第29回 汗見川清流マラソン大会
2016年7月31日(日)、猛暑の炎天下、高知県本山町で第29回汗見川清流マラソン大会が開催された。
このレースは、暑い暑い四国の真夏に開催される大変貴重なマラソン大会だ。以前は、真夏の四国のレースとして、ほかにも四国カルストマラソンがあった。真夏に開催されるというだけでなく、かつての強烈登山レース塩江山岳マラソンに匹敵するものすごい急な坂が延々と続くという異常に厳しい20kmコースだったので、強烈な日射しにより地獄のような暑さで体が焦がされる中、走るのが不可能なほど急な坂をよじ登るという発狂するようなレースだった。しかし、この殺人レースは、あまりの厳しさのため危険すぎるってことで、数年前に廃止になってしまった。(ちなみに、その後継レースとして出来た龍馬脱藩マラソンは、季節は10月で走りやすい時季になったが、フルマラソンの部は最大標高差560m、累積の標高差は860mという、四国カルストマラソンを遙かに上回る発狂しそうな超厳しいコース設定となっている)
てことで、汗見川清流マラソン大会は真夏の四国のレースとして唯一の貴重なレースになった。四国で真夏のレースが少ないのは、あまりにも暑くて走るのが大変だからだ。でも、だからと言って真夏にレースに出ないと、夏の間、ランニングをサボってしまいがちになる。レースが無くても地道にトレーニングできる真面目な人ならいいんだけど、我々のように心が弱いと、レースが無いとどうしてもサボってしまうのだ。
(ピッグ)「レースがあっても、こう暑いと練習はサボりがちになりますけどね」
レースが無いと完全に休養してしまう弱い我々としては、少しでもモチベーションを維持するため、この時季にレースを1つ入れたいわけだ。
〜 エントリー 〜
しかし、こんな発狂しそうなほど暑い四国の真夏に、マラソン大会に出たいって思う人がそんなにいるとは想像しにくいかもしれないが、実はこのマラソン大会の人気は高くて、申し込むのが大変なのだ。
(ピッグ)「定員が1000人と少ないってのも大きな理由ですけどね」
以前は、申し込み期間が過ぎてからでも、役場に電話してお願いしたら出場させてもらえていた。8年前に参加していた時なんかは、ざっと見て300人くらいしか参加してなかったから、人が集まらなくて大会が消滅しないか心配していたくらいだ。場所が四国の山の中で超不便なうえ、いくら標高が高いと言っても、山の中の窪地なので真夏はクソ暑いし、コースが川沿いの林道を延々と10kmも登り続ける厳しいコースだから、人気が無くて当たり前だったのだ。
それなのに、4年前、四国に戻ってきて久しぶりに出てみようと思ったら、申し込もうと思ったときには、既に定員に達したとのことで受付終了になっていたのだ。確かに申し込もうとした時期は遅かったが、それでも定員オーバーだなんて、かつての汗見川マラソンを知っている者なら、信じられない現象だ。しばらく四国から離れていた間に、人気レースになっていたのだ。近年の異常なマラソンブームの中、真夏の四国のレースとして唯一の貴重なレースになったため、人気が沸騰したのだろう。種目も、10kmコースのほか、ハーフマラソンの部も出来たので、超マイナーな山奥の草レースが、メジャーな大会になりつつあるのだ。
(ピッグ)「定員僅か1000人なんだからメジャーとは言えませんけどね」
こんなに人気沸騰しているのだから、今どき定員1000人だなんて少な過ぎるような気がするが、狭い山道のコースを考えると1000人が限界のようにも思える。こじんまりした和気藹々とした大会の雰囲気も好ましいので、エントリーしにくくなったとは言え、定員は増やさないで欲しい。
てなことで、3年前は、エントリー受付がいつ始まるのか、毎日、今か今かと注視し、受付開始の情報を聞くや否や、慌ててすぐさま申し込み、なんとかエントリーできた。それなのに、2年前は受付開始当日につい忘れてしまい、気が付いた時には既に定員オーバーで受付終了となっていた。恐るべし若年性認知症!
それで去年は、他のメンバーにも数日前や当日の直前に一斉メールを流すと共に、自分も忘れずにパソコンの前でスタンバイしていた。それなのに、ちょっと焦って受付開始の8時よりほんの少し5秒くらい前にエントリーボタンを押してみたら、なんと画面がフリーズしてしまい、ウンともスンとも言わなくなってしまった。それでも、慌てて再起動させたおかげで、なんとかエントリーすることはできた。しかし、受付開始から数十分で受付終了となってしまったため、他のメンバーはエントリー失敗者が続出し、結局、ピッグ増田選手と2人で参加した。
私がこんなに必死になってエントリーしているのに、他のメンバーの動きが悪いのは、このレースの坂と暑さに腰が引けてしまい、イマイチやる気が無いからだ。
確かに「一体どうして、こななクソ暑い時期にマラソン大会が存在するんだろう?」という単純で素朴な疑問はある。もう29回にもなる歴史ある大会なので、もしかしたら28年前は、7月下旬といえども、四国山地の真ん中の高原地帯は涼しかったのかもしれない。汗見川マラソンも四国カルストマラソンも、夏の真っ盛りだけど高地なので気温も下界に比べたら低めだろうって事で始まったのではないだろうか。しかし、こなな山の中でも高温化は確実に進んでいて、9年前に出場したときは、この世のものとは思えないようなあり得ない暑さで、「四国山地の真ん中の高原で、こんなに暑いんだったら、下界は地獄のような暑さだろうなあ」なんて思っていたら、なんと、その日は、汗見川マラソンが開催された高知県本山町が全国で一番暑かったという、トンでもない状況だった。昔は涼しかったのだろうけど、少なくとも今は、高原だからと言って涼しさを期待してはいけない事だけは確かだ。
そういう事もあって、このレースに対するペンギンズの軟弱メンバーの反応は鈍かったのだ。ピッグは一度、四国カルストマラソンには出たことがあるし、もともとマイナーな草レースが好きだから、他のメンバーよりは真面目にエントリーにトライし、去年は一緒に出場することができた。他にペンギンズでこのレースに出た事があるのは、暑さや坂なんかは物ともしない城武選手や新城プロなどプロ級ランナーのほか、石材店や矢野選手といった高速実力ランナーばかりだった。ちなみに、城武選手は去年も出場し、ハーフマラソンで優勝した。
一方、支部長を筆頭に、軟弱部隊はあんまり関心を示していなかったのだが、今年は去年以上にしつこくメンバーに注意喚起してプレッシャーをかけ続けた結果、私とピッグのほか、支部長がヤイさんと國宗選手の分も含めてエントリーに成功した。ただ、今年は一段と過熱して10分程度で受付終了となったようで、DK谷さんは去年に続いて失敗した。いくら定員が1000人と少ないとは言え、こんな四国の山奥の超マイナーなレースが10分で受付終了になるなんて、本当にもう世の中、信じられない。
てな事で、結局、今年は5人で出場することとなった。もちろん、出場するのはハーフマラソンの部だ。以前、10kmの部しかなかった頃の10kmコースは、延々と10kmの上り坂を登るコースだったけど、今のハーフマラソンのコースは、同じコースを10.5km登って折り返して帰ってくるコースだから、後半は下り坂で楽だ。以前の10kmコースが走れるランナーなら、後半は惰性で帰ってこられるのだ。一方、ハーフマラソンの部ができてゴール地点がスタート地点と同じになったため、今は10kmの部も片道じゃなくて、5km上って5km下ってくるコースになっており、それじゃあ物足りないし。
〜 ドタキャン 〜
ところがレースの直前になって國宗選手から連絡が入る。レースの直前に入る連絡は悪い知らせと相場が決まっている。特に國宗選手からはドタキャンの連絡に決まっている。分かり切っている。去年の小豆島オリーブマラソンも酸欠マラソンもそうだったし、徳島マラソンに至っては3年連続でドタキャンした。
(國宗)「あのう、夜分遅くに済みません」
(幹事長)「ああ、はいはい」
(國宗)「実は、今度の汗見川マラソンなんですけど・・・」
(幹事長)「ああ、はいはい」
(國宗)「あの、実は、急に出られなくなりまして・・・」
(幹事長)「ああ、はいはい」
(國宗)「えーと・・・」
(幹事長)「ああ、はいはい」
(國宗)「って、理由は聞かんのですかっ!」
(幹事長)「どうせ急な仕事が入ったとか何とか言うんやろ?」
聞くところでは、職場の地元で開催されるイベントに出なければならないとのことなので、練習不足で逃げた訳ではない。むしろ、休日なのに気の毒だ。
〜 会場へ出発 〜
当日は、高知の山奥まで日帰りなので、当然ながら早めに出発しなければならない。去年の記事を見ると6時に出発したら楽勝だったようなので、今年も6時に高松を出発する。今年はピッグ様の車で行くことになった。
このレースのコースは、前半は延々と坂を登るうえ、厳しい日射しが照りつける酷暑のレースなので、できれば雨が降ってくれる方が望ましい。3年前はスタート直前にスコールが降り、スタート時点では止んでいたが、だいぶ気温が緩和されていたため走りやすく、思ってもみなかった好タイムが出た。なので、坂が厳しいとは言え、雨さえ降れば十分に戦えるレースなのだ。しかし、数日前から天気予報は晴れの予報が続いていて、どう見ても雨は降りそうにないので、早々に諦める。ただ、まだ朝早いからか、そんなに暑くはない。
(幹事長)「これくらいの気温やったら何の問題も無いよなあ」
(ピッグ)「そうですけど、たぶん暑くなるでしょうね」
早朝のため道路は空いていて、高速道路も順調に進んだ。車の中で朝食を食べる。もちろん、朝食はおにぎりだ。以前はマラソン大会の朝食と言えば、決まって菓子パンをたくさん食べていたが、ここ数年、マラソン大会で走っている最中にお腹を壊してトイレに駆け込むことが増えてきた。その原因を考えてみたら、菓子パンが原因ではないのかって思えてきたので、去年の徳島マラソンから菓子パンじゃなくて、おにぎりを食べるように変えた。そのせいだと思うんだけど、それ以降はマラソン大会でお腹を壊していない。これは単なる気のせいではなくて、その後、NHKの「ためしてガッテン」で、パンに含まれるフルクタンという糖類は消化に悪く下痢しやすいが、お米に含まれている糖類は消化が良いと言っていた。もちろん、誰もがパンを食べたらお腹を壊す訳ではないが、私のように胃腸が弱い人間は牛乳と同じようにパンでもお腹を壊しやすいのだ。
最近は、お腹の調子が悪くなくても、用心には用心を重ねて予め下痢止めの薬も飲んでいたんだけど、おにぎりに変えてからはお腹を壊す事がなくなったので、もう安心して、今日は下痢止めを飲むのは止めておく。
さらに、マラソンとは何の関係も無いが、豚骨ラーメンもお腹を壊しやすいらしい。私は豚骨ラーメンが大好きだが、以前から、豚骨ラーメンを食べるとお腹を壊す事が多かった。でも、まさか豚骨ラーメンがお腹に悪いだなんて思ってもみなかったから単なる偶然だろうと気にしてなかった。ところが、最近、職場の女性から教えてもらったのだが、豚骨ラーメンの油分は消化に悪く、彼女も豚骨ラーメンを食べるとすぐお腹を壊すと言っていた。「でも好きだから食べるけどね」と言っていた。
(ピッグ)「本当にマラソンと無関係の、どうでもいい話ですね」
(幹事長)「いや、だから、パンにしても豚骨ラーメンにしても、まさか思いも寄らなかったものが、胃腸が弱い人間にとっては、
お腹を壊す原因になるから、マラソン大会の朝の食事には気をつける必要があるという事を言いたいのだ」
(ピッグ)「朝から豚骨ラーメンなんて食べますか?」
高速道路を降りる直前の馬立パーキングエリアでトイレに行ったが、普段はほとんど客がいないサービスエリアなのに、早朝からレースに参加するランナー達で大賑わいだった。トイレも混んでいて、大をするには長い列に並ばないといけなかったが、過去の経験から言えば、こぢんまりした大会なので現地のトイレは混雑していないから、大丈夫だ。
〜 会場到着 〜
車はその後も順調に進み、現場の駐車場には予定通り7時半に着いた。この駐車場が一杯になると、遠く離れた第二駐車場に停めてバスで移動することになるので避けたかったが、まだまだ駐車場は半分も埋まっていない。
レース会場はクライミングセンターだ。高さ15m、幅4mの人工のクライミングウォールが2面ある西日本で唯一の屋根付き競技場だ。ぜひ一度、遊ばせてもらいたいと思う。
3年前までは、このクライミングセンターのテント屋根の下が受付とともに選手の控え場所になっていたんだけど、去年からクライミングセンターの裏のグラウンドが待機場所になっている。グラウンドの芝生の上に大きなテントが張られ、その中にテーブルとイスが並んでおり、他のマラソン大会ではあり得ないような快適な待機場所になっている。他のマラソン大会だと、オリーブマラソンのように自分達でなんとかスペースを見つけて強引にシートを敷くというのが基本だ。この大会は定員が1000人と少ないため、こういう快適な環境が準備できるのだろう。
今年も、この待機場所でおんちゃんに会う事ができた。おんちゃんは、このホームページに時々書き込みしてくれていた高知のランナーで、去年、私らを見つけて声を掛けてくれたのだ。ホームページに載せている小さい写真を頼りに私らを識別したなんて、すごいよなあ。6月に出場した北山林道駆け足大会の情報をくれたのもおんちゃんで、その時にも会えたから、今日で3回目だ。なんと、おんちゃんは私らのために場所取りまでしてくれていた。
(おんちゃん)「今日はペンギンズは何人?」
(幹事長)「5人でエントリーしてたんだけど、1人は急に来られなくなって」
(おんちゃん)「じゃあ4人で参加か」
(幹事長)「いや、さらに1人は足を故障して見学することになって」
そうなのだ。ヤイさんは、5月のオリーブマラソンで終盤に無理をして肉離れしてしまい、北山林道駆け足大会も応援には来てくれたんだけど、出場できるような状態ではなくて欠場したが、いまだに完治せず、今日もせっかく一緒に来たんだけど、やっぱり足の調子が悪いとて、出場を断念したのだ。北山林道駆け足大会も汗見川マラソンも、どちらも坂を登る厳しいコースだから無理はしない方が良い。
(幹事長)「おんちゃんチームは何人?」
(おんちゃん)「うちは5人やな」
ペンギンズの好敵手おんちゃんチーム5人衆
(幹事長)「出るのは当然ハーフマラソンの部やろ?」
(おんちゃん)「えっと、実は・・・」
(幹事長)「え?まさか10kmの部?」
(おんちゃん)「いや、実は6kmの部に出るんや」
(幹事長)「え?なんて?声が小さくて聞こえない」
(おんちゃん)「だから今回は6kmの部やってば」
(幹事長)「え?なんやて?6kmの部やて!?」
(おんちゃん)「声がでかいがな!」
話を聞くと、おんちゃんは何も21kmを走れないから6kmの部に出るのではなく、そこには深謀遠慮が隠されていた。
(おんちゃん)「パンフレットに去年の入賞者の記録が載ってるやろ?
これを見たら6kmの部なら年代別の部門で入賞できる可能性があるんや」
(幹事長)「げげっ、そなな大それた事を狙いよんですか!」
去年の記録を見ると、6kmの部の年代別部門の3位のタイムは27分ちょっとだから、1km4分30秒のペースだ。満濃リレーマラソンで1周2kmを9分で走るペースだから、2kmまでなら我々でも可能なペースだ。それを6kmも維持するのは我々では難しそうだけど、実力者のおんちゃんなら十分に手が届きそうだ。
(幹事長)「次のレースは、9月の酸欠マラソンは出るん?」
(おんちゃん)「出るけど、ハーフマラソンじゃなくて10kmの部に」
(幹事長)「え?なんて?声が小さくて聞こえない」
(おんちゃん)「もうええがな!」
でも10月の龍馬脱藩マラソンはフルマラソンの部に出るとのことだ。
(幹事長)「私ら去年はハーフマラソンの部に出たら、いまいち物足りなかったので今年はフルマラソンに出るんやけど、
やっぱりキツい?」
(おんちゃん)「最後は両手両足で山道を登るって感じやな」
(幹事長)「そう言えば去年は四万十ウルトラマラソンの100kmの部に出るって言ってたよね?どうやったん?」
(おんちゃん)「以前に出た時は、20km地点から40km地点までの下り坂を徹底して歩いたんやけど、
去年は少し色気を出して走ってみたら、結局、タイムはほとんど同じやった」
前半の下り坂で走って足を使うと、タイムの貯金できても、終盤になって足が動かなくなり、結局はゴールタイムは変わらないらしい。非常に参考になる話だ。
会場の方では開会式をやっているが、日射しがきつくてテントから外に出る気が起きない。そんな事でレースに出られるのか、と言われそうだが、できるだけ体力の無駄な消耗は避けたい。
(支部長)「で、今日も着るもので悩むわけ?」
(幹事長)「こんだけ暑いと悩む余地は無いわな」
炎天下のレースだから、本当は裸で走りたいくらいだが、もちろん裸では出走できないし、そもそも裸で走ったら日焼けでボロボロになるだろう。下は青森勤務時代の職場の陸上部で作った超薄手の短いランニングパンツを履いたから、上も同じユニフォームのランニングシャツを着ようかとも思ったんだけど、日射しが強烈なので、ランニングシャツだと肩が日焼けしそうだから、薄手の袖無しのシャツにした。炎天下のレースなら、本当はオリーブマラソンで愛用しているメッシュのシャツを着たいところだが、古くなってボロボロになってきてるから、今日は温存することにした。日射しが強烈だから普段は被らない帽子も被る事にした。眩しいのでサングラスもかけたいところだが、サングラスをかけていると途中で水浴びしにくいので止めておく。このレースは猛暑のレースなので、コース途中で地域の住民の人があちこちで水をかけてくれるのだ。
着替えを済ませたら、日焼け止めクリームを腕に塗りたくる。どんどん汗が噴き出てくるので、いくら塗っても流れ落ちていくが、それでも効果はある。女性ランナーなんかは、日焼け止めに長袖を着込んだりアームウォーマーのようなものを付けているが、暑いような気がする。
(ピッグ)「でも、こないだ幹事長が塩見岳登山の記事に書いていたような速乾性のインナーウェアなら、
暑くなくて快適なんじゃないですか?」
(支部長)「げげっ、そうかも!」
ただ、登山と違ってマラソンの場合は、私は汗まみれになって走るのが好きなので、速乾性のインナーウェアを着ようとは思わない。
支部長は例によってランニングタイツを履いている。
(幹事長)「なんで暑くないのか理解できない」
(支部長)「着ても着なくても、どっちみち暑いんやってば」
準備ができたペンギンズ突撃隊
(左からヤイさん、幹事長、ピッグ、支部長)
(幹事長)「ところで、支部長は相変わらずレフコトライアスロンをやってるん?」
レフコ・トライアスロンとは、支部長が去年の秋から実戦しているトレーイング方法で、スポーツジムのレフコへ行って、自転車マシーンに乗って、次にランニングマシーンに乗って、最後にプールに入るという、順番は異なるけど1人でトライアスロンの種目をこなすというトレーニングだ。最初はバカにしていたが、レフコ・トライアスロンを始めてからと言うもの、支部長は坂道でも歩かなくなり、明らかに絶大な効果が出ているのだ。
(支部長)「少なくともお風呂にだけは欠かさず行っておるな」
もちろん、レフコ・トライアスロンの真の目的はお風呂だが、どうせ行ったらお風呂に入る前にトレーニングする事が多いので、かなりトレーニングは積んでいるらしい。
(ピッグ)「幹事長はどうなんですか?」
(幹事長)「屋外でのトレーニングは暑くて暑くて」
暑いと体が動かなくなる。週2回ほどは平日に会社から帰って走っているが、せいぜい5kmなのに足が動かなくなる。そして週末にまとまった距離を走りたいところだが、どう頑張っても10kmも走れない。足が止まってしまうのだ。暑くてクラクラしながら汗まみれで走るのは大好きなんだけど、足が動かなくなるので大した距離を走れない。10kmも走れない状態で、炎天下の山道を21kmも走れるのか、と自分でも疑問を抱くが、レース本番は力も出てくるので完走はできるだろう。問題はタイムだ。
今年は2月の丸亀マラソンもパッとしなかったが、それ以降は4月の徳島マラソンで空前絶後の惨敗を喫し、さらに5月の小豆島オリーブマラソンも原因不明の惨敗が続いた。6月の北山林道駆け足大会は思ったよりはマシな結果だったので、なんとか回復傾向にあるような気はするが、距離が13kmと短かったので、今日のハーフマラソンには一抹の不安が残る。
目標は、どんなマラソン大会においても、もちろん大会自己ベストだ。どんな大会であっても、取りあえずは大会自己ベストを狙うのが良い子のあるべき姿だ。ただ、今回は大会自己ベストは難しい。この大会はハーフマラソンができてからは2回しか出場していない。3年前に出たときは、とんでもなく暑い時季の山岳マラソンなので2時間を切るのは不可能だろうと思っていたけど、スタート直前にスコールが降り、高気温が少し和らいだおかげで、2時間を切ることができた。大会自己ベストを更新するとなると、これを上回らなければならないが、現実的に言えば、雨が降らない限り自己ベストを更新するのは容易ではない。なので、現実的な目標としては、できれば2時間を切りたいというものだ。そして、なんとしてもクリアしたい目標は、去年のタイムだ。去年のタイムを上回れば、春から続く絶不調から抜け出せたと言え、一安心だ。
今回の戦略は、前半からペースを抑えるなんて事はせず、自然体で思うままに走っていくことにした。
(ピッグ)「それって、前半に調子に乗って飛ばして終盤に失速するという、今まで何百回も失敗したパターンじゃないですか。
最近はようやく大人になって、前半のペースを抑える事を学んだんじゃないんですか?」」
確かに、前半に無理して飛ばして貯金したって、無理が祟って終盤に失速したら元も子もないって事は分かっている。フルマラソンのような長いレースなら、最近は前半から徹底的に抑えて走っており、そのおかげで終盤に足を引きずって歩くって事は無くなった。
しかし今日のコースは前半は登りで、後半は下るだけだ。なので勝負は前半だ。後半は惰性で降りてこられるから大きな失速は無いだろう。
(幹事長)「それに、序盤から抑えて走ると、そのペースが基準になってしまい、レース全体のペースも遅くなってしまうからな」
(支部長)「そうそう。私ら、どんなに前半でペースを抑えても、途中からペースアップするなんて事はできんからな。
最初が遅かったら最後まで遅いからな」
(ピッグ)「でも去年も似たような事を言いながら惨敗してましたよね?」
確かに、実は去年は3年前と比べて序盤は速かったのだ。ところが、それがオーバーペースだったようで、後半は下り坂だと言うのに上り坂のように感じられ、上りの前半より下りの後半の方が時間がかかるという、とんでもない大失速を演じてしまったのだ。
(ピッグ)「つまり何の学習もしない、と」
(幹事長)「この炎天下を思いっきり走りたくてなあ」
スタート時刻まで30分を切ったが、トイレの様子を窺うと、仮設トイレも列はできていない。大の方はしてないままなので、行くのなら今のうちだが、それほど出そうにもない。登山と一緒で、汗をいっぱいかくときは小だけでなく大の方も我慢できる。快適なトイレだったら我慢する必要も無いが、仮設トイレなので我慢できるものなら我慢したい。て言うか、我慢というほどのものではなく、行かなくても全然平気って具合なので、小だけにした。そのまましばらくブラつこうかと思ったけど、日なたに出ると暑くてジリジリ肌が焦げるようなので、慌ててテントの中に引き返す。
〜 スタート 〜
スタート10分前頃になり、集合のアナウンスもあったので、ようやくスタート場所に移動する。もちろん、スタート10分前だと言うのに、まだスタート地点には並べない。周辺で待機するだけだ。なぜなら、スタート地点の道路は交通規制がかかっておらず、どんどん車が通っているからだ。地域住民のために、スタート直前にならないと通行止めにできないのだ。
スタート3分くらい前になってようやく通行止めになり、ランナーが並び始める。シューズにタイム計測チップは付けているが、これはゴール時に計測するだけで、タイムはネットタイムではなく、グロスタイムしか計ってくれない。なので、前方からスタートしなければタイムはロスするが、ハーフマラソンの参加者は822人なので、後ろの方に並んでも、そんなにタイムロスは無い。てことで、特に焦ることもなく、集団の中程に並んだ。
天気は相変わらずの晴天で、汗はタラタラ、日焼け止めクリームもタラタラだ。
あまりの暑さに緊張感も沸かないままボウッと待っていると、すぐにカウントダウンが始まり、スタートになった。取りあえずは何も考えずに自然体で走る。周囲のランナーもいきなり最初から一斉にガンガン飛ばすため、スタートラインを越えるまでのタイムロスは10秒ほどだった。
このマラソン大会は猛暑の坂道をひたすら登る超過酷なレースなので、ペース配分を考えて無理せずにゆっくりと走り出すランナーが多いと思われがちだが、実は逆で、こんな過酷なレースに出場する選手はレベルが高くて、最近のメジャーなマラソン大会に大挙して出てくるような初心者はあまりいないから、スタートの合図と共に、みんなすごい勢いで一斉に駆け出すのだ。ペース配分を考えていないのではなく、ペース配分を考えても僕のレベルからすれば速すぎるのだ。なので、最初から順調に走り出せるから良いと言えば良いけど、周囲がみんな早くて、それにつられてオーバーペースになる危険性がある。それでも今日は「炎天下を思いっきり走る」という趣旨なので、周囲と一緒に最初から気持ち良く走り抜けていく。スタートからしばらく走ったところにヤイさんがいて、声援を送ってくれた。
このレースは、前半の10.5kmは、汗見川という、早明浦ダムの直後で吉野川に合流する小さな支流に沿った道を延々と上るから、基本的にひたすらずっと上り坂で、逆に折り返してくる後半は下り坂だ。ただ、汗見川は急流という訳でもないし、川に沿った坂は、そんなに激しいアップダウンではない。6月に初参加した北山林道駆け足大会は、絶壁のような急坂をよじ登り、よじ降りてくるという過酷なコースだったが、それに比べたら大した勾配ではない。特に、前半はずうっと上り坂ではあるが、前半の前半、すなわち最初の5kmくらいは大した上り坂ではない。なので、スタート直後の元気なうちは、あんまり苦にならない程度の上りだ。時々、ちょっとした上りを感じるけど、大半は緩やかに上っていくだけなので、体力がある序盤では、あんまり気にならない。
まず最初の1km地点のタイムはジャスト5分くらい。真冬でフラットな丸亀マラソンと同じペースなので、炎天下の坂道マラソンにしては明らかに速すぎる。いくら序盤の坂は大したことないと言っても、ちょっと速すぎる。明らかにオーバーペースだ。しかし、これは実は去年と全く同じタイムだ。去年は速すぎると思い、ちょっと焦ってペースを落とした。しかし、その後のペースを抑えても、結局、後半になると大失速して惨敗してしまったから、今年はペースを抑えるような事はせず、そのままの勢いで走り続ける。
次の1kmは多少、上り坂があったため、2km地点でのラップはだいぶ落ちたが、次の1kmはフラットに近かったこともあり、3km地点でのラップは再びペースアップし、良い感じが続いている。気分としては、猛暑にもかかわらず、とても軽快に走れている感じだ。コースは山の中の川沿いだけど、日陰と日なたは半分づつくらい。日陰でホッとしたかと思うと、またすぐ日なたになる。
その後はだんだん坂の傾斜がきつくなっていき、4km地点のラップは再び少し悪くなっていた。悪いと言っても、最近、トレーニングで近所のフラットな道を走っている時のタイムに比べたら随分速いので、やはりレースになると気合いが入ってスピードが上がるものだと実感する。トレーニングの時でも、なんとか精神力で速いペースで走りたいんだけど、どうしても難しい。
このレースは、マイナーな草レースではあるけれど、真夏のレースと言うことで給水所は多い。片道4箇所、往復で8箇所もある。しかも冷水とスポーツドリンクが用意されていて、脱水にならないよう気は遣ってくれている。冬場のマラソンなら、時間が惜しくて給水なんかパスする事が多いけど、炎天下のレースなので最初からこまめに水を補給する。
割りと快調に飛ばしていたと思っていたが、次の5km地点のラップは一気に落ちていた。確かに着実に坂の傾斜は増してきたとは思うが、そうだとしても、まだまだ大した坂とは思えないので、坂のせいじゃなくて、早くも足が弱ってきたのに違いない。なんとなく私を追い抜いていくランナーが増えてきたような気もする。最初から飛ばす作戦は、早くも破綻しつつあるのか?
このレースは山の中を走るため、沿道には誰もいないような区間が大半だが、それでも数少ない人家の前では住民の方が応援してくれていて、水をかけてくれる人も多い。去年は水がかかるとサングラスが濡れて見えにくくなるし、日焼け止めクリームも流れてしまうので、あんまり当たらないように避けて走ったが、今年はサングラスはかけてないし、日焼け止めクリームの効果も意外と長持ちすることが分かっているので、自分から寄っていって頭から水をかけてもらうようにした。水をかけてもらうと、もちろん、その場限りだが、とても冷えて気持ち良い。ウェアもシューズもビショビショになるが、炎天下なので、しばらく走っていたら乾くので問題ない。他にも、人はいないが水を入れた大きなバケツもあちこちにあり、柄杓で水をすくって頭からかけているランナーもいるが、そこまでするのも面倒くさいのでやらなかった。
前半の後半に入ると、それまではちらほら田んぼもある風景だったのが、山深くなってきて、だんだん坂が厳しくなっていく。6km地点のラップは、さほど落ちてなかったが、そこから先は坂がどんどん厳しくなる。全体的に傾斜がきつくなると言うより、所々に急な坂が出てくるようになる。パンフレットの地図では傾斜10%のところもある。ただ、そういう急坂の区間はそんなに長くはなく、庵治マラソンの折り返し点にある巨大な坂とか、オリーブマラソンの最後の激坂のようなきつさはないので、なんとか踏ん張って上っていく。
なんだけど、明らかに他のランナーが次々と抜いていく。みんなが揃ってペースアップするなんて事はあり得ないので、自分のペースが落ちてるんだろうけど、なんでみんなペースが落ちないのかなあ。
そして7km地点でのラップは1km6分近くにまで落ち、8km地点でのラップは遂に1km6分を越えてしまった。3年前に良いタイムで走った時も、この区間だけは6分を超えたけど、それ以降は持ち直した。つまり、この区間が一番、坂が厳しいと言うことであり、ここを乗り越えたら後は大したことないはず。しかし、惨敗した去年は、6分をオーバーした区間が続いた。なので、この後のラップが問題だ。
炎天下で喉は渇くけど、給水所が多いため、喉が渇いて困るってことはない。給水所には水やスポーツドリンクのほか、水を浸したスポンジもあり、それで顔や首筋を拭えばリフレッシュできる。日焼け止めクリームは汗で流れ落ちているけど、それでも効果は長持ちするはずなので気にしない。
8km地点を過ぎると、もう、そんなすごい坂が現れるっていう感じはない。何度も走っているから分かっている。8〜9年前の10kmの部しかなかった頃に出場した時は、僅か10kmのレースなのに、なかなかゴールにたどり着かず、終盤はリタイアが頭をよぎったし、歩く誘惑と戦うのにも苦労したが、その頃に比べれば、全然平気だ。て事で結構、頑張って挽回した。つもりだったんだけど、9km地点でのラップは6分オーバーのままだ。ほとんど挽回できてない。
こんなに厳しいレースの割りには、歩いているランナーはほとんどいない。後ろの方にはいるのかもしれないが、序盤から飛ばしすぎて早々に足が止まって歩いている、なんてランナーは、他のレースにはいっぱいいるけど、今日はいない。やはりレベルが高いレースだ。
それと、このレースは女子選手が少ない。最近はメジャーなマラソン大会になると女子がとても多いが、このレースは女子が少ない。いくらマラソンブームでも、こんな過激なレースに出る女子は少ないのだろう。男子選手だって、こんな過酷なレースに出ようと、わざわざ山奥まで来る選手は、マニアックな好き者揃いなんだろう。
(支部長)「言っときますが、私らは幹事長に無理矢理引っ張ってこられただけやからね」
山深く入れば木陰が多くなり、厳しい日射しから逃れられる区間が多くなるが、風は完全に無風で、空気は熱く息苦しい。日陰に入ると帽子を脱いで頭を冷やすが、少しでも日なたに出たら帽子無しではやってられない。
その後、それほど急な坂は無かったと思うんだけど、10km地点でのラップは一段と悪くなっていて、少しショック。ただ、もうあと500mも走れば折り返しなので、気が楽になる。それに、1kmごとのラップはコンスタントに悪くなってきたものの、10km地点でのタイムは去年はもちろん、タイムの良かった3年前の10km地点のタイムよりも速い。後半の下りを3年前と同じタイムで走れば大会自己ベストだ。仮に、多少ペースダウンしたとしても2時間切りの可能性は高い。俄然、やる気が漲ってくる。
もちろん、手放しで喜んではいられない。この時点のタイムは悪くないが、展開は悪い。コンスタントにペースダウンしてきているからだ。3年前は1km6分を越えたのは1区間のみで、その後は一気に持ち直し、どんどんペースアップできた。しかし今日は去年と同様、ペースは悪いままだ。それでも後半の下り坂に期待したい。
10km地点から500mほど行くと、折り返し点がある。折り返し点を過ぎて下りに入り、僕より遅いランナーとすれ違いながら、折り返す前にすれ違った僕より速いランナーとどっちが多いか見てたが、なんとなく同じようなものか。今年も全体の半分程度の位置ということだ。最近のメジャーなマラソン大会では、異常なまでのマラソンブームのせいで、軽い気持ちで参加する初心者ランナーが多く、相対的な順位を見ると、以前より断然、上位に入るようになってきた。マラソン大会に出始めた20年ほど前は、下から数えた方が早かったが、最近は上位1/3くらいには入るようになってきた。私が速くなったというより、遅い人が大量に参加するようになって相対的順位が上がったからだ。しかし、このレースはレベルが高いため、せいぜい半分くらいの位置だ。しかも、最後尾の方のランナーでも、トボトボと歩いているランナーが少ない。さすがに、そんな人は参加していないのだろう。
すれ違いながら確認すると、ピッグは4分くらい遅れてやってきた。これも去年と同じ展開だ。中間地点でこれだけ差を着けることができたら、なんとか逃げ切れるだろう。支部長はさらに1分くらい遅れてやって来たが、ビッグとの差が思ったより少ない。炎天下の上り坂という、支部長にとっては二重苦のレースなのに、結構、頑張っている。やはり明らかにレフコ・トライアスロンの成果が出ている。
折り返し点を過ぎてからの後半は、基本的に下り坂となる。上りできつかった所は、逆に早く走れる。当たり前だが、問題は、そのペースだ。折返し点を含む区間、すなわち10km地点から11km地点の区間は上りと下りが半分づつだから、6分をかろうじて切るくらいのラップだったが、次の12km地点でのラップに期待した。
前半の後半、すなわち6km地点から10km地点までの、1km6分を超えたような区間では、下りでは上りより1分は縮めなければならない。てことで、下り始めたんだけど、なんだか思ったようには足が前に出ない。期待したほどはスピードが出ない。もっと重力にまかせて転がり落ちたいのだけど、足が出ないためスピードが出ないのだ。
12km地点で時計を見ると、もちろんペースアップしているが、期待したほどではない。でも、次の区間ではもっと傾斜のきつい下り坂が出てくるはずだから、まだまだペースアップできるはずだ。
思った通り、下り坂はさらに急になっていき、次の13km地点はさらにペースアップできた。でも、全く物足りない。3年前には1km5分を切るようなペースで駆け下りたのに、今日はどんなに頑張っても5分を切れない。他のランナーは、もっと速いペースで駆け下りていくのに、なかなか足が動かない。天気は相変わらず晴天で、風も相変わらず全く吹かない。
次の14km地点では、坂が少し緩くなったせいか、なんと再び6分近い大幅なペースダウンとなった。いくら緩いと言ったって、下り坂でこのペースは酷すぎるので、さすがに気合いを入れて走る。
15km地点と16km地点でのラップは、ちょっとマシにはなったが、5分は切れそうにない。ここで5分を切れないのなら、この先は絶対に無理だろう。てことは3年前のタイムを上回る事は不可能になってきた。前半で頑張ったけど、あっという間に貯金は使い果たしてしまったと言うことか。ただ、まだ頑張れば2時間切りは楽勝のような気がする。
下りでも給水所ではこまめに水を飲み、スポンジももらって顔を拭く。さらに、家の前で水を掛けてくれる人がいたら、頭の上から水をかけてもらう。その時限りではあるけれど、一瞬はリフレッシュできる。
16kmを過ぎると残りは僅か5kmだ。残った力を使い果たして頑張っていい区間だ。でも、なんだか、もう力が出ない。この辺りまで来ると、坂が緩やかになり、下っているのを全く感じなくなるのだ。後半の後半って事は、前半の前半を逆に走っている区間であり、前半の前半はあんまり上りを感じなかったのだから、逆に走っても下りを感じないのは当たり前だ。それでも微かには下っているはずなんだけど、なんとなく逆に登っているように感じられてしまう。足も動かないし、暑くて息が苦しい感じ。ゼイゼイ言いながら走っていると、交通整理をしている係員が声を掛けてくれる。
(係員)「大丈夫ですか?」
(幹事長)「え?はいはい、大丈夫ですぅ」
もちろん、大丈夫だ。体の調子が悪い訳ではない。単に足が動かなくてしんどいだけで、体調には何の問題も無い。
17km地点では、6分近くかかってしまい、さらに次の18km地点では再び一気に6分を超えてしまった。いくらなんでも、まず過ぎる。こんな体たらくでは2時間すら切れなくなってしまう。もうちょっと頑張らないといけないとは思うんだけど、しんどくて力が入らない。2時間切りは難しくなりそうな気配ではあるが、それでもまだ頑張れば可能なレベルなので、モチベーションは維持できている。
相変わらず頑張ってゼイゼイ言いながら走っていると、交通整理をしている係員が再び声を掛けてくれる。
(係員)「大丈夫ですか?」
(幹事長)「え?いやいや、大丈夫ですよ」
もちろん、大丈夫だ。まだまだ大丈夫だ。て言うか、体の調子は何も悪いところは無い。単にしんどいだけだ。
なんとしても2時間は切りたいから頑張って走るのだけど、19km地点でのラップも、ほんの少しマシになっただけで、6分は超過している。ほんとにこれはヤバい。残り2kmを1km5分を切るペースで走らなければならない。今の状態からすれば不可能な気もするが、やるだけやらないと悔いが残る。
て事で必死になって頑張ってゼイゼイ言いながら走っていると、バイクに乗った係員が後ろから近づいてきて声を掛けてくれる。
(係員)「大丈夫ですか?水分は足りてますか?水分ありますよ」
(幹事長)「せやから大丈夫って言うてるやんけーっ!!」
係員に怒っても仕方ない。悪いのはこっちだ。これだけ声を掛けてくるって事は、よっぽどしんどそうな表情で走っているのだろうか。しんどい上に眩しくて暑いから帽子を目深に被って下をうつむいて走っているけど、体調は全然大丈夫だ。どこも悪いところは無い。でも、もっと笑顔で走らなければならないなあ。
なんて顔を引きつらせながらも頑張って走ったつもりだったけど、20km地点のラップは絶望的な遅さになっていた。上り区間だった前半にも無かったような檄遅のペースだ。下り坂でこのような悪いタイムが出るなんて、2時間切りは完全に絶望的になった。しかしまだモチベーションは維持できている。なんとしても、最低限、去年のタイムは上回らなければならない。それと、もしかしてピッグが追いついてくる可能性だってゼロではない。ピッグに負けたレースってのは、たいてい、終盤と言うかゴール目前で抜かれている。油断はできないのだ。
終盤になると、さすがに周囲のランナーも似たようなペースの人が多くなり、追い抜いていくランナーも少なくなった。逆に力尽きてトボトボ歩いているランナーも現れるようになってきた。レベルの高いレースとは言え、終盤になると力尽きるランナーが出てきても不思議ではない。自分はいくらしんどいと言っても、歩きたくなるようなしんどさではない。
〜 ゴール 〜
もう残り1kmしかないんだから、気合いを入れて頑張ったせいで、さすがに最後の1kmはようやくペースアップすることができた。それでもなんとか6分を切った程度で、満足にはほど遠い。なんとかゴールに駆け込むと、ゴール横でヤイさんが写真を撮ってくれた。
結局、大会自己ベストはおろか、2時間も切れなかったけど、去年よりは少しマシなタイムだった。なので、徳島マラソン以来続いていた理解不可能な超スランプからは脱せたような気がする。
タイムとしてはイマイチで不満が残るが、過酷なレースだっただけに、ゴールしてからへたり込んだときの開放感は気持ち良い。足の疲れが一気にほぐれていく感じ。一度座り込むと、なかなか立ち上がれないが、喉が渇いて仕方ないので、ゆずジュースを求めてフラフラと給水所へ向かう。カラカラに渇いた喉にゆずジュースがとても美味しくて、その場でお代わりをもらうと、係のお姉さんが「何杯でも飲んでくださいね」って優しく言ってくれたので、5杯もお代わりしてしまった。でかいバケツになみなみと入っているジュースを柄杓でどんどん入れてくれるから、いくらお代わりしても無くなる心配は無さそうだ。
さらに、お楽しみの冷たいトマトも貰って食べる。大きなバケツに冷えたトマトがいっぱい浮かんでいて、好きなだけ取り放題だ。冷たいだけでなく、完熟で収穫した地元のトマトだから甘くて本当に美味しい。いくら食べても美味しくて、5〜6個食べてしまった。
後からチェックしたら、前半は3年前より速かったものの、後半は、去年とほとんど同じタイムだった。トータルのタイムだけでなく、折り返してからの1kmごとのラップがほとんど同じだった。情けない限りだ。しかし、去年は多少は前半を抑え気味に走ったのに対し、今年は全く抑えずに走ったにもかかわらず、後半の失速度合いは去年と同じだったから、このレースに限って言えば、前半を抑えて走る必要性は無いとも分析できる。
ただ、一方で、3年前は前半をもっともっと抑え気味に走ったおかげで後半は失速しなかった。て事は、前半を抑えて走るのなら、徹底的に抑えなければ意味が無い、とも分析できる。来年は、その作戦で攻めてみようか。
しばらくするとピッグが帰ってきた。私とは4分程度の差のままだ。て事は、ピッグも後半は私と同じようなタイムだった訳だ。去年は折返しでは似たような差だったが、ゴールタイムは私より10分くらい遅かった。なのでピッグとしては去年よりはかなりタイムが良かった事になる。
(ピッグ)「中間地点の感じからすると、幹事長は楽勝で2時間を切れたんじゃないですか?」
(幹事長)「すんません。後半に大失速してしまい、2時間オーバーでした」
さらに5分くらい遅れて支部長がゴールした。彼とはゴールタイムの差が前半のタイム差の倍になっていたから、私以上にかなりペースダウンしたようだ。
(幹事長)「坂で歩いたりした?」
(支部長)「前半のきつい上り坂では何度か歩いたけど、あんまり長時間は歩かなかったかな」
やはりレフコ・トライアスロンの成果だ。そもそも、ピッグに聞くと、なんと、前半の終盤の急な坂より前は、ピッグが支部長の後ろから着いていったのだそうだ。その後に現れる急な坂で支部長が歩いたため、ピッグが追い抜いたんだそうだ。
記録証をもらって確認すると、去年よりタイムが良かったぶんだけ、ほんの少し相対的な順位も上がっていた。3年前の順位よりも少しだけ良かった。3年前はスコールのおかげで私だけでなく全体的にタイムが良かったためだ。とは言っても、女子も含めた総合順位でも半分よりちょっと上っていう程度だ。相変わらずレベルが高い大会だ。
さて、いよいよ、このレースの一番の楽しみである冷たい川への飛び込みだ。かつて上りの片道10kmコースしか無かった時も、ゴール後に山奥の川に飛び込んでいたが、往復のハーフマラソンになってからも、会場近くで川に飛び込むことができる。このために全員、サンダルを用意してきている。足を引きずって川に降りていくと、既に多くのランナーが川に入って気持ちよさそうに泳いだりしている。足だけ裸足になって、ランニングウェアのまま川に飛び込む。川の水はものすごく冷たく、足を浸けただけで痛くなるほどだが、なんとなく去年よりは少しだけ水温が高い。我慢して少しずつ身体を沈めていくと、最初は心臓が止まりそうになるが、いったん肩まで入ってしまえば、今年はずっと入っていられる。暑く火照った体が冷やされていくのが気持ち良い。去年はあまりにも冷たすぎて早々に上がったが、今年はずっと入っていられる。本当に気持ち良い。支部長なんか泳いでいる。すっかり暑さも引いたので、気持ち良く会場へ戻る。
会場に張り出された結果表を見ると、なんと6kmの部の年代別部門で、目論見通り、おんちゃんが2位に入賞しているではないか!控え場所に戻ると、おんちゃんが余裕綽々で迎えてくれた。
(幹事長)「すごいやんか!狙い通り入賞したやんか!しかも2位やんか!」
(おんちゃん)「ま、実力あるからな」
う〜む。さすがに我々では無理やな。去年と同様、優しく親切なおんちゃん様がアイスやらジュースやらトマトやらいっぱいくれるので、それに甘えてすっかりくつろいで休む。会場の方では表彰式が終わり、お楽しみ抽選会が始まった。くじ運の悪い私らは、普通なら絶対に当選しないので、無視して早々に引き上げるところだが、去年、何の期待もせず、城武選手と世間話をしていたら、いきなり名前を呼ばれ、慌ててステージに走ったら、名産のお米を貰った。なので、一応、ぼうっとしながら呼ばれる名前をチェックしていたが、さすがに今年は何も当たらなかった。
体も落ち着いてきたので、弁当券を弁当に引き替えに行く。弁当は2種類あって、普通の弁当か、ソーメンとばら寿司の組み合わせだ。なんとなく、どこかでも同じような選択があった。その時はソーメンとばら寿司を選んだような気がするので、今回は普通の弁当を選んだ。でも、やっぱり炎天下のレースの後はソーメンの方が良かったような気がする。後から調べてみると、この2種類の選択は、何のことはない、去年のこのレースでの事だった。去年のホームページの記事に「前回は普通の弁当にして失敗だったので、今日はソーメンとばら寿司のセットをもらう。疲れ切った後には、冷えたソーメンが食べやすい」なんて書いてあるではないか!
(支部長)「この記事はメモ代わりなんやから、いつもレース前には前回の記事を読み返してたんと違う?」
(幹事長)「レース展開の部分は読み返したんだけど、弁当の部分までは読まなかった」
やっぱり最後までちゃんと読み返しておくべきだった。
〜 アンケート調査 〜
今日のレースを総括すると、タイムは期待したような良いタイムではなかったけど、去年よりはマシだったし、そもそも炎天下の猛暑のレースをフラフラしながら汗まみれで完走できて満足だ。ゴール後の疲れも充実の裏返しだし、川も冷たくて気持ち良かったし、ゆずジュースもトマトも美味しかったし、ハッピーな一日だった。
ところが、受付で手渡されたアンケート用紙を見て愕然。そもそもマラソン大会でアンケート用紙が配られるのは珍しいが、何のアンケートかと思ったら
「このマラソン大会は夏の真っ盛りに開催してきたけど、
近年、地球温暖化のせいで非常に暑くなっており、事故の危険性も出てきてるので、
開催時期の変更を検討しています。どう思いますか?」
てなトンでもない趣旨のアンケートだった。
なので力を入れて書いた。
「何を言うてるんや!
他のマラソン大会が開催しないような、このクソ暑い時季に開催するからこそ存在価値があるんやないか。
開催時期を変えるんやったら参加せんぞ!」
お願いだから血迷わないで欲しいな。
〜おしまい〜
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