第54回 こんぴら石段マラソン

〜 なんて楽しいお気楽レース 〜



2019年10月6日(日)琴平町金比羅宮(こんぴらさん)で第54回こんぴら石段マラソンが開催された。
超マイナーな草レースだが、なんと今年で第54回だから、めちゃ由緒正しいレースと言える。確かに、何十年も前から必ずNHKのテレビニュースで伝えられていたから、琴平町には欠かせないイベントなんだろう。

こんな超マイナーな草レースが54年も続いているのは本当に驚異的な事だが、その理由は、やはり文句なしに面白いからだ。普通のマラソンコースとは違って、こんぴらさんの石段を駆け上がるという特殊なコースで、普通のマラソン大会だけじゃなくて、たまにはこういう面白いレースに出るのが楽しい。

とは言え、実はペンギンズがこの石段マラソンに参加したのは、今年でまだ4回目だ。初参加したのは7年前の第47回で、参加したのは支部長と國宗選手の2人だけだった。もちろん私も誘われたんだけど、娘を連れてキャンプに行ったので参加できなかったし、ヤイさんは村の秋祭りで獅子舞をせねばならないとの事で参加しなかった。2回目に出たのは5年前の第49回で、その時は支部長と私とピッグの3人で出た。そして3回目に出たのが2年前の第52回だ。

なぜ、このマラソン大会は面白いのに、過去の参加が少ないかと言えば、あまりにも超マイナーなので見落としがちになるからだ。草レース探検家のピッグを筆頭に、我々はこういう草レースにはとても興味があるんだけど、こんな草レースはランネットなんかには出展されていないから、いつから申込み可能なのか分かりにくいし、そもそも存在すら忘れがちになり、存在を思い出すのは例年、「今日、金比羅宮で石段マラソンが開催されました」っていう夕方のテレビニュースを見たときだ。
もちろん、レースが終わってから気付いたんでは間に合わないんだけど、認知症が着実に進行しているしている今日この頃では、東京マラソンや丸亀マラソンといったメジャーな大会の申し込みでさえすぐに忘れて慌てるくらいだから、こんぴら石段マラソンみたいな超マイナーな草レースの存在は、残念ながらあっという間に忘れてしまうのだ

しかも、今みたいなマラソンブームが到来する以前は、忘れてさえいなければ、簡単にエントリーできた。支部長が初めて参加した7年前は、なんと当日受付でも走れた。それくらい参加者が少なかったのだ。2年前の募集要項にも、まだ「定員に達しない限り、当日受付可」なんて書いてあった。しかし、異常なまでのマラソンブームが吹き荒れている昨今の情勢で、そんな事が許されるはずがない。2年前だって、募集要項にはそう書いてありながら、実際にはエントリーが開始された8月1日の夕方には定員がいっぱいになって募集は打ち止めになっていた。当日受付どころか、募集開始日に即日完売だったのだ。

そして、他のマラソン大会のように、過去の参加者へパンフレットとか案内が送られてくる訳でもないし、琴平町のホームページに情報が掲載されるのも、エントリー開始の直前ギリギリになるので、うかうかしていると、思い出した頃にはとっくにエントリーが終わっているのだ。
どうしてランネットなんかには一切情報が出ないし、パンフレットも無いような超マイナーな草レースが、あっという間に瞬間蒸発するのか理解に苦しむが、この異常なまでのエントリー競走に勝つためには、こんぴら石段マラソンの存在を思い出したら、毎日のようにマメに琴平町のホームページをチェックし、情報が掲載されたら即、エントリーに備えるという行動が必要だった。


〜 抽選制と有料化 〜


ところが、去年から募集のシステムが変わってしまった。それまでの先着順から抽選制になったのだ。普通、一般的なマラソン大会の募集は先着順だ。その方が事務局も楽だし、参加者も申し込んだ時点で予定が確定するから便利だ。でも、あまりにも人気が高まり過ぎると、エントリー競走が過熱して弊害が出てくるので、抽選になる。東京マラソンなんか競争率が10倍以上だし、大坂マラソンや京都マラソンなんかも5倍前後なので、こういうメジャーな大会はたいていは抽選だ。
しかし、こんぴら石段マラソンのような超マイナーな草レースが抽選ってのは聞いたことがない。なぜ、こんなマイナーな草レースが抽選になったかと言うと、定員がとても少ないからだ。こんぴらさんの石段の数は本宮までが785段、奥社まで行くと1368段ある。以前は石段マラソンは奥社まで走ってたんだけど、最近は本宮までになっており、本宮までの石段の数である785にちなんで参加者の定員は785人しかないのだ。

なぜそんなに募集人数が少ないかと言えば、交通規制が無くて、いつもと同じように一般の参拝客が大勢歩いている狭い石段をランナーが駆け上がり駆け下りるため、参加者が多いと、とっても危険だからだ。実際に走ってみると、これでも多いと感じるくらいだ。せめて開催している間は一般の参拝客を規制して欲しいとも思うが、こんぴらさんの境内を使わせて頂いている我々としては、そんな事を言える立場ではない。
てな事で、伝統ある面白い大会なのに定員が少ないから競争が激しくなり、遂に抽選制になったのだ。もちろん、他のメジャーな大会のようにインターネットを使ったエントリーシステムではないので、申し込みには往復葉書を使う。往復葉書なんて何年も使った事が無く、従来のFAXでのエントリーからむしろ退化したような印象だが、当選すれば返信されてくるっていうシステムだ。

そして、もう1つ、去年から変わったのは参加料だ。こんな楽しいマラソン大会なのに、これまではなんと参加料が無料だった。今どき、参加料が無料のマラソン大会なんて、とても珍しい。過去を振り返っても、8年前に出た青森県南部町のうぐいすマラソン大会くらいしか出たことない。
しかも南部町うぐいすマラソンは無料なだけあって、参加賞も何もなかったが、こんぴら石段マラソンは大変お得なマラソン大会だった。参加料が無料にもかかわらず、参加賞としてTシャツをくれるのだ。参加料が無料なのにTシャツをくれるなんて、もうあり得ない。実は7年前に初めて支部長と國宗選手が参加した時は、Tシャツなんてくれなかった。それが5年前に出た時は、デザインの良いTシャツをくれたのだ。

マラソン大会の景品のTシャツって、品質自体は、昔のように何回か洗濯したらクタクタになるような粗悪なものから、最近は丈夫なものになってきたが、デザインはたいていダサく、使い道に困るようなTシャツが多い。早くボロボロになって捨てられるんならまだいいけど、品質が良くなっていつまでもくたびれないから、かえって始末に困るのだ。
ところが、5年前にもらったTシャツは、とっても素敵なデザインだった。参加費が無料なのに、なんでこんな素晴らしいTシャツをくれるんだろうと不思議だったが、その時ちょうど、全国門前町サミットというイベントを琴平町で開催していたので、Tシャツはたぶん門前町サミットの予算から出ているんだろうって結論づけた。
なので、Tシャツをくれるのはその年だけだろうと思っていた。ところが2年前に参加した時もTシャツをくれた。しかも、5年前のと同じTシャツの残り物なんかじゃなくて、異なるデザインの新しいこんぴら石段マラソンTシャツだった。5年前から毎年、新しいTシャツをくれているのだ。

琴平町は面積が極めて少なくて人口密度が高く、こんぴらさんに観光客がわんさか来るから、町の財政がとっても豊かなので無料で大盤振る舞いしているのだろうと素直に思っていたが、内部事情に詳しい町会議員さんに聞くと、実は財政は火の車で、なんとかして有料にしたかったらしい。それで去年からようやく有料化にこぎつけたが、それでも僅か1000円だ。本当はもっと高い料金設定にしたかったらしいが、関係者の協議の結果、1000円になったようだ。

(ピッグ)「有料化になったから去年は出なかったんでしたっけ?」
(幹事長)「ちゃいますがな、去年は脱藩マラソンと開催日がカブったから出られなかったんやがな」


10〜11月や1〜2月のマラソンシーズンは色んな大会の日程がカブってしまう事が多い。大阪マラソンなんか去年はタートルマラソンとカブってしまい、せっかく当選したのに参加権利を放棄せざるを得なかったし、今年は那覇マラソンとカブっているので最初から申し込まなかった。年明けの来年2月には、海部川マラソンと高知竜馬マラソンと京都マラソンが同日開催で、悩みはますます深くなっている。


〜 エントリー 〜


て事で、去年は出られなかったこんぴら石段マラソンだが、今年は日程が合えば出ようと思っていた。で、7月下旬から毎日のように琴平町のホームページをチェックしていた。ところが、いつまで経っても何の情報も掲載されない。8月に入っても、8月下旬になっても、何の情報も掲載されない。まさか今年は中止になるんだろうか、なんて思ったり、あるいは私の知らないところで、裏でコッソリと既に申し込みが終わっているんじゃないかって不安になったので、9月2日なって琴平町に電話してみた

(幹事長)「ホームページに何の記載も無いんですけど、今年は石段マラソンはやらないんですか?」
(職員)「いえ、やる予定です」
(幹事長)「開催日は決まってるんですか?」
(職員)「10月6日です」
(幹事長)「じゃあもう募集はしてるんですか?」
(職員)「いえ、まだです」
(幹事長)「もう1ヵ月しかないですよ。募集はいつ始まるんですか?」
(職員)「明日、事務局会議をやって決めます」
(幹事長)「えーっ!まだ決まってもないんですかっ!?」
(職員)「すんませーん」

おそるべき事態だ。以前は8月1日に受付開始していたのに、9月になってもまだ募集要項すら決まっていないなんて、あまりにも遅すぎ!とは言え、すでにどこかでコッソリと募集が終わっていたなんて最悪の事態は避けられたので、一安心して、翌日に琴平町のホームページをチェックしたら、既に募集要項が掲載されていた。なんと、その日から募集が始まっていた。早い。早すぎる。それまでの遅れを取り戻そうとするかのごとく、すぐに募集が始まっていた。
今年も抽選で、募集期間は9月3日〜17日9月20日に抽選して、すぐに結果を返送してくるという。それでも大会の10日ほど前だ。やっぱり遅い。遅すぎる。一体、何を手間取ってたんだろう?

募集は遅すぎだが、今年は日程が脱藩マラソンとカブっていないので、その点は良かった。
今年も夏場は山岳マラソンが立て込んでいて、6月上旬の北山林道駆け足大会7月下旬の汗見川マラソン9月初旬の酸欠マラソン、10月上旬の龍馬脱藩マラソンと、山岳マラソン4連戦という超厳しいスケジュールが続く予定だったんだけど、汗見川マラソンが豪雨による土砂崩れのためコースが変更になり、ハーフマラソンの予定が11kmレースになってしまった。それでも、なんとか開催されたからマシだが、酸欠マラソンに至っては、天気予報で雨が降りそうだというだけの理由で中止になってしまった。実際には、当日は雨も風もほとんど無かった。

こうなると、ハーフマラソンを一度も走らないまま、年間のレースで最も過激な脱藩マラソンを迎えることになる。さすがに、それは怖すぎる。なので、その1週間前に石段マラソンがあるのは良いことだ。

(支部長)「石段マラソンなんか走っても、脱藩マラソンの練習にはならんだろ?」
(幹事長)「ま、レジャーやな」


いくら有名な長い石段と言っても、下から上まで標高差は僅か170mだから、これに出たからと言って、累積の標高差が900mもある脱藩マラソンのフルマラソンの練習にはならないんだけど、何も出ないよりは少しだけマシだろう

てことで、9月3日に早速エントリーしようと参加メンバーを募ったんだけど、みんな用事があるとかで反応が鈍い。結局、参加するのはのほかはのらちゃんだけになった。
彼女は丸亀マラソンには4回出場しているが、それ以外では去年と今年のオリーブマラソンと去年のタートルマラソンと今年の汗見川マラソンに出ただけで、まだまだ初心者だ。しかし、それは単にレース経験が少ないと言うだけで、オリーブマラソンでは支部長に2年連続で勝利したし、去年のタートルマラソンや今年の丸亀マラソンでも支部長に肉薄していたから、女子としてはとても速いランナーだ。しかも2月の善通寺五岳山空海トレイルでは、トレラン初参加なのに女子年代別部門で1位になったほどで、坂道にもとても強い。
なので、私としても、彼女とは真剣勝負の大一番だ。


〜 金刀比羅宮へ出発 〜


朝、自宅を7時半ごろに出発し、途中でのらちゃんをピックアップして琴平町へ車で向かう。
初詣の時は死ぬほど渋滞する金比羅さんだが、普段の日曜日は道路が空いていて、琴平町には順調に予定通り9時前に到着した

(のら)「マラソン大会がある割りには空いてるね」
(幹事長)「超マイナーな草レースやからね」

地元情勢に詳しいのらちゃんの案内で無料の駐車場に車を停め、そこから会場まで歩いていく。大会会場は、参道に入ってすぐの所にある金陵の郷だ。会場に着いたのは9時頃で、スタート時間は10時頃、受付は9時半までだから、楽勝だ。普通のマラソン大会なら、準備したりする時間も必要だが、この大会は準備なんかは一切不要なので、スタートギリギリでも構わないくらいだ。

受付で参加料の1000円を払うと、参加賞の新しいTシャツをくれた。5年前や2年間にもらったTシャツと同じく、真っ黄色の生地にマスコットキャラクターのこんぴーくんをあしらったポップで良いデザインだが、毎年デザインが変わっており、これを集めていくのも楽しいかも。

5年前はTシャツのほかに、うどん引換券と無料温泉入浴券もくれたんだけど、2年前には無くなっていた。聞くところによると、思った以上に参加者が増えてきて、Tシャツだけで予算が無くなったためにうどん券と温泉券は中止になったそうだ。それが去年から有料制になったため、うどん引換券だけは復活した。無料温泉入浴券も欲しいところだけど、参加者が温泉に殺到して大混雑するから、やむを得ないかな。また、引換券は、うどんかソフトクリームを選択できるようになっていた。もちろん、ゴールの後はお腹が空いているだろうから、うどんを食べるつもりだ。

受付で貰ったTシャツはゼッケンの代わりにもなっていて、レースに参加するには、このTシャツを着て走らなければならない。一般の参拝客が歩いている中をかき分けて走っていくレースだから、誰が参加者か分かるように、よく目立つ黄色のTシャツになっているのだ。
ゼッケンの代わりとは言え、ナンバーは付いていない。タイムも計測しないし順位も数えてくれないからだ。以前は順位を付けてくれていたようだが、私が初参加した5年前から順位は競わず自分のペースで走る大会に変更されたらしい。あくまでも参加する事に意義がある健脚大会であり、自己満足のために走るマラソン大会なのだ。

同じTシャツの着用が義務付けられているから、着るものには悩まなくても済む

(ピッグ)「この時期は、どっちみち悩まないでしょ?」
(幹事長)「せやな。どっちみちTシャツ1枚やな」

今頃の季節は暑くもないし寒くもないから、もともとウェアに悩む要素は少ない。とは言え、何を着ても自由なら、短距離だからタンクトップにしようか、なんて悩む余地も出てくるが、参加Tシャツの着用が義務付けられているからスッキリしている。下は、いつも履いている黒っぽいランニングパンツを履く。

(のら)「シューズがいつものと違うやん」
(幹事長)「石段に備えて」


石段の下りに備えて、いつものシューズとは違うシューズを履いてきたのだ。石段用の専用シューズがある訳ではないが、石段の下りに備えて、底が薄目のいつもの本番用シューズではなく、底が厚いナイキのシューズを履いてきた。石段の下りは衝撃が大きいから、厚底の方がクッション性が高そうだからだ。

最近は世界的にナイキのシューズが大流行りで、先日のMGCなんか、ほとんどの男子選手がピンクのナイキシューズを履いていた。ただし、ああいうトップランナーが履くと、素晴らしい効果があるのかもしれないが、私のようなレベルでは、何の効果も感じられない
私のシューズは、彼らが履いてるような高級品ではないが、一応、似たような厚底だから、本来の目的と言うか効果は、何かあるんだろうけど、私には単にクッション性が良いくらいしか効果が無いので、普段は履いていない。

また、石段の場合、濡れると滑りやすいので、雨の場合にはシューズ選びに注意しなければならない。大会の実施要領にも「雨天の場合及び荒天の時は中止(石段が濡れると非常に危険な為、小雨でも中止となる場合もあります。)」なんて書いてある。でも、今日は曇ったり晴れたりで、雨の心配は無さそうだ。

何の緊張感も無くスタート地点でポーズを取る幹事長とのらちゃん


準備はあっという間に終わり、スタートまでたっぷり時間があるので、暇つぶしに門前町をブラブラ散策する。こんな超トリッキーなコースの草レースでも、ウォーミングアップやダッシュしている選手はいる。上位争いをしている連中だろう。
このレースは距離が短いから、最初から最後まで全力疾走となるので、ウォーミングアップの必要性は無くはない。普段のフルマラソンやハーフマラソンなら、我々にとってはレースの序盤がウォーミングアップ代わりになるが、このレースのように最初から全力疾走するのであれば、少しは体を慣らしておかなければならないからだ。でも、実はこのコースは、フラットな直線コースは最初の100mくらいで、その後は石段が現れるから、全力疾走はできなくなる。

(のら)「え?最初から最後まで全力疾走って言ったじゃん?」
(幹事長)「全力だけど、石段では全力歩きやな。石段を走って登ったら、すぐに足が動かなくなるんよ」

石段になっても力を抜く訳ではないが、全力疾走の勢いでピョンピョンと走るように登るとすぐに足が動かなくなる。石段になったとたんに、一段一段早足で歩くようにチョンチョンと登るのだ。なので、全力疾走できる区間は100mほどだから、ウォーミングアップなんかは必要ない。

(のら)「どれくらいのタイムで走るの?」
(幹事長)「目標は20分やな」
(のら)「ええーっ!?にじっぷん!?そんなん可能なん?」
(幹事長)「みんな大変なように思うけど、実際にはあっというまにゴールできるんよ」

7年前に支部長らが初参加した時は、30歳代までの選手は石段が1368段ある奥社まで走って折り返すが、40歳代以上は785段の金比羅宮本宮で折り返すコースだった。でも5年前に私が初参加した時は、若い人も含め、全員が785段の金比羅宮本殿で折り返すコースとなった。どうせなら奥社まで走っていきたいところだが、主催者としては早く終わらせたいのかもしれない。もちろん今年も全員が本宮までだ。

途中の本宮までとは言え、最初聞いたときは、785段もの石段を駆け上るなんてめちゃめちゃ大変そうで、途中で心臓麻痺で死ぬんじゃないかと不安になった。でも、参加経験のある支部長と國宗選手に聞くと、二人とも「楽勝だった」と豪語する。本当かなあと半信半疑ながら5年前に初参加してみたら、彼らの言う通り、本当に楽勝だった
もちろん785段の石段が大変なのは事実で、走って駆け上がるのは不可能だ。テレビニュースの映像を見ると、先頭集団はものすごいスピードで駆け上がるマニア的なランナー達だが、我々はどんなに頑張っても一生懸命早足で歩いて上るのが関の山だ。でも、途中で力尽きる事はなく、頑張って上っていくうちに、割りとあっさりと上りは終わってしまう思ったほど厳しいレースではないのだ。

また、このレースの制限時間は2時間近くある最初から最後まで歩きっぱなしでも楽にゴールに間に合うような緩い時間設定となっているのだ。なので焦る必要は全くなくて、5年前や2年前に出たときは、途中で写真を撮ったり参拝したりしながら進んだため、往復で20分ちょっとだった。今回は、のらちゃんが気合を入れているので、真剣勝負することにしたから、目標は20分だ。

(幹事長)「2周するんなら、もっとゆっくり行った方が良いかもしれないけど」
(のら)「えええーっ!?にしゅう!?そんなん可能なん?」

もちろん可能だ。実際に、1周では物足りないから2周する人もいる。折り返しの本宮で通過証を受け取り、ゴールしたら通過証と引き替えに御守りなんかをもらうんだけど、「2回走ってもいいですけど、2回目の時は通過証を受け取らないでください」なんて注意事項がアナウンスされているくらいだ。制限時間は2時間近くもあるから、単純に計算したら4回でも5回でも行ける。もちろん、だんだん弱ってくるからスピードは落ちるだろうけど、それでも3回は行けるだろう。
むしろ恐いのは下りだ。上りはしんどいけど、しんどいだけで危険性は無い。下りは石段から転げ落ちる恐怖と隣り合わせの危険なレースとなる。一つ間違えば、転がり落ちて全身骨折か、運が悪けりゃ頭を打って死んでもおかしくない。絶対に恐いので、慎重に下らなければならない
過去の経験から言うと、石段の下りは一段飛ばしがよろしい。飛ばさないで一段一段降りていると、圧倒的に遅くなる。かと言って、2段飛ばしにすると飛躍的に危険度が増す。一段飛ばしでリズミカルに降りるのが理想的だ。ただ、それでも足を引っかけて転ばないように慎重に降りなければならない。緊張感が続く下りだ。

(のら)「2周も走れるとは思えないよ」
(幹事長)「じゃあ1周にして、その代わり最初から全力疾走の真剣勝負にしよう!」

しばらくすると、ようやく9時半の開会式になったので会場に戻る。説明によると、参加者が多いので、混雑を避けるためにスタートは年齢別に分かれてスタートする。タイムも順位も競わないため一斉にスタートする必要は無いのだ。
まずは10時に49歳以下の男子がスタートし、その2分後に50歳代男子、さらに2分後に60歳以上男子がスタートする。続いて2分後に39歳以下の女子がスタートし、その2分後に40歳以上女子がスタートし、最後の10時10分にその他大勢がスタートする。その他大勢ってのは、中学生以下や家族連れ仲間連れなんかだ。

今回、私たちは2人での真剣勝負なので、最後のその他大勢部門でスタートすることにした。なんだか大混雑しそうで嫌だけど、一緒に走るには仕方ない。


〜 スタート 〜


いよいよスタートの時間となり、スタート地点に集合する。参加者数は僅か785人だが、それでも全員が集まると、狭い参道は黄色いシャツを着た集団に埋め尽くされた

まずは49歳以下の男子がスタートした。最前列に陣取ったようなランナーはロケットスタートでダッシュで飛び出していった。続く50歳代や60歳以上の男子でも、先頭ランナーはとっても速い。
それはいいんだけど、なんと、男子の部にドサクサに紛れて女子や子供もスタートしていった。意図的なのか間違ったのか分からないが、男子と一緒に走る家族や仲間が一緒に走り出したようだ。それなら私たちも前の方から一緒に走っても良かったかな。どう考えても、最後尾からスタートしたら遅いランナーが前の方に詰まってて、走りにくいだろう。

男子に続いて女子の部もスタートが始まるが、これまた速いランナーは速い。トレラン用のリュックを背負って、全身、完全にトレラン仕様のランナーも何人かいる。あきらかに登りに慣れた高速ランナーだ。一方で、トレパンなんかを履いて最初からゆっくり歩きだすおばさん達もいる。完全に歩きとおすつもりだ。

そして、いよいよ最後のその他大勢の部門のスタートだ。混雑を避けるために最前列に陣取る。両横には中学生らしき子供たちがいる。スタートダッシュで彼らを蹴散らさなければ走りにくくなるだろう。

(幹事長)「スタートダッシュで先頭に立つように」
(のら)「ええええーっ!?先頭に立つの!?そんなん可能なん?」

最前列は混雑してスペースが狭く、二人が並ぶのは無理だったので、のらちゃんを先頭に立たせ、私はその背後から着いていくことにした。

スタートのピストルと同時に、最前列のランナーは一斉にスタートし、全力で走り出す。思った通り、両側の子供たちは必死で走っていくので、最初は着いていけない。しかし、彼らは子供なので最初は速いが、あっという間にスピードが落ちる。石段が現れる前に彼らを蹴散らして先頭に躍り出る。

スタート直後のフラットな区間を少し走ると、参道は石段に変わる。最初は石段とフラットな部分が交互に現れるが、だんだん石段が多くなる。それでも2段程度の石段なら一気に飛び越していく。しかし、すぐに急な石段が続くようになる。この大会の勝負どころは石段区間であり、石段をどれくらい粘り強く上れるかで勝敗は決まる

傾斜45度の急な石段なので走って駆け上がることは不可能だ。それでも、最初は元気なので一段飛ばしてガンガン登ることは可能だ。て言うか、序盤で力が余っているから、一段飛ばしくらいでガンガン上がっていった方が歩きやすいし、気持ちも良い。
しかし、そんな子供みたいな事をしてたら、すぐに足が動かなくなるのは分かっている。登山の時も、急登を大股でガンガン上っていくのは禁物だ。絶対に後から疲れがドッと出てくる。石段だって同じであり、いくら元気があっても、決して飛ぶように上がってはならず、無駄なエネルギーを使わずに着実に歩いて上がらなければならない
なので、石段区間では最初から地道に一段ずつ登っていく。一段づつ上がるのは歩幅が狭くて、とても歩きにくいが、我慢してチョコチョコ上がっていく。

土産物屋が立ち並ぶ狭くて急な石段を早足で一段一段歩いて上っていると、のらちゃんのペースが遅くなってきて、少し遅れ始める。まだほんの序盤なのに大丈夫かなと心配になったが、彼女は力があるので、すぐに慣れて追いついてくるだろうから、取りあえずマイペースで登っていく。

急な石段が続くが、ずうっと傾斜45度の急な階段が永遠に連続する訳ではなく、ときどき数メートルほどのフラットな部分がある。ついつい、こういう区間ではそのままのペースで歩いて休みたくなるが、そういう短い区間でも走れる時は走らないと良いタイムは出ない。そういう小さな積み重ねが重要なのだ。最近のトレランレースで会得した走り方だ。なので、少しでもフラットな区間があると、すかさず走る。

お土産物屋さんが立ち並ぶ一之坂が終わると365段目に大門があり、そこをくぐると五人百姓がいる。大門から中が金刀比羅宮の境内であり、境内で商売が許されているのは五人百姓だけだから、ここから先は落ち着いた境内の雰囲気となる。五人百姓の前を走り抜けると桜馬場に出る。ここは階段が無くてフラットな上、とても清々しくなる気持ちの良い区間だ。こういう道なら、いつまでも走ってみたくなる。

全力で走りながら後ろを確認すると、少し後ろにのらちゃんも走ってくる。最初は少しペースダウンしたけど、その後は回復して順調に追ってきているようだ。

桜馬場を抜けると、いったん左に曲がり、馬舎の前を右折して、再び石段の区間が現れる。石段は急だけど、表参道と違って広々としているので、これまた気持ち良い。石段を駆け上がるなんて、聞いたら大変そうだけど、早足で上がるっていうイメージなので、不可能ではない。とは言え、呼吸は苦しく、自分でも大きな声でゼイゼイ言ってるのが耳障りなくらいだ。

石段を上ると628段目に旭社があり、その前を右折してフラットな道を走ると、最後に本宮へ向かう急で長い石段が現れる。旭社から本宮へ上るルートは石段が狭くて急で長いため、上りと下りが別々に分かれた一方通行の回廊区間となっている。とっても急で長い石段なんだけど、これが最後の上りなので、上を見ずに足下だけを見てひたすら頑張って一気に上ると、ようやく最高点に達してホッとする。
急な石段を上がっている最中は、息も苦しくて限界のように感じられたが、終わってしまうと今年も楽勝で、足も呼吸も全然平気だ

石段の下を見ると、のらちゃんも数秒差で登ってきた。大したものだ。と言うか、ほとんど良い勝負じゃん。

(幹事長)「ここでお参りするよ」
(のら)「えええええーっ!?お参り!?しんどいよー!」

ここまで来てお参りしないとバチが当たる。お賽銭は持ってきてないが、手早く参拝する。

その後、通過証を貰って下りに入る。時計を見ると、上りはギリギリで12分を切っている。下りを8分で走れば合計で20分を切れる。上りが12分なら下りは半分くらいで行けそうに思えるが、下りは上りより楽と言えば楽だけど、滑ったら大怪我をするので、精神的には緊張する
最近は老化の進展により、何も無い平らな道でも躓いたりするくらいなので、石段で躓く恐れは大きく、油断は大敵だ。それに石段は急なため、足への負担も思った以上に大きくて、足を故障しそうでとても走りにくい。

最初の急な石段を下りて後ろを確認すると、のらちゃんが大きく出遅れている。一段飛ばしが怖くて、飛ばさずに一段一段降りてくる。

(幹事長)「一段飛ばしで降りてこないと、置いてくよ」
(のら)「ええええええーっ!?一段飛ばし!?怖いよー!」

仕方なく、と言うか、腹を決めたのらちゃんは一段飛ばしを始め、なんとかリズムと要領を掴んで飛び降りてくる。
こわごわと石段をしばらく駆け下りていくと、フラットな桜馬場の区間に出る。ここは緊張感を休めながら気持ち良く走ることができる。

五人百姓の前を通り過ぎると再び急で狭い石段が延々と続く。速いランナーは、こういうところを2段飛ばしでピョンピョンと跳ぶように降りていくところだが、私はそんな怖いことはできない。
速いランナーはとっくに前方に消えているから、周囲の参加者は、みんな慎重に一段づつ下りている。そういう遅い人たちや、一般の観光客をかき分けながら、緊張感を持続させつつガンガン降りてく

慎重に下りているつもりだが、それでも一段飛ばしで下りていると、かかとが石段に引っかかったりしてヒヤリとする事も多い。足を前向きにして下りると足が引っかかりそうになるので、体を横向きにして一段飛ばしで下りていく。結構、走りにくいが他のランナーを次々と追い抜いていくのは気持ちいい。

なんとか転ぶこともなく急な石段が終わり、最後の短いフラットな区間になった。急な石段の下りでは神経はすり減らしたけど、体力的には全く消耗しておらず、元気が余りまくっているので、フラットな区間は全力疾走する。とても気持ち良い。

ソフトクリームを両手にゴール


下りの走りをマスターしたのらちゃんも数秒遅れでゴールした。

タイムは私が18分55秒だった。20分を切れて嬉しい。過去2回は、今回ほど気合は入れてなかったけど、それでも自己ベストなので、とても嬉しい

のらちゃんも19分4秒だった。あと4秒で19分を切れていたが、彼女は20分を切れたことに感動して、全然気にしていない。それより、結局、僕と10秒も違わなかったんだから、かなり怖い存在だ。少なくとも、ハーフマラソンなら、近い将来、負けるだろうなあ。

ゴールすると、通過証と引き替えに金比羅さんのお守りと、うどんかソフトクリームの引換券と、地元の名産おまんじゅうを貰える。ゴールした後は引換券でうどんを食べようと思ってたけど、激しい運動をした後なので、ちょっとうどんを食べる気が起きず、逆に冷たいソフトクリームを食べたくなったので、おいりをまぶした可愛いソフトクリームを貰って食べた。自己ベストを出せた喜びと相まって、美味しかった。
ただし、しばらくしたらお腹が空いてきたので、近くのうどん屋でお昼を食べた。

て事で、2年ぶりに出たこんぴら石段マラソンは、思った通り楽しかった

そして次はいよいよ年間で最難関のレースである龍馬脱藩マラソンだ。他のマラソン大会なら、直前になるとやる気が湧いてきて気合が入るところだが、あまりにも厳しいレースだから、直前になると気が重くなってくる。4年連続の大惨敗になりそうで怖い!


〜おしまい〜




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