第34回 小豆島オリーブマラソン大会
2011年5月22日(日)、第34回小豆島オリーブマラソン全国大会が開催された。
今年は東北地方大地震の影響で色んなマラソン大会が中止になり、ランナーとしてはサボり放題だった。
(石材店)「これこれ」
(幹事長)「だってモチベーションが上がらないんだも〜ん」
とは言え、良い子の僕は、10kmレースとはいえ4月末の青森県南部町うぐいすマラソンに出ているので、まだマシだけど、他のメンバーは、大半が2月始めの丸亀マラソン以来、レースとはご無沙汰している。なので、レースが無くても日頃から真面目に練習しているかどうかがバレる大会となった。
このレースが開催される小豆島は、四国と本州と、どちらからでも船で1〜2時間で行けるため、広く関西地方からの参加者も多く、人気の高いレースだが、最大の難点は交通手段だ。船で1〜2時間とは言え、大会会場である小豆島坂手地区には港はあるけど船の定期航路が無いのだ。他の港に着いてからバスや自家用車で移動する手もあり、実際、数年前はみんなで車に乗り合わせて行ったりしてたが、移動に時間がかかるのが難点だ。
一方、主催者が出している高松発の臨時船は、時間的には一番、早いんだけど、古いフェリーボートを借り切ったものであるため、座席が少くて、早く行かないと通路の片隅に体を丸めてしゃがみ込むか、広い車両甲板に寝転がるしかない。車両甲板は固い鉄板で、おまけに朝は冷え込み、逆に帰りは太陽熱で焼けて熱くなり、とても人間扱いされているとは思えない状況だ。そのため、我々は、この臨時船を奴隷船と呼び、恐れおののいるのだが、最近のマラソンブームにより、この奴隷船にすら、早めに申し込まないと定員オーバーで乗船券を入手できなくなっている。つまり、奴隷船は満杯というか定員の3倍くらい詰め込まれるという状況であり、ますます厳しい環境で、もはや家畜船かもしれない。
なので、できれば早めに乗り込んで座席を確保したいところだけど、かつては、できるだけギリギリまで朝寝坊して家を出発していたので、船に乗り込むのは出航ギリギリの時間だった。そのため、誰か素晴らしく心がけの良いメンバーが早めに乗り込んで席を確保してくれていない限り、座席はもちろん、床にレジャーシートを敷くスペースさえなくて、下の鋼鉄の甲板に寝転がる羽目になる。もちろん、そなな素晴らしく心がけの良いメンバーは滅多にいないので、たいていは固い甲板に寝転がっていた。しかし、最近は心を入れ替えて、できるだけ早めに出発して船に乗り込むように心がけている。
(石材店)「老化と共に早起きになりますからね」
(幹事長)「いや、ほんと、最近、早起きが苦にならなくて」
とは言え、それでも中途半端な早起きなので、せいぜいレジャーシートを敷くスペースが確保できる程度で、なかなか座席まではありつけない。それでも、吹きさらしの固くて冷たい甲板ではなくて、客室の床のスペースが確保できてみんなが座れれば満足せねばならない。
でも、どうせなら、みんな柔らかい座席に座った方が楽だし、今日は天気が下り坂との予報なので、甲板に寝転がると雨風がモロに吹き付けてくるから、それだけは絶対に避けなければならない。てことで、今年は一段と気合いを入れて、6時過ぎには船に乗り込めるように家を出た。船の出航は6時50分なので、昔から考えれば、有り得ないくらいの早い到着時間だ。
ところが!6時過ぎに乗り込んで客席を見渡すと、なんと、座席は埋め尽くされていた!床のスペースは、まだほとんど空いていたけど。がーん。まだまだ中途半端だったか!しかし、なんと丸の内支部長が僕よりも早く来ていて、なんとか4人くらいは座れそうな座席を確保してくれていた。
(幹事長)「いやあ、すまんすまん。助かるわあ。それにしても、こんなに早く来たのに、もう座席が無いなんて信じられない」
(支部長)「出航1時間前の5時50分から乗船できたんやけど、あっという間に埋まりましたね」
そうかあ。出航1時間前に来ないと座席は確保できないのかあ。来年は覚えておこう。
支部長は、私にとっては、このレースには絶対に欠かせない存在だ。支部長はどんなレースでも、前半、ハイペースで飛び出すので、私としては終盤に追いつけるかどうかが勝敗の分かれ道となる。フラットなコースでは、最後まで逃げ切られてしまい負ける事もあるが、坂の多いコースでは、坂が苦手な支部長は終盤に絶対に力尽きて歩いてしまうから、最後には勝利できるのだ。なので、この坂の多いオリーブマラソンに支部長は必要不可欠な存在なのだ。
ただし、去年は、僕も最後まで快走できたけど、支部長も最後まで歩かずに快走した。
(幹事長)「去年のこのレースは、自分でも考えられないくらいの好タイムだったなあ」
(支部長)「いやあ、ほんと。このレースで、あんなに最後まで頑張って走れるとは思わなかったなあ」
この大会は、同じ小豆島のレースで、同じように坂が多い11月のタートルマラソンに比べると、僕はものすごくタイムが悪くて、その理由が全く分からない謎のレースだったのだ。
(幹事長)「下っているように見える坂が、実は上り坂なのかもしれない」
(支部長)「それ、屋島やろ?」
5月末の開催だから、天気が良いときは、かなり暑いんだけど、それにしても炎天下の汗見川マラソンとか四国カルストマラソンみたいな地獄の暑さでもないし、本当に不思議だった。
ところが、去年は、かなり雨が降っていて気温が低かったせいか、異常にタイムが良かったのだ。最初は「雨は嫌だなあ」なんて思ってたのに、途中から気にならなくなって、雨も止んだんだけど、気温が低いままで、最後までバテずに快調に走れたのだ。いつもは後半の坂が多い区間がバテバテになるのに、坂が全く気にならず、なんと後半の方がタイムが良くなるという快挙も成し遂げた。これは僕だけでなく、支部長もピッグ増田も同じで、支部長が終盤の大きな坂で歩かなかったのは空前絶後だ。
(支部長)「空前やけど、絶後って決め付けんといてください」
てな訳で、それまで雨のレースと言えば、2000年の丸亀マラソン、2006年の小豆島タートルマラソン、2008年の今治マラソンと、惨敗続きで辛い思い出しかなくて、本当に嫌だったのだけど、一気に雨のレースも大歓迎となったのだ。秋や冬のレースで雨が降ると、体が冷えて動かなくなってしまうんだけど、逆に暑い季節に雨が降ると走りやすくなるのだ。で、今年も天気予報は下り坂とのことで、暑いより雨の方がマシだって事で、朝から空模様は悪いけど、やる気は維持していた。
ただし、今年は去年と大きく異なる点がある。去年は、4月下旬に徳島マラソンでフルマラソンを走り、2週間後には青森県の八戸うみねこマラソンでハーフマラソンを走り、さらに2週間後がこのオリーブマラソンだった。つまり、練習量は豊富だったのだ。
もちろん、徳島マラソンの後、ゴールデンウィークに遊びまくって疲れがたまり、八戸うみねこマラソンの後は疲労が極限に達して体調が極端に悪くなったりした。そのため、オリーブマラソン当日は万全の体調とは言い難かった。しかし、練習量的には不安は無かった。
ところが今年は、東北地方大震災の影響で、徳島マラソンも八戸うみねこマラソンも中止になってしまった。青森県内の八戸うみねこマラソンが中止ってのは分かる、というか、会場が津波の被害にあったから、物理的に開催は不可能な状態だったけど、遠く離れて何の影響もない徳島マラソンが、なぜ中止になったのかは、今だに理解できない。
しかも、震災で仕事も生活も大幅に狂ってしまったし、さらには寮のトレーニング室のランニングマシーンが大地震以来、壊れたままなので、全く練習ができない状態が続いたりしたため、今年の練習不足は、さすがにヤバい状態だ。
とは言え、上にも書いたように、僕は10kmレースとはいえ4月末の青森県南部町うぐいすマラソンに出ているので、まだマシだけど、他のメンバーはレースとはご無沙汰のはずだ。
(幹事長)「ぼちぼち練習はできてんの?」
(支部長)「う〜ん、ほぼ、さっぱりですわ」
そうか、さっぱりか。まだ僕の方がマシか。今年も支部長には勝てるかも。
支部長が確保してくれた座席でゆっくりしながら、JRで来るメンバーを待つ。彼らは、始発電車に乗っても、乗船が出航ギリギリになってしまうのだ。まず現れたのは、支部長の同僚のヤイさんだ。ヤイさんは、野球をメインにあらゆるスポーツをこなす恐るべき中年だ。
(幹事長)「調子はどうですか?」
(ヤイ)「ちょっと肉離れ気味で怖いんですわ」
ふうむ。ヤイさんも絶好調ではないわけだ。でも、これまでの実績から言えば、決して油断はできない底力というか潜在力を秘めているから、要注意だ。
続いてゾウ坂出も元気に登場。彼女は、このレースは、以前は10kmの部に出ていたけど、去年からハーフマラソンの部に出ている。もちろん、タートルマラソンや丸亀マラソンでもハーフマラソンは何度も走っているので、全く不安は無い。と言いたいところだけど、ゾウさんも今年は不安でいっぱいだ。
(幹事長)「丸亀マラソンの翌週には坂出天狗マラソンに出たりして頑張ってたけど、その後はどう?」
(ゾウ)「3月下旬以来、ほんと、もう一切走ってないんですよ」
彼女も決定的に練習不足なのだ。2ヵ月も練習無しでハーフマラソンに出るってのも、ちょっときついだろうなあ。
それから、このオリーブマラソンには必ずゾウ坂出と一緒に出場するO林氏が、さらにもう1人連れて今年も登場。
さらに、毎年必ず参加される福家先生がお父上と一緒に登場。お父上は、今年89歳だ。89歳でマラソン大会に出るなんて、もう、有り得ない!
(幹事長)「どう考えても、自分が89歳になったときは、マラソン大会どころか、走ることもできないでしょうねえ」
(支部長)「たぶん歩くこともできませんねえ」
(幹事長)「て言うか、たぶん、そんなに長生きも出来ないでしょうねえ」
船が出発して小豆島へ向かうと、だんだん空が暗くなっていき、雲が立ち込めてくる。て言うか、窓ガラスに雨粒がつき始める。いくら雨の方がタイムが良いかも、って言っても、やっぱり天気は良い方が気持ちが良いし、天気が悪くなると気分も暗くなる。
って思っていたら、H本さんに会う。ここ2年間というもの、彼女は私の真剣かつ最大のライバルだ。最初の戦いである一昨年の庵治マラソンでは、まあ余裕を持って勝利した。彼女は初レースだったし、当たり前だ。次の一昨年の小豆島タートルマラソンの時は、そんなに余裕は無かったが、なんとか途中で抜き去り、そのまま逃げ切った。ところが去年の徳島マラソンでは、一度、抜いたのだが、終盤に力尽きて抜き返され、負けてしまったのだ。彼女は初フルマラソンだったのに。そして去年のオリーブマラソンでは、中盤で既に大きな差をつけられて、そのまま完敗した。これで、もう二度と勝てないかも、なんて思っていたのだけど、去年の小豆島タートルマラソンでは、最後に必死に力を振り絞って、ゴール直前で抜くという掟破りの勝利を飾って顰蹙を買った。というように、ここんとこ二人は厳しい戦いを繰り広げてきたのだ。
(幹事長)「よきライバルの存在は成長には不可欠やな」
(支部長)「向こうは、相手にしてないんちゃいますか。
て言うか、マラソン歴1/10の女性をライバル視する時点で、ちょっと情けないと言うか何と言うか」
(幹事長)「いやいや、マラソン歴では10倍でも、練習量のトータルでは同じくらいかも」
スポーツはキャリアの年数はあんまり関係なく、単にダラダラ長年やっていても強くはならない。短期間でも集中的に効果的に練習を積めば、あっという間に強くなるのだ。て、自分では経験したことはないけど。
(幹事長)「丸亀マラソンでは見かけなかったけど、走ってた?」
(H本)「その日は愛媛マラソンがあったから、そっちに出たんですよ」
(幹事長)「愛媛マラソンってフルマラソンよねえ。タイムはどうやった」
(H本)「ふふ、4時間切りましたよ」
(幹事長)「え!?4時間切った?がーん!」
なんて事だ。これまでは、取りあえず勝ったり負けたりだったのに、フルマラソンで4時間切りだなんて、どう考えても今の僕には不可能だ。完全に負け、と言うか、違うレベルに行ってしまった。マラソン始めてまだ2年というのに、ここまで一気に差を付けられるって、一体どういうことだ?
(幹事長)「僕達は、何か根本的に間違った事をしてないか?」
(支部長)「だから練習量が根本的に違うんですよ」
せっかく、なんとかやる気を出してモチベーションを維持していたのに、H本さんの4時間切りのショックで、テンションが一気にダダ下がり状態になる。もうライバルとは言えないのではないか?ま、しかし、ここまで差がつくと、もうライバルではないし、負けても平気。と居直る。
ようやく船が小豆島に着くと、例年のように島の小学生達の鼓笛隊が演奏で迎えてくれる。これを聞くと、やる気が沸いてくる。
受付を済ませて、取りあえず芝生の公園にスペースを確保して着替えをする。写真を撮ったりしながらダラダラ時間をつぶす。ゾウさんは、長らく走ってないので、少し不安そう。
(ゾウ)「ちょっとウォーミングアップした方がいいですかねえ」
(支部長)「いやいや、私らのようなレベルのランナーは、ウォーミングアップはしない方が良いって小出監督が書いてたし」
(幹事長)「そうそう、わしらのような三流市民ランナーには、ウォーミングアップは百害あって一利なし!」
そうこうしてると、雲の切れ間から太陽が顔を覗かせ始めた。こうなると、てきめんに暑い。
(幹事長)「うあ、暑いなあ」
(支部長)「今年の丸亀マラソンで着てた青森の職場の陸上部のユニフォームは?
あれだと暑くないんじゃない?」
(幹事長)「しもた!すっかり忘れてた!」
去年、今の青森の職場で陸上部を結成し、会社の金でユニフォームを揃えたのだ。僕らがペンギンズで作ろうと10年以上前から企画しながら実現していないTシャツユニフォームと違い、本格的なユニフォームで、非常に走りやすいのだ。2月始めの丸亀では、ランニングシャツがあまりに寒かったから、Tシャツの上から着たため、なんとなく格好悪かったけど、少なくとも短いランニングパンツは非常に走りやすかった。今のように太陽が出て暑くなると、上のランニングシャツもピッタリのはずだ。ところが、今日は雨の予報だったから、むしろ寒さ対策しか考えず、完全に存在を忘れていた。しまったなあ。
なーんて後悔していたら、すぐにまた曇ってきて、風も吹いてきたりして、むしろ肌寒くなってきた。肌寒いと言っても、雨さえ降らなければ絶好の気温だけど。
と思ってたら、今度はいきなり雨が降り始めた。
(幹事長)「どうせ、すぐ止むって」
(支部長)「去年、そなな事言って、結局、土砂降りになったやないですか」
て事で、みんな慌てて荷物をまとめ、開会式会場に出店している屋台のテントに入って雨宿りする。開会式では、雨合羽用に黒のビニール袋が配られている。完全にゴミ袋だ。それに各自、破って穴を開けて頭と手を出す。どう見ても不細工で格好悪いので、使うとしたら持参してきた透明のビニール袋だ。以前、丸亀マラソンでもらった穴あきビニール袋で、去年も使ったものだ。ただのビニール袋だけど、大きさがぴったりで使いやすいので大事に使い回ししている。ゾウさんは、去年、支部長から譲り受けたアシックスの大きなロゴが入った高級品を持ってきている。支部長も同じくアシックス製の高級品だ。一見、同じようなビニール袋だが、アシックスのブランド物は、ロゴが入っているというだけで300円もするのだ。普通のゴミ袋なら、せいぜい10円程度だろうから、ロゴ代が290円てとこだ。
それぞれ不安を抱えながらも気合いがみなぎるメンバー
(幹事長は優勝のテープを切る練習に余念がない)
みんなは、雨は止まないと判断して、あっさりビニール袋を被って荷物を預けてスタート地点に行った。でも、僕は、雨が止むのではないかという期待を捨てきれない。去年のレースでの経験により、雨のレースは嫌じゃなくなったとは言え、本能的に雨の中へ出て行くのは嫌だ。荷物を預けてしまうと、どういう装備で走るかギリギリまで様子をみることができないので、荷物を下げたまま、倉庫みたいな建物の片隅で雨宿りしながら様子を見る。ところが、雨は上がらないばかりか、なんだかとっても雨脚が強くなる。はっきり言って土砂降りって感じ。2年連続の土砂降りとなった。しかも、いつまで経っても止まない。荷物を持ったまた、ボケっと立ってると、妙に疲れてくる。
遂にスタート10分前となり、さすがに、もうヤバイと思って諦めて、仕方なく決断する。まずは嫌いな帽子を被る。ほんの小雨程度なら帽子を被ったくらいで十分だけど、風も出てきたし、これだけ激しく降っていると体が冷えるのが怖いので、Tシャツの上にビニール袋も被る。ちょっと鬱陶しいけど、不要になったら脱げばいい。
シューズは、もちろん、新しい方のシューズを履く。こなな雨の中で履くのはもったいない気もするけど、去年は、雨の中でも、このシューズのおかげで非常に快適に最後まで走れたもんな。
完全装備に身を包み外に出ると、雨は相変わらず激しく降っていて、ビニール袋のおかげでTシャツは濡れないんだけど、ちょっと雨が冷たい。足の方は無防備に濡れていき、シューズもすぐにビショビショになるが、これは去年の経験から、何の問題も無い事が分かっている。とは言え、体が不快なのは、どうしようもない。走り始めたら気にならなくなるとは分かっているけど、スタート地点で待っているときは、ちょっと冷たいし気持ちが悪い。
ただ、去年のレースでは、雨のおかげで考えられない好タイムを出すことができたので、前向きに捉えなくっちゃ。
スタート地点に着いて気合いを入れるが、ずっと雨宿りしていたから、ストレッチなんか全然やってないことに気付く。ウォーミングアップは不要としても、ストレッチは不可欠だ。慌てて足首だけ回したりしたけど、スタートで混雑しているので、あんまり体は動かせない。なんだか不安が沸いてきた。
(幹事長)「さすがに今年は去年みたいな好タイムは期待できないにしても、天候が同じような状態だから、
あわよくば良いタイムが出るといいよなあ」
(支部長)「いくら雨でも、今年の練習量から考えたら、そら絶対に無理ですな。完走できたら万々歳ってもんですよ」
支部長はそうかもしれないけど、僕としては、去年みたいな好タイムは無理としても、雨のおかげで、そこそこ良いタイムが出ないかなあ、なんて甘い期待をする。なんと言っても、このレースに対する圧倒的な苦手意識が、去年の快走によって払拭されたのが大きい。自信を持って挑めるのだ。
スタート1分前になり、緊張が高まる。
(幹事長)「なんだか今日はいけそうな気がするう〜」
(支部長)「もう古いですよ」
ところが、スタートのピストルが鳴ってないのに、いきなり「スタートの合図が鳴りました。みなさん気をつけて行ってきてくださ〜い」なんて女性のアナウンスが流れる。みんな一斉にとまどいながら慌てて飛び出すと、その後からスタートのピストル音が聞こえる。なんじゃ、そらーっ!アナウンスがフライングやんかーっ!
慌てて走りながらも、最初は周囲に合わせて走り始める。最初の1〜2kmはウォーミングアップだ。そもそも最初は混雑でスイスイとは走れないし。ただ、周囲のランナーは、そんなに遅い人もおらず、全体として調和の取れた集団として淡々と走り始める。
このレースのコースは、スタートしていきなり大きな坂がある。天気が良くて暑いと、いきなり疲れがどっと出る坂だけど、雨のせいもあって、全く厳しさは感じない。
大きな坂を過ぎると、その後8kmほどは平坦な道が続く。雨は小降りになったこともあり、全く気にならない。寒くもないし、ちょうど良い感じか。
シューズは、と言うと、いきなりビショビショになった割には、全然ビショビショ感が無い。移動用に履いてきた安物のジョギングシューズが濡れてすぐに重くなって気持ちも悪くなったのに対して、さすがは高価なレース用シューズは違う。濡れても全然水を含まないのか、重くならないし、全然、気持ち悪くない。軽やかに走れる。なんとなく快調に走れている。
ペースとしては、今回は練習不足が明白で、完走の自信も危なっかしいくらいなので、そんなに無理はできないが、どこまでペースを落としたらいいのかもよく分からないので、とりあえず無理しない範囲で周囲のランナーに着いて行く。
しばらく行くと、目の不自由なランナーが伴走者とロープで手をつないで走っているのに出くわした。しばらく後ろから着いて行くと、なんだかちょうどいいペース。マラソン大会に出場する目の不自由なランナーは、大抵は実力があり、また伴走者も当然ながら実力がある。なので、彼らは最初から最後まで一定のペースをキープしながら走るはずだ。彼らに着いていけば安定したペースで走れるはずだ。そう思って、ぴたりと後ろから着いて行く。ほーんの少しだけペースが速いような気もするけど、ダラけた体に鞭打つには、ほーんの少し無理した方がいいと思うので、頑張って着いて行く。
周囲のランナーは、まだ少し混雑していて、掻き分けるようにして追い抜いていくランナーも多いけど、そういう事をしても、疲労がたまるだけで大してタイムは上がらないというアドバイスを忠実に守って、ひたすらペースを維持して走っていく。
1つ目の折り返し点は5km地点の直前だ。折り返してすれ違いながら他のメンバーの動向を確認すると、支部長とヤイさんが1kmほど遅れておしゃべりしながら走ってくる。二人とも余裕しゃくしゃくだが、いくらなんでも遅い。5km地点で1kmの差は大きすぎる。終盤で潰れて歩かない限り、彼らに負けることはないだろう。安心すると同時に、緊張感が無くなる。
このレースは、後半は1kmおきに距離表示があるんだけど、なぜか前半は距離表示が少ない。最初の距離表示は5km地点だ。時計を見ると、おや?かなり遅いぞ。着いていってる伴走者は速そうだし、実際に、多少無理して着いて行ってるのに、それでも遅めってことは、やはり今年は練習不足で体が出来てないのか。
ほーんの少しだけ無理してきたためか、前半なのに、早くも足に疲労を感じる。筋肉に疲労感が出てきたほか、筋が多少、痛むような気がする。足の付け根や膝の関節にも軽い痛みを感じる。こら、まずいんじゃないか。前半の無理は、後半になってずしりと響いてくる。前半、無理してほんの少しタイムが良くなっても、終盤にその何倍もお返しがくる。過去の経験から言えば、この時点で足に疲労感が出てきたら、終盤は歩いてしまうかもしれない。でも、もう今さらペースダウンしても遅い。行けるところまで行くしかない。膝なんかの痛みに関して言えば、大きな故障を抱えていないため、どこが痛くなっても、しばらく走っていると解消されるはずだ。
雨はほとんど止んで、被っているビニール袋がちょっと蒸し暑く感じてくる。ペースは確実に落ちていき、目の不自由なランナーと伴走者についていくのがキツくなり、あんまり無理して終盤で潰れるとマズいので、着いていくのは諦めて、マイペースに戻す。こうなると目標が無くなり、ついついダラけてペースが落ちていくのが怖い。
8km地点の手前で分岐点があり、後半の坂が多い道に入っていく。気分的には、ここまでで半分って意識なんだけど、まだ8kmだから、ここからの方が長い。しかも、ここからは坂が次々と出てくる。まさに、ここからが勝負なのだ。去年に比べると、既にだいぶタイムは落ちているが、蒸し暑くなったビニール袋を脱ぐと、一気に涼しくなり、元気が多少、蘇る。
少し行くと、前方から5kmコースに出ている福家先生のお父上がすれ違って走ってくる。元気で、しっかりした足取りだ。お父上を見ると、こちらも元気になる。
去年もそうだったけど、天気が良くて暑いときなら、次から次へと現れる坂が厳しくて、どんどんペースダウンしていくとこだけど、雨のせいなのか、あんまり坂が苦にならない。だいぶ落ちかけていたペースだけど、坂が増えてきても一気にペースダウンすることはなく、なんとか持ち堪えている。
2つ目の折り返し点までは、まだ1kmはあるってところで、なんと早くもH本さんにすれ違う。まさか、まだ来ないだろうとノーマークだったのだが、いきなり「頑張ってぇ!」って声を掛けられて驚いた。以前なら悔しいところだけど、これだけ実力に差が開いてしまった今となっては、なんだか素直に嬉しい。
(石材店)「もうプライドは、無い、と?」
(幹事長)「人間、プライドなんて捨てた方が楽やぞ」
しかし、ここまであからさまに差がつくと、追いつこうという気力が沸かなくなるから、ペースは上がらない。ますます緊張感が無くなり、目標が無くなり、ダラダラと走る。
ようやく2つ目の折り返し点にたどり着き、後方のメンバーを確認する。前半の5km手前の折り返しで1kmも差があった支部長達だから、差はもっと開いているだろう。と思って余裕をかましていたら、なんと、ヤイさんが僕の200mくらい後を追いかけてくる。なんと!一体どゆこと?前半は支部長に付き合っておしゃべりしながらゆっくり走っていたけど、後半に入って支部長を見捨てて本領を発揮し始めたらしい。このままでは、逆転されるのは時間の問題だ。さすがに、これは由々しき事態だ。お尻に火が着いたと言うか鞭を入れられたと言うか、一気に危機感が全身を貫き、それまで生ぬるい感じで走っていたが、気合一発、一気にペースを上げた。それまでのダラダラしたペースは目標を失った精神的な要因が大きかったらしく、ペースを上げても、そんなにキツくない。前半に痛みを感じていた足も、全然、平気になっている。やはり精神力って大きいなあ。
支部長は、と言うと、2kmくらい遅れて苦しそうに走ってくる。せっかくの雨も、圧倒的な練習不足の支部長には神の助けにはならなかったようだ。それからゾウさんが見つからなかった。ずっと走ってなかったということで、まさか故障でリタイヤしんじゃないだろうか。心配だなあ。
もう残り1/4くらいだが、まだまだ坂は続くので、一昨年までは、みるみるうちにどんどんペースダウンしていき、終盤は「歩かなければ良し」て言うくいらいの非常に厳しい区間だ。しかし、去年は、ここから体に元気が沸いてきて、むしろタイムが良くなり、大会自己ベストを大幅に更新したのだ。そして、今年もヤイさんに追いかけられているという恐怖心から、去年と同じようにハイペースで終盤を走ることができている。どこから元気が出てくるのか理解できないくらいだ。
相変わらず坂が全く苦にならない。むしろ坂があった方が変化があって楽しいくらい。さすがに足は少し重くなってきたが、ぜんぜん息は苦しくない。タイムを確認しても、去年と同じように良いペースで走れている。1kmごとにタイムを確認しているが、今度こそはペースダウンしてるんじゃないか、って思いながら時計を見るけど、いつまで経っても快調に走れている。写真撮影のカメラマンがいるところでは、ちゃんとポーズも取れた。
そのうち、前半で着いていくのを諦めた目の不自由なランナーと伴走者に追いつき、抜いていく。着実にペースが上がっているということだ。良い感じ。ヤイさんも追いついてこない。まだ恐怖心はあるけど、だいぶペースを上げているから、逃げ切れるかも。
次々と坂が現れるが、一向にペースが落ちる気配はない。前半がスローペースだったから、去年みたいな好記録は無理だけど、一昨年までのタイムに比べれば良いタイムでゴールできるかもしれない。
最後の大きな坂に入っても、足は重くならず、頑張って走れている。まだ余裕が残っている、とまでは言えないけど、坂のピークを越えて下りになり、残り1kmになってからは一気にスパートをかける。そして、片っ端から他のランナーを抜きながら気持ちよくゴールできた。
結果は、去年に比べれば、ずっと悪いけど、それでも過去のタイムに比べれば上出来だ。なんと言っても、去年と同様、終盤の方が坂があるにもかかわらず前半よりタイムが良かったのが嬉しい。前半は、これ以上ペースを上げるのは無理、って感じだったけど、終盤になると元気が沸いてきてどんどんペースが上がったのが不思議だ。総合順位を見ると、上から1/3くらいのところだ。このレースで、その順位ってのは、やはり上出来だろう。
ゴールしてから後続のメンバーを待っていると、少し遅れてヤイさんがゴールしてきた。一時は200mまで詰め寄られていたけど、肉離れの影響もあり、終盤はペースダウンしたようだ。
支部長は、というと、すごく遅かった。ものすごく遅かった。
(幹事長)「どしたん?かつてのような惨敗ぶりやんか。まさか歩いた?」
(支部長)「終盤はベタ歩きやった。もう駄目。なんぼ雨が降っても、足が全然動かん」
(幹事長)「やっぱり坂で歩かなかったのは去年が最初で最後やったやんか」
一方、ゾウさんは、僕が見つけられなかっただけど、結構、良いペースで帰ってきた。女子部門では真ん中辺りの順位だ。
(幹事長)「練習してない割には、悪くない順位やなあ」
(ゾウ)「これで半分くらいって、なんだか嬉しいですねえ」
秋のタートルマラソンもそうだけど、小豆島のレースは、走った後にタダのソーメンを食べられるのが嬉しい。このレースでは、冷たいソーメンが好きなだけ食べ放題だ。今年のように雨で体が冷えているときは、暖かいソーメンが欲しいところではあるが、冷たくても、疲れた体に優しく食べられるソーメンはありがたい。
取りあえず、空きっ腹にソーメンを流し込んで、弁当はもらったまま食べずに、奴隷船の乗り場へ急ぐ。朝は支部長のおかげで座れたので、帰りは、真っ先にゴールした僕が何としても座席を確保せねばならない。乗り場に着くと、出港まで1時間半もあるのに、既に長蛇の列が出来ている。ヒマなので弁当を立ち食いしながら待っていると、朝と同じく、出港1時間前に乗船開始となった。船に乗り込むや否や素早い行動で、なんとかメンバーが座れる座席を急いで確保できた。
しばらくしてメンバーも乗り込んできて、遠足気分のまま楽しい船旅となった。
(幹事長)「練習不足にもかかわらず、まあまあ満足のいく結果やったなあ。
なんだか、この大会が好きになっちゃった。て言うか、雨のレースはええなあ」
(支部長)「私は昔に逆戻りですわ。あかんなあ」
(幹事長)「僕は7月末に東北町わかさぎマラソンに出るけど、みんなは10月末の庵治マラソンまで休養やろ?」
(支部長)「ウォーキング大会か何かに出ないと、体が鈍るなあ」
てことで、次回は7月末の東北町わかさぎマラソンをお楽しみに!
〜おしまい〜
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