第67回 丸亀マラソン大会
2013年2月3日(日)、第67回香川丸亀ハーフマラソン大会が開催された。
毎年、ペンギンズの初レースは1月の満濃公園リレーマラソンだけど、あれは動物チームで出る遊び半分の行事であり、真剣勝負のレースとしては、この丸亀ハーフマラソンが初レースとなる。
このレースは、ほとんど坂が無い日本陸連公認コースを走る高速レースとして全国的にも名高く、女子のハーフマラソン日本人最高記録は、7年前のこのレースで福士加代子が出したもので、歴代2位は同じレースで競り合った野口みずきが出したものだ。また、男子のハーフマラソン日本国内最高記録も、モグスが6年前のこのレースで出したものだ。
そういうこともあり、このレースは以前から人気が高かったが、昨今の異常なまでのマラソンブームのせいで、毎年、さらに参加者が急増している。でも、このレースは会場の丸亀陸上競技場が大きいこともあり、定員オーバーで申し込みを打ち切るなんてことはなかった。一応、定員は1万人なんて書いてあるけど、そこまで達してなかったことや、多少、オーバーしても問題ないってことで、定員オーバーなんて事態は我々は全く想定してなかった。
だから今回も、9月1日から申し込み受付が始まり、メンバーが次々と申し込みを済ませていっても、僕は呑気に構えていた。どうせいつかは申し込みはするんだから、忘れないうちに早めに申し込んでおいても良さそうなものだけど、もし万一何か用事が入って出られなくなったときのために、申し込み締切の12月21日ギリギリまで様子を見ようと思っていたのだ。
ところが、10月下旬になって、早めに申し込まないと駐車場も確保できなくなるっていう話を聞いて慌てて申し込んだ。丸亀競技場には広大な駐車場があり、以前は、そこが満杯になるなんてあり得なかったんだけど、最近は参加者が増えたもんだから申し込みが遅いと駐車場も無くなるらしい。で、慌てて申し込んだんだけど、まだ締切まで2ヵ月もあるというのに、既に駐車場は一杯になってて確保できなかった。がーん。まあ、それでも、この時点では参加申し込みに問題は無かった。
ところが、11月上旬のある日、朝、テレビをボケーっと見ていると、ニュースで突然「丸亀マラソンの参加受付が打ち切られました」なんて言ってる。一瞬、何の事か分からなかったが、定員の1万人に達したため打ち切ると言うのだ。こんな事態は丸亀マラソンでは前代未聞だ。ひえ〜。受付終了間際になって1万人に達したくらいなら、敢えて打ち切りなんかはしないだろうけど、まだ1ヵ月以上もあったから、このままだと大幅に超過しかねないので、早めに打ち切ったんだろう。かろうじて僕は受付を済ませていたので良かったけど、この抜き打ち的な突然の申し込み受付終了のために、僕の周辺でもエントリーができなかったという人が続出している。マラソンブームにも困ったもんだ。
そして、不可解なのが、事前エントリーは受付を打ち切ったものの、なぜか大会前日のエントリーは可能なのだ。これって、一体なんなんだろう。事務処理的には、どう考えても事前にやっておいた方が楽なのに、事前エントリーは終了して前日エントリーは受け付けるだなんて、どういう理由なんだろう。通常エントリーの場合、参加料は5000円なんだけど、前日エントリーは1000円増しの6000円になるから、少しでも稼ごうということだろうか。たぶん、それは違うだろうなあ。(そもそも、以前はこの類のマラソン大会は参加料はせいぜい2〜3000円だったのに、最近は相場が上がって、平気で5000円くらい取るなあ。フルマラソンだと平気で1万円なんか取られるし。そういう話をすると、マラソンなんかやらない人は「なんで、そんな大金を払って、わざわざ好き好んで苦しい思いをするんだ?」って不思議がられるけど)
事前エントリーの受付を打ち切りながら、前日のエントリーを受け付けることの理由が不可解だったので、大会の関係者に疑問をぶつけてみたら、明快な回答が返ってきた。まず、事前エントリーの受付の打ち切りだが、我々からすると、広い丸亀競技場を使うのだから、1万人なんて言わず、もっと参加者を増やしても大丈夫な気がするが、1万人が限界らしい。東京マラソンや大阪マラソンなんて3万人も参加するのに、って言ったら、行政側の金のかけ方というか人の投入の仕方が違うから、地方では限界らしい。確かに地方のレースでは多くても1万人が限度のものが多い。で、締切ギリギリになって多少オーバーしたくらいなら許容範囲だが、加熱するマラソンブームのせいで、今回は11月早々には1万人を超えてしまい、このまま12月末まで受け付けていたら大幅にオーバーしそうになったから、突然ではあったが、早々に打ち切ったらしい。まあ、これは仕方ないのかも。
それなのに前日受付があるってのは、そうは言っても、どうしてもどうしても参加したいって言う熱心な参加者のための救済措置なんだそうだ。わざわざ前日に現地に足を運んでも、どうしても参加したいっていう熱心な参加者だけは救ってあげようということらしい。ふむ。そういう事なら納得してしまった。もっともな理由が分かってスッキリした。
とは言え、このレースに、こんなに大勢の人がエントリーするなんて、今だに信じられない。このレースは今年で第67回だなんて言ってるが、これは嘘だ。第1回から、ずうっと出ている私が言うのだから、間違いない。第1回は1997年だから、本当は今年が第17回だ。信じられない人は、第2回や第3回、第4回の記事を見てみよう。その頃は、ちゃんと第2回とか第3回とか第4回と名乗っていた。それが突然、第5回の年に第55回と、なんと50回も上げ底されたのだ。
(石材店)「ところで、なんで記念すべき第1回の記事が無いんですか?」
(幹事長)「僕は出たんだけど、まだペンギンズを結成してなかったんよ」
もともと、昭和22年に第1回目のレースとしてフルマラソンが開催されたのは事実だ。そして、それは第14回まで続いた。しかしその後、第24回までは35kmレースになった。なぜこんな中途半端な距離になったのは意味不明だが、この中途半端な距離のため、一般の参加者は少なくなったと思われる。このため、その後、第50回までは20kmレースになり、香川ロードレースという名前の、専門の陸上競技関係者しか出ない地味な大会になった。一般市民が参加するようなレースではなくなっていたのだ。
ところが、1997年に丸亀城築城400年記念大会として装いも新たに第1回ハーフマラソン大会が開催され、それまで数十人しか出ていなかったレースが一気に千人程度の大会になったのだ。第3回大会からは、会場がそれまでの古いボロい陸上競技場から新しい丸亀陸上競技場に移り、一気に華やかになった。とは言え、コースは毎年、意味不明なまでに変わり、農道に毛が生えたような道を走ったりする田舎の市民レースだった。毎年、コースが変わるから、コースを間違えるランナーが続出していた。それが第4回からは日本陸連公認のマラソンコースが採用され、レースの基盤が固まり格付けも上がり、招待選手も一気に増え、一般参加者も増え、第5回には高橋尚子様がシドニーオリンピック後の初レースということで全国的な注目を集めた。そして、その時、ドサクサに紛れて回数が昭和22年から通算されて一気に第55回になったのだ。理由は、もちろん、数が多い方が伝統がある由緒正しいレースのように聞こえるからだ。
ま、別に、回数の上げ底を非難している訳ではなく、ほんの10年ちょっと前まで農道を走っていた田舎の草レースの頃を知っている僕としては、1万人以上が申し込んで定員オーバーになるってのが信じられない、というか、いくらなんでも加熱しすぎじゃないかなあって思っているのだ。参加者が多すぎて、スタートの合図が鳴ってからスタート地点までたどり着くのに時間がかかるとか、スタートしてからもしばらくは大混雑で走りにくいとか、給水所で水を取るのも一苦労だとか、駐車場も更衣スペースも大混雑とか、記録証を受け取るにも長蛇の列だし、うどんを食べるのも長蛇の列だし、何かと疲れるのだ。
(幹事長)「何が嬉しくて、みんな金払ってまで苦しい思いをして走るんだ!?」
(石材店)「自分の胸に手を当てて考えてください」
(ピッグ)「大会が盛況になるのは喜ばしいですけどね」
(幹事長)「確かに、参加者が少なくなって寂しくなるのは困るけどね」
参加者は急増を続けているんだけど、我がペンギンズからの参加者は相変わらず増加の気配が見えない。今年の参加は僕と支部長、ピッグ、國宗選手、ゾウ坂出ってとこだ。
石材店は申し込みはしてたんだけど、子供の行事があってやむなく欠場となった。矢野選手は、今年もペースランナーをしているのでランナーとしては参加しない。先日の満濃リレーに出た國宗選手の元上司のクマさんも出るんだけど、別行動となった。
てことだったんだけど、レースの数日前になって國宗選手がやってきた。
(國宗)「すんません。足の指を負傷してしまったんで、レースには出られないかもしれません」
(幹事長)「げげっ、何しよったん?」
(國宗)「支部長に連れられてスキーに行って負傷したんです」
なんと、レースのちょうど1週間前に、支部長は國宗選手とヤイさんと一緒にスキーに行ったとのことだ。
(幹事長)「大事なレースの1週間前にスキーに行くなんて、とんでもない!一体どういう心づもりなのかっ!」
(支部長)「自分やって去年までは休日になるとスノボーに行ってたやない」
(幹事長)「でも1週間前には行ってないぞ」
(支部長)「ほんとにぃ?」
(幹事長)「たぶん。忘れた」
國宗選手の指は内出血で黒くなってて、ちょっとでも何かに触れると激痛が走るようだ。これはちょっと出場は無理かもしれない。
(支部長)「大丈夫大丈夫。私なんかレースが終わると、いつも足の指は内出血してますよ」
(幹事長)「それは走った後だろ?走る前から内出血してたらいかんだろ。
て言うか、走るたびに内出血するんは支部長くらいやで」
最近の大きなレースは、レース当日だけでなく、レース前日も受付できる場合が多い。東京マラソンや京都マラソンなんかは前日しか受付できなくて困るが、前日も当日もOKてのが、少しでも混雑が緩和されるから一番よろしい。で、今回は、レース前日、丸亀の実家に用事があったため、ついでに前日受付を済ませた。朝の10時から受け付け開始ってことだったので、10時ジャストに行ったら、もう既に大勢の人が来てて、受付は長蛇の列だった。
(幹事長)「なんでアホみたいに前日から受付に殺到するんや!?」
(石材店)「自分の胸に手を当てて考えてください」
当日に手荷物を預ける袋もくれたが、70cm×50cmの大きな袋だ。それなのに、その中に入っていたのは大会パンフレットと参加者名簿の2冊だけ。それ以外は何の記念品もオマケも無い。別に記念品が欲しい訳ではない。ほとんどのマラソン大会は記念品にTシャツをくれるんだけど、最近のTシャツは丈夫なので、これがどんどんたまっていく。毎年5〜10レースくらい出ているから、毎年、それくらいの数のTシャツがたまっていく。オリーブマラソンなんかはタオルをくれるんだけど、昔は大きなタオルだったのでバスタオルに使えていたんだけど、最近は小さめになってきてバスタオルにはちょっと小さすぎる。てな事で、よっぽど珍しいレースはべつとして、普通のレースはもう記念品は不要だと思う。記念品を無くす代わりに高騰を続ける参加料を安くして欲しい。ところが、今回、参加料は5000円と高いままで記念品を無くすとなると、これは許されないのではないか?
(幹事長)「私は断固許さないぞ!」
(支部長)「何言うとん。去年もTシャツはゴールした後にくれたやないの」
おや?そうだったか。そう言われてよくよく思い出してみれば、確かにそうだった。ゴールして疲れているのに、記念品をもらうのに長蛇の列でイライラしたのを思い出した。
(幹事長)「別の意味で腹が立ってきたぞ」
(石材店)「歳取ると怒りやすくなってきましたねえ」
でも、なんでゴールしてから記念品をくれるんだろう。タオルならゴールしてから肩にかけてくれるレースもあって、あれはなんとなく嬉しいんだけど、ゴールしてから長蛇の列に並んでTシャツもらうくらいなら、受付の時にくれたらいいのに。
ほかにも、去年はパンフレットと一緒にスニッカーズのチョコバーのミニサイズなんかがオマケで入っていたが、今年は何も無い。別にオマケがどうしても欲しいって訳ではないけど、小豆島のレースなんかだと醤油とかジュースとか名産品がいっぱい入っているのに、何も無いってのは寂しい。
(石材店)「丸亀の名産で何が欲しいんですか?丸亀うちわ?」
(幹事長)「骨付き鳥」
前日にはゲストの高橋尚子さまによるランニング教室もあったんだけど、実家の用事があって参加できなかった。4年前の大会でも、前日に高橋尚子さまのランニング教室があったんだけど、その時は、僕等はペースランナーとして大会運営のお手伝いをしていたので、ランニング教室でも高橋尚子様の助手としてお手伝いし、楽しいひとときを過ごすことができた。なので、ま、今回は参加できなくてもいいか。
レース当日の朝は、今回も支部長が迎えに来てくれる。最近、あらゆるレースで支部長のお出迎えに甘えている。本当に恐縮している。
(支部長)「恐縮しているんなら、せめて家の前に出て待っといてくれる?」
(幹事長)「だって寒いんだもーん」
支部長の車には、既にピッグと國宗選手が乗っている。 一時は参加が危ぶまれた國宗選手は、根性で出場するようだ。根性のカケラも無い僕なら無条件で欠場するところだけど。
(幹事長)「足の指は大丈夫?」
(國宗)「ちょっとでも当たると痛いからガーゼでグルグル巻きにしてるんですよ」
(幹事長)「それって走りにくくない?」
(國宗)「痛いよりマシですから」
時間は8時過ぎだ。順調に行けば9時過ぎには到着できる。
(支部長)「ちょっと早いんと違う?受付は9時半までOKやし、スタートは10時50分やで」
(幹事長)「一昨年の記事を読み返していたら、一昨年はギリギリに行ったら、せっかく近場の駐車券を確保していたにもかかわらず、
近場の駐車場が満杯になってて、かなり遠い不便な駐車場へ停めさせられたって書いてるんよ。
受付時間終了間際に駆け込むことをモットーとする私らのポリシーから言えば早すぎるけど、遠くへ停めさされるよりはマシやろ」
(ピッグ)「て言うか、ちっとも早くないですよ。もうギリギリですよ」
今日は本当に良い天気。一昨日までは冷たい雨が降っていて、昨日の午後から天気は回復したけど、今度は異常な高気温になり、春のような陽気で、走るには暑すぎた。でも今日は天気も快晴だし気温は低めだし風は無いし、もうこれ以上は望めないような絶好のマラソン日よりだ。
今年の冬は、どう考えても異常な寒さで、3年間青森で越冬して寒さに強い肉体になった私でも、もう寒くて寒くて外へ出るのが億劫になる冬だ。丸亀マラソンは2月初旬という一番寒い時期のレースなので、寒かったらどうしよう、なんて心配してたんだけど、本当にちょうどいい天候だ。それに、いくら晴れてても、この時期は西風が強いことが多く、後半は西に向かって走るので、疲れた身体に向かい風が厳しいのだけど、今日は風もほとんど無い。
(幹事長)「俄然、やる気がみなぎってきたぞ。今日は快走するぞ」
(支部長)「天気が良いのは分かるけど、だからと言って快走できるとは限らない。裏付けとなる練習は出来てるの?」
(幹事長)「今だかつて、我々が十分な練習を積んでレースに臨んだ事例があっただろうか?」
もちろん、練習は、それほどできていない。練習不足は毎度のことではあるが、最近は精神的な弱さで冬場の練習をサボっているだけではない。去年11月の小豆島タートルマラソンでフルマラソンの大会自己ワースト記録を出す屈辱的な大敗を喫してから、立て直そうと頑張ったりもしたんだけど、最近、練習量を増やそうとすると足のあちこちが痛くなるのだ。10月に痛めた足首だけでなく、膝や股関節やらが痛くなるのだ。もちろん、痛みを堪えて無理してまで走るような精神力は持ち合わせて無くて、ちょっと痛くなるとすぐに止めるので、大きな故障には結びついてないけど、その結果、結局は従来と同じ程度の練習しか出来てないのだ。
(幹事長)「練習したいのに出来ないって、一体どうすればいいんやろ?」
(支部長)「この歳になって十分な練習をしようという発想自体が間違ってる」
(幹事長)「えっ?そうなのか?体に悪いから無理して練習するのは控えた方が良いのか?
それを聞くと、なんだかほっと一安心するなあ」
(ピッグ)「どういう発想ですか」
丸亀へ向かう途中で坂出のゾウ坂出を迎えに寄る。今回、みんな申し込みが遅くて駐車券をゲットできなかった中で、よい子のゾウ坂出だけが申し込み受け付け開始と同時に申し込み、近くの駐車場の券をゲットしたのだ。
(幹事長)「ゾウさん練習できてる?」
(ゾウ)「来週は坂出天狗マラソンもあるから、プレッシャーあるんですよねぇ」
実はゾウさんは、1月初めの満濃リレーの後も、坂出市内の地区対抗駅伝にも出ているし、今週の丸亀マラソン、来週の坂出天狗マラソンと、ここんとこぶっ続けてレースに出るから、結構、真面目に練習しているんだけど、逆に疲労気味だそうだ。ただ、ゾウさんは去年、遂にこのレースで2時間を切り、一気に僕や支部長の強敵となったので、侮るわけにはいかないのだ。
(幹事長)「支部長は練習以外で疲労が溜まってるみたいやな」
(支部長)「先週はスキーで、昨日はテニスで、足がパンパンやなあ」
(幹事長)「去年の借りを返す絶好のチャンスやな」
去年はハイペースで飛ばす支部長に対し、どうせそのうち力尽きて失速するやろと思って先を泳がせていたら、そのままゴールまでハイスピードで泳ぎ切ってしまい、惨敗したのだ。なので、今年は少なくとも、絶対に支部長に先行させてはいけないのだ。
(幹事長)「1週間前にスキーに行って、前日はテニスをするような不心得者に負ける訳にはいかんからな」
(支部長)「だから、自分やって似たような事してるやんか!」
参加者が激増した関係なのか、道路も妙に混んでいて、結局、レース会場の丸亀競技場へ着いたのは受付締切が迫る9時半頃になっていた。それでも、ゾウさんが早めに申し込んでくれてたおかげで競技場に近い場所に駐車することができたので助かった。
会場へ着いて受付へ向かう。受付は長蛇の列、かと思ったら、昨日より空いていた。よう分からん。みんな前日に来たんか?
荷物は預かってくれるんだけど、大して貴重品も無いし、いつものようにスタンドに陣取る。ところが、メインスタンドは下にこぼれ落ちそうなほど人が溢れかえっていて、バックスタンドの方に追いやられる。
移動する時に、隣のサブグランドの方を見たら、ものすごい数のランナーがウォーミングアップをしている。あまりの数に圧倒される。
(國宗)「あれじゃあ、ウォーミングアップする場所も無いですねえ」
(幹事長)「何を言うか。我々は決してウォーミングアップによる無駄な体力の消耗はしない主義を貫き通しているのだぞ」
(支部長)「そうだそうだ」
(ピッグ)「そうだ」
(ゾウ)「そう、なんですか?」
バックスタンドからメインスタンドを見ると、1階に人が溢れかえっているのが分かる。2階は空いているように見えるが、実は2階は預けた荷物の置き場になっているのだ。最終的には2階の荷物置き場も満杯になっていた。
バックスタンドに上がっても風はなく、天気が良いから寒くない。この時期は、寒い年は、時折雪が散らつき寒風が吹き付けて、寒さで体中がカチコチになって厳しいレースになるが、今日は全く心配ない。昨日に比べれば気温もぐっと下がったので、ちょうどいい感じだ。
(支部長)「て言うか、なんとなく暑くなるかもしれんなあ」
(幹事長)「う〜ん、このまま風が無くて雲も無い状態が続けば、気温はグングン上がるかも」
もちろん僕は寒いよりは暑い方が好きだ。汗かくのは嫌いではない。ただ、好きなのと早いのとは関係なく、やっぱり暑いと遅くなる。こうなると、またまた着るもので悩んでしまう。
実は今日は着るものでは悩まない予定だった。去年は中途半端に寒かったため、長袖の上から半袖を重ね着して、スタートラインに立ってから暑くなって、慌てて1枚脱いだりした。去年のタートルマラソンでも同じように、いったんスタートラインに並んだ後で、暑くなって慌てて1枚脱いだ。で、今年はそういうドタバタを避けるために、長袖シャツの上には半袖シャツではなくてランニングシャツを着たのだ。これなら長袖シャツだけよりは暖かいが、暑くなるって事態も避けられる。多少、暑くても寒くても対応できるベストな組み合わせだ、と考えたのだ。ところが、雲一つ無い空を見上げていると、これでも暑くなりそうな気がしてきた。なんちゅうても風がほとんど無いし。
(幹事長)「う〜ん、困った。何を着よう」
(支部長)「私はどんな天候でも着るものは同じでっせ」
支部長は今日も長袖シャツを着て、下はランニング用タイツを履いている。
(幹事長)「今日の天候で、そんなに着たら絶対に暑くなるで」
(支部長)「いやいや、もう慣れてるから」
支部長と言えば暑がりの汗っかきで、いつも脱水症状になるのに、大丈夫なのかなあ。ただ、去年も暑さで絶対に失速すると思ったのに、最後までペースを維持して快走したから、体質改善したのかもしれない。
支部長だけでなく國宗選手もゾウさんもタイツを履いて、二人ともアームウォーマーを着けている。みんな帽子も被っているし、手袋もはめると言う。
(幹事長)「それ、絶対に暑くなるって」
(ゾウ)「アームウォーマーは暑くなったら簡単に取れますから」
(幹事長)「取ってどうすんの?道ばたに捨てるの?」
(ゾウ)「沿道に母親が応援で出てきてるはずだから渡します」
う〜ん、どうしよう。
(幹事長)「今日はなんだか行けそうな気がする。ここは気合いを入れて、本気モードで戦うことにして、できるだけ軽装にするぞ!」
てことで、長袖シャツはやめて半袖シャツの上にランニングシャツを着る。ランニングシャツを着る必要も感じないんだけど、下を短めの本気モードのランニングパンツにしたので、上もおそろいのユニフォームにしたのだ。
(ピッグ)「それって青森で陸上部を創部して作ったユニフォームですね」
(國宗)「おっ、ランニングパンツには、あおもりって書いてるじゃないですか」
(ゾウ)「わざわざ青森から来たみたいですね」
青森の会社で補助金をもらって作ったユニフォームだ。格好いいと言えば格好いいんだけど、あまりにもプロっぽいので、これで遅かったら、かえって無様で恥ずかしい。
(支部長)「そこまでするんなら半袖シャツもやめたら?」
今日は絶対に暑くなりそうな予感がしてきたので、半袖シャツも脱いでランニングシャツだけでも良いような気もしてきたんだけど、ただ、そうなると、まるでプロランナーみたいになるのが、逆に恥ずかしい。今どき、市民ランナーで早い人は、大半の人がランニング用タイツを履いたりしてて、短いランニングパンツにランニングシャツっていうのは、トップクラスのプロ級ランナーだけになってきた。なので、本当は走りやすいのは分かってるんだけど、さすがに恥ずかしくてそこまでは徹底できない。
それから帽子は嫌いなので雨天以外には被らないし、今日は手袋も不要だ。ピッグだけは僕と同じように、タイツも帽子も手袋も無しだ。厚着組と薄着組の勝敗は、いかに?
厚着組(左)と薄着組(右)に分かれたペンギンズ精鋭軍団
(左から國宗選手、支部長、ゾウ坂出、ピッグ増田、幹事長)
ゾウさんは、ふくらはぎに怪しいゼリー状のものを塗っている。
(幹事長)「それ、なに?ワセリン?」
(ゾウ)「筋肉疲労を予防するらしいんです」
(幹事長)「それって効果ある?」
(支部長)「そういうものは効くと思う人にだけ効くもんやな」
基本的に疑い深い私は、そういうプラシーボ効果が効かないのだが、今日は短いランニングパンツを履いているだけで、なんとなく足が寂しいから、ちょっと借りて塗ってみる。
それからランニング用のゼリーを摂取する。朝食を食べたのは家を出る前だから、かなり時間が経っている。このレースはスタート時間が遅いから、ここらで栄養補給しておく必要があるってことで、去年から食べることにしている。
(幹事長)「う〜ん。やっぱり旨いなあ。なんだか元気も沸いてくるような気がするし」
(支部長)「そうそう、その心理的効果が大事なんよね」
う〜ん、やっぱりこれもプラシーボ効果なのかなあ。支部長は、あと2つもウエストバッグに入れている。
(幹事長)「そんなに入れたら重いやろ?」
(支部長)「別に気にならへんよ」
しかし、慣れているとは言え、支部長のウエストバッグには他にも携帯電話やら重そうな物が詰まっている。これはハンディにならないのだろうか?
天候も良いので、まったりしてたら、動きが出てきた。プロ級の人達のスタート時間が近づいてきたようだ。
今年も招待選手にはすごいランナーが揃った。女子はロンドン五輪金メダリストのゲラナ(エチオピア)、赤羽有紀子(ホクレン)らが招待され、また男子はロンドン五輪銀メダリストのキルイ(ケニア)らが招待された。こういう有名選手は、もちろん招待するから来るんだけど、ほとんど坂が無いコースを走る高速レースとして良い記録が出やすいというのも有名選手が参加する理由だ。
で、最近はプロ級が走る部門と我々下々の者が走る部門とは、スタート時間が異なるようになった。プロ級がスタートして15分経ってから我々がスタートするのだ。1万人ものランナーが一斉にスタートすると、混雑がひどくなってプロ選手にとっては何かと不都合が多いだろうから、まずはプロ選手のレースをスタートさせ、その後、一般の市民マラソンをスタートさせるのだ。
ただ、その間に3kmの部が行われるのが、ちょっと理解に苦しむ。3kmの部なんて、すぐ終わるんだから、我々がスタートした後で行えばいいのに。て言うか、なんでいつまでも3kmの部なんてどうでもいいような部門があるんだ?
これについても、疑問だったので大会関係者に聞いてみた。その回答は、競技としては3kmレースなんか本来はどうでもいいんだけど、3kmレースは中学生とかが多数参加するから、これを開催することによって学校関係者にボランティアというか運営の応援を要請することが出来るのだそうだ。大会規模が膨れあがって、そうでなくても運営の手が足りなくて困っているような状況なので、3kmレースを止めて学校関係者の協力を得られなくなったら大会が成り立たないらしいのだ。なるほど。色々と事情があるもんだなあ。
(國宗)「そろそろ私らも集合場所に行きませんか」
(幹事長)「まだ早いんちゃうん?集合しても退屈やで」
(支部長)「でも決められた時間に集合せんと最後尾に並ばされるらしいで」
て事なので、まだスタートまで30分もあるのに、渋々集合しに行く。例年だとコートを脱いで集合すると寒いんだけど、今年は風も無いので、早々に集合しても寒くはない。おまけに集合したグラウンドの中は、すごい人混みのために、むしろ暖かいくらい。
集合場所では予想タイムのプラカードが並んでいて、自分が予想するタイムのところに並ぶことになっている。タイムはICチップによりネット計測してくれるので、何も焦って前の方からスタートする必要はなく、むしろ前の方からスタートすると、大混雑で思うように走れないから、後ろの方からゆっくりスタートしたほうが空いていて走りやすいようにも思うが、それは以前のように参加者が少ない時の話だ。今みたいに1万人以上が参加するようになると、後ろの方からスタートしたって混雑していることに変わりはなく、しかも後ろの方からスタートした人は最初からまるでやる気なんか見せずに仲間同士でおしゃべりしながらゆっくり走ったりする人も多いから、収拾が付かなくなる。なので、やっぱり正直に自分の目標タイムのところに並ぶのが一番よろしい。自分と同じペースのランナーと一緒に走れば、邪魔なランナーを追い抜く必要も無ければ、後ろから抜かれる事も無いので、秩序良く走ることができる。
て事で、僕等は1時間45分のプラカードのところに並ぶ。しかーし、僕等より前に、アホみたいに沢山の人がいる。
(幹事長)「これ、ほんまか?みんな真面目に並んでるか?わしらより速いランナーって、本当にこんなに沢山いるのか?」
(支部長)「全く見当がつきませんなあ」
どう見ても何千人ってランナーが僕等より前に並んでいる。いくら参加者が増えたからって、本当にこんなに沢山、速いランナーがいるのか?
ふと横を見ると、隣に立っているお姉さんのシャツが格好良い。Tシャツなんかじゃなく、もっとしっかりしているんだけどスッキリしている。背中の腰の辺りにポケットが付いているから自転車用か?
(幹事長)「あのシャツ格好ええなあ」
(支部長)「あれは自転車用やな。ポケットが付いてるから便利やで」
(國宗)「しっ!そんなに大きな声で話していたら聞こえますよ」
シャツも格好良いけど、ランニングパンツも僕と同じように超短い黒いランニングパンツを履いていて、足がスラッとして、すごく格好良い。体型が均整が取れている。
(幹事長)「やっぱりトライアスロンとかやってるんかなあ。格好ええなあ」
(支部長)「うん、絶対にトライアスロン系やなあ。私と同じ臭いがする」
(幹事長)「おっさんの臭いと一緒にしたら、あかんで」
(國宗)「最近の女性ランナーは大半がタイツを履いてますけど、幹事長と同じように本気モードの短いランパンですねえ。
招待選手とかプロ級のランナーはタイツなんか履いてないですからねえ。やっぱりプロ級じゃないですか?」
なんてヒソヒソ話してたら、突然その女性がこっちを向いて
(女性)「違いますよ!タイツは足を締め付けるのが嫌いだから履いてないんですよ」
(幹事長)「うわ、聞こえてましたか!」
(ゾウ)「それだけ大きな声で話してたら、まる聞こえですよ」
自転車用のシャツを着ているだけあって、やっぱりトライアスロンもやっているとのことだ。トライアスロンやると、体型が良くなるのかなあ。
(國宗)「でも幹事長も、よくよく見ると速そうな体型してますねえ」
(幹事長)「そやろ?そやろ?絶対にマラソン向きの体型してるやろ?」
(ピッグ)「そうですよねえ。細くて背が高くて、いかにもマラソンランナーって体型なんですけどねえ」
ほんと、体型を考えると、ストライド走法でスイスイ走れそうなんだけどなあ。現実は厳しい!
スタート時間も近づいてきたので、今日のレースの目標を設定せねばならない。もちろん、どんな時でも、どんなレースでも、大会自己ベストの更新は当然の目標だ。特に今日は絶好の天候なので、ぜひとも大会自己ベストを狙わねばならない。それと合わせて、当然ながら永遠のライバルである支部長とピッグには勝利せねばならない。
支部長は1時間45分を切れるかどうかでヤイさんと賭けをしてて、負けた方が勝った方に鰻丼を奢る約束になっているそうだ。我々にとって1時間45分は、結構、厳しいタイムだけど、支部長は去年は調子よかったから、その流れを維持すれば不可能と言い切れない。1km5分のペースを終盤まで維持し、かつ最後にスパートできれば達成可能なタイムだ。
去年のレース展開を振り返ると、序盤はみんな同じように1km5分くらいのペースで走っていたが、まず僕が脱落した。ただ、支部長には序盤でリードを許したとしても、終盤には必ず期待を裏切らずにガクンとペースダウンして、最後には逆転できると信じていたから焦りは無かった。ところが最近は地道なトレーニングの成果により、ペースダウンの度合いが緩くなり、特にこの丸亀マラソンは坂が無いため坂に弱い支部長でも最後までペースダウンせず、ついに去年は先行逃げ切りを許してしまったのだ。
(幹事長)「よって今年は、何があっても支部長にリードを許してはならない作戦を展開することにする!」
(支部長)「いや、今年は私は最初から飛ばしませんよ」
ふむ。支部長はテニスの疲れが残っているようで、あんまり勢いは無いようだ。では、序盤から支部長が脱落した場合に、どういうレース展開で勝負に臨むかを考えねばならない。
レース展開でいつも問題となるとは、要するに前半は無理せずにペースを抑えて後半勝負に持ち込むか、最初っから飛ばして突っ込むか、の選択だ。序盤で無理して飛ばすと、絶対に終盤に潰れてしまうから、前半はあんまり無理せずペースを抑え気味に走るのが鉄則、てのは全ての指導者が声を揃えて言っているし、僕自身も過去何十回も前半から飛ばして終盤に失速して惨敗するという痛い体験を山ほどしているから、それくらいは百も承知だ。ただ、それはあくまでも程度の問題なのだ。最初にどれくらい頑張るか、という程度の問題なのだ。
フルマラソンであれば、タイムも重要とは言え、まずは最後まで完走するのが第一目標となるので、最初からゆっくり走ってもいいのだけど、ハーフマラソンでそんなことしてたら、最後までペースは落ちないだろうけど、良いタイムは出ない。当たり前だ。前半にペースを抑えて余裕が残ったとしても、だからと言って後半でペースを上げるなんて事は不可能なのだ。最初から適度に頑張らないといけないのだ。そして、この適度な頑張りってのが難しいのだ。
最初から過度に無理すれば終盤にガクンと落ちるけど、適度な頑張りであれば、終盤までそんなにペースダウンせずにゴールすることができる。終盤にペースダウンしないで済むギリギリのペースってのが重要なんだけど、それがなかなかうまくはいかない。
などと悩んだけど、結局、結論としては、今日は絶好のマラソン日和で好記録が狙えるかもしれないので、勝負に出ることにした。前半からあんまりペースを抑えることなく、多少無理しても飛ばしていくのだ。仮に終盤で潰れても構わない。この絶好の機会を最初から不戦敗することは避けるのだ。
(支部長)「だからゴチャゴチャ言わんと素直に走ればいいんよ」
(ピッグ)「でも大して練習はできてないんですよね?」
(幹事長)「ま、ええがな」
天気が良くて今日は良いタイムが出そうだ、なんて思うのだけど、もちろん、それは勝手に思っているだけで、裏付けとなる練習は出来てない。絵に描いた餅と言うか砂上の楼閣と言うか、単なる妄想だ。しかし、それでも今日は良いタイムが出そうな気がするほど良い天気だ。単なる妄想であっても、心理的な要素は重要なので、精神力で戦うってのも作戦の一つだ。
(ピッグ)「レース本番になると気分が高揚して舞い上がって、なんだか調子が良いような気がして、
調子に乗って最初から飛ばして終盤に失速するというのが、過去のお決まりのパターンですけど」
(支部長)「このレースは17km地点の給水所の水に毒が入ってるから、どっちみに終盤は絶対に失速するんやってば」
支部長は、この17km地点給水所陰謀説を頑なに主張しているが、確かに17km地点辺りからゴールの丸亀競技場までの直線コースでは、それまでどんなに快調に走っていても必ずペースダウンする。少しずつペースダウンするんじゃなくて、いきなりガクンとペースダウンするのだ。この最後の部分は、なかなか自覚できない程度なんだけど、ゆる〜い上り坂になっている。もしかして、その影響かも知れないが、もっと激しい坂があるタートルマラソンに比べてもペースダウンが激しいってのは理解に苦しむところだ。しかし、ペースダウンを恐れていては好記録は出ない。今日はとにかく行けるところまで行ってみよう!
しばらくすると、プロ級の人たちのスタートが終わったようで、我々の大群衆もスタート地点方面へダラダラと動き始める。スピーカーからはゲストの高橋尚子様の声がガンガンキンキン聞こえてくる。すぐ近くにいるように聞こえるけど、たぶんスタート地点にいるんだろう。しばらくダラダラ動いたら、ようやく、はるかかなたにスタートの場所を示す表示が小さく見えてきた。
(ゾウ)「緊張しますよねえ」
(幹事長)「えっ?」
(支部長)「えっ?」
(ピッグ)「えっ?」
なんと、常に堂々として一番緊張とは無縁そうなゾウさんなんだけど、意外にも、すごく緊張するんだそうだ。緊張という言葉に久しくお目に掛かったことがない私としては、羨ましいくらいだ。
(ゾウ)「こうやってスタート時間が近づくと急激に緊張感が強くなってお腹が痛くなるんですよ」
(幹事長)「すごく意外!いつも?」
(ゾウ)「いつも」
(支部長)「私らは、緊張感が無さ過ぎなんですよ」
確かに、余りにも緊張感が無くて、今日もウォーミングアップどころか、ストレッチさえ全くやっていなかった。これで良いタイムを狙おうというのだから、考えが甘い。
いよいよスタートの合図が聞こえたが、スタート地点までは、まだまだ遠いので、動き始めたのは、しばらく経ってからだ。スタート直後には小さい上り坂があるから、遠くを見ると、先頭集団が上り始めたのがに分かる。ものすごい人の数だ。スタート前から自分より前に何千人もいると思うと、なんとなくゲンナリする。
しばらくダラダラ歩いていくと、ようやくスタート地点が近づいてくるが、まだまだ走れる状態ではない。こんなんで大丈夫かいな、なんて思っていたら、さすがにスタートラインを越えた瞬間に走れるようになった。
と思った瞬間、道ばたの高い台の上からQさまが声援を送ってくれているのが見えた。近くのランナー達はQさまとハイタッチしようとして群がって行く。さすがに群衆を掻き分けて近づいて行くのは大変そうなので、ハイタッチは諦めて走り始める。
走り始めたとは言っても、最初は大混雑だから、思ったようなペースでは走れない。でも、そこで焦ってはいけない。最初はウォーミングアップだと割り切って、不必要に他のランナーを掻き分けて追い越したりはしない。そんな事したって体力を使うばかりで大してタイムは良くならない。結構、ゆっくり走った感覚だったけど、1km地点の表示で時計を見ると、思ったよりは遅くない。これくらいのロスなら十分に取り戻せる。
1km地点を過ぎても、かなりの混雑ぶりだったが、まだまだウォーミングアップがわりだ。取りあえず支部長の後ろを着いていくが、人が多くてついついはぐれてしまったりする。ピッグも同じペースで走っていて、前になったり後ろになったりしている。2km地点の表示で時計を見ると、少しはペースが上がっているが、まだまだ混雑のため、ちょっと遅めだ。
そこを過ぎた辺りから、だいぶ混雑は解消されてきて、て言うか、ものすごい数のランナーで混雑は続いているんだけど、だんだん落ち着いてきて、周囲のランナーは同じようなペースのランナーばかりになってきたため、ペースは本調子になってきた。支部長はと言えば、後ろ姿から判断するに、早くも暑さでバテ始めたような気がする。去年のような切れが無い。このペースに着いていったのでは好タイムは狙えない。って事で、早々に支部長を追い越し、ペースを上げた。3km地点で時計を確認すると、1km5分を切る良いペースになってきた。まだまだ、そんなに無理せず自然体で走っているのにまあまあのタイムなので、理想的な滑り出しと言える。やはり、この短めのランニングパンツが走りやすい。ふだん履いている長目のパンツと違って、足にからみついたりせず自由に軽やかに走れる。精神的にも気持ちよく、走っていて実に楽しい。
その後の2kmも1km5分を少し切る快調なペースで走れた。なんと言っても足が軽い。このランニングパンツは本当に爽やかで気持ち良い。
5km地点の手前の土器川を渡るところでは、今年も、かつてのランニング仲間のアイドルの仁ちゃんが声援を送ってくれる。彼女は近所に住んでいるから、例年、その辺りで応援してくれている。毎年思うんだけど、ほんとにいつまで経っても30年前と全く変わらない可愛さだ。
(支部長)「それは言い過ぎやろ?」
(幹事長)「走りながらチラ見するだけやから」
自分まで30年前に戻ったような気分になって元気に走る。5km地点には給水所があって、寒い年は序盤の給水所はパスするんだけど、今日は暑くなりそうなので、まだ喉は渇いていないけど、最初からこまめに水を補給する。ただ、あまりにランナーが多くて、水を取るのに手間取り、少しタイムをロスした。
給水所で少し手間取ったものの、その後も5分を少し切るペースを維持して快調に走り続ける。
しばらく行くと、折り返してきたトップランナーと早くもすれ違う。最近、男子の上位は黒人選手が独占してきたし、今年もロンドン五輪銀メダリストのキルイ選手が来ているから、当然のように黒人選手がトップだと予想していたら、なんとトップを白人選手が走っている。一体だれ?しかも、2位を大きく引き離して独走状態だ。一体だれなんだ?
さらにしばらくすると女子のトップ集団も来た。こちらも白人選手と黒人選手の2人が激しく競り合っている。なんか面白いレース展開になっている。
ふと気がつくと、1時間45分のペースランナーが側を走っている。今のペースを維持できれば、ちょうど1時間45分くらいだから、これに着いていくことにする。
と思ったんだけど、次の9km地点の手前の2つ目の給水所で、再び混雑のせいで水を取るのに手間取っているうちに、すぐにペースランナーを見失ってしまった。気分的には相変わらず気持ちよく快調に走れている感覚なんだけど、水を取るのに手間取ったりしたせいか、この区間は5分をオーバーしてしまった。ここでズルズルペースダウンしてはいけない。
10km地点を過ぎてしばらく行くと、折り返し点だ。今年から折り返し点が200mほど延びた。従来は、最後に競技場へ戻ってから1周半していたのを、今年から半周だけにしたため、折り返し点が遠くなったのだ。
折り返し点ですれ違うランナーを確認すると、意外にも支部長がすぐ後ろを走ってきている。既に序盤でバテているように見えたんだけど、全然、引き離せていない。これじゃあ、こっちが少しでもペースダウンしたら、すぐに再逆転されるか分からない。この支部長の頑張りのおかげで、こっちも緊張感が出てきて、気合を入れることができ、少しはペースも回復した。ピッグの姿は見つけられなかったので、前にいるのか後ろにいるのかも分からない。
ちょっと気合を入れ直したはずだけど、さすがにその後は少しずつタイムは落ちていく。ただ、落ち方はゆるやかなので、このまま行けば好記録が出るのは間違いない。疲れて回りが悪くなった頭で一生懸命予想タイムを計算する。
それにしても、折り返してからすれ違うランナーの数の多さに驚愕する。はるか遠く地平線のかなたまで満員電車のような混雑ぶりが続いている。かつて制限時間が2時間だった頃は、僕等のレベルのランナーにとっては、途中の関門で制限時間に引っかかって回収される恐怖と戦いながらのレースであり、プレッシャーがあるから出ないというランナーも多かったので、僕等より後にはランナーはあんまりいなかった。それが制限時間が3時間になった今は、ランニングを始めたばかりの人でもどんどん参加するようになって、僕等レベルのランナーが上位になってしまい、後から後から、なんぼでもランナーが続くのだ。折り返し点に行くまでも、膨大な数の先行ランナーとすれ違ったんだけど、折り返してからの方が圧倒的に多い。いくら制限時間が3時間に延びたって言っても、ちょっと多すぎる。やっぱり参加者を制限しないと収拾がつかなくなるわなあ。
その後もペースはジワジワと落ちていくが、まだまだ大きくは落ちていない。この調子なら、まだまだ好記録間違いない。
15km地点の手前では、再び仁ちゃんが応援してくれている。行きとは逆の道路の反対側に移動して応援してくれているのだ。
(幹事長)「僕のためにそこまでしてくれるなんて」
(ピッグ)「絶対に他の人のためだと思いますよ」
仁ちゃんの声援もあって、なんとか踏ん張り、最小限のペースダウンにとどめ、いよいよ後、残り5kmだ。ここで早めのスパートをかけてペースアップしたら快記録が出る。と頑張ったつもりなんだけど、次の1kmは、なぜか少し遅くなっていた。ううむ、おかしい。さすがにペースアップは無理なのか。そして、いよいよ最後の魔の直線コースだ。支部長の毒水説を信じるわけではないが、ここまで来たら水なんか飲まないでも影響はない。少しでもタイムロスを防ぐために最後の給水所はパスして、一気に直線コースを駆け抜ける。主観的にはそんなに足が重くなった気もしないし、まずまず頑張れている感覚。
なのに、あれれ、次の1kmはだいぶ遅くなっている。こんなにペースダウンしては快記録は出ない。いかんいかんと思って気合いを入れて頑張るんだけど、その次の1kmも、さらに遅くなっていく。これは一体、どうした事だ。明らかにおかしいではないか。感覚的には、まだまだ快調なんだけど、周りを見れば、次々の他のランナーに追い越されていく。明らかにペースが落ちている証拠だ。
残り3kmになり、もうがむしゃらにスパートするんだけど、それは気持ちの上だけであって、ペースはますます落ちていく。さすがに実感としてもペースが落ちているのが分かるようになってきた。足の動きが明らかに悪くなっている。でも、滅多にない好記録のチャンスなんだから、ここで頑張らないと絶対に後悔すると思って必死で頑張る。
ここで中学校の時の同級生の女子から思いがけず声援をもらう。つい1ヵ月に同窓会があり、久しぶりに再開した子だ。(もちろん、私と同い年なので“子”ではありませんが)
(女子)「うわ、すごい、速いやん。頑張って!」
(幹事長)「えっ、あ、うん」
ちょっと驚いて、ちょっと気持ちも新たになり、盛り返すことができた。ような気がした
もちろん、それは幻想で、20km地点のタイムは、絶望的なほど悪くなっている。このままでは快記録どころか、大会自己ベストすら更新できなくなりそうなので、再度、気持ちを入れ直して短距離走のつもりでラストスパートをかける。
最後に競技場に入るが、もうギリギリだ。と思った瞬間、なんとゴール直前で高橋尚子さまがみんなを迎えてくれているではないか。スタート直後はハイタッチできなかったので、ここはなんとしてもハイタッチせねばならない。もうタイムがどうのこうのと言っておられる状況ではない。群がるランナーを掻き分けてQさまの近くまでたどり着き、なんとかハイタッチする事ができた。
その後、ロスしたタイムを取り返すために必死でゴールしたら、なんとか一昨年出した大会自己ベストを2秒だけ更新することができた。一時は大幅な記録更新は間違いないと思っていただけに、たった2秒の更新なんてガッカリだけど、逆に、あと2秒で記録を更新できなかったというのに比べれば、一応、なんとか少しだけ嬉しい。
ゴールすると地元の高校の生徒が並んでハイタッチしてくれる。なんか、ますます嬉しくなり、充実した気分。
ゴール横でしばらく待っていると、さとやんがやってきたので、高校生達の横に並んでハイタッチする。さとやんは、発電所勤務だった頃は、お昼休みに毎日、構内をランニングしていたので大変速かったのに、一昨年、本店勤務になってからは忙しくて練習量が激減してしまった結果、一気に遅くなってしまったが、去年の年末に再び発電所に戻り、今、回復途上にある。が、まだ2ヵ月しか経ってないので、今日は本来の速さには戻っていない。
さらに待っていると、疲れ果てた支部長が帰ってくる。再び高校生達の横に並んでハイタッチする。暑がりの支部長は全身汗まみれだ。
(幹事長)「やっぱり暑かったやろ」
(支部長)「かろうじて脱水症状には、ならんかったけど、きつかった」
(幹事長)「この天候で長袖にタイツは、暑がりの支部長には無謀やって」
(支部長)「いや、それより、体重増加が原因やなあ。身体が重くて重くて」
1週間前にスキーに行った夜、温泉旅館で美味しい物を食べ過ぎて3kgも太ったらしい。
(幹事長)「そもそも1週間前に温泉スキーに行くこと自体が不心得やわな」
折り返し点では僕のすぐ後を走っていたけど、その後、急激に失速したとのことだ。そんなに悪いタイムでもないんだけど、素晴らしく速かった去年に比べたら10分近く遅くなった。
ピッグも支部長より少し前を走っていたとのことだが、ゴールでは見つけられなかった。國宗選手もゴール付近では見つけられなかった。あまりに参加者が多くて、なかなか見つからないのだ。
ところが、ふと横を見ると、國宗選手の元上司のクマさんがいる。
(幹事長)「うわ、よく会えましたねえ。その顔は、満足できる結果になりましたか?」
(クマ)「いやいや、暑かったですねえ」
とは言え、まずまずのタイムだったようだ。
(クマ)「國宗はどうでしたか?」
(幹事長)「いやあ、それが見あたらなくて。足の指を負傷しているから、途中でリタイアしたかも知れないんですよ」
しばらくするとゾウさんが帰ってきた。去年は2時間を切ったんだけど、今年は惜しくもギリギリで2時間を超えてしまった。やっぱり暑さが原因か。
(幹事長)「暑かったやろ。なんでアームウォーマーを付けたままなん?」
(ゾウ)「暑かったから母親に渡したかったのに気づいてくれなくて」
お母さんは、他の人の応援に夢中で、我が娘を見失ったらしい。これだけ参加者が多いと、家族でもなかなか見つけられないわなあ。
記念品のTシャツをもらい、記録証を受け取ってからスタンドに戻ると、ピッグと國宗選手が着替えていた。二人とも、まあまあのタイムだったようだ。
(支部長)「ピッグは目の前を走っていて、絶対に抜けると思ったんやけど、最後は離されて見失ったなあ」
これまで数多くのレースをピッグと戦ってきた私の経験から言えば、ピッグは「たいていすぐ目の前を走っていて、抜けそうなのに、どうしても抜けない」という、逃げ水のようなランナーなのだ。ピッグを抜くには、去年の庵治マラソンの時のように、ゴール直前で油断したところを抜くしかないのだ。
(ピッグ)「だから、それは掟破りでしょ。もう二度と止めて下さいね!」
(幹事長)「私がルールじゃ」
國宗選手は足の指を負傷していたけど、それをものともせずに見事完走した。しかも去年より4分もタイムが良かった。ええ根性してるなあ。
で、本日の厚着組と薄着組の勝敗だが、1位と2位を薄着組が独占した。天候に柔軟に対応した薄着組の圧勝と言えよう。
(幹事長)「当然ですわね」
(ピッグ)「ええ、当然ですわ」
それにしても参加者が多くて、スタンドから見ていると、いつまで経っても考えられないほど大勢のランナーが途切れること延々とゴールしてくる。参加者が1万人を超えたハーフマラソンの完走者数は9668人だった。もっと脱落者が出るのかと思ったが、意外に完走者が多い。
一方、トップ選手の結果は、男子は独走していた無名のオーストリアの白人選手が優勝した。意外な展開だ。女子は白人選手と競り合っていたロンドン五輪金メダリストのゲラナが最後は振り切って2年連続優勝した。
レースの後は、例によって、うどん屋で反省会だ。このレースには県外から多数のランナーが参加しに来ていて、せっかく香川県に来たのだから、みんなうどん屋で昼食を取るので、付近のうどん屋はどこも壮絶な混雑ぶりだ。それでも、疲れた身体にはうどんが優しいので我慢して並ぶ。
今日のレースを総括すると、終盤までは本当に気持ちの良い走りだったのに、結果は過去のレース展開と同じようなパターンに終わってしまった。15km辺りまでは快調に走れるのに、終盤の直線コースでガクンとペースダウンするお馴染みのパターンだ。やはり、単なる練習不足だろう。
(幹事長)「ま、見方を変えれば、相変わらずの練習不足にもかかわらず大会記録を更新出来たってのは、精神力のたまものかな」
(ピッグ)「今までの記録が悪すぎただけですね」
作戦としては、かつての「前半を適度に頑張って、後半は緩やかなペースダウンで踏みとどまる」という作戦から、一時期は「前半は意識的に抑えて、終盤までペースを維持する」という作戦に変えていたのを、去年から「後半のペースダウンを恐れずに前半から飛ばしまくる」という画期的な作戦に変えたんだけど、結局は、最初に過度に無理すれば終盤にガクンと落ちるという過去、何百回も経験した失敗を再現しただけだった。「前半に計画通りの貯金をするのは難しくはなく、ちょっと頑張れば、なんぼでも貯金は出来るが、終盤のペースの落ち方は、たいていの場合、想定した以上に大幅にガクンと落ち込んでしまい、前半の貯金など、一気に無くなってしまう」という教訓を絵に描いたような展開だった。前半の少しの無理が、終盤には大きな負担になって返ってくるのだ。
しかし、とは言え、それでもなんとかギリギリで自己ベストを更新できたんだから、今後も当分はこの作戦でいこう。
今後のレースは、まずゾウさんが翌週の坂出天狗マラソンに出場する。
(幹事長)「2週間連続ってきつくない?」
(ゾウ)「もう慣れちゃいましたけどね」
(幹事長)「坂出天狗マラソンは14kmやから、失速する前にゴールできるから、ちょうどいい距離かも」
(ゾウ)「いえいえ、距離が短い分だけ前半のペースがもっと速くなるから、結局は終盤に失速するんですよ」
(幹事長)「そら、そうやわな」
その後は、2週間後にピッグが海部川マラソンに出る。続いて3週間後に僕が7年目にしてようやく当選した東京マラソンに出る。さらに支部長は補欠で当選した京都マラソンだ。そして、4月末の徳島マラソンに揃って出場する。
このように、今後はフルマラソンが続くが、今日の気持ち良い走りを考えると、距離としてはハーフマラソンくらいが調度いい。フルマラソンって絶対に終盤は辛くなる。気持ちよくゴールできるのはハーフマラソンだ。5月末の小豆島オリーブマラソンまでハーフマラソンが無いってのが寂しい。
(幹事長)「てことで、東京マラソンが終わったら、私は自転車に転向する!」
(支部長)「遂に我々の仲間になる訳やね」
(國宗)「期待してますよう」
ま、まずは自転車を買わんといかんけどね。
〜おしまい〜
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