第33回 小豆島オリーブマラソン大会

〜 雨の中の快走 〜



2010年5月23日(日)、第33回小豆島オリーブマラソン全国大会が開催された。
4月25日に徳島マラソンでフルマラソンを走り、5月9日に八戸うみねこマラソンでハーフマラソンを走った僕としては、2週間ごとのレースとなった。

(石材店)「僅か1ヵ月の間にフルマラソン1回とハーフマラソン2回って、幹事長とは思えない熱心さですねえ」
(幹事長)「明らかに失敗やったね」


例年出ている徳島マラソンとオリーブマラソンには出ない訳にはいかないが、その間に八戸うみねこマラソンを入れてしまったのは間違いだった。八戸うみねこマラソンのコースは、ウミネコの繁殖地である蕪島という国の天然記念物の名所や、種差海岸と言った八戸の観光名所を巡る道で、なかなか魅力的だし、青森に居る時でないと走れないレースなので、ついつい入れてしまったのだ。その2週間前に徳島マラソンでフルマラソンを走ってるから、その勢いで練習なんかしなくても楽勝で走れると思っていたのだ。ところが、徳島マラソンの後、ゴールデンウィークには強行軍の九州旅行したりして、疲労がどんどん溜まっていき、八戸うみねこマラソンはなんとか完走したものの、翌日は疲労が極限に達して体調が極端に悪くなった。その後、休養を取ってなんとか体調は戻ったものの、オリーブマラソンで良い結果を残せるような状況ではなくなった。

(ピッグ)「はっきり言って老化ですね」
(幹事長)「はっきり言うなよ。気にしてるんだから」


今年の参加メンバーは私のほか、まずは支部長だ。

(幹事長)「今はどこの支部長やったっけ?」
(支部長)「丸の内支部長でんがな」


支部長は、私にとっては、このレースには絶対に欠かせない存在だ。支部長はどんなレースでも、前半、ハイペースで飛び出すので、私としては終盤に追いつけるかどうかが勝敗の分かれ道となる。最近、丸亀マラソンのようなフラットなコースでは、最後まで逃げ切られてしまい負ける事が多いのだが、坂の多いコースでは、坂が苦手な支部長は終盤に絶対に力尽きて歩いてしまうから、最後には勝利できるのだ。なので、この坂の多いオリーブマラソンに支部長は必要不可欠な存在なのだ。

(支部長)「そういう幹事長だって、このレースのタイムは悪いでしょう?」
(幹事長)「はい。もっと坂が多い小豆島タートルマラソンに比べても、タイムが圧倒的に悪いのよねえ」


マラソン大会は、人によって相性があり、中山選手(元ダイエー、現コンサドーレ)なんかはオリーブマラソンが得意で、僕らには絶対に手の届かないような好タイムの実績を誇る一方で、塩江山岳マラソンではビリから5番目という屈辱的な実績を有している。僕や支部長は、不思議なほどオリーブマラソンが苦手で、出るたびに間違いなく惨敗しているが、それでも支部長の方が苦手度が高く、絶対に期待を裏切らない。

それから、ゾウ坂出も参加する。彼女は一昨年までは10kmの部に出ていたのだが、去年、遂にハーフマラソンの部に鞍替えした。ところが去年は新型インフルエンザ騒ぎで大会が中止になってしまったため、オリーブマラソンでのハーフマラソンは今年が初出走になる。2月の丸亀マラソンでもハーフマラソンを走り、好成績を収めているので、闘志満々だ。

一方、石材店は膝の故障で、徳島マラソンに続き、今回も欠場だ。膝の手術は4月中旬に無事終わったので、今後はリハビリに励み、秋の庵治マラソン辺りからレースへの復帰が期待できそうだ。
徳島マラソンと同様に、石材店が出られなくなった代わりに、今年は青森から高松に復帰したピッグ増田が久々に登場する。ピッグはこのレースは5年ぶりの出場だ。

(幹事長)「徳島マラソンでは、ゴールまであと500mというところで情け容赦なく抜きやがったな!こんちくしょうめ!」
(ピッグ)「歩いてる人を抜いても文句言われる筋合いはありませんがな」
(幹事長)「何を言うか。会則には、そなな事をしたら除名って書いてあるぞ」

   会則3.肉体的向上のみならず、できることなら精神的向上も目指し、みんな大人になり、下り坂でむやみに飛ばしたり、
         ゴール直前で抜き去ったりしないこと。

(ピッグ)「そなな会則あったんですか?」
(支部長)「て言うか、会則って、あったんですか?」
(幹事長)「わしも今、思い出した」


とにかく、今日の目標は、ピッグにリベンジすることだ。

(支部長)「あれ?私がライバルなんじゃないんですか?」
(幹事長)「いや、このレースでは支部長には勝てるという確信があるから、目標はもっと高いところに設定して、と」

それから、最後に、超大型新人城武選手が参加することとなった。城武選手は、驚異の市民ランナーだ。何が驚異かと言えば、全く一般の市民ランナーなのに、プロ級の実績を誇るのだ。例えば、エチオピアのケベデが優勝した去年の福岡国際マラソンでは、2時間19分17秒のタイムで日本人7位に食い込んでいる

(ピッグ)「ええーっ!?福岡国際っ!?そんなん、一般人は参加できんのと違いますかっ!?」
(幹事長)「もう一般人じゃないぞ。日本人7位やなんて、もうプロやないの!」
(支部長)「2時間19分て、私の3年前のオリーブマラソンのハーフマラソンより早いですぜ」


他にもレースを荒らしまくっており、4週間前の徳島マラソンでも、いきなり出場して優勝している

(石材店)「まさか幹事長は城武選手の2倍以上のタイムだったんじゃないでしょうねえ」
(幹事長)「なんとか2倍以内でした」


彼が驚異的なのは、大学時代はチャラチャラしたテニスサークルで遊んでいただけで、会社に入ってマラソンを始めたというところだ。

(城武)「チャラチャラは余分です」

入社して5年間は発電所勤務だったのだが、だいぶヒマだったらしく、その間にメキメキというかグングンというか力を伸ばし、あっという間にプロ級ランナーになったのだ。

(城武)「ヒマは余分です」


そして、今年、高松の本店に転勤になり、我がペンギンズに加入したのだ

(ピッグ)「ほほほ、ほんまですかっ!?」
(支部長)「ななな、なんで、また!?何を勘違いしたん!?」
(幹事長)「ペンギンズには女子部員がいっぱいいるからな」
(城武)「今回、たまたま一緒に行っただけです!勝手に加入させんといて下さいっ!」


ま、本人の意思に関係なく、いつの間にか加入させられるのがペンギンズの怖いところだ。

(ピッグ)「あれ?でも幹事長、確かハーフマラソンで1時間30分を切った選手は、
       速すぎるってことで除名処分になるんじゃなかった?」
(幹事長)「誰がそんな事、言うた?」
(支部長)「自分で決めてたでしょ。会則見てみてよ」
(幹事長)「会則には、そこまで細かくは定めてないぞ

   会則4.過度に早いタイムでゴールして他のメンバーのやる気を阻害しないこと。
         不必要に好タイムを出した選手は除名することがあるので要注意。

(ピッグ)「あれ?ほんとだ。でも、確か自分で言ってましたよ」
(幹事長)「じゃ、城武選手には例外規定を設けよう。彼の場合は、フルマラソンで1時間半を切ったら除名ね」
(支部長)「もう人間じゃありませんなあ」


私がルールなので、会則は何とでもなるのだ。

(幹事長)「それにしても、そんなに早いのに、市民ランナーってのも、もったいないなあ。陸上部から、お誘いは無いの?」
(城武)「あくまでも趣味で走るのが好きなんですよ」
(幹事長)「せやけど、今は自分勝手にトレーニングしてるだけやろ?プロのコーチに着いたらオリンピックに行けるかもしれんよ」
(支部長)「どれくらい練習してるん?」
(城武)「朝10kmくらいと、仕事が終わってから10〜20kmくらいですね」
(ピッグ)「毎日2〜30km!?」
(城武)「
月に700kmくらいですかね」
(幹事長)「わしらの年間練習量より多いぞ。なんで、そこまで走れるん?」
(城武)「走るのが好きなんですよ」
(支部長)「仕事せんでもええから、と言われても、そんなに走るんは無理ですねえ。仕事してる方が楽や」


あり得ないほどの練習量ではあるが、練習量さえ多ければ誰でも速く走れるっていうものではない。当たり前だ。やはり才能だろう。才能プラス練習量だろう。

(石材店)「才能が無い上に練習をサボってばかりの幹事長とは、えらい違いですね」
(幹事長)「才能が無い人間が、どこまでサボれるかを究めているのだよ」



いよいよ明日はレース本番だ、っていうレースの前日、下の娘の運動会を見物していたら、支部長から電話がかかってきた。

(支部長)「どうしますか?」
(幹事長)「どうするって、何が?」
(支部長)「天気でんがな」
(幹事長)「運動場は日陰が無いから暑いわ」
(支部長)「そうじゃなくて、明日の天気ですがな。雨らしいですぜ」
(幹事長)「ほんまか?こんなにええ天気やのに?日本中で雨が降っても、香川県だけは雨が降らないって」
(支部長)「そ、そうかなあ。じゃあ、取りあえず行きますか」


そしてレース当日の朝、早起きしてボウッとした頭で準備してると、今度はピッグから電話がかかってきた。

(ピッグ)「私、今日は、やめときます」
(幹事長)「えっ?何があったん?」
(ピッグ)「いや、かなり激しく雨が降ってますから」


外を見ると、確かに、そこそこ雨が降っている。ふうむ、そうか。今回は香川県地方も雨が降っているのか。珍しいことだ。地球温暖化の影響なのか?
ただし、衛星からの雨雲レーダー画像を見ると、数時間もすれば雲は行ってしまいそうな気配だ。

(幹事長)「今はたまたま降ってるけど、あと数時間もすれば止むぞ。絶対に止む。わしが断言する。保証する」
(ピッグ)「そ、そうですか?それじゃあ、まあ、行くだけ行きますか」


行くだけ行って、レースには参加しない、って事は考えられないから、これでピッグも参加だ。
そもそも、確かに雨は降ってるとは言え、そんなにひどい土砂降りではない。支部長といい、ピッグといい、なんでそんなに軟弱なんだろう。確かに、過去の雨天のレースと言えば、2000年の丸亀マラソン2006年の小豆島タートルマラソン2008年の今治マラソンと、惨敗続きではある。2000年の丸亀マラソンは真冬の雨ということで、全身が極端に冷えてしまい、体が動かなくなってしまった。2006年の小豆島タートルマラソンも、かなり冷え込んだうえ、フルマラソンの部に出たので、とっても辛かった。しかし一方で、朝は雨が降ってたけど、現地に着くと雨も上がり、何の問題も無く走れたレースも多い。今回はゾウ坂出も城武選手も、雨ごときで欠場なんて選択肢は無いはずだから、我々としても軟弱な姿は見せられないぞ。



てことで、6時に家を出て、途中でピッグを拾って臨時船の乗り場へ行く。この臨時船は奴隷船と呼ばれ、参加者から恐れられている。小豆島オリーブマラソンは人気の高いレースだが、最大の難点は交通手段だ。島で開催されるため船で行かざるを得ないのだが、大会会場である小豆島坂手地区には港はあるけど船の定期航路が無いのだ。このため、主催者が高松発の臨時船を出しているのだが、この臨時船と言うのが、古いフェリーボートを借り切ったものであるため、座席が少くて、早く行かないと通路の片隅に体を丸めてしゃがみ込むか、広い車両甲板に寝転がるしかない。車両甲板は固い鉄板で、おまけに朝は冷え込み、逆に帰りは太陽熱で焼けて熱くなり、とても人間扱いされているとは思えない状況だ。そのため、我々は、この臨時船を奴隷船と呼び、恐れおののいるのだ。
ところが、最近のマラソンブームにより、この奴隷船にすら、早めに申し込まないと定員オーバーで乗船券を入手できなくなっているのだ。そのため、3年前は、やむなく、みんなで車に乗り合わせ、少し遠いけど他の港に着く定期便のフェリーを利用して行った。ただ、結果的には、ミニバンでみんなでワイワイ楽しく行ったため、なんだかピクニック気分で楽しかった。しかも定期便のフェリーは座席も余裕があり、ゆったりと座ることができた。コスト的にも、みんなで乗り合わせて行ったため、奴隷船を利用するのと同じくらいですんだ。奴隷船は、座席もロクに無いくせに、結構、高いのだ。これに味をしめ、2年前も同じように奴隷船を回避して定期便で行った。しかし今回は、参加メンバーがなかなか確定しなかったこともあり、4年ぶりに奴隷船で行くことになったのだ。

出港まで、まだ30分以上もあるというのに、奴隷船の中は既に混雑しており、客室を諦めて早々に車両甲板に寝転がっている人もいる。さすがに、この悪天候の中、車両甲板に寝転がるのは自殺行為になので、かなり強引に客室の床を一部占拠してレジャーシートを敷き、なんとか居場所を確保する。しばらくすると、支部長から電話が入り、合流する。

(支部長)「やっぱり降ったじゃないですか!」
(幹事長)「すぐに止むって。絶対に」


さらにゾウ坂出が友人のO林氏と一緒に登場。O林氏は2年前にも一緒に船に乗って参加した準メンバーだ。一方、城武選手は奴隷船を申し込んでいなかったため、定期便に乗って他の港に着き、そこから臨時バスで来る予定だ。
客室の床は固く、決して快適とはほど遠い状況だが、車両甲板の状況を偵察すると、そこは、まさに奴隷船状態だった。この時期としては珍しいほど気温が低く、しかも雨風が入り込んでくるため、かなり寒い。おまけに天気が悪いため、瀬戸内海にしては珍しく波があり、時折激しく揺れるので、固い甲板は痛いだろう。しかし、我々は、かなり早めに行ったので、かろうじて客室の床のスペースを確保できたが、あっという間に客室はすし詰め状態になり、床だって開いたスペースは無くなっているから、遅く来た人は車両甲板で泣きながら転がるしかない。
雨は止みそうで、なかなか止まず、島に着いても降っている。天気が良ければ、参加者は芝生の公園に適当にスペースを確保して着替えしたりするのだが、雨が降っているため、行き場が無い。屋内の控え場所なんて無いのだ。かろうじて、受付デスクが並んでいる倉庫みたいな建物の片隅に強引に割り込んでスペースを確保することができ、なんとか雨風をしのいで落ち着く。雨が降ってるので、ウォーミングアップに出かける気力もわかない

(支部長)「雨でなくても、ウォーミングアップは絶対にしない、って宣言しとったやないですか」
(幹事長)「すんません」
(ピッグ)「えっ?絶対にしないんですか?」
(幹事長)「小出監督の本に、わしらのような三流市民ランナーには、ウォーミングアップは何の意味も無い、
       というか百害あって一利なしと書いてあったぞ」
(支部長)「そうそう。わたしらには、レース序盤の数kmがウォーミングアップだからね」


などとウダウダしていると、いよいよ真打の城武選手がやってきた。僕ら三流市民ランナーと違ってプロ級市民ランナーの城武選手は、さっさと着替えると、すぐさま雨の中、ウォーミングアップに出て行った。その姿を呆然と見送りつつも、我々は腰を上げる気配は無い。しばらくすると、びしょ濡れになって戻ってきたが、涼しい顔をしている。

(幹事長)「雨とか、気にならない?」
(城武)「え?雨ですか?ぜんぜん」


三流ランナーに限って雨なんか気にするのかも。城武選手は、濡れた体をタオルで拭いて、本番用のウェアに着替えた。我々も、そろそろ着替えなくてはならない。いくら雨とは言っても、5月下旬の四国だから、2週間前の八戸うみねこマラソンのように寒くはない。しかし、雨で濡れるのは嫌だ。悩んだすえ、僕と支部長は、以前、丸亀マラソンでもらったビニール袋に穴があいたものを被る。ピッグは、普通のビニール袋(ゴミ袋?)に鋏で同じような穴をあけて被った。しかし、ゾウ坂出は、そななゴミ袋なんかを被りはしない。一見、同じようなビニール袋だが、実はアシックスのブランド物のビニール袋だ。アシックスの大きなロゴが入っている。その代わり、値段は300円もする。

(幹事長)「普通のゴミ袋なら、せいぜい10円程度だろうから、ロゴ代が290円てとこか。さすがはゾウ坂出」
(ゾウ坂出)「いえ、実は、これ、さっき支部長にもらったんですぅ」


なんと、ブランド物のビニール袋を買ったのは支部長だったのだ。でも、自分はただのゴミ袋を被り、せっかく買ったブランド物のビニール袋をゾウ坂出に譲るところが支部長の優しさを象徴している。こういう所があるから、支部長を慕って加入する女子部員が後をたたないのよねえ。一方、ゾウ坂出の友人のO林氏は、ビニール袋じゃなくて、ちゃんとした本物の雨合羽を着ている。ちょっと走りにくそうだけど、寒くはないだろう。

雨にも負けず参戦したペンギンズ主力選手
(左から ビニール袋なんか被らない城武選手、ピッグ、O林氏、ブランド物のビニール袋を被るゾウ坂出、幹事長、支部長)

ビニール袋を被ったら、次はシューズで悩む。去年の秋に新しいシューズを購入したんだけど、こなな雨の中で履くのはもったいない気分。移動用に履いてきた普段の練習用のジョギングシューズで十分のような気がする。ところが、練習用のジョギングシューズはボロなので、ちょっと歩いただけで既にビショビショで気持ち悪い状態。かかとだけでなく全体的に分厚いので水を吸って重くなりそうだし。て事で、仕方ないから新しいレース用のシューズを履く

ギリギリまで屋根のある所で粘るが、いよいよスタートが近づいてきたので、仕方なく外に出る。雨は止むどころか、結構、降っていて、あっという間にビショビショになる。普段は被らない帽子も被ってるけど、あんまり意味はない。ビニール袋を被っているから、Tシャツは濡れないんだけど、雨が冷たくて寒いのだ。しかも、足の方は無防備に濡れていき、当然、新しいシューズもすぐにビショビショになる。なんとなく、とても暗い気持ちでスタート地点で合図を待つ。

(幹事長)「今日の目標は?」
(支部長)「何にも無いですねえ。強いて言えば、前回のタイムですかねえ」


支部長の前回のタイムってのは、驚異的に悪い。あり得ないくらい悪い。たしか2時間半くらいだった。塩江山岳マラソンや四国カルストマラソンでも出ないような驚異的な記録だ。それを目標にするくらい、支部長はやる気を放棄している。

(支部長)「幹事長は?」
(幹事長)「もっちろん、ピッグにリベンジすること!」


もちろん、どんなレースでも、常に大会自己ベストは狙っているが、そもそも、このオリーブマラソンは大の苦手レースだし、相変わらずトレーニング不足は否定しようがない。事前の目論見では、4月末に徳島マラソンでフルマラソンを走り、それに向けた練習量が貯金となり、八戸うみねこマラソンと、今回のオリーブマラソンを軽く乗り切ろうと思っていたのだけど、貯金どころか、単に疲労が蓄積されてきただけで、練習不足どころか、大きなマイナスだ。おまけに、この雨天では、あんまり気合が入らない。

気分的に盛り上がらないまま、スタートの号砲が鳴り、一斉に走り出す。走り出したからには、もう雨の事なんか悩んではいられない。できるだけ雨のことを考えないようにして淡々と走り出す。実際、走り出すと、なぜかあんまり雨の事は気にならなくなる。

このレースのコースは、スタートしていきなり大きな坂がある。いきなり疲れがどっと出るコースだが、あんまり飛ばせないので、オーバーペースを抑制するという意味では悪くはない。ウォーミングアップと割り切ればいい。大きな坂を過ぎると、その後8kmほどは平坦な道が続く。雨は全く気にならなくなった。て言うか、暑くなくて良い感じ。天気が良い時は、結構、暑くなって大変だけど、雨のためにちょっと寒いのがちょうど良い。
シューズは、と言うと、いきなりビショビショになった割には、全然ビショビショ感が無い。移動用に履いてきた安物のジョギングシューズがすぐに重くなって気持ちも悪くなったのに対して、さすがは高価なレース用シューズは違う。濡れても全然水を含まないのか、重くならないし、全然、気持ち悪くない。軽やかに走れる。なんとなく快調に走れている。すごく早いっていうペースじゃないけど、決して悪くないペースだ。問題は、このペースを後半も維持できるかどうか、だ。このレースは、いつも、坂が多い後半に入って急激にペースダウンするのだ。ただでさえ後半は疲れでペースダウンしがちなのに、このコースは後半に坂がてんこ盛りだからだ。ま、しかし、まだまだ序盤なので、いけるところまでペースを維持しよう。

なーんて思いながら走っていると、最初の折り返し点を折り返したトップ集団が、早々に白バイの先導ですれ違っていく。なんと、期待した通り、城武選手がトップ集団3人の中にいる。すごいなあ。やっぱり。そういうのを見ると、自分も力が沸いてくる。
折り返し点で確認しようとしたのだけど、ピッグも支部長もゾウ坂出も、誰も確認できなかった。まだ集団があんまりバラけてないから見つけにくい。
雨はだんだん小降りになってきたようだが、もう全く気にしてないので、どうでもいい。ペースは少し落ちてきたけど、まだまだ大丈夫だ。て言うか、前半のうちから大幅にペースダウンしてたんじゃ話にならない。

8km地点の手前で分岐点があり、後半の坂が多い道に入っていく。ここからが勝負だ。と思ったとたん、前方から福家先生のお父上がすれ違って走っていく。5kmコースに出ているらしい。思わず「福家さあん」って声を掛けたら、「おうっ」って答えてくれた。もう80歳代後半なのに、5kmとは言え、マラソン大会に出てるってのが信じられない。自分だったら、絶対に無理と思う。て言うか、そんなにまで生きているか疑問。仮に生きていても生きる屍状態だろう。

福家さんのお元気振りに力をもらったのか、体に力が蘇り、ちょっと落ちかけたペースが再び持ち直した。う〜ん、快調。と思ったら、なんとピッグが抜いていくではないか!しかも声も掛けずに。どうやらピッグは僕を追い抜いた事に気づいてないようだ。ぬぬぬ。せっかく元気が蘇ったところで抜かれるなんて、あり得なーい!て事で、ここは頑張って着いていく。と、すぐに給水所があり、ピッグは水を取るために立ち止まる。僕は、雨のせいか、あんまり喉も渇いてないから給水をパスし、とりあえずピッグを抜き返す。その後は、福家さんに元気をもらったのと、後から迫ってくるピッグの影に怯えながら、なんとかペースを維持して頑張る。
天気が良いときなら、次から次へと現れる坂が厳しくて、どんどんペースダウンしていくところだが、今年は雨のせいで暑くないから、坂も苦にならない。「あれ?こんな小さな坂だったっけ?」とか、「あれ?もう坂は終わり?」って感じ。なんだか嬉しい。

なんて調子に乗っていたら、第2の折り返し点を折り返したトップ集団が再びすれ違っていく。今度は、なんと、城武選手は単独トップになっている!すごい!すごすぎるっ!ほんとにすごい奴やなあ。思わず「しろたけっ、頑張れっ!」って声を掛けたら、城武選手はびっくりしたように振り向いて手を振ったので、たぶん1秒くらいはタイムロスしたな。それでも、あの余裕なら優勝しそうだ。

彼の頑張りに再び元気をもらって快調に走っていると、第2の折り返し点が近づいてきた。知った人はいないかなあ、なんてすれ違う人を見てたら、なんと会社のH本さんとすれ違う。思い起こせば、彼女との戦いは、去年の庵治マラソン以来、4回目だ。庵治マラソンの時は、まあ余裕を持って勝利した。小豆島タートルマラソンの時は、そんなに余裕は無かったが、なんとか途中で抜き去り、そのまま逃げ切った。ところが徳島マラソンでは、一度、抜いたのだが、終盤に力尽きて抜き返され、負けてしまったのだ。そして今回は、この時点で、これだけの差をつけられている。僕としては、結構、快調に走ってきたつもりなのに、こんなに負けている。ここから先、彼女を逆転できるだけの力が残っているとは思えない。つまり、今回は一度もリードしないまま完敗しそう。あ〜ん、がっかり。

ちょっと挫けながら、第2の折り返し点を過ぎて、後を確認する。だいぶバラけてきてるので、後を走ってくるピッグを確認できた。距離にして2〜300mくらいか。少しは離したと言えるが、声を掛けると元気そうな表情だったので、まだまだ油断はできない。支部長も、その後方に確認できた。彼もまだまだ余裕がありそうだ。ま、しかし、支部長は終盤に一気にペースダウンするから、もう抜かれることはあるまい。心配なのはゾウ坂出だ。どんなに目を凝らして探しても見つからない。おかしいなあ。と思っていると、ゾウ坂出の友人のO林氏とすれ違う。彼はビニール袋じゃなくて、ちゃんとした雨合羽を着ていたのだけど、雨もほとんど止んできたからか、走りながら雨合羽を脱ぐ最中だった。

残りは1/3くらいだ。来るときはなんとか乗り越えた坂が大きく立ちはだかり、いつも、ここからどんどんペースダウンしていくから、ここからが本当の勝負と言えよう。しかし、今日は相変わらず坂が苦にならない。さすがに足は少し重くなってきたが、気温が低いせいか、ぜんぜん息は苦しくない。タイムを確認しても、まだまだ良いペースだ。このままだと自己ベストは間違いない。もちろん、最後の大きな坂で一気に力尽きることもあるから、まだまだ油断はできないが、このまま行けばピッグを振り切ることもできるぞ、なんて思い上がっていたら、残り3kmって辺りで突然、再びピッグに追いつかれた。ひえ〜。びっくり!今度はピッグも僕に気づき、声を掛けて抜いていく。ここまで来て抜かれたのでは、あまりに残念すぎるので、なんとか頑張って着いていく

(幹事長)「城武選手、トップやったやろ?すごいなあ」
(ピッグ)「驚異的ですよねえ」
(幹事長)「わしらも頑張らないかんなあ」


頑張らないかんなあ、とは思うのだが、しかし、足が重くなり、少しずつピッグと離れていき、気が付くとかなり差が広がっていく。いかん、いかん、と気合いを入れて、強引にペースを上げる。残り3kmくらいだから、もう後の事を考えてペース配分なんて気にする必要はない。ところが、そう思って、いくらペースを上げても、ピッグとの差が縮まらない。ペースが上がってないのではなく、明らかにピッグもペースを上げたようだ。しかも、かなり早いペースになっている。ひえ〜。ついて行けない。仕方ないから、ピッグとの勝負は諦めて、後は大会自己ベストの更新だけを狙う

(ピッグ)「相変わらず気持ちの切り替えが早いですねえ」
(幹事長)「何事にも、こだわりがないからな」


大会自己ベストは、このまま行けば大丈夫だろうけど、最後に大きな坂が待ち受けているから油断はできない。例年なら、走っているつもりでも歩いているようなペースに落ちる坂だ。しかし今年は、最後の大きな坂に入っても、足が重くない。明らかにいつもより速いペースで坂を走れている。まだまだ余裕が残っている。坂のピークを越えて下りになり、残り1kmになってからは、余力を全て出し尽くそうと一気にスパートをかけ、その辺のランナーをごぼう抜きにしてゴールした。もちろん、大会自己ベストを更新した。この苦手なレースでは考えられないタイムとなった。
ゴールすると、すぐピッグに会う。記録証を見せ合うと、ピッグとは数十秒の差だった。もうちょっと頑張ればなんとかなったかもしれない、なんて思うけど、なかなか難しいのよねえ。

(幹事長)「最後にペースアップして追いつこうとしたけど追いつけなかった。ピッグもペースを上げた?」
(ピッグ)「ええ。なんだか余力が残っていたから、一気にペースアップしちゃいましたよ」


そうか。ピッグも調子良かったのか。
しばらく待ってると、支部長も帰ってきた。

(幹事長)「結構、早かったんじゃない?」
(支部長)「圧倒的な大会自己ベストですよ。このコースで2時間を切れるなんて思わなかった」


支部長としては珍しく、と言うか、たぶん初めて全然歩かずに最後まで完走したそうだ。前回の3年前は2時間半だったから、30分以上も早かったってことだ。あり得ない記録だ。

(幹事長)「こんなにみんな調子が良かったってことは、各人の個人的な要因ではないなあ」
(支部長)「雨で気温が低かったからじゃない?」


なんのことはない、単に気象条件が良かっただけなのか。今までこのレースを苦手としていた僕や支部長は、単に5月末の暑さのせいだったのか。気温さえ低ければ、坂なんて大した問題じゃなかったのか。確かに、同じように、と言うか、もっと坂が多い小豆島タートルマラソンは11月なので、もっと良い記録を出しているもんなあ。

取りあえず、お腹が空いたので、ソーメンを頂く。例年なら、暑さでバテた体に冷たいソーメンが美味しいが、今年は体が冷えているので、あんまり食べられない。今年は暖かいソーメンがあったら嬉しいのだが、ま、贅沢は言えないか。

ゾウ坂出が遅いなあって心配してたら、足を引きずりながら帰ってきた。

(ゾウ坂出)「なんだか足を痛めちゃって」

前半のうちに膝を痛めたらしい。足が変な風に突っ込んでしまい、膝に妙な力がかかったのだ。普通なら棄権してもおかしくないような状態に思えるんだけど、さすがに根性のあるゾウ坂出は、最後まで完走した。でも、無理がたたって大きな故障になってないか心配だ。

さて、気になる優勝者は、なんと、やはり城武選手だった。

(幹事長)「すごいなあ。初出場で、いきなり優勝だなんて、凄すぎるなあ。ダントツやった?」
(城武)「いや、結構、すぐ後に2位のランナーが迫ってきてて、そんなに余裕は無かったですよ」


なんて言ってるが、絶対に負ける事はないような雰囲気だった。優勝者には賞状と景品と冠が贈られる。マラソン大会の優勝者の冠は、普通は月桂樹の冠だが、このオリーブマラソンではオリーブの葉で作った冠が贈られる。こなな冠は、そう滅多に手にする事はできないので、ちょっと借りて記念写真を撮る。
(支部長)「なんか、ほんまに優勝したみたいなやあ。私にも貸してよ」
(幹事長)「なかなか気持ちええで」
(ピッグ)「僕にも貸して下さいよ」
(幹事長)「しょうがないなあ、君たち」
(支部長)「ちょっと、ちょっと。あんたのじゃないでしょ」
(城武)「あのー、そろそろ返してくれませんか・・・」
(幹事長)「仕方ないなあ、ちょっとだけよ」
帰りも、早めに奴隷船に乗り込まないと座る場所が確保できないのだった。慌てて並んで、結構、早く乗り込んだつもりだったが、かろうじて椅子1つと、その周りの床を確保できただけだった。ま、しかし、足を故障したゾウ坂出が座る椅子を確保できたので、良かった。
(幹事長)「よくよく考えてみたら、去年から7レース連続大会自己ベストを出しているぞ!」
(支部長)「ほんまですかっ!?」


去年6月の走れメロスマラソン10月の弘前アップルマラソン庵治クォーターマラソン11月の瀬戸内海タートルマラソン今年4月の徳島マラソン5月の八戸うみねこマラソン、そして今日の小豆島オリーブマラソンだ。

(ピッグ)「ちょっとちょっと!そのうち、走れメロスマラソンと弘前アップルマラソンと八戸うみねこマラソンは初出場でしょ。
       自己ベストもクソもありませんがな!」
(幹事長)「残り4レースは初出場じゃないぞ」
(ピッグ)「1ヵ月前の徳島マラソンは、あんなボロボロなのに自己ベストやったんですか。
       それまでの記録が、よっぽどひどかっただけですね」

しかし、庵治クォーターマラソン、瀬戸内海タートルマラソン、そして今日の小豆島オリーブマラソンは、過去、何回も出ているレースだ。それを全部、大会自己ベストだなんて、なかなかの出来映えだ。この歳になって新たなレベルに達したのだろうか。

(支部長)「いやいや、私も今日は、過去の実績からは考えられない好タイムだったから、単に天候が良かっただけでしょう。
       庵治マラソンの時も、分析の結果、単に天候が良かったからだって、結論になったじゃないの」


ううむ。そうかもしれない。だって、最後の坂では何があっても絶対に歩いていた支部長が、今日は最後まで走ったんだもんなあ。

(幹事長)「所詮は天候次第なのかなあ。なんだか空しい。
       ま、でも、支部長もピッグも雨だからサボろうとしてたけど、参加して良かったやろ?」
(ピッグ)「それは反省してます!」
(支部長)「いやあ、ほんま。雨の方がよっぽどええですわ」



(ピッグ)「これで過酷なマラソン月間を乗り切り、しばらくは休養ですね」
(幹事長)「僕は7月末に東北町わかさぎマラソンに出ようかと思ってるんだけど」
(ピッグ)「僕も出たことがないマイナーなレースですね」
(幹事長)「四国じゃあ暑くて走れない時期だけど、青森はマラソンシーズンだからね」


てことで、次回は7月末の東北町わかさぎマラソンをお楽しみに!


〜おしまい〜




戦績のメニューへ