第69回 丸亀マラソン大会

〜 ゾウ坂出 完全勝利! 〜



2015年2月1日(日)、第69回香川丸亀ハーフマラソン大会が開催された。
毎年、ペンギンズの初レースは1月の満濃公園リレーマラソンだけど、あれは動物チームで出る遊び半分て言うか遊び全部の行事であり、真剣勝負のレースとしては、この丸亀ハーフマラソンが初レースとなる。このレースは、ほとんど坂が無い日本陸連公認の高速コースを走るってことで、良いタイムが期待できる。

(ピッグ)「期待しすぎて無理をして、結局、失速する事が多いですけどね」
(幹事長)「今年こそは失速しないぞ!」


丸亀マラソンは、高速レースとして全国的にも名高いことで、以前から人気が高かったが、昨今の異常なまでのマラソンブームのせいで、毎年、さらに参加者が急増している。ただ、会場の丸亀陸上競技場が大きいため、定員は曖昧だ。どういう事かというと、一応、定員は1万人となっており、申込者が1万人に達すると受付は終了してしまう。しかし、それは事前エントリーの受付終了であり、大会前日に会場で直接、申し込めばエントリーが可能なのだ。だから、前日に申し込めば、何人でも参加できるのだ。

(ピッグ)「本当に何人でもエントリー可能なんですかねえ」
(幹事長)「前日エントリーの人は、そんなにいないっていう前提だろうな」


もし、前日に1万人もの人が押し寄せたら大変な事になるだろうが、遠方の人にとっては不便だから、そんなには多くならないだろうとは思う。わざわざ前日に現地に足を運んでまで参加したいっていう熱心な参加者のための救済措置だろう。
ただ、地元のランナーについて言えば、前日申し込みをするのは、必ずしも熱心な参加者という訳でもない。昨今の異常なまでのマラソンブームによる参加申し込み競争の激烈化を知っている熱心な参加者は、基本的に申し込み受け付け開始と同時にエントリー手続きをするから、たいていの場合は大丈夫だ。徳島マラソンのように申し込み受け付け開始の20分後には定員オーバーで受け付け終了なんていうマラソン大会だと、ちょっとしたパソコンのトラブルで手間取っていると、あっという間に申し込み終了になってしまうけど、丸亀マラソンはそこまで競争が過熱はしていない。1日や2日は余裕で受け付けてくれる。それなのに申し込みし損ねたっていう参加者は、危機感が足りなくて申し込みが遅れてしまったランナーであり、そんなに対して熱心と言うわけでもないのだ。

(ピッグ)「あんまり偉そうに言ってると自分に降りかかってきますよ」
(幹事長)「もちろん、これは、我々も含めた緊張感の無いランナーについての反省です」


近年、若年性認知症が驚異的なスピードで私の脳を侵しているが、それでも微かな学習能力により、今回は忘れずに申し込みを終了した。今年の参加者は、私、支部長、ピッグ、ゾウさん、國宗選手、ヤイさん、DK谷さん、小松原選手、W部選手といったところだ。
一方、石材店は、まだ足の調子が悪く、今年も出場しない。また矢野選手は、今年もペースランナーをしているのでランナーとしては参加しない。彼は今やペースランナー手配の元締めになっており、もしかしたら永遠にランナーとしては参加しないのかもしれない。

(幹事長)「3年に一度くらいやったらペースランナーも楽しいけど、ずうっと出場できないってのは悩むよなあ」
(支部長)「この高速コースで良い記録を出したいからなあ」
(國宗)「良い記録を出せるのなら、ですけどね」
(ピッグ)「たいていは、良い記録を出そうという欲が出すぎて惨敗しますけどね」



レース当日になって、ヤイさんが関係者の葬儀の手伝いに行かなければならなくなって、急遽、欠場となってしまった。誠に残念。
天気予報では、当日は雨の心配は無いが、その代わり、かなり寒くなるっていう事だった。朝起きると、天気予報通りで、天気は良さそうだけど、気温がかなり低い。風が無ければ気温は低くてもそんなに辛くはないので、風が強まらないのを祈る。

会場へは、いつものように車に乗り合わせて行くんだけど、これまでは丸亀競技場の駐車場に停めていた。早めに申し込めば、丸亀競技場の駐車場への駐車券が送られてくるのだ。これまで、申し込みが遅れると駐車券が当たらなかった場合もあるが、メンバーのうち誰かは駐車券をゲットしていたので問題なかった。ところが今年は、みんな結構、早めに申し込んだはずなのに、誰も丸亀競技場の駐車場の駐車券をもらうことができず遠く離れた土器側の河川敷の臨時駐車場の駐車券が送られてきた

(幹事長)「どゆこと?」
(支部長)「遅かったということ?」
(ゾウ)「結構、早く申し込みしましたよねえ?」


確かに、HPを見ると、申込み受付開始から1日くらいで「駐車場券は無くなりました」って書かれていたから、臨時駐車場の券でさえ入手が難しくなっているのだろうけど、それにしても我々は申込み受付開始と同時に申し込んでいるのに競技場の駐車場券がゲットできなかったなんて不可解だ。

(ピッグ)「もしかしたら丸亀競技場の駐車場には停めさせないことになったのかもしれませんね」

丸亀競技場のすぐ側には、つい最近、新しい野球場が完成したため、もしかして土地が無くなったのかもしれない。ま、文句言うても仕方ないので、おとなしく河川敷の臨時駐車場へ向かう。
今日のレースのスタート時間は10時50分で、受付終了は1時間前の9時50分。臨時駐車場からの臨時バスは最終が9時10分

(支部長)「てことは9時までに行けば大丈夫やな」
(幹事長)「そやな。それでも早いくらいやな」
(W部)「ちょちょちょちょっと、送られてきた駐車券には
駐車場へは8時30分までに来てくださいって書いてますよ」

なんと、本当だ。バスは9時10分まであるのに、なんで8時30分までに駐車場へ行かなければならないのだろう。

(ピッグ)「バスに乗るのに行列ができるのかもしれませんね」

そうか。ギリギリに駐車場へ入っていたのではバスに乗れないのかもしれない。そうなると取り返しが付かなくなる。仕方ないから8時30分を目指して出発する。
臨時駐車場は河川敷にあり、県道から狭い堤防に入って進入するようになっている。なので、その辺り一帯は渋滞が予想される。これまで丸亀競技場の駐車場に停めていたときは、周辺が大渋滞になり、どういうルートで駐車場へ行くのか頭を悩ませていたところだ。なので、今回もわざと遠回りして混雑が少なそうな道を選んで臨時駐車場へ向かった。ところが、予想に反して周辺の道はほとんど渋滞は無く、あっさりと車を停める事ができた。

(幹事長)「せっかく遠回りして来たけど、心配する事なかったなあ。なんでやろ?」
(ピッグ)「単に、
遅かったという事じゃないですか。みんなとっくに着いてバスで競技場へ行ってるんですよ」

確かに、我々が車を停めさされた場所は端っこの方だし、バスに乗る人も少ない。そうか、みんな既に行ってしまってるのかあ。8時30分に着いたのに、もう出遅れていたのか!



臨時バスは陸上競技場の入り口付近で降ろしてくれた。丸亀競技場の駐車場は広大な面積があり、去年まで、遅く到着すると、とんでもなく遠い場所に停めさされてしまい、競技場まで歩くのがかなり大変だった。それに比べたら今回はほとんど歩くことなしに競技場に着いたから、臨時駐車場の方がむしろ良かったかも知れない。特に今日のような寒い日は歩くのも辛いので、臨時駐車場の方がいいかも。

バスから降りて受付へ向かう。気温はかなり低いけど、風は大したことはない。受付を済ませてパンフレットなんかをもらう。

(國宗)「パンフレットに第69回って書いてますけど、幹事長はいつから出てるんですか?」
(幹事長)「わしは第1回から欠かさず出てるぞ」
(國宗)「えっ?幹事長って69歳以上なんですか?」
(幹事長)「んなアホな」


このレースは今年で第69回だなんて言ってるが、これは嘘だ。真っ赤な嘘だ。真実は、まだ19回目だ。第1回は1997年で、その時は、まだこのホームページを開設してなかったため記事は無いが、翌年の1998年の第2回からは毎年記事を掲載している。そして、2001年の第5回のとき、突然第55回になった。第1回大会の前年には第50回香川ロードレースが開催されている。香川ロードレースというのは、専門の陸上競技関係者しか出ない地味な大会だった。そして、その翌年、第51回香川ロードレースの代わりに、丸亀城築城400年記念大会としてハーフマラソンの第1回丸亀マラソンが開催されたのだ。そのまま第4回までは正直な回数だったのに、第5回大会の時に、いきなり50回も上げ底されたのだ。水増しの事情については、第56回(本当は第6回)の記事に詳しく書いているが、理由はもちろん、数が多い方が伝統がある由緒正しいレースのように聞こえるからだ
もちろん、私は回数の水増しを非難するつもりは毛頭無い。私の故郷のマラソンであり、回数が多い由緒正しいレースのように聞こえた方が、知らない人に対しては格好良いから、それでいい。

(國宗)「でもタイトルは別として、マラソンの開催自体は69回目なんですよね?」
(幹事長)「そこも微妙やな」


香川ロードレースの第1回は昭和22年に開催されたが、その頃は実はフルマラソンだった。ところが途中で35kmレースなどという中途半端な距離になり、さらにその後は20kmレースになっている。たぶん参加者が少なかったから距離を短くしたんだろうなあ。そして、マラソンをやる人がだんだん増えてきたからハーフマラソンにしたんだろう。
第1回と言うか第51回の頃は、毎年、コースがコロコロ変わり、僕の実家のすぐ裏の農道に毛が生えたような道を走ったりしていた草レースだった。それが今や陸連公認の高速コースになって全国的にも有名になり、定員1万人があっという間に一杯になってしまうなんて、第1回から参加している私としては、隔世の感があるぞ。

いつものように競技場のバックスタンドの端っこに陣取る。メインスタンドはこぼれ落ちそうなほど人が溢れかえっているが、バックスタンド側は空いている。おまけにここは西風があんまり当たらないし、お日様が当たるから寒くないのだ。とは言え、なんとなくだんだん風が強くなってきて寒くなる予感。そもそも丸亀マラソンが開催される2月の始めは年間で一番寒い時期であり、天気は良い年が多いが、西風が強いことが多い。風が強いと走りにくいうえに体感温度が寒くなって体が固くなる。逆に、いくら気温が低くても風さえ無ければ走るのには問題ないと言うか、絶好のマラソン日和と言える。一昨年は天気が快晴で風が無く、おまけに気温が低めで、もうこれ以上は望めないような絶好のマラソン日和だったため、僅か2秒差とはいえ、大会自己ベストを更新することができた。一方、去年は真冬とは思えない暑さで、終盤に一気にバテてしまった

(ピッグ)「あの失速は単に練習不足のせいじゃないですか?」
(幹事長)「どきっ」


さて、ここからが重要な課題だ。レースの前になると、私はいつも着るものに悩む寒いのは大嫌いだけど、暑くなるとバテてしまうから避けなければならない。なので、レースの直前まで悩みに悩む。3年前の丸亀マラソンでは、長袖の上から半袖を重ね着してスタートラインに立ったものの、なんとなく暑くなって、慌ててその場で1枚脱いだりした同じ年のタートルマラソンでも、いったんスタートラインに並んだ後で、暑くなって慌てて1枚脱いだ。当然ながら、スタート地点で脱ぐ場合、荷物を置いている場所へ持って帰る時間はないから、その辺の木にくくりつけたりする。
今日は、気温が低いから、悩みの中身が違う。上は迷うことなく長袖の上から半袖を重ね着する。これだけ気温が低いと、仮に風が無くなっても暑くなることはないだろう。問題は下だ。ランニングタイツを履くかどうかだ。ランニングタイツは、本当は足のサポートのために履くらしい。何をサポートするのか良く分からないが、テーピングテープと同じ働きをするらしい。と言っても、そもそもテーピングテープの働き自体が分からないので、ランニングタイツの効用は分からない。最近は多くのランナーが履いているが、プロ級の選手は決して履いていない。なので、どこまで意味があるのか全く不明だ。個人的には、サポートになると言うより、足が突っ張ってむしろ走りにくい。足に負荷がかかって、かえって疲れるんじゃないかっていう疑惑がある。でも、防寒になるのは確かだ。なので今日のように気温の低い日には履くべきかどうか悩みが出てくる。防寒と走りにくさを天秤にかけなければならない。

(幹事長)「履いたら暑くなるかなあ」
(ゾウ)「そうですよねえ。本当に悩みますよねえ」


なんと、ゾウさんも同じように悩んでいる

(ゾウ)「腕のアームウォーマーは暑くなったら取ればいいけど」

スタンドで座っている限り、あまり風が当たらないので、そんなに寒くはない。でもスタンドの外を見ると、結構、風が強くなっている。なんとなく寒そうだ。

(國宗)「相変わらず悩んでますねえ。明らかに考えすぎですねえ。
     私なんか、どんな季節のどんな天候の時でも同じ格好で走ってますよ」
(支部長)「ほんと、ほんと。関係ないってば」


國宗選手や支部長は、季節も天候も関係なく、下はランニングタイツを履き、腕にはアームウォーマーを着け、常に同じスタイルで走っているが、それが習慣になっているから気にならないのだろう。でも僕は、暑さ寒さに非常にナーバスになる。
もちろん、結果的には、暑かったとか寒かったとかでタイムが大きく変わる訳ではない。どんな格好して走っても、長いレースの中では暑くなることもあれば寒くなることもある。太陽は雲から出たり隠れたりするし、風だって強まったり弱まったり向かい風になったり追い風になったりする。なので、とことん悩んでも仕方ない。それは分かっている。

(ゾウ)「でも悩みますよねえ」
(幹事長)「結局、今日のレースに真剣勝負で挑もうとしている我々2人が悩んでいるって訳だ。
       レースに立ち向かう姿勢が真剣という事だ、君たち!」
(國宗)「真剣に挑もうが軽い気持ちで挑もうが、タイムは関係ないですってば」


そこへ超スピードランナーの小松原選手が登場する

(ゾウ)「いいところへ来ました。ねえねえ、ランニングタイツ履くべきか、どう思います?」
(小松原)「えっ?う〜ん。どっちでも良いんじゃないですか」


超スピードランナーの技を聞こうと思ったんだけど、結局、何のアドバイスも無かった。

(小松原)「そんなに気にすること無いんじゃないですか?走り始めたら同じですよ」

う〜ん、みんな同じことを言うなあ。結局、寒いのは嫌いってことで、私もゾウさんもタイツを履くことにした。

着るものが決まって、いざ出陣
(左から國宗選手、ピッグ、ゾウさん、幹事長、支部長

取りあえず着るものも決まり、記念写真なんかを撮っていると、早くも集合時間がやってきた。まだ10時なので、スタートまで50分もあるが、10時20分までにグランドに降りて集合しないと、自分の目標タイムの場所に並べなくなってしまう。30分も前に並ぶなんて、早すぎるぞ。とは言っても、多少遅れても大丈夫だろうって思っていたら、なんと今年は、10時20分になったら本当に入場口のシャッターが閉まり始めた

(支部長)「なんで、そこまで厳重に管理するんだ?」
(幹事長)「最近、
テロとか多いから?」
(ピッグ)「あんまり関係ないかと」


スタート地点は目標タイム別に集合するようになっていて、速い順にスタートするようになる。目標タイムは事前に申請しており、速い順にアルファベットが割り振られており、指定の場所に並ばなければならない
タイムはゼッケンに着けたチップでネット計測してくれるから、焦って前の方に並ぶ必要は無い。前の方からスタートすると大混雑で思うように走れないから、むしろ後ろの方からゆっくりスタートしたほうが空いていて走りやすい。なーんて言うのは参加者が少なかった昔の話であり、今みたいに1万人以上が参加するようになると、前の方からスタートしなければスムースに走れない。後ろの方には、仲間同士でおしゃべりしながらゆっくり走るおばちゃん軍団がいて、ブロックされてしまうから、走りにくいのだ。しかも昔は参加者が少なかったから、邪魔なランナーがいても、そのうちバラけてきて空いてくるが、1万人以上も参加するようになってからは、最後まで混雑は緩和されず、最後までおばちゃん軍団に前をブロックされたままになるのだ。それは絶対に避けねばならない。
逆に、自分の実力以上に前からスタートすると、周りのランナーの邪魔になりマナー的によろしくないうえに、後ろのランナーにどつかれながら抜かれていくので自分も走りにくい。なので、できるだけ自分の本当の目標タイムを申請して並ぶのがよろしい。自分と同じペースのランナーと一緒に走れば、邪魔なランナーを追い抜く必要も無ければ、後ろから抜かれる事も無いので、秩序良く走ることができるのだ。

ところが、なぜか超高速ランナーの小松原選手が、異常に遅いランナーのアルファベットのゼッケンを付けている。

(幹事長)「どしたん、それ?」
(小松原)「申告する時に間違えたんですよぅ」


なんと彼は1時間20分台で申告したつもりだったのに、間違って2時間20分台で申告してしまったのだ。1時間20分台なら、ほぼ先頭集団に近い場所からスタートできるが、2時間20分なんて言ったら、最後尾に近いだろう。このレースは制限時間が3時間なので、もっと遅いランナーもいないことはないだろうけど、少ないはずだ。

(幹事長)「めっちゃ走りにくいんじゃないか?」
(小松原)「もう目の前が真っ暗ですよ」


スタート時間まで30分以上も前から並ぶのは寒いと思ったけど、グランドの上は風も無く、周囲にランナーがぎっしりいるから寒くないので、辛くはなかった。10時20分になると、目標タイム順にゾロゾロと競技場から出てスタート地点の方へ移動する
10時35分には、招待選手を始め、プロ級の人達の部がスタートした。昔はプロ級の人達の部と我々一般ピープルの部は一緒にスタートしていたんだけど、最近はプロ級がスタートした後、なぜか3kmの部が行われ、その後にようやく我々のスタートとなる。プロ選手のすぐ後に我々が着いて走ると、プロ選手が走りにくくなるから分けて走るのは理解できるが、その間に3kmの部が行われる理由は分からない

スタート時間が近づいてきたので、例によって、本日の目標タイムを設定せねばならない。もちろん、どんな時でも、どんなレースでも、大会自己ベストの更新を狙うのが良い子の有るべき姿だ。今日は気温が低いから、風が無ければ良いタイムが出る可能性があるので、とにかく大会自己ベストを目指さなければならない。

(支部長)「いい歳こいて、いつまでも記録を出そうと思うこと自体が間違ってないか?」
(幹事長)「何を言うか。目標が無くなったら緊張感が無くなるぞ」
(支部長)「緊張感なんて要らんがな。目標はとにかく歩かずに完走やがな」


なんで支部長が弱気なのかと言えば、2年目になる単身赴任による偏った食生活のため体重が急増しているからだ。たぶん10kg近く増量したのではないか。そんなに増量したら、確かに完走するだけでも大変だ。

(幹事長)「そんなこと言ってたらゾウさんに負けるよ」
(支部長)「ゾウさんには負ける前提で走るぞ。ずうっとゾウさんに着いていって、あわよくばゴール前で抜き去る作戦や」
(國宗)「私もお供しますっ!」


最近、増量によるスピードダウンのため、ゾウさんに対して際どかった時はあるが、これまで丸亀マラソンで支部長がゾウさんに負けた事はない。ただ、去年の徳島マラソンでは、ついにゾウさんに負けてしまい、それ以来、吹っ切れて、ゾウさんに負けることに特に悔しさを感じなくなっているようだ。

しかし、そうは言っても油断はできない。2006年の第60回丸亀マラソンでは、支部長は脱水症状で完全なアンデルセン状態でゴールし、終盤からゴール後にかけて全く記憶が無く、ゴールしてからしばらくは脳死状態だったにもかかわらず、私は負けてしまった。やるときには、やるのである。
なので、私の目標としては、大会自己ベストの更新と並んで、永遠のライバルである支部長とピッグには勝利せねばならない

(幹事長)「去年は、終盤の撃沈がたたって、ちょっとの差でピッグに負けたもんなあ」

去年は一昨年と全く同じレース展開となり、中盤まで非常に良いペースを維持できていたんだけど、そのペースが若干オーバーペースだったようで、終盤にガクンとペースダウンしてしまい、理想的な展開とは言えない結果になった。一昨年はそれでもタイムも悪くなかったが、去年はそれより少し遅かった。

(支部長)「要するに、序盤に調子にのって飛ばしすぎて終盤に失速するという、
       素人のレース展開からいつまで経っても卒業できないってことやな」
(幹事長)「まさに、その通りっ!」


自慢できる事ではないが、ほんと、いつまで経っても同じ事を繰り返している。
理想的な走り方というのは、序盤は抑えめに走って、後半にペースアップするという展開だ。私が最も相性が良い瀬戸内海タートルマラソンで良いタイムが出た時は、たいてい前半を抑えめに走って後半にペースアップできている。ただこれは、タートルマラソンは前半から坂が多く、抑えて走らないと終盤に歩いてしまう不安があるからだ。でも、ほとんど坂が無い高速コースの丸亀マラソンでは、ついつい序盤から調子に乗って飛ばしてしまって終盤に失速するのが常だ
もちろん、丸亀マラソンでも最初を抑えて走ったら後半にペースアップすることも可能だろう。でも、前半をあんまり抑えて走ってしまうと、いくら後半でペースアップしても、トータルで良いタイムを出すのは難しいだろう。いくらペースアップと言っても、そんなに大してペースアップできるはずはない。なので、前半を程よく抑えて走らなければならないが、その加減が非常に難しいのだ

てことで、過去の実績から考えて、最初は1kmを5分ちょっとで入り、そのまま終盤まで行き、余力があれば終盤でペースアップするという作戦にした。終盤のペースアップ具合では、大会自己ベストも可能な配分だ。

(ゾウ)「私も絶対に自己ベストを狙いますよ!」
(支部長)「私はゾウさんにピッタリ着いていって最後の最後で一気に逆転するぞ」
(國宗)「同じくっ!」
(幹事長)「ピッグは?」
(ピッグ)「そうですねえ。まあ自然体で」


自然体のピッグが一番恐い。よし、序盤はピッグをマークして行こう。去年はピッグも終盤でガクッと失速したけど、あと少しの差で負けてしまったから、今年はリベンジしなければならない。

(支部長)「なんにしても、17km地点の給水が要注意だ」

支部長は17km地点の給水所の給水に毒が入っていると頑なに主張している。なぜなら、そこからゴールの丸亀競技場までの直線部分では、それまでどんなに快調に走っていても、毎年、必ず失速してしまうからだ。それも少しずつペースダウンするんじゃなくて、いきなりガクンと大失速するのだ。去年も一昨年も、それまで快調にペースを維持していたのに、この最後の直線部分でいきなり大幅にペースダウンしている。この最後の部分は、なかなか自覚できない程度なんだけど、ゆる〜い上り坂になっているのだが、坂と言っても、たかが4kmで15m上がるだけだ。もっと激しい坂があるタートルマラソンに比べてもペースダウンが激しいから、坂が原因とは思えない。何か秘密が隠されているのは間違いないないだろう。

だんだん我々一般ピープルのスタート時間が近づいてきて、スタート地点の方へダラダラと動き始める。

(ゾウ)「やだ。やっぱり緊張するぅ」
(幹事長)「相変わらずゾウさんは緊張するやなあ。我々はとっくの昔に緊張感を失ってしまったなあ」


日経新聞に月に1度くらいのペースでマラソンの記事が掲載されているが、最近の記事の中で、担当の記者が「マラソンを始めた頃は緊張感があったが、最近は緊張感が全然無くて、惰性で参加している。これが伸び悩んでいる原因ではないだろうか」なんて書いていたが、全く我々にも当てはまる。レースが始まるというのに、全然緊張感が無いのだ。こんな事では良いタイムも出るわけないわな。

(幹事長)「私らもゾウさんを見習って少しは緊張感を取り戻さなければならない!」
(支部長)「何を言うてんの。ええ歳こいて緊張なんかせんでもええがな。完走できたら十分やがな」


さすがに、そこまでは悟りを開いていないので、やる気はある。やる気はあるけど、練習が不足しているので、不安もある。年末年始は体調を崩して寝込んでしまったけど、それ以外は特に練習をサボっていた訳ではない。でも、元々大して練習はしないので、どうしても練習不足気味ではある。もっと長距離を走っておくべきだったという思いもあるが、それ以上に、最近はスピード不足が不安だ。休日に練習していても、距離はなんとか走れても、あまりのスピードの遅さに愕然としてしまうのだ。ゆっくりだと長距離を走れるが、ちょっとスピードを上げると、あっという間に足が動かなくなってしまう。

(幹事長)「これは歳なんだろうか?」
(支部長)「考える余地も無く、歳のせいやろ」


まあ、行けるとこまで行ってみるしかない。

スタートも近づいてきて、今日もウォーミングアップどころか、ストレッチさえ全くやっていなかったことに気付く。最近、ストレッチすらやってない事に気付くのは、決まってスタートの直前だ。時は既に遅く、ギュウギュウに混雑しているので、その場でストレッチをする事もできない。

(幹事長)「ま、最初の1kmはストレッチやな」
(國宗)「違いますがな。最初の1kmはウォーミングアップだけど、ストレッチはスタートする前にしとかんといかんですよ!」


ストレッチもできずにゆっくり歩いていると、ようやく競技場の南側の国道に出た。ここからだと、まだ、だいぶ遠くだけど、スタート地点の表示が見える前も後ろも、ものすごい数のランナーだこの異常なマラソンブームはいつまで続くんだろう。新たにマラソンを始める人もいれば、アホらしくてすぐに止める人もいるだろう。でも、普通に考えれば続ける人の方がはるかに多そうだから、マラソン人口は増える一方だろう。世の中には色んなブームがあり、妖怪ウォッチみたいなブームはそのうち消えていくだろうけど、マラソンブームはそう簡単には消えないだろうな。異常なマラソンブームのせいで、レースにエントリーするのも一苦労だし、弊害も多いが、マラソンやってるなんて言ったら変態扱いされていた昔に比べれば、基本的には喜ばしいブームだ。
ただ、タイムはチップでネット計測してくれるから、参加者が多すぎてスタートの合図が鳴ってからスタート地点までたどり着くのに時間がかかっても平気だが、スタートしてからも大混雑が続いて走りにくいし、給水所で水を取るのは戦いになる。

(幹事長)「今日みたいな寒い日は、喉が渇かなければ給水はパスすることにしよう」
(國宗)「いかんですよ。喉が渇いてからでは遅いんですよ。喉が渇く前に給水しなければ」



いよいよカウントダウンが始まったかと思ったら、あっというまにスタートの合図が聞こえる。もちろん、我々が動き出せるのは、さらにしばらく待ってからなので、まだ緊張感は無い。しばらくダラダラ歩いていくと、ようやくスタート地点が近づいてくるが、まだまだ走れる状態ではない。でも、スタートラインを越えたら、割りとすぐに小走りが可能となった。当分は小走りだが、ウォーミングアップと割り切れば焦りは無い。まだまだ修行の足りない若造が、あちこち身体をぶつけながら他人をかき分けて走っていくが、そんな事をしてはいけない。マナー違反で他のランナーの迷惑になるし、自分だって無駄な体力と精神力の浪費になる。最初の1kmくらいはウォーミングアップと割り切って、ゆっくり走ればいい。
て言うか、今回、我々がスタートした集団は、まさにちょうど我々のペースにピッタリで、早くもなく遅くもなく、おしゃべりしながらブロックするおばちゃん軍団のような邪魔になる人も少ないし、無理矢理追い越していく人も少ない。とても良い感じでスタートできた。
なので1km地点で時計を見ると、5分ちょっとで、混雑によるタイムロスはあんまり無かった。なかなか良い感じだ。
1km地点を越えた辺りから少しは空いてきて、走りやすくなってきた。どれくらいのペースで走るべきか考えなければならないが、体調は悪くない。最近は練習時にスピード不足を実感して不安があったが、今日は身体が軽く、このまま軽快に走れそうだ
て事で、取りあえずピッグに着いていく。ピッグはいつものように淡々と軽快に走っていく。誰か目標を定めているのかどうか分からないが、良いペースだ。

ふと近くを見ると、1時間45分のペースランナーが走っている。ふむ。ピッグもいいけど、こっちの方がペースが安定してそうだから、こっちに着いていく事にする。

次の2km地点で時計を見ると、ちょっとペースが上がり、この1kmは5分をちょっと切るペースだ。ちょっと速いような気もするけど、無理なく足は動いているので、良い感じだ。気温は低いが、走り始めると身体も熱を出してきて、ちょうどいいくらいの気温だ。混雑していて風を感じないので、寒くはない。

次の3km地点も、さらに次の4km地点でも、ペースは1km5分をちょっと切るくらいで安定しているペースランナーに着いていってるので安定するのも当たり前だが
最近は、練習している時なんか、どんなに頑張って走っても、こんなに早いペースでは走れないから、ちょっと不安感があったけど、レース本番になると、アドレナリンが出まくるからかスピードも出るもんだ。もちろん、これは覚醒剤と同じで、レース本番になると力がアップするのではなく、持っている力が一気に出るだけだ。どこからかエネルギーが沸いてくるなんて都合の良い話はなくて、単に持っている力が一気に出るだけなので、後になって大きなツケが回ってきて、失速する恐れはある。

次の5km地点のペースも当然ながら安定して1km5分をちょっと切るペースだ。でも、この辺りから少しずつペースランナーに着いていくのがしんどくなり始める。ここで無理しても仕方ない、と言うか、序盤で無理したら終盤で失速するのは目に見えているので、ペースランナーは諦めて、ちょっとペースを落とすことにした。すると、すぐ横をピッグが走っているのが見えた。ちょうど同じペースで走っていたのか。

(幹事長)「ちょっとペース速くない?」
(ピッグ)「そうですねえ」


ピッグも少しきつそうだ。

淡々と走るピッグだが、今日は少しきつそうだ

5km地点には給水所があるが、混雑しているし、全然喉が渇く気配も無いので、ためらわずにパスする

給水所を過ぎてしばらく走ると、折り返してきたトップランナーと早くもすれ違う。先頭集団は4人だが、日本人はいなくて、黒人3人と白人が1人だ。最近のマラソンで白人が先頭集団にいるのは珍しいが、日本人がいないのは寂しい。しばらく行くと、次は第2集団の2人が走っていくが、ここにも日本人はいない。さらにしばらくすると、ようやく日本人の姿が見えた。トップとはだいぶ差が付いている。

ちょっとペースを落とした結果、次の6km地点7km地点でのタイムは、1km5分少々となったが、これが当初の予定通りのペースだ。このまま行ければ理想通りの展開となる。
ピッグも同じようなペースではあるが、軽快に走り続けていた去年と違って、ちょっとだけしんどそうだ。ピッグのペースがちょっと遅くなったような気がしたので、前に出ていくことにした。

8km地点のタイムは、ほんの少し遅くなっているが、まだまだ許容範囲だ。足もまだまだ軽やかで、ぜんぜん重くはない。喉も全然渇いていないので、9km地点の手前にある給水所ためらわずパスした

だが9km地点のタイムは、さらに遅くなっている。まだまだ許容範囲とは言え、このままのペースが維持できればいいものの、さらにペースダウンしていくと自己ベストは難しくなる。気が付くと、なんとなく追い越していくランナーが多くなってきたような気がする。ここまでは自分が追い越すランナーと追い越されるランナーの数は似たようなものだったのに。
ペースランナーは前に行って見えなくなり、ピッグは後ろへ行って見えなくなり、目標が無くなってダレていたので、ちょっと気合を入れ直す。マラソンは極めてメンタルなスポーツなので、少しでも気合が入ればペースアップできたりする。ペースアップは無理だとしても、ペースダウンを食い止めることはできる。

なんて気合いを入れていたら、なんと、ここで小松原選手が追い越していく

(幹事長)「ようやく追いついたな」
(小松原)「スタート地点を越えるまでにも時間がかかったし、遅いランナーを掻き分けてここまで来るのも大変でしたよ」


などとブツブツ文句を言いながら超高速で走り去ってしまった。

気合いを入れて気持ちも新たに走った結果、次の10km地点のタイムは少し持ち直した。このままのペースを続ければ良い。
10km地点を過ぎてしばらく行くと、折り返し点だ。折り返し点を過ぎて後続のランナーとすれ違いながら他のメンバーを探す。しばらく走ると、ピッグの姿が見えた。まだそんなに差は大きくないが、折り返し点でピッグをリードするのは最近では珍しく、なんだか今日は勝てそうな気がするぅ〜。
その後には支部長や國宗選手やゾウさんが走ってくるはずだが、見つけられなかった。昔は簡単に見つけられていたのに、参加者が激増した今では、メンバーを探す事も困難になってしまった。折り返して、すれ違うランナーの数が本当に多い。はるか遠く地平線のかなたまで、ガンジス川のほとりにうごめくインド人のように数限りない群衆の姿が見える。かつて制限時間が2時間5分だった頃は、僕らの後ろにはもうほとんどランナーはいなかったのだが、最近は制限時間が3時間にまで延びたため、色んな人が参加するようになり、僕らのような低レベルのランナーが上位になってしまっているのだ。

すれ違うランナーを見ながら、また気が緩んでしまったのか、少しペースが持ち直したはずだったのに11km地点のタイムはまた少し遅くなっていた。ここまでペースダウンするとまずいので、再び気合いを入れたら、次の12km地点のタイムはまたまた持ち直していた

今日は風は大した事はないとは言え、少しは吹いている。この時期の風は常に西風だから、東へ向かって走る前半は追い風だが、西へ向かって帰る後半は向かい風となる。風はそんなに強くないから、前半は走る速さと風速がちょうと同じくらいで、体感的には無風状態だった。お日様も照っていたので、ちょっとだけ暑いくらいだった。後半になると最初は向かい風が涼しく感じられ、ちょっと気持ち良かった。だが、だんだん向かい風の抵抗を感じるようになる。そんなに走りにくいって程ではないが、だんだん体感温度が下がり、涼しいのを通り越して少しだけ寒くなってきた

寒くなってきたこともあり、12km地点を過ぎた辺りにある給水所ためらうことなくパスした。それなのに、風の影響ではないだろうが、気合いはなかなか長続きせず、次の13km地点では、またまた少しペースダウンしていた。しかも、だんだんペースダウンの程度が大きくなっており、危険水準に達してきた。て事で、今度はかなり気合いを入れ直した。
その結果、14km地点でのタイムは、一気に1km5分ちょっとにまで立て直すことができた。この地点でこのタイムなら、まだまだ自己ベストも可能なタイムだ。

風は相変わらず大した事はないが、お日様が雲に隠れてしまったせいもあり、少しずつ寒くなっていく。もちろん、我慢できないほどの寒さではない。

だいぶペースは持ち直したはずだったのだが、15km地点では、再び大幅にタイムが悪化した。いくら気合いを入れても、持続力は無くなってしまったのだろうか。残りは、もう6kmしかないのだから、スパートするつもりで再度、力を入れるが、もう余力は残っていないらしく16km地点のタイムも、ほとんどペースアップすることができない。大会自己ベストは、もはや不可能となった。それでも気持ちは切れておらず、少しでも良いタイムでゴールしたい気持ちは失っていない。
次の17km地点のタイムは、さらにジワジワとペースダウンしている。どこまで踏ん張れるか、厳しい戦いが始まる。

最後の力を振り絞って優勝街道を驀進する幹事長

この辺りで沿道から「大根がんばれっ!」なんていう声援が聞こえてきた。しばらくすると大根の着ぐるみを着たランナーが追い越していく。いくらなんでも大根に追い越されるのは恥ずかしいので、頑張るが、大根もなかなか頑張っている。
しばらく併走していると、17km過ぎの給水所が見えてきた。喉は全然渇いていないので、この給水所も当然のようにパスして一気にラストスパートモードに入った。今日は全ての給水所をパスしたが、喉は全然渇いていないし、脱水症状の恐れは無いだろう。もともと暑いときでも、そんなに給水はしないし。ライバルの大根は着ぐるみが暑いためか、給水所に立ち寄っている。この間に一気に差を付ける事ができた。

気持ちだけはラストスパートモードにして、最後の3kmほどの直線コースに入った。
のだが、なんと次の18km地点のタイムは、有り得ないくらい悪くなっている。思わず目を疑ったが、去年と全く同じパターンなので、有り得ないことではない。しかも、去年よりも、さらに圧倒的にタイムが悪い。前半の快調な走りのおかげで、ここまでは去年より良いタイムで来ているが、こんなにペースダウンしてたら、去年よりタイムが悪くなるかもしれない。

それにしても、なぜ毎年、この最後の直線コースに入ると絶望的にペースダウンするのだろう。今年も私は給水してないから、支部長の言う17km地点給水所毒入り疑惑は関係無い。単に練習不足のせいで力尽きているだけだろうか。そうだとしても、毎年、全く同じ地点から急激にペースダウンするってのは、とっても不思議。体感的には何も感じないが、やっぱり上り坂になっている影響かも知れない。

次の19km地点のタイムも、全く同じ絶望的なタイムだった。距離表示が間違っているてことは、陸連公認コースだから有り得ないし、時計が狂っているなんて可能性もゼロだろう。それより何より、圧倒的多数のランナーが次々と追い越していくから、どう考えても自分がペースダウンしているのだろう。いくらゴールが近づいてきたからと言って、みんながみんな、一気にペースアップできる訳はない。なんとか踏ん張ろうとするのだが、足が重くなって前に出なくなってしまった。

それでも、最後だけでも盛り返そうと必死で足を蹴り出すんだけど、次の20km地点のタイムは1km6分を大きくオーバーするという近年では最悪の目を覆うような悲惨なものになった。まるで歩いているようなペースだ。これじゃあ、大会自己ベストが達成できないのは当然だし、これ以上、頑張ったところで何の意味もない気がするが、実はそんなこともない。これまでも多くのレースで同じような状況になり、大会自己ベストの更新や目標としていたタイムのクリアが絶望的になった瞬間に心が折れて歩くように足を引きずってゴールしたけど、家に帰って調べてみたら、「あーっ、あと数秒速かったら大会自己ベスト3位だったのにぃ!」とか思う事がよくあるのだ。もちろん、大会自己ベスト3位なんていう記録に意味を見出すかどうかは疑問だが。

ここで再び沿道から「大根さん、頑張れっ!」っていう声援が聞こえてくる。さっきの給水所で引き離した大根が再び追いついてきたようだ。こんなに失速しながらも、ここまでリードを保ってきたって事は、大根も失速状態に陥ったのだろうが、最後の最後で追い越されては悲しすぎる。
て事で、ようやく真剣に気合いが入った。やっぱり自分一人では、なかなか気合い入らないものだ。だいぶペースアップすることができたため、大根の逆転はなんとか阻止したが、その横を今度はバットマンが追い越していく。大根ほどではないにしても、バットマンに負けるのも癪なので、なんとか着いていくが、バットマンは余力が残っているらしく、ここへきてペースを上げたため、着いていくのが難しくなった。
バットマンとの勝負は負けそうだが、少なくとも大根には負けたくないので、最後に陸上競技場内に入ってからもペースを上げ、なんとかゴールした。

前半は快調に走ったのに、終盤に愕然とするほど大失速してしまったため、結局、タイムは平凡なものに終わった。過去、ランナーとして15回出場した中で、一応、大会自己ベスト4位の記録だったが、この4位なんていう中途半端な結果に何らかの意義を見出すのは難しい。

ゴールして、他のメンバーをしばらく待っていたら、割とすぐにゾウさんに会った。思ったより速いじゃないの。

(幹事長)「どうやった?2時間は切れた?」
(ゾウ)「2時間どころか、すごい自己ベストが出ましたよ」


なんて言いながら腕時計をみせてくれた。ん?おや?一瞬、タイムの意味が分からなかった。

(幹事長)「これ、ゾウさんのタイム?」
(ゾウ)「ええ、そうですけど?」
(幹事長)「おや?なんか、僕より速いタイムになってるんだけど。おかしくない?」
(ゾウ)「え?そうなんですか!?」


もう一度、二人の時計を並べて見比べてみる。どう見ても、僕より30秒ほど速い。そんなバカな!そんなアホな!

(幹事長)「げげげげーーーーっ!ゾウさんに負けてしまったあっ!」
(ゾウ)「うわあい!やったーーーっ!」


いくらなんでも女子部員に負けるなんて、こんな事があるだろうか。H元さんに負けるのは、もう諦めている。でも、ゾウさんにまで負けるなんて、もう信じられない。決して今日は、タイムが絶望的になったレース終盤になっても気持ちは切らさなかったつもりだったが、もうちょっと気合いを入れることができてたら、逃げ切れたかもしれない。もちろん、序盤をもっと抑えて走っていれば終盤の大失速も、もう少し防げたかも知れない。そうすればゾウさんの逆転を阻むことができたかもしれない。
一体、いつどこで追い越されたんだろう。気付かなかった。ゾウさんが追い越していく姿に気付いていれば、さすがに気合いも入ってついて行けたかもしれない

(幹事長)「あーん、あーん、悔しいよう」
(ゾウ)「わーい、わーい。幹事長に勝ったあ!」

幹事長に勝利して満面の笑みを浮かべるゾウさん

呆然としていると、國宗選手とピッグに会った。ピッグは僕のすぐ後からゴールしたようだ。折り返し点でのリードはほとんど無くなったけど、なんとか逃げ切れたという事だ。て事は、ピッグもゾウさんに負けたってことだ。

(ピッグ)「私も終盤は失速しましたからね」
(幹事長)「國宗選手は、どうやったん?」
(國宗)「最後の4kmで失速しました」
(幹事長)「僕と同じやなあ」


國宗選手は、当初の作戦通り、17km地点までゾウさんに着いていったのだそうだ。

(國宗)「それがねえ、ゾウさん異常に速いんですよ。あんなペースは無茶ですよ」

気付かなかったけど、ゾウさんや國宗選手は、僕のすぐ後ろにいたらしい。前半の途中でピッグを追い越し、折り返し点では僕とピッグの間にいたとのことだ。まさか、そんなところにいるとは思わなかったので、見つけられなかったのか。

(幹事長)「僕でも序盤のペースは速すぎると思ったくらいなのに、同じようなペースやった訳?」
(國宗)「そうなんですよ。いくらなんでも速すぎるって思ったんですけど、無理して着いていったから、
     結局、最後の直線コースで大失速ですよ」


國宗選手は大失速したため、ゴールは僕等よりだいぶ後になったが、17km地点まで僕もゾウさんも國宗選手もピッグも、ほとんど同じだったのか。知らなかった。

終盤に失速して顔をゆがめる國宗選手

(幹事長)「で、支部長は?」
(國宗)「支部長は早々に脱落したんですよ」


なんて話していたら、支部長が帰ってきた。

(支部長)「いかん。ゾウさん速すぎっ!」

支部長も國宗選手と同様、当初計画どおり、最初はゾウさんに着いていってたのだが、あまりのハイペースに着いていけなくなり、4km地点で早々に脱落したそうだ。そして、その後は一人旅となり、最後の直線コースでは同じように失速し、不本意なタイムに終わってしまった。
つまり、結局、みんなゾウさんに負けてしまったという事だ。

(幹事長)「ひえ〜!なぜだっ!何が起きたんだっ!」
(支部長)「来るべき時が来たって事やなあ」
(幹事長)「どゆこと?」
(支部長)「年も違うし基礎体力も違うし練習量も違うし」

バテバテの支部長

ゾウさんの快走は誉め称えなければならないし、僕等のだらしなさは大いに反省しなければならない。しかし、実は、これはマラソンのレース展開の難しさを象徴している

つまり、結局、みんな最初から調子に乗って飛ばしすぎて終盤に失速するという、これまでも何百回何千回何万回も繰り返してきた過ちを、今回もやってしまったという訳だ。大いに反省しなければならない。
しかし一方、ゾウさんにしても、前半のペースは過去の実績からすれば、明らかに速すぎるオーバーペースだった。過去の実績との比較という意味では、我々以上にオーバーペースだったとも言える。我々は、あれくらいのペースで走った事もあるが、ゾウさんとしては過去に実績よりはるかに速いペースだった。ところが、それを終盤まで維持することができたため新記録を達成することができたのだ。もし最初から安全運転をしていたら、こんな快記録は出ていなかったはずだ

(幹事長)「良いタイムを出すためには、やはり冒険は必要なんよねえ」
(國宗)「でも、それは練習の裏付けがあった場合ですね」


確かにゾウさんは、かなり真面目に練習を積んできている。練習をした上での冒険なら良い結果に終わる可能性もある。我々はロクに練習もしてないくせに、調子に乗って冒険するから痛い目にあうのだ。

一方、小松原選手はどうなったかと言うと、あんなに後ろからスタートし、障害物ランナーを掻き分けて走るのに苦労したにもかかわらず、なんと1時間30分を切る好タイムでゴールしたとのことだ。速い人は、何があっても速いもんだ。信じられないなあ。

トップ選手の結果は、競技場に入ってからもロバートソンと抜きつ抜かれつの熾烈な戦いを繰り広げ、最後の最後で抜き去ったクイラが59分47秒という大会新記録で優勝した。ちなみにロバートソンも同タイムだ。

(支部長)「私の倍以上速いやんか!」
(幹事長)「ここまで違うと悔しくはないけどな」


我々は揃って撃沈したけど、ゾウさんを始め、今回は良いタイムを出した人も多かったようだ。やはり気温が低く風がそんなに強くなかったから、絶好のマラソン日和だったのだろう。こんな良いコンディションの時に撃沈したのは本当にもったいなくて悔しいなあ。

レースが終わると、臨時駐車場まで臨時バスで戻らなければならない。バスは次から次へと出ているから、すぐに戻れるだろう、なーんて思っていたら、甘かった。何が甘かったかと言えば、競技場の周辺が大渋滞になっていて、バスが動けないのだ。すぐそこまで来ているバスが乗り場までやって来るのに時間がかかり、長時間、風に吹きさらされながら待たされるのだ。走っている時は気にならなかった気温の低さと風が骨身に凍みる。ようやくバスが来て乗り込んだら寒さはしのげるようになって一安心だが、どこまで行っても大渋滞で、臨時駐車場へ行くのに1時間もかかってしまった。渋滞が無ければ10分の距離なのに。

(幹事長)「この大渋滞の原因は何だっ!?」
(國宗)「私らが参加したマラソンですがな」
(幹事長)「やっぱり、なんとしても競技場周辺の駐車場券をゲットしなければならない。
       この記録を来年、読み返して忘れないようにしなければ!」
(ピッグ)「この記事は備忘録ですか」



レースの後は、例によって、うどん屋での反省会に繰り出す。しかし、バスに乗るのにとんでもなく時間がかかってしまい、既に3時を過ぎている。たいていのうどん屋は2時過ぎには閉店になってしまう。まだやっている数少ないうどん屋の1つに繰り出したが、一般店だったため超満員になっていて、ものすごく時間がかかりそうなので、途中で待つのを止めて、まだやっているセルフの店をなんとか探し出して入った。

(國宗)「ゾウさんに着いていく作戦は撃沈しましたね」
(支部長)「私なんか早々に諦めてペースを落としたにもかかわらず終盤は撃沈したなあ」


もちろん、最初に調子に乗って飛ばしすぎたのは反省せねばならない。しかし一方で、最近、練習の時は、老化のせいでスピードが出なくなったという不安を感じていたけど、いざ本番となると、途中まではかなりのハイペースで走れたので、一安心ではある

(幹事長)「本番だと気合いが入るから、まだまだ戦えるぞ!」
(ピッグ)「練習の裏付けは必要ですけどね」


それに、過去、ランナーとして15回出場した中で4番目のタイムってのは、中途半端な結果のように思えるが、20年近く走り続けているこのレースで、大会自己記録の上位は全て50歳台半ば以降に出している

(幹事長)「まだまだ衰えてないってことだぞ」
(ピッグ)「40歳台までは練習量が少な過ぎたんでしょうね」


ゾウさんは、来週は地元で開催される坂出天狗マラソンに出場する。2週連続で出場するなんて大変だけど、彼女はお世話係もしているので、出場するのだ。坂出天狗マラソンは15kmのレースで、なんとなく距離が中途半端なため、私は参加したことがない。て言うか、2週間連続でレースに出るのはしんどいし。でも、今日みたいに15km辺りまでは快調に走った後、終盤で大失速する状態なら、15kmレースなら最後まで失速せずにゴールできるかも知れない。そういう意味では、一度、出てみた方が良いかもしれない。

(國宗)「15kmレースになれば、序盤にもっともっと調子に乗って飛ばしてしまい、どうせ12km辺りで失速しますよ」

て事で、次のレースは徳島マラソンだ。徳島マラソンは例年は4月末の開催だけど、今年は4月に統一地方選挙があるとて、1ヵ月繰り上がって3月末の開催だ。3月末なんて、まだまだ寒いからフルマラソンは辛い。ハーフマラソンなら、ある程度のペースで走るから身体も温まるけど、フルマラソンは終盤になると徹底的にペースダウンするから身体も温まらず、寒い中、足をひきずってトボトボと歩くのが目に見えている。

(ピッグ)「だから歩くのを前提にするんじゃなくて、歩かなくても良いように練習しましょうよ!」


〜おしまい〜




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