようにすぐに追いついた。ただ、今日はハーフマラソンなので、絶対に追いつけるかどうかは分からない。
ちょっと動揺したところで、折り返してきた石材店が声をかけてくれる。思ったより快調に走っているみたいだ。
折り返し点を過ぎて、少しずつだけど着実にタイムは落ちていく。しかし、落ち方はゆるやかなので、終盤にひと踏ん張りできれば、まずまずのタイムにはなりそうだ。このまま頑張って支部長を捉えなければならない。
それにしても、折り返してからすれ違うランナーの数の多さに驚愕する。かつて、制限時間が2時間だった頃は、僕等のレベルのランナーにとっては、途中の関門で制限時間に引っかかって回収される恐怖と戦いながらのレースであり、プレッシャーがあるから出ないというランナーも多かったので、僕等より後にはランナーはあんまりいなかった。それが最近は制限時間が3時間になったため、ほとんど走った事が無いような人もどんどん参加するようになり、僕等レベルのランナーが上位になってしまい、後から後から、なんぼでもランナーが続くのだ。折返し点に行くまでも、数多くの先行ランナー達とすれ違うが、折り返してからの方が圧倒的に多い。もう、うじゃうじゃ沸いてくるって感じで、有り得ないというか怖くなるというか、収拾がつかなくなるんじゃないかって思うくらいの数だ。
なーんて思っていたら、なんとなく追い抜いて行くランナーが増えてきた。回りのランナーが一斉にペースアップしたのかと思いたいところだけど、そんな不思議な現象が起きるはずがないので、どう考えても自分がペースダウンしているはずだ。1kmごとのタイムを見ると、ペースの落ち方が激しくなってきた。少しでもタイムを維持するために、給水所はことごとくパスしているのだけど、ペースはどんどん落ちていく。
15km地点に来たけど、かなり遅くなっている。これではいかん。ズルズルと一気に脱落してしまいそう。あと6kmなんだから、力を振り絞ってラストスパートじゃ、と思って頑張る。すると、次の2kmはほんのちょっとだけ挽回できた。
残り4km。最後の直線部分だ。この区間は、ほーんの少しだけ上り坂になっている。もちろん、元気な時には全く分からないくらいの微かな傾斜だ。ところが、疲れた足には、このミクロンオーダーの微妙な坂が感じ取れるのだ。ペースアップしているつもりなのに、ますますタイムは落ちていく。その前の2kmを無理したせいか、それとも、そもそも前半に飛ばしすぎたせいか、タイムはガンガン落ちていく。指数関数的にタイムが悪化していく。
奇跡が起きて一気に前半のようなスピードに復帰できればいいけど、この情勢からして有り得ないので、このままじゃ結局、平凡なタイムに終わるのが確実になってきたため、目標も失い、モチベーションも下がってしまう。支部長さえ見つければ、なんとかやる気も出てくるんだけど、いくら支部長の姿を探しても見あたらない。まさか、今日は失速しないで最後まで飛ばしていったのだろうか。こうなると、惰性で走り続けるだけだ。だらだら走っていると、頭におむすびを被ったようなランナーに抜かれる。おむすびマンに抜かれたら、さすがに一気に力が抜ける。
競技場に入ってからも、これ以上、頑張る理由も見あたらないので、ダラダラ一周して、いよいよゴール。ゴールの所で支部長が待ってくれている。だいぶ前にゴールしたようだ。支部長がゴールの瞬間の写真を撮ってくれる。
(幹事長)「どうやったん?」
(支部長)「あのまま全然ペースダウンせずにゴールしたよ」
(幹事長)「えっ?有り得ない。有り得なさ過ぎるっ!」
なんと、支部長は前半の速いペースを最後まで維持したのだ。なんと、ハーフマラソン自己ベストを5分以上更新しそうだ。そら、そうだろう。あのハイペースで最後まで駆け抜けたんなら、僕だって自己ベストを更新できるぞ。
(幹事長)「すごいなあ。何があったん?」
(支部長)「自分でも、よう分からんなあ」
いくら坂が無いコースとは言え、驚くべき快挙だ。ますます自分が嫌になる。
しばらく待っていると、次は國宗選手がゴールだ。疲れ切って、倒れ込むようなゴールだった。
最後は、ゾウ坂出を待つ。彼女も、もし調子が良ければ、すぐにゴールするだろう。ところが、なかなか来ない。今回も2時間を切ることはできなかったのか。残念。ところが、その後も、なかなか現れない。普段ならとっくにゴールしないとおかしいタイムを過ぎても、全然、姿が見えない。
(幹事長)「なんか遅くない?」
(支部長)「遅いなあ。調子悪いんかなあ」
その後も、ずっと待ってたんだけど、全然来ない。見逃したんだろうか。僕等がゴールした後も、ゴールするランナーはますます増えていき、ものすごい数のランナーが後から後から競技場に入ってくる。でも、二人でゴール付近を凝視しているんだから、見逃すはずはないと思う。もしかして、足の故障が悪化してリタイアしたのかもしれない。事情が分からないので、取りあえず引き上げることにした。
記録証をもらいに行くと、ものすごい混雑振りだ。まるでディズニーランドの入場口みたい。汗が冷えて体が震えてくる。なんとか記録証をもらって、スタート時に木にくくりつけたTシャツを回収して、震えながら観客席に戻ると、石材店が待っていてくれた。
(幹事長)「ゾウ坂出がゴールしなくてなあ」
(石材店)「えっ?とっくにゴールしてますよ」
(幹事長)「えっ?どゆこと?」
なんと、ゾウ坂出は自己ベストを出して、とっくにゴールしていたのだ。
しばらくすると、ゾウ坂出が着替えを終えて戻ってきた。
(ゾウ)「やった!2時間を切りましたよ!」
なんと、自己ベストを7分も更新して、2時間も軽々とクリアしていたのだ。ゴールしたのは國宗選手より早かったということになる。だから、僕がゴールして支部長と二人でウダウダ話していた間にゴールしていたのだ。だから気づかなかったのだ。さあ、これから、と思って待ちかまえた時には既にゴールしていたのだ。
それにしても7分も自己ベストを更新したって事は、1km当たり20秒ずつの短縮だ。これって驚異的な記録更新だ。
(幹事長)「支部長といい、ゾウさんといい、一体なにがあったんだ!?」
(支部長)「だからワセリン塗ったらよかったのに」
(幹事長)「えっ、そのせい?」
僕は、と言えば、かつての「前半を適度に頑張って、後半は緩やかなペースダウンで踏みとどまる」という作戦から「前半は意識的に抑えて、終盤までペースを維持する」という作戦に変えていたのを、逆に「後半のペースダウンを恐れずに前半から飛ばしまくる」という画期的な作戦に変えたんだけど、結局は、最初に過度に無理すれば終盤にガクンと落ちるという過去、何百回も経験した失敗を再現しただけだった。
前半に計画通りの貯金をするのは難しくはなく、ちょっと頑張れば、なんぼでも貯金は出来るが、終盤のペースの落ち方は、たいていの場合、想定した以上に大幅にガクンと落ち込んでしまい、前半の貯金など、一気に無くなってしまう、という教訓を絵に描いたような展開だった。前半の少しの無理が、終盤には大きな負担になって返ってくるのだ。
なので、今回の作戦は、結果的には大失敗と言えよう。しかし、支部長はどうだ?支部長も失敗を恐れず、前半から調子に乗ってハイペースで飛ばして、そのままペースダウンせずに自己ベスト大幅に更新してゴールした。最初から抑えたペースで走っていては、こういう快挙は有り得ない。前半を抑制すると結果的には良いタイムが出やすいが、一皮向けたような大きく飛躍するようなタイムは出ないのだ。支部長の快挙を考えると、今回の作戦は、あながち間違っていたとは思えない。
(石材店)「練習できてない人には、間違った作戦だったんでしょうね」
(幹事長)「やっぱり?」
トップ選手の結果は、男子は独走していたケニアのキソリオが、そのまま1時間0分2秒の好記録で優勝。女子はエチオピアのゲラナが優勝した。男女とも、やっぱりアフリカ勢の優勝か。フルマラソンなら日本人も、まだまだ戦えるが、ハーフマラソンになるとアフリカ勢のスピードにはかなわないのかなあ。
競技場を出ようとしたら、招待選手達を乗せて空港へ向かう送迎バスが停まっていて、群衆が騒いで写真を撮ろうとしている。誰かと思ったら、川内選手だ。川内選手は、最初から東京マラソンへ向けた調整用に参加していて、結果も27位に終わっていたのだけど、今回の参加選手の中では一番の人気だ。で、外でカメラを構えた人達に気づいた川内選手は、ニコッと笑って手を振ったあと、外に向かってポーズを取ってくれる。しかも普通なら適当にポーズを取ったら、またおしゃべりしたりするところだが、彼はカメラを構えた人がいる限り、かなり長い時間いつまでもじーっとポーズを取ってくれていた。こういうところにも誠実な人柄が見えて、非常に好感が持てる。こりゃ、人気が出るわけだ。こういう選手に頑張ってオリンピックに出て欲しいよなあ。
その後は、例によって、うどん屋に繰り出す。このレースにも県外から多数のランナーが参加しに来ていて、せっかく香川県に来たのだから、みんなうどん屋で昼食と取る。て事で、付近のうどん屋は、どこも壮絶な混雑振りだ。いつもなら観光客なんか来ないようなセルフのチェーン店のうどん屋でも、ものすごい混雑振りで、ひどく時間がかかった。
(幹事長)「ゾウさんは、来週は坂出天狗マラソンに出るんだよね」
(ゾウ)「今日の調子で頑張りたいですね」
2週間連続のレースってのは、一見、大変そうだけど、反省点をすぐに実行できるっていう意味では、なかなか良いのかも。来年は考えてみよう。
て事で、今年は次は4月末の徳島マラソンだ。去年は東北大震災の影響で11月になったけど、今年はまた4月末の開催に戻る。去年の惨敗の記憶が生々しいだけに、なんとしてもリベンジしなくては。もちろん、そのためには真面目に練習しなければならないのだが。
〜おしまい〜
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