第65回 丸亀マラソン大会
2011年2月6日(日)、第65回香川丸亀ハーフマラソン大会が開催された。
この大会のコースは、ほとんど坂が無い陸連公認コースで、高速コースと言われている。事実、女子のハーフマラソン日本人最高記録は、5年前のこのレースで福士加代子が出したものだし、男子のハーフマラソン日本国内最高記録も、モグスが4年前のこのレースで出したものだ。もちろん、福士加代子やモグスは今年も好タイムを狙って出場するが、我々素人ランナーでも好タイムを狙えるレースなのだ。また、僕は実家が丸亀にあり、馴染みのある土地なので、このレースが今のような市民マラソン大会になった14年前の第51回から、基本的に毎年出場してきた。
なのだけど、このレースに一般ランナーとして参加するのは実に4年ぶりだ。3年前の大会は、申し込んでたんだけど、インフルエンザでダウンして走れなかった。そして、一昨年と去年はペースランナーとしてお手伝いをさせてもらったため、参加者として走るのは4年ぶりなのだ。
(ピッグ)「今年のペースランナーは誰なんですかね?」
(幹事長)「今年は女子ランナーを増やしたみたいだよ」
(支部長)「参加者としては私らなんかより女子ランナーの方が精神的に安心するわな」
(幹事長)「自分が参加者の立場に立てば、女子ランナーの方が、着いて行こうっていう気になるわな」
で、この高速コースに久しぶりに挑戦するということで、今年は実に気合が入っている。
(石材店)「また自己ベスト更新狙いですか?」
(幹事長)「もっちろん!」
知ってる人は知ってると思うけど、青森に転勤してから、四国のレースでの成績が向上しているのだ。
(支部長)「誰も知らないというか、興味ないでしょ」
(ピッグ)「青森のレースの成績はパッとしないんですよね」
ここ2年の成績を振り返ってみると、一昨年6月の走れメロスマラソン(青森県)、10月の弘前アップルマラソン(青森県)、10月の庵治クォーターマラソン、11月の瀬戸内海タートルマラソン、去年4月の徳島マラソン、5月の八戸うみねこマラソン(青森県)、5月の小豆島オリーブマラソンと、なんと、実に7レース連続で大会自己ベストを更新したのだ!この中には、四国のレースだけでなく、青森県でのレースも3つ含まれている。
(ピッグ)「ちょっとちょっと、青森県内の3レースは、全部、初出場だったんだから、大会自己ベストもクソも無いですよ!」
(幹事長)「バレた?」
(ピッグ)「それから去年の徳島マラソンは一緒に走りましたけど、終盤はベタ歩きのボロボロ状態だったじゃないですか。
あれで自己ベストやったんですか?単に、それまでの記録が、よっぽどひどかっただけじゃないですか」
(幹事長)「しかし庵治クォーターマラソン、瀬戸内海タートルマラソン、小豆島オリーブマラソンは、過去、何回も出ているレースだが、
それを全部、大会自己ベストを更新し続けたなんて、この歳になってすごいことだと思わない?」
(支部長)「去年の小豆島オリーブマラソンは、私も大幅に大会自己ベストを更新したけど、あれは単に気象条件のおかげでしょう?」
誰からも評価してくれない私の快挙だったのだが、その後、突如として、好調が崩れ去り、去年7月のわかさぎマラソン(青森県)では、なんと過去全てのハーフマラソンの記録の中で自己ワースト記録を成し遂げてしまったのだ。猛暑の中のレースで、しかも坂があるコースではあったけど、鬼のような坂が続く塩江山岳マラソンや、灼熱地獄の登山マラソンである四国カルストマラソンに比べれば全然大したことはない。そんなコースでの過去ワースト記録ってのは、かなり体調が悪かったのか。それに続いて、10月の弘前アップルマラソン(青森県)では、途中で足が痛くなって走れなくなり、情けないことに途中棄権してしまった。てな事で、空前の絶好調の後、今度は突然、空前の絶不調が襲ってきたのだ。
だがしかし、その後、10月の庵治マラソンでは、距離が短いレースだったこともあり、なんとか立ち直る事ができて、一昨年の記録に次ぐ大会自己ベスト2のタイムだった。続く11月の瀬戸内海タートルマラソンも一昨年の記録に次ぐ大会自己ベスト2のタイムだったから、絶好調とまでは言えなくても、絶不調からは完全に脱したと言えよう。そして、満を持して高速コースの丸亀マラソンに復帰するのだ。大会自己ベストを連発したこの2年間は丸亀マラソンを走ってないので、絶好調のピークを過ぎた今でも、まだ大会自己ベストは十分に狙えると思うのだ。
(石材店)「満を持しての参加は分かりましたけど、練習量的にも満を持しているんですか?」
(幹事長)「満を持しているのは精神的なものであって、そのような即物的な事は考慮しておらん」
練習不足はいつものことだけど、今回はちょっと深刻な事態だ。青森の冬は雪に閉ざされているため、屋外でのトレーニングは死を意味するので、練習はもっぱら寮のトレーニングルームのランニングマシーンに頼らざるを得ない。
(ピッグ)「うつ病製造マシーンですね」
ランニングマシーンのつまらなさについては、これまでも、しつこく書いているけど、本当につまらなくて発狂しそうになる。慣れてくると、なんとか3kmくらいは走れるようになるが、よっぽど気合を入れるか、レース直前の焦りでもないと5kmは難しい。体を鍛えるというより、精神を鍛えるマシーンだ。だが、しかし、青森の冬では、この発狂マシーンに頼るしか練習方法が無いのだ。
ところが、うちの寮のランニングマシーンはしょっちゅう故障するのだ。うちの寮には100人くらい住んでいるんだけど、もちろん、みんながみんなランニングマシーンを使う訳ではないが、それでも10人くらいは使っている。なので、かなり使用頻度が高い。しかし、寮のランニングマシーンはスポーツジムにあるようなしっかりした製品ではないらしく、酷使に耐えられないのだそうだ。以前からしょっちゅう故障はしていたものの、割りにすぐ直っていたんだけど、最近、根本的な部分が壊れ始めているらしく、なかなか直らず、全く練習ができないのだ。
(石材店)「ほとんど毎週、高松に帰ってるんだから、週末に走ればいいじゃないですか」
(幹事長)「今年は寒くてのう」
今年は高松でさえ寒くて走る気力が沸いてこないので、週末にも、あんまり走れていない。それに、青森に転勤になるまでは、平日は全く走らず週末に走っていただけなので、高松に帰った時に走れば同じなんだけど、ここ2年間の好調は、短い距離でも平日にちょこちょこと走っているおかげではないかと思うので、平日に走れてないっていう方が不安が大きい。
(ピッグ)「その通りですね。週末だけだと、いくら長距離をまとめて走っても、1週間もすれば効果は失せてしまいますけど、
短い距離でもいいから2〜3日おきに走ってれば、だいぶ効果が残りますね」
(幹事長)「て事で、4年ぶりの高速コースに満を持して挑戦するのだけど、それはあくまでも精神的なものであって、
練習に裏付けられたものではない!」
(石材店)「ぶっつけ本番の受験生みたいですね」
レースの朝は支部長が迎えに来てくれる。
(幹事長)「今日はいい天気やねえ。好タイムが狙えるぞ」
(支部長)「風が無いのがいいね」
今年の冬は全国的に極端な寒波に襲われて、1週間前は高松も異常に寒かった。雪が散らついたりしていた。青森の寒さに慣れてきた僕でも、寒かった。もちろん、雪に埋もれてしまっている青森の寒さとはレベルが違うけど、外を走るのは辛い寒さだった。しかし、なぜかレースが行われる週末だけ寒波が和らぎ、3月下旬並みの穏やかな気温となった。しかも、風がほとんど無い。丸亀マラソンは、後半は西に向かって走るので、風が強いときは帰りが厳しいのだ。
(幹事長)「支部長は、相変わらず毎朝、栗林トンネルを越えて走ってるとか?」
(支部長)「いやあ、最近は走ってないねえ」
そうか、走ってないのか、しめしめ。支部長は永遠のライバルだから、これは朗報だ。なんちゅうても、前回一緒に走った4年前には、僕は支部長に惨敗だったからな。かつては、支部長は終盤では必ず期待を裏切らずにガクンとペースダウンして逆転できていたのだけど、地道なトレーニングを始めてからはペースダウンが緩くなり、先行逃げ切りを許してしまうのだ。
(支部長)「て言うか、4年前は幹事長が勝手に終盤に潰れたんでしょうが」
このレースは終盤に罠があるのだ。17km地点辺りから20km地点辺りは直線コースなんだけど、それまでどんなに快調に走っていても、ここに来るとペースダウンしてしまうのだ。少しずつペースダウンするんじゃなくて、いきなりガクンとペースダウンするのだ。
(支部長)「あれは17km地点直前にある給水所の水に絶対、何か入っているに違いないんだ」
(幹事長)「そ、そうなのか?」
支部長の説が正しいのかどうかは分からないが、僕は17km地点の給水所では、普通なら水は飲まない。どうせ残り4kmしかないから、飲まなくても平気だと思うからだ。それでも最後の直線コースは明らかに大幅なペースダウンを避けられない。実は、この部分はゆる〜い上り坂になっている。なかなか自覚できないくらい緩い坂なんだけど、じわじわと影響はあるかもしれない。しかし、小豆島のオリーブマラソンやタートルマラソンのような大きな坂なら大幅なペースダウンも仕方ないけど、自覚できないような緩い坂なんだから、そんなにペースダウンする理由にはならないような気がする。とにかく、今日は、最後の直線コースでは、逆にスパートかけてペースアップして好タイムを叩き出したいぞ。
うちを出た後は、次はピッグを迎えに行く。
(幹事長)「ピッグは3年間、青森に行ってたから、やはり4年振りの参加やね」
(ピッグ)「青森に行ってるのに、相変わらず皆勤賞の幹事長には感心すると言うか呆れると言うか」
(幹事長)「最近は練習はどう?」
(ピッグ)「いやあ、できてませんねえ」
ふむふむ。これも朗報だ。ピッグも永遠のライバルで、前回走った4年前には、ピッグにも惨敗してるからな。
今回の目標は、もちろん言うまでもなく「大会自己ベスト更新」と「支部長&ピッグに勝つこと」の2本柱である。もちろん、両方が無理なら片方だけでも達成できれば良しとしよう。
(幹事長)「今年のレースはゲストに高橋尚子さまが来るって噂を聞いたけど、ほんと?」
(支部長)「なんか本当みたいよ。昨日、ランニング教室があったとか言ってたけど」
そうかあ。前日はランニング教室があったのか。以前は、Qさまが来るランニング教室なんか、目の色変えて参加したものだけど、さすがに前日に青森から帰ってきているので、参加は無理だ。でも、今日もQさまが来るのなら、どこかでひと目、拝見したいな。
その後、ヤイさんと合流し、ヤイさんの車に乗り換えて、今度はゾウ坂出を迎えに行く。
(幹事長)「ゾウさん調子はどう?」
(ゾウ坂出)「今年こそは2時間を切りたいです」
彼女は坂の多い小豆島のレースで健闘しているから、坂が少ない丸亀マラソンのコースなら2時間を切ってもおかしくないんだけど、なかなか2時間の壁が破れないのだ。それから、彼女は今週の丸亀マラソンに続き、なんと来週は坂出天狗マラソンにも出ると言う。
(幹事長)「2週連続のレースなんて、考えられなーい!」
(ゾウ坂出)「坂出天狗マラソンは15kmレースだから大丈夫ですよ」
(幹事長)「距離が短いレースはペースが速くて、かえって辛いじゃない」
5人を乗せた車が丸亀競技場に着くと、せっかく近場の駐車券を確保していたにもかかわらず、既に近場の駐車場は満杯で、かなり遠い不便な駐車場へ停めさせられた。それでも、不便と言っても歩いて10分くらいであり、ゾウ坂出が早めに申し込んでいたから駐車場券があったけど、僕なんかは申し込みが遅かったから駐車券そのものが当たらなかった。昔は誰でも停められていたのに、近年、参加者が急増してしまい、申し込みが遅くなると、何kmも離れた河川敷の駐車場に停めさせられるし、僕くらい遅くなると、それも無くなり、JR駅から送迎バスに乗らなければならなくなる。参加者が増えるのは喜ばしい事だけど、駐車場が無くなるってのも、ちょっと不便やなあ。
駐車場が遠いと何が不便かと言うと、寒い時は休む場所が無くなることだ。どんなレースもそうだけど、受付時間からスタートまで1〜2時間はある。春や秋のレースなら、その辺の芝生の上に転がって暇つぶしするけど、2月初旬という一番寒い季節に開催される丸亀マラソンの場合、それは無理だ。あまりに寒すぎる。風でも吹いた日には、震え上がって唇が紫色になってしまう。
(石材店)「だからウォーミングアップしたらええでしょう」
(幹事長)「何を言うか。我々は決してウォーミングアップによる無駄な体力の消耗はしない主義を貫き通しているのだぞ」
(支部長)「そうだそうだ」
(ピッグ)「そうだ」
もし、近くの駐車場に車を停められれば、受付を終えてからスタートまで車の中で待機できる。なので、駐車場の位置は死活問題なのだ。ただ、ラッキーなことに、今年は気温も高めで、風もほとんど無い。なので、寒さを気にする必要もなく、競技場の客席に陣取る。
丸亀の自宅付近から送迎バスに乗ってやってきた石材店も合流する。石材店は去年の春に膝を手術し、秋の庵治マラソンで久しぶりにレースに復帰したが、距離の短い庵治マラソンは別として、本格的なレースへは今回が復帰となる。
(幹事長)「調子は、どんなん?」
(石材店)「まだ不安もあるし、練習量も控えめだから、まずはペースダウンせずに完走することを目指しますよ」
とは言っても、もちろん、僕らよりはずっと速いのは間違いないんだけどね。
(幹事長)「皆の衆。今の勤務先で結成した陸上部のユニフォームが出来たぞよ!」
前にも書いたけど、青森という土地柄か、今の勤務先にはマラソンが早い連中が多いのだけど、なぜか陸上部というのが無かった。そのため、これまでは自転車部や水泳部なんかに所属してマラソンにも出ていた連中が多かった。しかし、それでは駅伝大会に出る時に寂しいって事で、去年の秋に陸上部を立ち上げたのだ。そして会社の補助金をもらい、ユニフォームが完成したのだ。
(ピッグ)「うわ、格好いいですねえ」
(支部長)「でも、それで遅かったら恥ずかしいんと違う?」
確かに、きちんとした長距離用ユニフォームなので、これで遅かったら、かえって無様だ。
(幹事長)「て言うか、そもそも寒い!」
いくら今日は例年よりは気温が高いと言っても、さすがにランニングシャツのユニフォームは寒い。て事で、いささか格好悪くなるけど、ランニングシャツの下にTシャツを着る。
(ピッグ)「なんだか中途半端になりましたねえ」
(幹事長)「それでも下が寒い!」
さすがにパンツの方は重ね着する訳にもいかず、そのまま寒さを我慢する。
好タイムを狙うペンギンズ精鋭軍団
(前列左から 支部長、ゾウ坂出、ピッグ、幹事長)
(あれ?ヤイさんと石材店がいない?)
なんだかんだ言ってると、選手集合のアナウンスがかかる。まだスタートまでだいぶ時間があると思うんだけど、きちんと並んでおかないと、後の方に並ばされる恐れがある。昔は参加者が少なかったから、そんな事は気にしなくても良かったんだけど、最近は参加者多いため、きちんとタイム順に並んでおかないと、後の方からのスタートとなって混雑に巻き込まれるのだ。
(幹事長)「でも、この大会は、チップでネットタイムで計測してくれるから、スタートは後の方でもいいんじゃない?
むしろ、混雑が過ぎた頃に後の方からゆっくりスタートした方が最初から快適に走れるんじゃない?」
(石材店)「甘い!後の方からスタートしたら空いていると考えてるかもしれませんが、それは甘い。
去年、僕は3時間のペースランナーをやったから最後尾からスタートしたんだけど、
後の方の人はものすごくペースが遅いから、いつまで経っても空きませんよ」
そうか。後も混雑するのか。それなら、ちゃんと自分のペースに合ったポジションからスタートしなければならない。なので、ちょっと早いとは思うけど、素直に集合する。トレーニングウェアを脱ぎ、寒さを我慢して並びに行く。
タイム順の集合なので、速い石材店とは分かれ、支部長やゾウ坂出と一緒に並ぶ。ものすごい人が密集しているので、肌寒さは無くなり、ちょうどいい感じ。これなら早めに並んでも平気だ。
それにしても、今年はまた一段と参加者が多い。1万人近く参加しているらしい。最近のマラソンブームのうえ、制限時間を3時間にまで大幅に緩和したほか、定員で締め切ることなく、なんぼでも参加者を受け入れているためだ。スタート会場がキャパの大きい丸亀競技場だから可能であり、またタイム計測をチップによってネット計測してくれるので、スタート地点でパニックにならないからだ。
そうこうしていると、早くも招待選手なんかのスタート時間となった。以前は、タイム順に並んで、スタートはみんな一斉だったんだけど、今年は招待選手なんかは僕ら一般ランナーより15分早くスタートする。1万人近くものランナーが一斉にスタートすると、トップ選手にとっては何かと不都合が多いだろうから、まずはプロ選手のレースをスタートさせ、その後、一般の市民マラソンを行う、って感じか。アホみたいに早いモグス選手なんかが世界新記録を狙って出場する一方で、制限時間3時間ギリギリでゴールする市民ランナーも大挙して参加するんだから、仕方ないだろう。僕ら一般市民ランナーにとっては、最初から同じ土俵で戦っているつもりもないしね。
最初は競技場内に集合していたのだけど、そのうちゾロゾロと競技場から出て、前の道に移動する。そこでもしばらく待った後、いよいよスタート時間だ。とは言っても、スタート地点は、遙か遠くだ。スタート地点がどこかなのかも見えない。いつの間にかスタート時間になっていたようだが、ピストルの合図も聞こえないし、周囲ものんびりした感じ。しばらくして、ようやく群衆が動き出す。もちろん、まだまだ走れる状態ではなく、ダラダラ歩いて移動するだけ。しばらく歩くと、ようやくスタート地点が見えてくる。
(幹事長)「おや、あそこにいるのはQさまではないか!?」
(ピッグ)「ほんとだ。高橋尚子ですねっ!」
Qさまがスタート地点の横でみんなに声援を送ってくれているのだ。高い台の上にいるんだけど、みんなQさまとハイタッチしようとして群がって行く。
(支部長)「スタートしているのに、タイムロスも顧みずに高橋尚子とハイタッチしに行くなんて、不真面目ですよねえ。
って、幹事長、あんたも行くんかい!」
しかし、Qさまは「みなさん危ないので立ち止まらないで下さーい!」なんて叫びつつ、手を振っているので、ハイタッチは諦めて走り始める。
走り始めるなんて言っても、実は、まだまだまともには走れない。石材店の言ってた通り、ものすごい人の数のせいで、大混雑で走れないのだ。スタート地点までは満員電車状態でダラダラ歩き、スタートラインを越えると、なんとか走り始めたとは言え、軽いジョギングって感じ。いくらチップでネットタイムを計測してくれるって言っても、これじゃあ最初のタイムロスは大きい。これなら、もっと粘ってQさまと触れ合っていれば良かった。
ただ、以前、漆原選手から聞いたアドバイスによると、最初の混雑状態の時に、右へ左へと人混みを掻き分けて走っていると、体力を消耗する割にはタイムは大して変わらないから、最初はスローペースでも我慢して焦らずに無理せず行った方が、最終的なタイムは良くなるということだった。なので強引な追い越しは自重して、あまり無理して追い抜いたりはしなかった。だが、しかし、いつまで自重しても混雑は全然解消されず、このまま行くと、とんでもない遅いタイムになりそう。しかも、遅い人達が友達同士で話ししながら固まって走ると、邪魔になって困る。
(ピッグ)「私らも結構、おしゃべりしながらダラダラ走ってますやん」
(幹事長)「そう言えば、そうやな」
1km地点を過ぎた辺りから混雑が少しはマシになってきたので、できるだけ隙間をぬって前に出て、ある程度、快調に走れるようになってきた。最初の1kmのラップはロスが大きかったから論外として、次の1kmは、まあまあのタイムだ。前半をこのままのペースで抑え、余力が残っていれば、後半はスピードアップして好タイムを狙う、という作戦だ。
僕の2大作戦の第一弾は、後先考えず、とにかく最初からがむしゃらに突っ込んで玉砕するというもので、第二弾は前半を抑えて余力を残して後半に勝負というものだ。以前は、たいていは第一弾の作戦だった。て言うか、レース前は第二弾の作戦でいこうと思っていても、いざレースが始まって、結構、ペースが良かったりすると、調子に乗って突っ込んでしまい、終盤で足が動かなくなるという結末が多かった。なので、理想の展開は第二弾の作戦の完遂だ。ただ、その場合、前半をどこまで抑えるかが微妙な問題になる。抑えすぎると、終盤でも潰れないけど、当然ながらタイムは良くない。良いタイムを狙おうとすると、前半は抑えるとは言っても抑えすぎてはいけない。さじ加減が難しいのだ。
その点から言えば、今日は決して無理はせず、抑えめに走っているつもりだけど、まあまあのタイムなので、理想的な滑り出しと言えよう。なんと言っても、最初は寒かった新しいユニフォームのランニングパンツが走りやすい。今日は気温が比較的高めということもあって、走り始めると決して寒くはない。そのため、ふだん履いている長い短パンと違って、足にからみついたりせず非常に走りやすい。精神的な部分も含めて、とても軽やかに走れている感じ。
なのに!ふと横を見ると、なんと支部長が少し前を走っている。あれえ?こんなに快調に走っているのに、なんで支部長が前にいるのだ?さらにピッグもいる。確か二人とも最近は練習不足のはず。なぜ平気な顔をして快調に飛ばしているんだろう。なんとなく落ち着かないので、少し追い抜きたくなるけど、最初から無理すると後半に潰れるので自重する。
その後もペースを維持して快調に走り続ける。んだけど、なぜかいつまで経っても、横の方を見ると、少し前に支部長がいる。そしてピッグもいる。う〜ん。おかしい。なんとなく落ち着かない。そうこうしていると、最初の給水所が現れる。ここで5kmだ。まだ喉は渇いていないけど、喉が渇いたと感じてから水を飲んだのでは遅くて、最初からこまめに水は補給しなければならないらしい。ところが、給水所に気づくのが遅すぎて、他のランナーが邪魔になってうまく給水所に寄っていく事ができずに、最初の給水所はパスしてしまった。ちょっとまずいのだけど、水を取りにいった支部長とピッグを、ここでようやく追い越した。
しばらくすると、早くもトップランナー達が折り返してくる。ただでさえ早い上に、僕ら一般ピープルより15分早くスタートしているので、早くもすれ違ってしまうのだ。先頭は、優勝候補筆頭のモグスだ。圧倒的に早い。アホみたいに早い。2番手の選手が見えないのだ。早くも優勝は決まったようなものだ。後は新記録への挑戦か。その後、2番手や3番手集団が過ぎていくと、女子はやはり優勝候補筆頭の福士加代子が大勢の男子選手に囲まれて圧倒的なリードを保ったまますれ違っていく。ああいうトップランナーと同じレースに出ているってのは、なんだか嬉しい。
その後も快調に走り続け、ほんの少しは遅くなりつつも、ほとんどペースダウンすることなく折り返し点まで来た。ほんの少しは遅くなっているけど、これくらいなら終盤は気合いを入れればスパートできるだろう。
折り返し点で確認すると、すぐ後を支部長が走ってきている。まだまだ引き離せてはいない。て言うか、いつ再逆転されるか分からない。全然、余裕はない。ピッグもその後に付けている。これまた、全然、安心できない。て言うか、怖い。去年5月のオリーブマラソンでは、最後の最後で圧倒的にスピードアップしたピッグに置いてけぼりをくらったもんなあ。
それにしても、折り返してからすれ違うランナー達を見ていると、その数の多さに驚愕する。かつて、制限時間が2時間だった頃は、このレースは、僕等のレベルのランナーにとっては、いつ制限時間に引っかかって回収されるか恐怖と戦いながらのレースだった。プレッシャーがあるから出ないというランナーも多かったので、僕等より遅いランナーは、あまりいなかった。それが、どうだ。最近は制限時間が3時間になったため、ほとんど走った事が無いような人もどんどん参加するようになり、僕等レベルのランナーが上位になり、後にはエンドレスに大群衆が続くのだ。すれ違いながら見ていると、なんだか気持ち悪くなるほどの人の多さだ。駐車場もそうだし、スタート直後の混雑もそうだけど、そろそろ人数制限しないと混乱が生じるかもしれない。
しばらくすると、去年の僕等のように風船を付けたペースランナーに追いつく。ゼッケンに「2時間」と書いてあるから、去年の僕等と同じ役割だ。誰かと思って見ると、新城プロと相棒の女子ランナーだった。新城プロは真剣に走れば、ハーフマラソンなら、たぶん1時間そこそこで走るプロなので、2倍くらいの時間をかけて走っている事になる。これは、これで、非常にきついだろうなあ。
それにしても「2時間ペースのランナーにしては速すぎるんじゃない?」って尋ねたら、僕等のようにゆっくりスタートしたのではなくて、スタートのピストルと同時にスタートしているから速かったのだ。
新しい陸上部のユニフォームを自慢しながら新城さんを追い越して快調な走りを続ける。
2つ目の給水所は早めに確認して、うまく水を取ることが出来て、精神的に安定した。
15km地点の手前では、今年も、かつての僕のアイドル仁ちゃん(じんちゃん)が声援を送ってくれる。彼女は近所に住んでいるから、例年、その辺りで応援してくれているんだけど、ほんと、何十年経っても20歳前後のままだ。ぜんぜん変わっていない。こういう人から声援を受けると、またまた元気が沸いてくる。そのおかげで、ほーんの少しだけ遅くなりつつあったタイムが、この1km区間は速くなった。そのせいもあって、10km〜15kmのラップも、全くペースダウンしていない。それなら、いよいよここらでペースアップして新記録を狙おう!
と頑張ったつもりなんだけど、次の1kmは、なぜか少し遅くなっていた。あれ、なんだかおかしぞ、思いつつも、主観的にはそんなに足が重くなった気もしないので、ますます頑張ってみるのだけど、その次の1kmも、ほんの少し遅くなっていく。おかしい、明らかにおかしい、思うのだけど、その次の1kmも、さらにほんの少し遅くなっていく。これは一体、どうした事だ。もう後3kmしかない。ここで頑張らないと絶対に後悔すると思って一生懸命頑張るのだけど、次の1kmは、かなり遅くなっている。何が何やら理解できない。主観的には快調を維持しているつもりでも、やはり終盤の罠に見事に引っかかってしまったのだろうか。
結局、過去のレース展開と同じようなパターンだ。15km辺りまでは快調に走れるのに、終盤でガクンとペースダウンするパターンだ。一体、何が原因なんだろう。ただし、同じようなパターンとは言っても、かつてのような極端なペースダウンではない。かつては、終盤は、歩くようなペースにまで落ちていたけど、今日はまだまだ足は動いている。決して悪いペースではない。このまま踏ん張れば、なんとか大会自己ベストはクリアできそうだ。て事で、ラスト1kmくらいは短距離走のつもりで頑張ってみる。最後の600mは競技場に入ってトラックを走るので、ペースも正確に分かる。さすがに気合いを入れると、かなり良いペースで走れている。これくらいの走りで最後の5kmくらいを走れれば良いタイムも出るんだろうになあ。
なんて思っていたら、なんと、高橋尚子さまがゴール直前でみんなを迎えてくれているではないか。スタート直後はハイタッチできなかったので、ここはなんとしてもハイタッチせねばならない。もうタイムがどうのこうのと言っておられる状況ではない。同じようなランナーが群がってぐじゃぐじゃになっているのを掻き分けてQさまの近くまでたどり着き、なんとかハイタッチする事ができた。その後、慌ててゴールしたけど、なんとか大会自己ベストは更新することができた。
(石材店)「そんなに大したタイムじゃなかったけど、それでも大会自己ベストなんですか?」
(幹事長)「う〜ん。そうなんよ。今までが遅すぎたんかなあ」
この高速コースの丸亀マラソンより坂の多い小豆島のレースの方がタイムが良いってのは、自分ながら、どう考えても理解不能だ。どゆこと?ま、それでも大会自己ベストを更新できた事は素直に喜んでおこう。
(幹事長)「自分はどうやったん?」
(石材店)「故障あけで練習不足なんでタイムとしては悪かったけど、最後までペースダウンしなかったと言うか、
むしろ後半でペースアップできたので、今後の不安は無くなりましたね」
後半でペースアップかあ。僕も狙ってたんだけどなあ。て言うか、タイムは悪かったとは言っても、僕等よりは圧倒的に速いんだけどね。
それにしても参加者が多くて、僕がゴールしてからも、有り得ないほどの大勢のランナーがとぎれることなくゴールしてくる。スタンドから見ていると壮観だ。
しばらくは支部長を待ってたんだけど、なかなか帰ってこないので、先に記録証をもらったりしていると、ようやく支部長が帰ってきた。
(幹事長)「途中まで一緒やったのに、どしたん?」
(支部長)「いかん。最後の5kmで、またまた潰れてしまった」
なんだか脱水症状になったようだ。支部長は汗かきで、ちょっと暑いレースになると、すぐ脱水症状っぽくなる。丸亀マラソンは寒い季節のレースだから、いつも厚着して走るため、今日みたいにあんまり寒くないと、大汗かいて脱水症状になるのだ。
ピッグも、さらに少し遅れてゴールした。ピッグは例によって涼しい顔をしている。
(幹事長)「その顔は、あんまり頑張ってないな」
(ピッグ)「支部長は終盤に一気にペースダウンしましたけど、僕はコンスタントにペースダウンしていきましたね」
終盤の多少のペースダウンで済んだ僕はマシだったか。
逆にヤイさんは、石材店と同様、なんと後半にペースを上げて帰ってきた。
(ヤイ)「いやあ、前半が遅すぎたんで、後半は慌てて頑張っただけですよ」
後半に頑張れるというのが、すごいのだけど。
その後、ゾウ坂出も帰ってきた。
(ゾウ坂出)「あーん、去年より悪かったあ」
(幹事長)「iPod聞きながら走るという心構えが間違ってないか?」
(ピッグ)「おや?幹事長もフルマラソンの時は、いつも聞いてるでしょ?」
トップ選手の結果は、男子は、なんと、独走していたモグスが終盤に何故か失速して3位に落ちたそうだ。何があったんだろう。
(支部長)「17km地点の給水所で変なものを飲まされたんですよ」
(幹事長)「どうしても疑ってる訳ね」
女子の方は、番狂わせもなく、福士加代子がそのまま圧勝したらしい。僕より40分も早いタイムだ。もう同じ種目とは言えないような気がする。
ところで、プロの選手達を片っ端からなぎ倒す道場破り城武選手は今回は参加しなかった。同日に松山市で開催された愛媛マラソン(フルマラソン)に出場し、2位に4分の差をつける圧勝で優勝したのだ。あまりにも、すごすぎるおサルだ。
(幹事長)「もう、有り得なんよなあ」
(石材店)「幹事長も、次はフルマラソンですよね」
(幹事長)「どきっ」
次はフルマラソンの徳島マラソンなのだ。これまで徳島マラソンは4月末に開催されてきた。天気が良いと暑くなり始める季節だが、フルマラソンは終盤は歩くようなペースになって体は冷えてくるので、ちょうどいいくらいだ。しかも風が強いコースなので、4月末でも寒いくらいだ。それなのに、今年は3月末に開催される。これは、もしかしたら寒くなるかもしれない。
(幹事長)「なんで4月にやらんのじゃー!」
(ピッグ)「4月は統一地方選挙で役所は忙しいから3月になったみたいですよ」
3月に早まったというのに、今年の徳島マラソンは、ますます応募者が増えて抽選になってしまい、競争率が異常に高かったもんだから、当選したのは僕とピッグと矢野選手だけになってしまった。
(幹事長)「精鋭3人衆でがんばるぞーっ!」
〜おしまい〜
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