卍 第7回 弘前・白神アップルマラソン大会 卍
2009年10月4日(日)、第7回弘前・白神アップルマラソン大会が開催された。
(石材店)「な、な、な、なんですかっ?タイトルの卍はっ!?ナチス主催のレースですかっ!?」
(幹事長)「いやあ、これが驚いたんだけど、弘前市の市章なんよ」
なぜか弘前市の市章は卍だった。卍は元々、功徳などを表す仏教上の文字で、地図のお寺のマークとして、以前は何の違和感も無かった。だけど、ナチスのかぎ十字を連想させるってことで海外では批判が多く、40年以上、紋章として卍を使ってきた少林寺拳法ですら、トレードマークを変更しているご時世だ。卍とナチスのマークとでは、向きが左右逆なんだけど、旗を裏から見れば同じだし。なので、あまりに堂々と卍マークが弘前市内に掲げられているのを見て、感動すら覚えた。ユダヤ人が見たら卒倒するだろうな。
それはいいとして、この弘前アップルマラソンは、去年、ピッグ増田も出場した青森県内で唯一のフルマラソンだ。せっかく青森に来てるんだから、僕もぜひ青森のフルマラソンに出てみたい。それに、アップルマラソンって名前からしても魅力そうだし。
(幹事長)「当然、ピッグは今年も出るのよね〜?」
(増田)「いえ、僕は今年は米軍基地を走ります。幹事長も、どう?」
ピッグは今年は、弘前アップルマラソンの1週間前に開催される Misawa AB Race The Base Half-Marathon 2009 なんていうレースに出ると言うのだ。確かに、米軍基地の中を走るという貴重な珍しいレースには圧倒的な魅力を感じる。特に僕は兵器が大好きなので、ぜひ間近で見てみたい。
ただ、色物レースとは言え、Misawa AB Race The Base Half-Marathon 2009 はハーフマラソンなので、それを走った1週間後にフルマラソンを走るってのは、かなりしんどい。で、ピッグ増田は、初物の Misawa AB Race The Base Half-Marathon を優先させて、弘前アップルマラソンは今年は出ないのだ。
ハーフマラソンはあくまでも1週間後のフルマラソンに向けた練習と割り切ってチンタラ走れば、2週間連続でも、それほど無謀ではないとも思うのだけど、やっぱり両方はきつい。なので、僕としては、そういう色物は来年以降にして、今年はまずは正々堂々とフルマラソンに出ることにした。
(石材店)「色物好きの幹事長とは思えないお言葉」
(幹事長)「正統派マラソンランナーの私を見くびってはいけないぞ」
(石材店)「でも幹事長はフルマラソンは年に1回で十分って言ってなかった?」
(幹事長)「それは小豆島タートルマラソンを回避する言い訳だな」
別に、フルマラソンだって年に何回走ったって構わない。しかし、高松周辺で一番手軽なフルマラソンは小豆島タートルマラソンなんだけど、このレースは坂が多くて、とってもしんどい。それが悩みの種だったのだけど、去年から坂が無いフラットな徳島マラソンが始まったため、フルマラソンは徳島マラソンに切り替えた訳だ。で、小豆島タートルマラソンはハーフマラソンでお茶を濁すために、フルマラソンは年に1回説を唱えているだけだ。だから、フラットなコースなら、年に何回走っても構わない。
この弘前・白神アップルマラソンは、アップダウンが少ないだけでなく、去年もピッグ増田が書いているように、月刊ランナーズの優良レース人気投票100選にも選ばれているレースで、津軽富士と呼ばれる岩木山を見ながら、赤く色づいたリンゴ並木の中を走る気持ちの良いコースらしい。
(石材店)「それにしても、この時期にフルマラソンだなんて、夏場に練習できたんですか?」
(幹事長)「全く出来てませーんっ!」
四国なら8月は猛暑のため、日中に練習なんかしてたらぶっ倒れてしまうので、どうしても夏場は練習不足になってしまう。なので9月や10月にフルマラソンなんてあり得ない。せいぜい10kmレースかハーフマラソンまでだ。
ところが、青森は四国に比べて断然涼しい。なので練習はしようと思えば可能だ。8月も真面目に走っておれば、いつだってフルマラソンを走れる。
しかし、僕の場合、週末は基本的に高松に帰省している。8月以降、帰省しなかったのは、ねぶた祭り見物に行った時と、岩手山登山に行った時の2回だけだ。つまり、青森で週末に走ったのは、6月の走れメロスマラソンが最後だ。で、いつ練習しているかと言えば、平日、仕事が終わって寮に帰ってきてからだ。
(石材店)「例の、発狂しそうになるランニングマシーンですか?」
(幹事長)「夏場は、外を走れるから、発狂しなくてもいいのよ」
外が暗い時は、寮のトレーニング室のランニングマシーンが唯一の練習となり、ほんっとにつまんなくて退屈で、アホみたいでイライラして発狂しそうになるんだけど、夏場は仕事が終わってもまだ明るいので外を走れる。これはなかなか気持ちが良い。そんなに真面目な性格ではないから、毎日は走らないけど、週に3回くらいは走った。1回5kmくらい走ったから、トータルで言えば、週末にまとめて走るのと同じくらいは走った。
(石材店)「いや、しかし、フルマラソンの前には、もっと走るでしょう?」
(幹事長)「はい。ですから、練習不足でございます」
トレーニング不足はいつものこととは言え、フルマラソンに出るとなるとプレッシャーは大きいから、2ヵ月くらい前からは週末に20kmくらいは走り、一度は30kmくらいまで走っていた。それに比べると、圧倒的に練習不足だ。ただ、朗報が1つある。
(石材店)「なんですか?期待してないけど」
(幹事長)「徳島マラソンも同じような状況で乗り切った実績がある!」
今年の4月の徳島マラソンも似たような状況だった。あの時は、青森はまだ外が寒くて走れず、専ら平日にランニングマシーンで走っていたが、それでも徳島マラソンは最後まで歩かずに完走できた。
(中山)「しつこく完走、完走って自慢してますけど、そば米汁とか食べてる時は、完全に座り込んでたでしょ?
それって完走っていうんですか?」
(石材店)「それに、同じランニングマシーンでの練習と言っても、あの時はプレッシャーが強かったから、
頻度も多かったし距離も長かったでしょ?」
確かに、徳島マラソンをランニングマシーンの練習だけで乗り切ったのが変な自信となり、そんなに練習しなくても完走できるんじゃないか、っていう根拠のない期待が強くなっていた。
ただ、さすがにレースが近づいてきて、冷静に考えれば考えるほど、やっぱり不安が大きく膨らんできて、いくら週に3回くらい走っているとは言え、長距離を一度も走らずにレースに臨むのは無謀なので、レースの1週間前に帰省中の高松で、一度だけ外を20kmほど走った。ていうか、走ろうとした。で、走れなかった。足が動かなくなって20kmすら走れなかったのだ。ただ、9月末でも高松は暑い。レースは涼しい青森だ。そこに一縷の望みをかけた。
青森県は広い。四国の8割以上ある岩手県ほどではないにしても、香川県の5倍以上ある。同じ県内とは言え、弘前は遠い。車で3時間くらいかかる。なので、早朝に出発したのでは、ちょっとしんどいので、前日から弘前に入る。
途中、八甲田山系を通るが、上の方は早くも紅葉してきれいだった。さらに弘前の東隣にある黒石という町を通る。ここには名物つゆ焼きソバってのがある。なんだか、ちょっと得たいが知れないけど、妙に気になる。こういうものは、さっそく食べなければならない。駅で「つゆ焼きソバ」食べ歩きマップを入手して、有名店らしい店を探して入る。出てきたものは、名前の通り、焼きソバに汁がかかったものだ。て言うか、うどんの麺が焼きソバ、っていうのに近い。
(石材店)「美味しいんですか?」
(幹事長)「黒石市から名誉毀損で訴えられたらいかんから、敢えて論評は控えます」
焼きソバに汁をかける必然性が分からなかった、とだけ言っておこう。
弘前は城下町で、まずは弘前城へ出かける。弘前城の桜は日本一との評価が定着しているくらい見事らしい。誰に聞いても「すごい。絶対に一度は見んといかんぞ」と言われるくらいだ。でも、今のシーズンはほとんど人気がなくて、静かだった。街も少しブラブラしたが、なかなか落ち着いた良い雰囲気だった。
ただし、何も考えずに薄着で出かけていたんだけど、夜になると寒くなってきた。普段は会社と寮の往復だから、外の寒さを忘れていた。で、夕食はラーメンを食べた。
(石材店)「昼が焼きソバで、夜がラーメンですか?」
(幹事長)「一応、カーボローディングって事で」
ところが、この塩ラーメン大盛りが異常な大量で、なんとか頑張って食べたんだけど、夜中にお腹を壊してしまった。
(石材店)「幹事長もよくお腹を壊しますねえ」
(幹事長)「レース中にお腹を壊すよりはマシだけどなあ」
去年の徳島マラソンのように、レース中にレースそっちのけでトイレ探しで脂汗を流しまくったのに比べれば、レース前に収まったので、マシと言えばマシだ。しかし、夜中に苦しんで睡眠不足になったうえ、これじゃあカーボローディングどころか、エネルギーが枯渇状態だ。
いよいよレース当日の朝、お腹を壊したせいで何となく力が入らない状態だったが、街中に泊まっていたので、ゆっくり休むことはできた。スタートは9時なので、8時頃にホテルを出て、ゆっくりと散歩しながら会場へ向かう。朝から良い天気で青空が気持ち良い。
会場は弘前市立観光館という立派な施設。ここには旧東奥義塾外人教師館や旧弘前市立図書館という古い建物が保存されているほか、明治時代の洋館などを小さく復元したミニチュア建造物群があり、なかなか面白かった。
いつもなら、どんなレースでも、たいていは早朝に起きて出かけるので、なんとなく普段と違うコンディションというか、はっきり言って睡眠不足で体がしゃんとしてないが、今回は、お腹を壊して力が出ない反面、いつもよりゆっくり起きたため、なんとなく体調は悪くない。
ホテルから会場まで1kmほど歩いただけで、それ以上のウォーミングアップはしない。フルマラソンの場合は、最初の数kmがウォーミングアップ代わりだ。下手に体力を消耗する余力は無い。
さて、今日は、青森で唯一のライバルであるピッグ増田がいないから、ライバルが居ない。そこで、取りあえずのタイムの目標は、ピッグの昨年の記録だ。
(ピッグ)「最初から控えめな目標ですねえ。あれはボロボロの記録ですよ。
僕は去年、レース前にはサブフォーを目指してたんですよ」
(幹事長)「そんな大それた目標は持たないもーん」
サブフォー狙いで最初に無理して飛ばすと、絶対に終盤に潰れてしまう。いくらニワトリ並みの記憶力しか無い僕でも、さすがにそれくらいは過去の惨敗の記憶が嫌と言うほど残っている。それでも、去年までは、レース展開の作戦を練る時に、最初は早くてだんだん遅くなるというペース配分を前提にしていた。
(石材店)「あまりに当り前すぎて、わざわざ文字にする意味が理解できませんが」
(幹事長)「いやいや、これには深い意味があるのだよ」
つまり、終盤にペースが落ちるのを見越して、前半でどれだけ貯金できるかが勝負の分かれ目と考えていたのだ。どうあがいても、終盤にはペースは落ちる。その落ち方を事前に予想して、目標タイムをクリアするには、前半でどれだけ貯金する必要があるかを計算していたのだ。
(石材店)「そないに、うまいこといきますか?」
(幹事長)「まず、無理やな」
前半に計画通りの貯金をするのは難しくはない。ちょっと頑張れば、なんぼでも貯金は出来る。しかし、終盤のペースの落ち方は、たいていの場合、想定した以上に大幅に落ち込んでしまい、前半の貯金など、一気に無くなってしまうのだ。て言うか、貯金すればするほど終盤はその何倍も借金を返すような羽目になる。
(幹事長)「そこで、ハタと気が付いた。前半で貯金などするから、終盤にペースダウンするのじゃ」
(石材店)「ようやく気づきましたか」
前半で1kmあたり10秒や20秒の貯金をコツコツとしていったって、終盤で足が止まって歩いたりすると、何の意味も無い。前半の、ほんの少しの無理が、終盤には大きな負担になって返ってくる。逆に言えば、前半から抑えたペースで走っていれば、終盤もペースダウンしないはずだ。
(石材店)「これまでに、数々のランナーやコーチが何百万回も言ってきたことですけど」
(幹事長)「分かっちゃいるけど、止められないのよねえ」
頭では分かっているんだけど、いざレースに臨むと、いつもいつも、ついつい色気が出て、好タイムを狙ってしまって、前半に無理するんだよなあ。何の根拠もないんだけど、「なんだか今日は、いけそうな気がする〜」(天津木村)って感じになってしまう。それまで何回痛い目をみていても、懲りない。相変わらずロクな練習も出来てないくせに、懲りない。
それが、今年2月の丸亀マラソンでペースランナーとして走り、なんとなく一定ペースで走るコツがつかめた。
(石材店)「ものすごく遅いペースでしたけどね」
実戦としては、今年の徳島マラソンで、前半は強烈な向かい風のためすごく遅かったし、逆に後半は追い風になって背中を押されたこともあり、終盤までそれほどペースダウンせず、歩くこともなかった。さらに6月の走れメロスマラソンでは、ハーフマラソンとは言え、最初から最後まで、ほとんど同じペースで走れた。
(石材店)「要は、最初から遅かったっていうだけの事ですけどね」
(幹事長)「最初が遅いと、あそこまで終盤にペースダウンしないってのは、新鮮な驚きだよ」
なんと言っても、レース後も足が全然痛くならないのだ。
(石材店)「だから、それは全然、頑張れてないってことだってば!もうちょっと頑張ってください!」
目から鱗が落ちたというか、開眼したというか、一種の悟りを開いた私の今日の作戦は、できるだけ最後まで一定のペースで走ることだ。最初から抑えたペースで走り、どこまで一定のペースで走れるか試してみたかったのだ。
てことで、すごく気楽な気分でスタート地点に立つ。今日の天気予報は「絶対に雨」とのことだったが、スタート地点に並んだ時は、まだまだ良い天気。ただ、遠方から黒い雲が確実に近づいてくるのが見える。て言うか、まだ陽が射しているのに、既にポツポツ雨が降り始めた。狐の嫁入りだ。なんとなく嫌な予感。
いよいよ9時にスタートする。スタートした直後は、しばらく下り坂がある。嬉しいというより、折り返しコースだから、最後のゴール直前が上り坂になるのが不安材料だ。それに、今日は抑えたペースで走る作戦だから、下り坂だけど、あんまり調子に乗って飛ばすのは自重する。
パラつき始めた雨は、どんどん強くなる。ま、強くなるって言っても、まだまだ小降りなんだけど、でも、今日の「絶対に雨」という天気予報といい、遠方から攻めてくる黒い雲といい、これから激しくなる事はあっても止む事は期待できないかもしれない。
そこで帽子を持ってくるのを忘れた事に気付いた。元々、レース中に帽子を被るのは鬱陶しいので大嫌いなうえ、10月の青森なので、全然暑くは無いから、日よけの帽子は不要という発想だったんだけど、雨が降ってきたら帽子が無い方が鬱陶しい。仕方なく下を向いて走る。こうなるとつまんないので、早々にウォークマンを付ける。ハーフマラソンなら、ある程度、勝負をかけて走っているので、神経を研ぎ澄ませて周囲を伺うためにウォークマンなんぞ付けないが、ひたすら我慢の走りとなるフルマラソンでは、ウォークマンでも無けりゃあ、うんざりして嫌になってしまう。
さらに、ちょっと寒くなってくる。こんなに降られたら、そのうちぐっしょり水浸しになって、かなり寒くなるだろう。3年前の小豆島タートルマラソンの嫌な記憶が蘇る。せめてあの時のように雨除けのビニール袋を被ってくれば良かったと後悔する。だが、しかし、しばらく行くと、かなり小降りになった。あんまり降らないのかもしれない。
市街地を抜けると、アップルロードという道に入る。両側にはリンゴ畑が広がり、赤い実をいっぱい付けたリンゴの木が並ぶ。リンゴって、1本の木に、あんなに沢山実がなるんですねえ。びっくり。1個いくらで、1本に何個あるから、1本でいくらで、するとこれだけの畑で総額いくら、なんてアホな計算しながらリンゴ畑を抜ける。多少、アップダウンのある地域だけど、周りの景色が新鮮で、苦にならない。前方には岩木山がそびえる。が、山頂付近は雲がかかっていて、全部は見えないのが、ちょっと残念。
ペースは計画した通りのゆっくりしたペースになっている。ただ、これは、それほど意識した結果ではない。通常、前半は、周囲のランナーにつられて、ついつい調子に乗ってオーバーペースになりがちなので、今日はかなり強く意識して抑えたペースで始めようと固く思っていた。ところが、まずは本日の調子を見るために、自然体で走り始めて時計をチェックすると、最初の1kmも、次の1kmも、特に意識してないのに、全然オーバーペースになってない。意識的に抑えたつもりがないのに、かなり抑えたペースになっている。
(石材店)「そういうのは抑えたペースとは言わないんですよ。単に遅いだけですよ」
(幹事長)「なぜだろう。なぜかしら」
意識的に抑えたつもりが無いのに、かなり遅いペースって、春の徳島マラソンと同じだ。ただ、あの時は、向かい風の強風という理由があった。そして、後半は、それが後ろからの追い風となり、助かった。しかし、今回は、そういう理由は見当たらないのに、かなり遅いペースだ。しかし、まあ悩んでも仕方ないから、今日はその遅いペースを、どこまで維持できるか、が勝負だ。遅いったって、そのままのペースでいけば、ピッグの去年の記録には楽勝だ。
コースは、最初の10kmは、リンゴ畑の間を走りながら、時々坂も混じる曲がりくねった道だ。天気が悪い事もあり、今どこを走っているのか分からなくなる。その後、10km過ぎのハーフマラソンの折り返し点を過ぎると、岩木川に並行した道をひたすら上流に上っていく。なので、非常に緩いとはいえ、ずうっと微かな上り坂が10km続く。前半の余力がある時に上り、後半の疲れた時に下るというのは理想的なコースだ。しかも、雨もなんとなく上がり、もうあんまり降らないような気がしてきた。とにかく折り返し点まで一本道を淡々と走っていくだけだ。相変わらずペースは維持できている。まるで精密マシーンのような走りだ。
淡々と走りつづけていくと、大した苦痛も無く、あっさりと21kmの折り返し点まで来た。フルマラソンで、こんなに楽な気分で折り返し点まで来るのは珍しい。5年前の加古川マラソン以来か。あの時は絶好調だったけど、調子に乗りすぎて、最後の10kmで死んでしまい、惨敗した。だが、今日はペースも遅いし、そのような心配は無いだろう。
それにしても、タイムは驚くほど一定ペースを維持できている。折り返してからの10kmは、岩木川に並行した緩い緩い坂を下る道なので、極めて微かな勾配とは言え、なんとなく楽だ。このままいけばピッグ増田の去年の記録に勝つのは確実だ。徳島マラソンのときは、後半に入ったところで、腰を据えてしっかり休憩を取ったりしたけど、今日は休みたいという欲求すら沸いてこない。
て言うか、実は、このレース、しっかり休憩できるようなポイントが無かった。徳島マラソンなら、後半に入ると、食べ物コーナーがとても充実していて、腰を据えないと食べられないような物もたくさんあり、タイムなんか気にしないランナーで賑わっていたが、この弘前アップルマラソンは、まず給水ポイントが非常に少ない。5kmごとくらいにしかないのだ。今日は雨模様で暑くなく、そんなに喉も乾かないからいいけど、それでも少ない。天気が良ければ、耐えられない。て言うか、後半は雨もすっかり上がり、天気が良くなり、陽が射してきたりしたもんだから、もっと給水ポイントが欲しかった。やはり給水所は2kmごとくらいにあれば理想だ。さらに、フルマラソンは後半に食べ物があるのが当り前だと思っていた。徳島マラソンのようにイチゴや竹輪とまでは言わないから、ミニパンとかバナナとかチョコだとか、一口サイズの高カロリーの食べ物が欲しいところが。このレースでは、そういう食べ物が一切、無い。これなら、せめてキャンディくらい持ってくれば良かった。
とブツブツ文句を言いながら走っていると、ようやく30km付近の給水所でリンゴがあった。小さく切ったリンゴだけど、これがものすごく美味しかった。喉が渇いていたこともあり、お腹が空いていたこともあり、そもそも美味しいリンゴだったこともあり、とにかく美味しかった。それで、思わず引き返して、そこに立ち止まって次々と4切れ食べた。もう居直って水分もいっぱい補給した。だいぶタイムはロスしたけど、体にはそれ以上の恩恵があったような気分。リフレッシュして再度走り始める。小さなリンゴ4切れでは空腹は満たされないけど、それでもまだまだペースは落ちない。いや、当然、少しは落ちてきているが、まだまだ許容範囲だ。
さらに少し行くと、今度は主催者じゃなくボランティアの人が食べ物を提供してくれた。待ちに待った小さいクリームパンだ。さらに、またリンゴがある。パンとリンゴをいっぱい詰め込んで、水もいっぱい飲んで、これでだいぶ空腹感は癒された。
体はリフレッシュしたけど、この辺りからコースは岩木川に並行した道から離れて、リンゴ畑の中を通る曲がりくねった道に入り、アップダウンが出てくる。前半は全く気にならなかったアップダウンだけど、さすがに終盤になると、意外なほど堪える。このせいで、タイムがだいぶ遅くなる。とは言え、下りの時は楽なので、まだまだそれほど遅れてはいない。まだピッグ増田の去年のタイムには勝てる。
などと皮算用していたら、残り5kmの地点から、おや、一体これは、どうしたことだ?何があったんだ?と思うほど、あり得ないほど極端に足が動かなくなった。それまでが快調だった事もあり、突然の変調に戸惑う。ピッグ増田の去年の記録には何としても勝たねばならん、と強く思っているんだけど、いかんせん足が動かなくては、どうしようもない。やはり練習量は正直だ。最後にきて、練習不足のツケが出たのか。
(ピッグ)「去年の僕と同じですね。僕は4時間切りを目指していたけど、あれよあれよと足が動かなくなって、
終盤は摺り足状態と言うか、歩いたり走ったりの繰り返しで、目標より30分以上も遅れましたね」
全くピッグと同じ症状で、上り坂でもないのに足が動かないもんだから、もう歩くしかない。しばらく歩くと、また少し走れるようになるけど、そんなには長くは走れない。少し歩いて少し走って、の繰り返しだ。当然ながら、あっと言う間に一気にタイムは悪くなっていく。何があっても楽勝だろうと確信していたピッグの去年の記録すら、もう不可能な状態。そうなると、目標を見失って、さらにやる気が無くなって歩く時間が長くなり、もうボロボロ状態。よっぽど、後は全部、歩こうかとも思ったけど、こんな辛いのは早く切り上げたいという理由で、時々走る。当然、スタート直後の下り坂は、厳しい上り坂になり、ベタ歩きだ。ラストもスパートしたかったけど、摺り足状態だ。タイムは、もう情けない結果となった。
余裕で初出場初優勝を成し遂げた筆者
ま、しかし、ゴールと同時に完熟リンゴをもらって、そのままかぶりつくと、これが、まあ、本当に美味しい。喉が渇いてお腹が空いていたこともあるけど、本当に美味しいリンゴだった。そもそも美味しいリンゴだったんだろうけど、欲張ってもう1個もらって食べたら、1個目ほどの感動は無かった。
しばらく休んで落ち着くと、当然ながら不完全燃焼感が沸々とわき上がってくる。
(石材店)「足が動かなくなった割には不完全燃焼ですか?」
足が動かなくなったくらいだから、全力を出し切ったのかと言えば、なんとなく、そうでもなく、すぐに回復してしまったのだ。ホテルに戻る1kmも平気だったし、翌日も平気だった。ある程度、力を出し切っていれば、普通はフルマラソンの翌日は仕事を休みたくなるくらい疲れるものだ。足は痛くてロクに歩けなくなる。それなのに、今回は何事も無かったような感じ。
(石材店)「足が痛くないって事は、全然、頑張ってない証拠ですねえ。
やっぱり心の問題じゃないですか?終盤、足が動かなくなったって言ってますけど、
もうちょっと精神力があったら動いたんじゃないですか?もう少し頑張ってくださいよ」
戦略としては、最初から抑えたペースで行くってのは間違ってなかったと思う。その証拠に、37kmまでは、ほぼ一定のペースを維持できた。最後の5kmで潰れたのは、単に練習不足だろう。いくらなんでも、フルマラソンを走るには練習量が少なすぎた。もうちょっと練習して、同じ戦略で挑戦してみたい。
(テニス君)「じゃあ、小豆島タートルマラソンで一緒にフルマラソンを走りましょう!」
(幹事長)「い、いや、あそこは坂が多いし・・・」
小豆島タートルマラソンの締め切りまで、もう10日しかない。今回、善戦していれば、迷わず小豆島タートルマラソンでも、テニス君と一緒にフルマラソンを走るつもりだったんだけど、ここまで惨敗しちゃうと、坂が多くて厳しいコースのフルマラソンは躊躇してしまうよなあ。去年と同じようにハーフマラソンでお茶を濁すか。もうちょっと悩もうっと。
レースの翌日の新聞をチェックするのはランナーの基本だ。案の定、地元自治体と共に主催者に名を連ねる地元紙東奥日報の第1面にスタート直後の写真が掲載されている。
これをつぶさに調べると、おおう、見事、私が写っているではないかっ!
(石材店)「ほんまに幹事長なんですか?」
(幹事長)「誰がどう見ても明らかやろ?」
(石材店)「何が何やら全く分かりませんけど」
まあ、無理もない。余りにも小さい写真だからな。本人でないと絶対に分からないだろう。自分のいた位置と、首にかけたウォークマンの黄色いヘッドフォンが決め手だ。
でも、自分にしか分からない写真って、自己満足以外の何物でもないよなあ。もう少し大きかったら良かったのになあ。
〜おしまい〜
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