第26回 汗見川清流マラソン大会
2013年7月28日(日)、高知県本山町で第26回汗見川清流マラソン大会が開催された。
(石材店)「今年こそは久しぶりに参加したんですね?」
(幹事長)「はい。行って参りました!」
このレースは、暑い暑い四国の真夏に開催される貴重なマラソン大会だ。
以前は、真夏の四国のレースとして、このほかに四国カルストマラソンてのがあった。かつての強烈レース塩江山岳マラソンに匹敵するものすごい急な坂が延々と続くという異常に厳しい20kmコースのうえ、天気が良いと日射しが強烈で、地獄のような暑さで体が焦がされるレースだった。高原なので曇っていると素晴らしく涼しくなるんだけど、高原ということは、曇りってのは、すなわち雲の中に入るわけで、そうなると周辺が見えなくなるので、実は、あんまり楽しくない。なので、景色を楽しめる晴天になると、発狂するくらい暑くなるのだ。空気も薄いし。あまりにも厳しいマラソン大会なので、毎年は出る気がおきず、時々参加していたのだけど、その四国カルストマラソンは数年前に廃止になってしまった。今は、後継のマラソン大会として高知県梼原町で龍馬脱藩マラソン大会ってのが開催されているが、季節が10月で、他にもマラソン大会が目白押しの季節なので、希少価値は減ってしまった。
で、真夏の四国のレースとして唯一の貴重なレースになった汗見川清流マラソン大会だが、その貴重さゆえか、はたまた近年の異常なまでのマラソンブームのせいか、人気が沸騰しているのだ。あり得な〜い!
四国で真夏のレースが少ないのは、あまりにも暑くて走るのが大変だからだ。でも、だからと言って真夏にレースに出ないと、5月末の小豆島オリーブマラソンの後、秋までレースが無くなってしまう。9月に屋島一周マラソンがあった頃は、ほんの少しはマシだったけど、屋島一周マラソンが廃止になった今、10月の庵治マラソンまでレースに出ないと、5ヶ月もサボってしまう事になる。
(石材店)「9月に高知県で四国のてっぺん酸欠マラソンてのもありますけどね」
(幹事長)「名前を聞いただけで発狂しそう」
もちろん、レースが無くても地道にトレーニングできる真面目な人ならいいんだけど、レースが無いと、どうしてもサボってしまう心が弱い我々は、暑いのは分かっていても、この時季にレースを1つ入れたいわけだ。
去年の春まで勤務していた青森地方は事情が異なる。青森では12月から3月までは雪で外を走れないため、マラソンシーズンは5月から始まり、秋まで続く。7月は、いくら北国とはいえ、それなりに暑いんだけど、冬は走れないので暑くても夏にマラソン大会はある。なので、去年、青森から高松に戻ってくるまでは、無理して四国の真夏のレースに出る必要は無かった。てことで、この汗見川清流マラソン大会には、青森勤務になる前の5年前に出たっきり出ていなかった。
て事で、去年、高松に帰ってきて、久しぶりに出てみようと思ったのだけど、申し込もうとしたら、なんと既に定員に達したとのことで受付終了になっていたのだ。確かに、申し込もうとした時期は遅かった。でも、定員オーバーだなんて、かつての汗見川マラソンを知っている者なら、信じられない現象だ。以前なら、申し込み期間が過ぎてたって、役場に電話してお願いしたら出場させてもらえていた。5年前に僕が出た10kmコースは300人くらいしか参加してなかったし、むしろ人が集まらなくて、大会が消滅しないか心配していたくらいだ。大会として超マイナーなのは、場所が四国の山の中で超不便なうえ、いくら高原と言っても夏場はやはりクソ暑いし、コースが川沿いに延々と10kmも上る一方の厳しいコースだからだ。それなのに、しばらく不在だった間に、定員オーバーになるほどの人気レースになっていたなんて、もう信じられない。種目も、10kmコースのほか、ハーフマラソンの部も出来ており、超マイナーな山奥の草レースが、メジャーな大会になりつつある。
(石材店)「定員って何人ですか?」
(幹事長)「ハーフマラソン、10km、6km合わせて1000人」
(石材店)「どこがメジャーな大会ですかっ!」
1000人だなんて、少なすぎるような気がする。もっと増員すれば、希望者はみんな参加できるのに。なーんて思うのは知らない人だ。あの狭い山道のコースを考えると、1000人が限界だろう。しかも、以前は10km上りっぱなしの片道レースだったから道が狭くても良かったけど、今はハーフマラソンも10km、6kmも全部、途中で折り返してくるらしい。あの狭い山道をすれ違うなんて、走りにくいだろうなあ。
てことで、去年は出られなかった。以前は、四国カルストマラソンにしようか汗見川清流マラソンにしようか選択の余地もあったけど、四国カルストマラソンが無くなり、汗見川清流マラソンも競争が激しくなってしまい、こうなると、今年こそは何が何でも出たくなる。それで申し込み受付はいつ始まるのか、毎日、今か今かと注視していたのに、いつになっても発表されない。もしかして、中止になったのだろうか、なんて心配していたら、5月上旬になって突然、渡部選手が「今晩から申し込み受付が開始されるようですよ」なんて教えてくれて、慌ててすぐさま申し込んだ。まあ、そんなに慌てふためかなくてもいいんだろうけど。なーんて思っていたら、なんと数日で定員オーバーになってしまった。驚愕!いくら定員が1000人しかないとはいえ、一時は存続も危ぶまれた山奥のあんな超マイナーな草レースが数日で定員オーバーになってしまうなんて、もう世も末よなあ。
とは言え、最初から抽選になってしまっている東京、大阪、京都、神戸のような大都市マラソンや、インターネットで申し込み開始から数時間で終わってしまう徳島マラソンを始めとする全国主要大会に比べれば、受付スタートから終了まで数日かかったって事は、まだまだ知名度が低いからか、それとも超不便で酷暑の厳しいコースだからか。
て言うか、そもそも、根本的な疑問として、一体どうして、こななクソ暑い時期にマラソン大会が存在するんだろう?もう26回にもなる歴史ある大会なので、もしかしたら26年前は、7月下旬といえども、四国山地の真ん中の高原地帯は涼しかったのだろうか?こなな山の中でも高温化が進んでいるのだろうか?特に6年前に出たときは、この世のものとは思えないようなあり得ない暑さで、「四国山地の真ん中の高原で、こんなに暑いんだったら、下界は地獄のような暑さだろうなあ」なんて思っていたら、なんと、その日は、汗見川マラソンが開催された高知県本山町が全国で一番暑かったのだ。なんで、そのような気象現象が起こりうるのか理解に苦しむが、高原だからと言って涼しさを期待してはいけない事だけは分かった。
て事もあって、このレースに対するペンギンズのメンバーの反応は鈍い。
(幹事長)「春から秋にかけての中だるみ期間に刺激を与えるために、ぜひ参加しよう!」
(支部長)「いや、私は、ええですわ」
(國宗)「私も、ええですわ」
(ピッグ)「私も、ええです」
みんな、あまりにも反応が冷たい、というか、全く関心を示さない。ピッグは一度、四国カルストマラソンには出たことがあるんだけど、汗見川マラソンに出たことある選手と言えば、石材店や矢野選手など、高速ランナーばかりだ。ペンギンズの主流である軟弱部隊は全くやる気なしだ。てことで、今年参加するのは、スーパーランナー城武選手がハーフマラソンに出るほか、最近、短めの距離を好んでいる矢野選手が今年も10kmの部に出るくらいだ。
ちなみに、僕が出られなかった去年は、スーパーランナーの城武選手はハーフマラソンで堂々の2位(636人中)だった。矢野選手も10kmの部で20位(194人中)という見事な成績だった。このクソ暑いレースで、すごいなあと感心する。
僕は今年はハーフマラソンの部に申し込んだ。これは10kmの部だと、延々と10km上っておしまいだけど、ハーフマラソンなら、再び下り坂を帰ってくるから後半は楽だと思ったからだ。ところが、よくよく聞いてみると、最近は10kmの部も片道じゃなくて、5km上って5km下ってくるそうだ。それでも、まあ、ハーフマラソンも後半は下るだけなので楽かな、と思う。
(幹事長)「後半は延々と下りになるから、結構、楽なんやろ?」
(城武)「いえいえ、アホみたいに暑いから、それなりに厳しいですよ」
げげ。スーパーランナーの城武選手が厳しいっていうのだから、かなり厳しいのかも?いやいや、彼はすごいスピードで走るから厳しいと感じるだけであって、最初から完走だけを目標にチンタラ走る僕には、それほどでもないかも。甘いかも。
レース当日は早起きした。6年前に出た時は、石材店と一緒に家族連れで前日から繰り出し、隣の大豊町の山のてっぺんにあるゆとりすとぱーく大豊ってとこに泊まった。子供達が遊ぶ場もあるし、夜はひたすらバーベキューして酒を飲んだ。レース当日は会場まで車で30分で行けるから楽勝と思われたけど、酒を飲み過ぎて朝起きるのがつらく、結局、かなりしんどかった。
翌年の5年前は、家族連れは止めて当日、朝早く出かけた。どれくらい時間がかかるのか不安もあったので、かなり早く家を出たら、道路事情が良いこともあり、高速道路を飛ばしたら自宅から現地まで1時間半で着いた。その時はスタートが10時40分だったから、2時間半も時間をつぶさなければならなくなり、時間を持てあましてしまった。超マイナーなレースだったこともあり、受付はスタートぎりぎりに駆け込んでもOKみたいだったし、これならもっとゆっくり来れば良かったと反省した。
しかし、この5年間で状況は激変している可能性が高い。なんといっても定員オーバーになるくらいの人気の高まりだ。駐車場の容量は、あんまり大きくないから、遅めに言って駐車場が満杯なんてことになったら悲惨なことになる。なので、早いとは思いながら、6時頃に家を出た。
道路は予想通り空いていて、高速道路も順調に進んだが、トイレが心配になってきた。どうせ会場では簡易トイレが幾つか並んでいるだけで、長蛇の列が出来ているだろう。東京マラソンでは結局、直前のトイレを諦めたが、それは小の方だったから簡単に諦められたが、今日は家を出る前には大はしてないので、どこかで用を足す必要がある。て事で、高速道路を降りる直前のサービスエリアのトイレで用を足すことにした。ナイスアイデアだ。
ところが、サービスエリアには妙に多くの車が停まっている。普通、この四国の山奥のサービスエリアはガラガラだ。何にもないし。おまけに、休日としてはまだ早い7時頃だ。これはマラソン大会に参加する選手の車だろうか?そして、なんとトイレは長蛇の列が出来ている。明らかにマラソン大会に出場する選手らしき人ばかりだ。ナイスアイデアどころか、みんな考える事が同じだったのだ。これではどれくらい時間がかかるのか読めない。せっかく早起きして出てきたのに、こんなところで時間を無駄遣いして駐車場に停められなかったら元も子もない。て事で、素早く諦めて現地に向かう。途中でコンビニでもあればトイレを借りようと思ったんだけど、山奥のためコンビニは無かった。
車は最後まで順調に進み、駐車場には予定通り7時半に着いた。いくらなんでもちょっと早すぎたかもしれない。しかし、車の中でゆっくりと朝食のパンを食べているうちに、みるみるうちに駐車場は埋まっていき、腹ごしらえも終わって会場に向かい始めた頃には、駐車場は満杯になっていた。精神衛生上は、やっぱり早めに出て良かった。それに、早いと言ったって、6時前には港に集合する必要がある小豆島のレースよりはゆっくりできるんだから、たいしたことはない。高知の山奥とはいえ、ロケーションとしては、そんなに不便でも無いって訳だ。どうせヒマだから、車の中で少しは寝ようかとも思ったけど、この過酷なレースに出る高揚感から、あんまり眠くもなくなり、車を出て会場に向かう。
レースの会場は本山町のクライミングセンターだ。高さ15m、幅4mの人工のクライミングウォールが2面ある西日本で唯一の屋根付き競技場だ。このクライミングセンターのテント屋根の下が選手の控え場所であり、開会式なんかも行われる。受付では、今年もお土産にしそジュースとタオルをくれる。このしそジュースは美味しいので嬉しい。
受付を済ませ、休憩テントの中に入るが、スタートの10時までまだ2時間もある。やることと言ってもランニングシャツにゼッケンを着けたりシューズにタイム計測チップを着けるくらいで、あっという間にヒマを持てあましてしまう。
ふと会場の片隅を見ると、簡易トイレが5〜6個並んでいる。スタートまでには大をしなければならないが、どうせ長蛇の列だろうと思っていたら、おや、誰も並んでいない。どういうこと?やってないの?不審がりながらも、取りあえず行ってみると、どれも使用中だけど、待っている人はいない。なので、少し待っただけですぐに入れた。高速道路のサービスエリアの混雑ぶりからは予想できない現地の状況だ。いくら参加者が少ないとは言え、こんなに空いているのも不思議だ。みんな苦労して事前に済ませてきたから、かえって現地では空いているのかなあ。なんにしても良かった良かった。
気温は、まだそんなに暑くない。高松の自宅を出る時は、まだ6時なのに既にもわっと暑く、嫌な雰囲気だったけど、さすがに山奥は気温が低く、車から外に出ると爽やかで気持ち良い感じ。これなら頑張れるかも、なんて思ったけど、太陽が昇り始めると日差しは暑い。晴れると暑くなるのは避けられないか。
ところが、待っている間に、なんとなく雲が多くなってきて、もしかしてこのまま曇ってしまえば暑くなくなるかも、なんて思い始めたら、なんといきなり雨が降ってきた。しかも、普通の雨じゃなく、みるみるうちに激しくなってきて、あっという間に土砂降りの大雨だ。ただ、あまりに急激な大雨だから、スコールみたいに逆にあっさりと止みそうな気もする。雨のせいで、当然、ウォーミングアップはできないが、雨だろうが晴れていようが、どんなレースの場合もウォーミングアップはしないから関係はない。特に、こんな過酷なレースは序盤をウォーミングアップ代わりにゆっくり走ればいいだけだ。
土砂降りの中、クライミングウォールの前で開会式が行われる。屋根の中なので雨は関係ないけど。開会式と言っても、マイナーなレースなので簡単に終わる。
開会式を横目に、例によって、何を着るかで悩まなければならない。今日も一応、ウェアとしては、青森勤務時代の職場の陸上部で作った超薄手のランニングシャツとランニングパンツのほか、普通のTシャツやランニングパンツも持ってきた。ただ、夏真っ盛りの今日みたいな日に超薄手のランニングシャツを着ないで何を着るんだ、という事で、ほとんど迷わず決める。土砂降りの雨のせいで決して暑くはないが、それでも寒くはない。当たり前だ。何も着ないでもちょうどいいくらいだ。何も着ないでも汗が噴き出る高松よりはマシだけど、薄ければ薄い方が良い。超薄手のランニングシャツは、見るからに速そうで、あんまり速くもないくせに着るのは恥ずかしい気持ちもあるんだけど、これを着ると非常に走りやすく、これを着たときは、たいてい好タイムを記録している。
しばらくしたら、予想通り雨は止んだ。ただ、まだ曇っている。もしかしたら、このまま曇りが続くかも。あるいは、また雨が降るかも。あるいは、あっという間に晴れてしまうかもしれない。山の天気は読めない。
一応、真夏のレースなので、暑さ対策は万全ではある。帽子も持ってきたし、サングラスも持ってきたし、さらに日焼け止めクリームも持ってきた。しかし、この天気じゃあ、日焼け止めクリームは不要か。ベタベタするし。サングラスも不要な気がする。水を浴びる時に邪魔になるし。ただ、また土砂降りになると鬱陶しいので、雨対策で帽子は被っておいた方がいいかも。
雨も上がり、闘志が沸いてくる幹事長
テントの中でストレッチの真似事しながらダラダラ座っているのも限界がきたので、テントから出て写真を撮ったりしながら時間を潰し、ようやくスタート時間が近づいてきたので、手荷物を預けスタート地点に移動する。
ハーフマラソンの参加者は900人弱だ。これくらいの人数だと、スタート地点の混雑も大したことなく、後ろの方からスタートしても、さほどタイムのロスは無さそうだ。それに、このレースは季節もコースも過酷なので、参加者のレベルが高い。なので、過去に参加した時は、後ろの方からスタートしても、いきなり全員が全速力になり、スタート直後の混雑によるノロノロ運転は無かった。
そもそも女子選手が少ない。東京マラソンなんてフルマラソンなのに女子が2割以上いる。それに比べて、このレースは女子が少ない。何も女子選手のレベルが低いと言っている訳ではない。フルマラソンになると、終盤の力尽きた頃には、最後までペースが落ちない女子選手に片っ端から蹴散らされる。だが、女子選手は圧倒的な持久力により普通のマラソン大会では強いが、今日のコースのような坂が続く厳しいコースは不得意な人が多い。て言うか、男子選手だって、明らかに普通のレースみたいな普段あんまり走った事はないけど、地元だし、ちょっと試しに出てみました的な軟弱そうな兄ちゃんは皆無だ。こんな過酷なレースに出ようと、わざわざ、こんな山奥まで来る選手は、やっぱり相当、マニアックな好き者揃いなんだろう。
スタート前には、一応、今日の目標を立てる必要があるが、この大会のハーフマラソンには初出場なので、目標が立てられない。普通のレースなら、取りあえずハーフマラソンの自己ベストを更新するだとかの目標を立てるが、このレースは厳しいので、実現不可能な目標では意味が無い。以前、上りだけの10kmレースだった頃は、取りあえず1時間を目標にしていたけど、このコースで21kmを2時間は無理だろう。机上の計算なら、後半は下りだから可能な気もするけど、前半で力尽きたら下り坂の後半だってバテバテで足が動かなくなるだろうから、タイムは全然予想がつかない。
て言うか、この酷暑の、しかも坂のレースでは、完走できるかどうかも不安なのが正直なところだ。レース前日には、ピッグから「無理せずリタイアする勇気を持ってください」なんて励ましのお言葉を頂戴しているくらいだ。おまけに練習だって不十分だ。練習が不十分なのは連中行事だけど、最近の練習不足はサボっているからではなく、走ろうと思っても、暑さのせいで10kmも走ったら足が動かなくなるからだ。そういう理由で練習不足なんだから、本番でも足が動かなくなる可能性が大きい。いくら本番はアドレナリンが出るとは言え、21km分も出るとは思えない。て事で、今日はタイムの目標は定めず、とにかく無理をしないで自然体で完走する事を目標にする。
ただ、厳しい坂が続くとは言っても、5年前まで出場していた記憶によると、前半の坂は、実はそれほど厳しくはなかった。人によって感じ方が違うので「きつい」と言う人もいれば「大したこと無い」という人もいて、何とも言えないんだけど、坂と言えばついついかつての塩江山岳マラソンや四国カルストマラソンの絶壁のような坂をイメージしてしまう僕にとっては、それほど死ぬほど厳しい坂ではない。
汗見川という、早明浦ダムの直後で吉野川に合流する小さな支流に沿った道を10km上るから、基本的にひたすらずっと上り坂なんだけど、汗見川は急流って感じでもないので、川に沿った坂は、そんなに激しいアップダウンではない。
塩江山岳マラソンや四国カルストマラソンは、絶対に途中で歩いた。どんなに調子が良くても、どんなに気候が良くても、絶壁のような坂の前では、ただ頭を下げて歩くのみだ。マラソンというより登山の世界だ。それに比べたら汗見川マラソンの坂は、大した勾配ではない。やはり不安は、坂の厳しさよりは暑さだ。
いよいよスタート時間となった。他の山岳レースの経験から言えば、山の中の耐久レースは、たいていはみんなペース配分を考えて無理せずにゆっくりと走り出すものであり、我先に前へ前へ走って混雑するなんてことはない。しかし、このマラソンも同じだと思っていたら大間違いで、こんな過酷なレースに出場する選手はレベルが高いから、これくらいの坂では、スタートの合図と共に、みんなすごい勢いで一斉に駆け出すのだ。ペース配分を考えていないのではなく、ペース配分を考えても僕のレベルからすれば速すぎるのだ。普通のレースなら序盤はウォーミングアップ代わりにゆっくり走ればいいんだけど、このレースは、周りにつられて、いきなりハイペースの戦いとなるのだ。そして、予想通り、今年もスタートの合図と同時に選手達は一斉にハイペースでダッシュする。みんな、最初から飛ばしていくのだ。
ただ、前半はずっと上り坂とは言え、その前半の前半の5kmは大した坂ではない。上り坂ではあるが、緩やかに上っていくだけなので、体力がある序盤では、あんまり気にならない。まずは最初の1kmのタイムを確認すると、まあまあ悪い。いくらスタート時の混雑が大したことないとは言え、多少は混雑するから、これくらいのタイムロスは仕方ないだろう。
で、次の1kmになると、だんだん快調に走れてきてタイムもアップしただろう、なーんて思って時計を見てびっくり。最初より遅くなってるじゃん。そんなアホな。天気はまだ曇っていて、そんなに暑くはない。まだ坂も大したことないし。こんな状態でこのタイムは、いくらタイムを気にしないとは言っても、ちょっと危機感を覚える。て事で、ちょっとだけ気合いを入れ直す。初めて出場した時は、どんな厳しい坂が待っているか不安で、だいぶスピードをセーブしながら走ったけど、恐れていたほど坂は厳しくないって事が分かっている今回は、ペースは上げても大丈夫だ。しかも、この辺りで再び雨が降ってきた。雨と言ってもパラパラ降る程度で、全然大したことはなく、鬱陶しいだけだけど、炎天下に比べると雨の方がはるかにマシだ。で、3km地点でのタイムは、まあまあだった。よしよし。このペースでいければ悪くない。
3km地点には最初の給水所がある。まだ本格的に暑くはないけど、油断することなく最初からこまめに水は補給しておく。ここから5km地点までも、大した坂はなく、感覚的にはフラットみたいなもんだ。5km地点には10kmの部の折り返し点があるのだが、折り返し点が近づいてくると、10分遅れでスタートした10kmの部のトップ集団が追い抜いていく。さすがに10kmの部はペースが全然違う。でも、僕のペースだって悪くないはずだ。
と思って5km地点で時計を見て、ちょっとびっくり。またタイムが悪くなっている。う〜ん、暑くないとは言っても、やっぱり暑い。大した坂ではないと言っても、やっぱり上り坂。そんなに甘くはないってことか。
5km地点にも給水所があり、水を補給する。この辺りまで来ると、雨もすっかり上がり、雲の合間から薄日が差し始める。こうなるとジリジリと暑くなる。ときどき、シャワーをかけてくれる所もあり、そこを通った時は涼しいが、一瞬だけだ。さきほどまでの雨のせいで、暑さ自体はまだまだ本格的ではないけど、湿度は100%近い。山の中なので木陰も多いけど、川に沿った谷間なので、熱がこもっている感じ。風もほとんど無くて、もわっと熱気が漂ってて息苦しい。サウナのような息苦しい暑さだ。雨対策で被っていた帽子は、頭が蒸れてくる感じなので、脱いだ。
前半の後半、すなわち5km地点を過ぎると、それまではちらほら田んぼもある風景だったのが、山深くなってくる。だんだん坂がきつくなっていき、所々には急な坂がある。ただし、急な坂といっても、そんなに大した勾配ではない。地図では傾斜10%のところもあるんだけど、そんなに長くはないから、坂のきつさよりは暑さの方が厳しいくらいだ。1kmごとのタイムは着実に落ちていく。このままだと、たぶんやっぱりこのレースで好タイムなんてのはあり得ないか。
ただ、以前、ガンガンの炎天下で10kmの部に出ていた頃は、僅か10kmのレースなのに、終盤はリタイアが頭をよぎっていた。周りには歩いている人もいて、僕も歩く誘惑と戦うのに苦労した。たった10kmなのに、なかなかゴールにたどり着かないのだ。それに比べれば、今日はリタイアなんて発想は出てこない。周りを見ても、まだまだ歩いている人なんていない。やっぱり今日の暑さは大したこと無いってことか。
酷暑のマラソンだけあって給水所は2〜3kmごとにあり、以前は水しか無かったけど、今はスポーツドリンクや水を浸したスポンジなんかもある。冷たい水で顔を洗うと気持ち良い。
タイムは落ちているけど、他のランナーにそれほど抜かれている訳ではない。他のランナーも暑さと坂と共に、同じようにペースが落ちているって感じ。それに、タイムは落ちているものの、足が重くなっている感覚は無いので、上り坂でペースが落ちているランナーがいると、ぐいぐい追い抜いていく。追い抜くと気持ち良いので、また頑張ることができる。
折り返し点が近づいてくると、折り返してきたトップ集団とすれ違う。さすがに速さのレベルが違う。それが刺激になって、こっちも少しは気合いを入れ直し、ペースが少しだけ上がる。ただ、当然、トップ争いしながら走ってくると思っていた城武選手を見つけられなかった。彼のことだから、どんなに調子が悪かったとしても先頭集団にいるはずなのに、分からなかった。おかしいなあ。
折り返しの直前にある10km地点でのタイムを見ると、かつて10kmの部に出ていた頃のゴールタイムより良かった。10kmの部に出ていた時は、全力を出し切って10kmを走り終わっていたのに対し、今日は後半の体力が残るようにセーブして走っている。それなのに今日の方が速いってことは、だいぶ調子が良いって事ではないか。これで一気にやる気に火が付いた。どこまでやれるか分からないから、目標は設定しないけど、とにかく頑張ってみよう。
10.5km地点で折り返すと、僕より遅いランナーとすれ違うようになる。折り返す前にすれ違った僕より速いランナーとどっちが多いか見てたんだけど、同じようなものか。最近のマラソン大会では、過度なマラソンブームのせいで、軽い気持ちで参加するランナーも多く、完走できるのかなあ、と疑うような遅いランナーがいっぱい居るもんだけど、このレースは、季節もコースも過激なので、そういう遅いランナーはほとんど居ない。最後尾でトボトボ歩いてくるようなランナーが皆無なのだ。さすがに、そんな人は参加していないってことだ。
後半は基本的に下り坂となる。前半、上ってきた時は、そんなに厳しい坂でもないな、って感じたが、後半になって同じ坂を下り始めると、これが適度な勾配で気持ちよく走れる。四国カルストマラソンや塩江マラソンはもちろん、小豆島のマラソンなんかも、坂の勾配がきつすぎて、上りが大変なのはもちろん、下りもきつすぎて足に負担を感じてしまう。下りも急すぎるとブレーキをかけながら走らないといけないから大変なのだ。それが、このコースは自然体で走るのにちょうど良いくらいの下り勾配で、気持ちよくスタスタと駆け下りることができる。時計を見ると、ペースが上がったのが分かる。もしかして、頑張ったら2時間を切れるかもしれない、なんて思い始める。
レース中は、どんな大会でも、常に頭の中で計算ばかりしている。序盤は、自分の理想的なレース展開を予想というか妄想して、好き勝手な皮算用をするが、当然ながら、そんな甘い目論見は早々に破綻して、常に残りの距離や今後のペース予想からゴールタイムを予想する。疲れてぼうっとした頭で必死で暗算するのは困難を伴うが、計算をしないではいられない。つい先日、日経新聞に定期的に掲載されるマラソン関係記事で、こういう計算をすると、それが破綻したときに気持ちが切れてしまうから、下手な計算はしない方がいい、って書いていたけど、やっぱりどうしても計算してしまう。計算せずに何も考えずに走るってのは、あまりにも漠然としすぎて気合いが入らないし。ただ、今日は過酷な季節の過酷なコースに練習不足で挑んでいるため、当初は計算はしない予定だった。ところが、前半を思いの外、良いペースで走り、後半に突入したらペースが上がったので、こらもう必死で計算してしまう。で、このまま頑張ればギリギリで2時間を切れそうなペースになったのだ。
しばらく行くと、前半で一番坂が厳しかった区間にさしかかる。つまり、下り坂が一番きつい区間だ。きついと言っても、足に負担を感じるほどではなく、思いっきり駆け下りれる区間だ。足は全然重くなく、気持ちよく前に出るので、大股でスタスタ降りていき、他のランナーをどんどん抜いていく。後半に他のランナーを抜くというのは、僕にとっては、とても珍しいパターンだ。大変、気持ちがよろしい。時計で確認すると、目を疑うほど、驚くほどペースが上がっている。このままいけば、確実に2時間は切れる。ただ、こんな速いペースで最後まで行けるとは思えない。そこまで甘くはないだろう。どこまで行けるかが勝負だ。
天気は完全に晴れとなり、どんどん暑くなっていくが、後半の前半、つまり16km地点までは結構、下っているため、暑いにもかかわらず軽快に足が前に出て駆け下りていく。タイムは、どんどん貯金が貯まっていき、終盤に力尽きても逃げ切れる可能性が出てきた。
残り5kmになってからは、坂の勾配が緩やかになり、あんまりスタスタとは駆け下りられなくなり、タイムが悪くなってきたが、かなり貯金が貯まっているので、なんとか持ちこたえれば2時間は切れそうだ。周りにはちらほら歩いているランナーも見かけるようになってきたが、最後まで歩く事態にはならないだろう。最近は練習してて、10kmも走れば足が動かなくなっていたけど、レース本番でアドレナリンが爆発しているからか、まだまだ足が止まる気配はない。
だが、さすがに残り2kmになってからは、足の動きが悪くなってきた。それに、突然、空腹感が出てきた。朝、駐車場で食べた時間がそれほど早かったとも思えないし、フルマラソンならともかく、ハーフマラソンで途中で空腹感が出てくることなんて、あんまり無いんだけど、お腹が空いて力が出ない、って感じになってきた。と思った頃に、突然、隣のランナーが話しかけてきた。
「あと少し。頑張ろう」
誰かと思って話をしたら、最初からずうっと僕と同じペースで走り、相前後して抜いたり抜かれたりしていたらしく、親しみを覚えたのだそうだ。言われてみると、背中に「不撓不屈」って書いてある、見覚えのあるTシャツだ。確か、支部長のように坂に弱く、フラットな部分で強いランナーだ。上り坂や下り坂では僕が追い抜き、フラットになると抜き返されていた。力尽きかけた時に、こんな感じで声を掛けられたりすると嬉しい。またやる気が沸いてくる。
それから、この辺りになると、沿道に少しだけど応援してくれる人もいる。このコースは基本的に山の中を走るので、沿道にはほとんど観客はいない。だがゴールが近づいてくると、少しは人家も点在するようになり、声援を送ってくれる人がいる。こういう声援に笑顔で応えていると、なんとなく力が沸いてくる。
そんなこんなで、力が尽きかかった残り2kmもなんとか踏ん張ることができた。さすがにラスト1kmになっても、もうスパートする余力は全くなくて、なんとかペースを維持するのがやっとだったが、少なくとも崩れることはなく、最後まで良いペースでゴールすることができた。
ゴールしたら、さっき話しかけてくれたランナーが寄ってきて「ゴールおめでとう」なんて言ってくれた。彼は愛媛県から来ているそうだ。「じゃあ、またどこかで」なんて言いながら握手して別れたが、嬉しいふれあいだ。
タイムは1時間57分で、ハーフマラソンのタイムとしては、お恥ずかしいタイムだが、この季節の、このコースで2時間は絶対に切れないと思っていたので、自分では満足だ。3年前に、やはり絶対に2時間を切ることは不可能だと思っていたオリーブマラソンで1時間54分を出した時と同じくらいの驚きだ。この歳になっても、まだまだ力は沸いてくるのだ、と満足感が溢れてくる。
と思って記録証をもらって、びっくり。順位が悪い!自分では、なかなかの快走だったと思ったから、順位で見ても上位にいるものとおもったら、なんと総合順位も部門別順位(男子50〜59歳の部)も、かろうじて半分より前にいる程度。全然、速くないじゃん!
これは、どうしたことだろう。他のランナーも結構、追い抜いたのに。
冷静に分析すると、やはり今日は暑さがマシだったという事だろう。3年前のオリーブマラソンでタイムが良かった時も、結局、天候だけが要因だった。今日は前半は曇り気味で暑さがマシだったというのが最大要因で、僕だけでなくみんなに恩恵があったということだろう。それに、そもそもこのレースは、ちゃらんぽらんな初心者は出てなくて、マニアックな強者が主体のレースなので、レベルが高いってことだろう。
そうは言っても、こんなに自己満足に浸っていたのに順位が半分程度だなんて、ガッカリだ。
張り出された順位表を見ると、矢野選手は10kmの部で総合20位、部門別で12位という快走だった。相変わらずすごいもんだ。一方、城武選手の名前は、やはり見あたらない。欠場したようだ。後で聞くと、僕より1時間くらい遅く高松を出発したそうだが、途中でものすごい雷雨に遭ったため、マラソンは無理と判断して引き返したそうだ。会場では、開会式の頃、土砂降りになったけど、それよりはるかに激しい雨だったのだろう。今日のコンディションなら、彼が出ていたら快記録が生まれただろうに、惜しいことだ。
順位にはガッカリしたとは言え、思った以上に良いタイムでゴールできた喜びは、やはり大きい。最近のマラソンでは珍しく、ゴール後の足の痛みも激しい。最近は全力を出し切れる事が少ないので、ゴールしても余力が残り、欲求不満が募るケースが多いんだけど、今日はうまく全力を使う事が出来たため、ゴールしたとたん、足が痛くなった。
痛い足を引きずってトマトをもらいに行く。このマラソンの楽しみの一つが、ゴールした後にもらえる冷えたトマトだ。大きなバケツの氷水の中に大量のトマトが入っていて、それを食べ放題だ。本当に美味しい。冷えたゆずジュースもあり、普通の水やスポーツドリンクと違って嬉しい。
事前にもらったチラシには、ゴールした後、カヌー教室があるってことだったけど、とてもじゃないがカヌーは無理。て言うか、歩くのもしんどい。でも、このマラソンのもう一つの大きな魅力が、走り終わった後の川遊びだ。これだけは欠かすことができない。痛い足を引きずって近くの川に降りていく。既に数十人が川に入って気持ちよさそうに泳いだりしている。預けている手荷物の中には、ちゃんとサンダルを入れてきているんだけど、それを取りに行く元気も残ってないので、そのままシューズとソックスだけ脱いで、ランニングウェアのまま川に飛び込む。ここの川の水は冷たく、心臓が止まりそうになるが、暑く火照った体が冷やされ行くのが気持ち良い。肩を見ると赤くなっている。スタート前は雨が降るかもしれないと思ったから、日焼け止めクリームを塗らずにランニングシャツで走ったため、後半の炎天下で、肩とか日焼けしてしまったようだ。頭が熱かったから、途中から帽子も脱いで走ったため、顔も焼けてしまったかもしれない。サングラスも掛けなかったから目もダメージがあったかもしれないが、今日みたいに暑い日には汗をかきまくるし、あちこちで水を被るからサングラスは邪魔になる。
周りを見ると、みんな泳いでいるというより、まるで温泉に漬かっているような感じで水に入って、ひたすら体を冷やしている。しばらく漬かって体を十分冷やしたら、外に出て体を乾かす。タオルも手荷物の中で、何もないけど、炎天下で体は急速に乾いていく。
会場に戻って手荷物を受取り、弁当をもらう。弁当は以前と同じく、普通の弁当か、ソーメンとばら寿司の組み合わせだ。疲れ切った後には、冷えたソーメンが食べやすいんだけど、ばら寿司が喉を通りにくそうなので、普通の弁当にした。でも結局、普通の弁当も喉を通りにくく、ソーメンにした方が良かったと後悔した。
もうしばらく待てば、お楽しみ抽選会ってのが始まるとのことだったけど、くじ運の悪さには自信があるので、ためらうこと無く帰ることにする。以前、上りだけの10kmレースだった時は、ゴールした後、スタート地点まで小さなバスでピストン輸送してくれるシステムだったため、強烈な炎天下で長時間並んでバスを待たなければならなかった。マラソン走るより、バスを待つ方が辛いくらいの時間待ちだった。それがスタートとゴールが同じになったため、すぐに駐車場に戻れるから、帰りは早くなった。帰りは急ぐ理由も無かったので、高速道路は通らずに、吉野川に沿ってのんびりドライブしながら帰った。
この酷暑の、しかも坂が続くマラソン大会で最後まで気持ちよく走れたのが嬉しくて、翌日は参加しなかったメンバーに自慢しまくった。
(幹事長)「いやあ、気持ち良かった。今だに足に快感が蘇る。あのコースは実によろしい!」
(國宗)「あれ?幹事長は東京マラソンでシティマラソン派に転向したんじゃなかったですか?」
(幹事長)「え?そうやったっけ?」
東京マラソンも良いけれど、酷暑の山間レースも実に面白い。来年は、みんなで出よう!
(幹事長)「と言いながら、次は自転車レースだよねえ」
(國宗)「10月20日に愛媛県の瀬戸大橋しまなみ海道で行われるしまなみ海道サイクリングですよねっ!」
我々ペンギンズ自転車部の初レースとなるサイクリング大会だ。しまなみ海道の橋の上を自転車で走りまくるなんて、本当に気持ちよさそう。
(幹事長)「て事で、今年の夏は自転車のトレーニングに励もう!」
(國宗)「と言いながら、来週はラフティングに繰り出しますけどね」
〜おしまい〜
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