第28回 汗見川清流マラソン大会

〜 心地よい真夏の灼熱地獄 〜



2015年7月26日(日)高知県本山町第28回汗見川清流マラソン大会が開催された。

このレースは、暑い暑い四国の真夏に開催される大変貴重なマラソン大会だ。以前は、真夏の四国のレースとして、ほかにも四国カルストマラソンてのがあった。かつての強烈登山レース塩江山岳マラソンに匹敵するものすごい急な坂が延々と続くという異常に厳しい20kmコースのうえ、天気が良いと日射しが強烈で、地獄のような暑さで体が焦がされるレースだった。高原なので曇っていると素晴らしく涼しくなるんだけど、高原ということは、曇りってのは、すなわち雲の中に入るわけで、そうなると周辺が見えなくなるので、実は、あんまり楽しくない。しかし、景色を楽しめる晴天になると、発狂するくらい暑くなるのだ。空気も薄いし。あまりにも厳しいマラソン大会なので、毎年は出る気がおきず、時々参加していたのだけど、その四国カルストマラソンは数年前に廃止になってしまった

なので、汗見川清流マラソン大会は真夏の四国のレースとして唯一の貴重なレースになった。四国で真夏のレースが少ないのは、あまりにも暑くて走るのが大変だからだ。でも、だからと言って真夏にレースに出ないと、5月末の小豆島オリーブマラソンの後、秋までレースが無くなってしまう。もちろん、レースが無くても地道にトレーニングできる真面目な人ならいいんだけど、レースが無いと、どうしてもサボってしまう心が弱い我々としては、モチベーション維持のために、暑いのは分かっていても、この時季にレースを1つ入れたいわけだ。

3年前の春まで勤務していた青森地方は事情が異なる。青森では12月から3月までは雪で外を走れないため、マラソンシーズンは5月から始まり、秋まで続く。7月は、いくら北国とはいえ、それなりに暑いんだけど、冬が走れないので、暑くても夏にマラソン大会がある。なので、3年前に青森から高松に戻ってくるまでは、無理して四国の真夏のレースに出る必要は無かった。てことで、この汗見川清流マラソン大会には、青森勤務になってからは出ていなかった。

それで、3年前、高松に戻ってきて、久しぶりに出てみようと思ったのだけど、申し込もうとしたら、なんと既に定員に達したとのことで受付終了になっていたのだ。確かに申し込もうとした時期は遅かった。でも、定員オーバーだなんて、かつての汗見川マラソンを知っている者なら、信じられない現象だ。以前なら、申し込み期間が過ぎてたって、役場に電話してお願いしたら出場させてもらえていた。青森へ行く前の7年前に参加していた時なんかは、ざっと見て300人くらいしか参加してなかったし、むしろ人が集まらなくて、大会が消滅しないか心配していたくらいだ。大会として超マイナーなのは、場所が四国の山の中で超不便なうえ、いくら高原と言っても真夏はクソ暑いし、コースが川沿いに延々と10kmも上る一方の厳しいコースだからだ。それなのに、しばらく不在だった間に、定員オーバーになるほどの人気レースになっていたなんて、もう信じられない。真夏の四国のレースとして唯一の貴重なレースになったため、近年の異常なまでのマラソンブームの中、人気が沸騰しているのだ。
種目も、10kmコースのほか、ハーフマラソンの部も出来ており、超マイナーな山奥の草レースが、メジャーな大会になりつつある。まあ、メジャーと言っても、大会規模は小さい。すぐに定員オーバーになる理由は、定員が僅か1000人しかないって事もある。今どき1000人だなんて、少なすぎるような気がするがあの狭い山道のコースを考えると1000人が限界だろう。て言うか、1000人でも多すぎるような気がするコースだ。

てことで、2年前は何としても出たくなり、申し込み受付がいつ始まるのか、毎日、今か今かと注視し、受付開始の情報を聞くや否や、慌ててすぐさま申し込み、なんとかエントリーできた。でも、この時は、定員オーバーになるまで数日はかかったようで、まだまだ余裕はあった。競争が厳しくなったとは言え、まだまだ知名度も低く、場所も超不便だから、他のメジャーなレースのように瞬間蒸発ってことにはなってなかった。この余裕が、翌年、死を招くこととなった。

翌年、すなわち去年は、事前に受付開始日時の情報を得ていたにもかかわらず、前年の余裕が頭にあったため危機感が乏しく、受付開始当日にはエントリーの事をつい忘れてしまったのだ。思い出したのが3日後で、それでも「まだ大丈夫だろう」なんて思いつつエントリーしようとしたら、なんと既に定員オーバーで受付終了となっていた。なんでも、即日完売したとのことだった。
もうこれで思い知った。1万人規模のメジャーな大会であろうが、数千人規模の大会であろうが、わずか千人のマイナーな大会であろうが、世紀末的な全国的マラソン狂走曲の中では、どんな大会であろうが、とにかく、取りあえず、受付開始と同時にパソコンのエントリーボタンを押して申し込まなければならない、と肝に銘じた。

ここまで執着しながらも、一方で、「一体どうして、こななクソ暑い時期にマラソン大会が存在するんだろう?」という単純で素朴な疑問は残る。もう28回にもなる歴史ある大会なので、もしかしたら28年前は、7月下旬といえども、四国山地の真ん中の高原地帯は涼しかったのだろうか?こなな山の中でも高温化が進んでいるのだろうか?8年前に出たときは、この世のものとは思えないようなあり得ない暑さで、「四国山地の真ん中の高原で、こんなに暑いんだったら、下界は地獄のような暑さだろうなあ」なんて思っていたら、なんと、その日は、汗見川マラソンが開催された高知県本山町が全国で一番暑かったという、トンでもない状況だったんだけど、昔は涼しかったのだろうか。少なくとも今は、高原だからと言って涼しさを期待してはいけない事だけは確かだ。

そういう事もあって、このレースに対するペンギンズのメンバーの反応は鈍かった。ピッグは一度、四国カルストマラソンには出たことがあるんだけど、汗見川マラソンに出たことある選手と言えば、石材店や矢野選手のほか、城武選手や新城プロなど、高速ランナーばかりだった。ちなみに、城武選手はハーフマラソンで2位になったこともあるし、矢野選手も10kmの部で上位に食い込む活躍を見せている。このクソ暑いレースで、すごいもんだ。
一方、ペンギンズの主流である軟弱部隊は、このレースの坂と暑さに腰が引けてしまい、全くやる気が無かった。だが、しかし、今年は私がしつこくしつこく誘ったもんだから、軟弱部隊もようやく重い腰を上げ申し込みに参加することになった



今年の受付開始は5月21日の夜8時だ。メンバーが申し込みするのを忘れてはいけないので、数日前にも注意喚起したし、当日も直前に一斉メールを流した。
夜8時の5分くらい前に、試しにエントリーボタンを押してみた。当然のように、「まだだよ」って言うメッセージが返ってくる。そらそうだろう。でも、ほんの少しでも早くエントリーしたかったから、8時の5秒くらい前に再度エントリーボタンを押してみた。そしたら、なんと、画面がフリーズしてしまい、ウンともスンとも言わなくなってしまった。こういう危ない事はやっちゃいけないんだなあ。慌てて再起動させ、なんとかエントリー画面に入ったのは、結局、8時5分くらいだった。でも、まあ、そんなに慌てなくても、すんなりエントリーできた。これなら、他のメンバーも無事、エントリーできただろうとは思いつつ、「エントリーできたよ」っていうメールは流した。それなのに、他のメンバーからはレスポンスが無い。なんとなく一抹の不安を抱えながらも、取りあえず寝床に着いた。
そしたら翌朝6時にメールの着信音が鳴る。いくら高齢化が進んで以前より早起きになったとはいえ、6時にはまだ寝ている。「誰じゃ!?こんなクソ早い時間に!」と思って見ると、支部長からだ。なんと支部長は前夜、飲み会があって、酔っぱらってエントリーを失念してしまい、朝になって僕からのメールを発見し、慌てて思い出してエントリーしようとしたんだけど、既に定員オーバーになってて、申し込みできなかったという悲しい知らせだった。しかもなんと、支部長は自分だけでなく、ヤイさんと國宗選手のエントリーも請け負っていたため、3人揃って討ち死にしてしまった。がーん。
失意の中、会社へ行き、ピッグに確認すると、ピッグも8時にはエントリーせず、8時40分頃に慌ててエントリーしたら、まだまだ受け付けてくれて、無事、出場することができることとなった。なんとか、私以外に1人は参加者を確保できたので、良かった。

その3日後、オリーブマラソンに出るため奴隷船の乗船口で並びながらDK谷さんに確認したら、

(幹事長)「汗見川マラソンの申し込みは無事できましたか?」
(DK谷)「いや、それが、ちょっと油断していたら、あっという間に受付終了になってしまってエントリーできなかったんですよ」


なんと、やっぱりみんな、まだ危機感が乏しくて、ついつい油断してしまい、対応が遅れてしまったようだ。残念。これで参加者は私とピッグの2人だけとなった。
この話をしていたら、我々の後ろに並んでいたおじさん3人組が、

(おじ)「汗見川マラソンの受付は、まだ始まってないでしょ?」

なんて言う。

(幹事長)「???いえ、もう始まったと言うか終わったと言うか」
(おじ)「でも、ウェブサイトでエントリーしようとしても、まだ受け付けてくれませんよ」
(幹事長)「それ、もう終了したんですよ」
(おじ)「え!?そんなアホな。ずっと毎日、チェックしてたんだけど、いつまで経っても受け付けてくれなくて」


おじさんは、毎日、ちゃんとウェブサイトをチェックしたらしい。しかし、5月21日夜8時の受付開始前は「まだ準備中」ということで受付してくれなかったし、夜8時の受付開始から1時間くらいで完売になったから、それ以降は「受付終了」って事で再び受付できなくなった。なので、21日の夜8時〜9時の間にチェックしなかったら、一見あたかもずうっと受付してくれないままになっているように見えるのだ。

(幹事長)「私は8時ジャストにパソコンのキーを叩いて、即、エントリーできたし、
       ピッグも8時40分頃にあっさりとエントリーできたけど、それを過ぎたら受付終了になってましたよ」
(おじ)「ひえ〜っ!」


去年までの私と同様、おじさん達は、昔の汗見川マラソンのイメージを持っていて、そんなすぐに受付終了になるとは夢にも思ってなかったようだ。
要するに、私は去年、痛い目にあって身にしみて危機感を持つようになったが、みんな、まだまだそこまで切迫感が無くて、ついつい油断してエントリーし損なったのだ。これでみんな危機感を持つようになるだろうから、来年からはますます競争が厳しくなるだろうなあ。

(DK谷)「ネットでエントリーできなかったので、郵便振込みでトライしてみます」
(幹事長)「え?そんなん、あるん?」


なんでも、この大会のエントリーは、ネットからだけでなく、郵便振込みでも可能になっているとのことだ。どういう事かと言うと、パソコンが使えない人なんかのために、たぶん定員の一部は郵便振込み用に確保されていて、ネットでの受けの後、受付が始まるというのだ。

(幹事長)「でも、郵便振込みだと、どうやって先着順を決めるんですか?」
(DK谷)「郵便振込みで申し込むには専用の振り込み用紙が必要で、それを送ってもらうには電話しなければならないんですよ」


オリーブマラソンの翌日の月曜日の朝8時30分から、振り込み用紙を送ってもらう電話受付が開始されるんだけど、その電話が先着順の競争になってるんだそうだ。なんだか不思議なシステムのような気がしたが、よくよく考えたら、単なる先着順の電話申し込みであり、参加料の納付方法が郵便振込みになっているというだけだ。良い事を聞いたので、支部長にも伝え、朝の電話競争に参加して貰うことになった。

で、当日、DK谷さんから連絡が入る。

(DK谷)「あきまへんでしたーっ!」

なんでも、DK谷さんは朝からずうっと電話をし続けたんだけど、ずうっと話中で、100回くらいかけて、ようやく電話が繋がったと思ったら、既に完売していたとのことだ。

(DK谷)「マラソン人気恐るべし!」

支部長に確認したら、やはり同じで、電話しても「ただいまこの回線は大変混み合っていますので、しばらくしてお掛け直し下さい」なんていうNTTのメッセージが流れるだけの状態だったので、諦めたとのことだ。
てな事で、結局、今年の参加者は私とピッグの2人だけということが確定した

二人とも出場するのはハーフマラソンの部だ。以前、10kmの部しかなかった頃の10kmコースは、延々と10kmの上り坂を登る厳しいコースだったけど、ハーフマラソンの部は、同じコースを再び帰ってくるから、後半は下り坂で楽だからだ。ハーフマラソンの部ができてゴール地点がスタート地点と同じになったため、今は10kmの部も片道じゃなくて、5km上って5km下ってくるコースになっているが、それじゃあ物足りないし。



レースの数日前になって嫌な暗雲が立ち込めてきた。台風12号が近づいて来てると言うのだ。7月に台風が四国に襲来するのは珍しいが、1週間前にも台風11号が四国を直撃し、交通機関は麻痺するし、強風が吹き荒れた。それでも以前なら、どんな暴風でも、雨風のせいでマラソン大会が中止になるなんて事はないと思っていた3年前の第5回とくしまマラソンとか2年前の第4回サンポート高松トライアスロンでも分かるように、悪天候のため中止するなんていう発想はマラソン関係者の辞書には載っていない。我々自身も、5年前の第33回小豆島オリーブマラソン大会で大雨の中を快走してからは、雨に対する抵抗感は払拭されている。ところが、去年10月の龍馬脱藩マラソンは、台風が来る恐れが強くなったとのことで、大会の3日前の夜、中止の連絡が入った。3日も前なんて、まだ台風が来るかどうか分からないと思うんだけど、大会事務局は妙に慎重になって中止を決めたのだ。そして今回も、1週間前に着た通知では、大会2日前の正午に中止するかどうか判断するって書いてあった。2日も前に判断するなんて早すぎるような気もするけど、一体どうしたんだろう。龍馬脱藩マラソンと言い汗見川マラソンと言い、台風銀座の高知の山奥で開催されるから、直撃されたらものすごい事になるのかもしれない

てことで心配してたんだけど、その後、台風は予想より西側を進み、四国への影響は軽微らしいってことで、2日前に大会決行の結論が出た。直撃されたら強風が吹き荒れるから困るけど、ちょっと影響がある程度なら、ちょうど良い具合に雨が降って暑さが和らぐかもしれない。もともと高知は雨が多いんだから、雨が降らないって事はないだろう。良かった良かった。



当日は、高知の山奥まで日帰りなので、当然ながら早起きして、ピッグを迎えに行き、6時頃高松を出発した2年前の記事を見ると、6時に高松を出て現地には7時半に着いてしまい、10時のスタートまで時間を持てあましたと書いてあるが、今年はスタート時間が少しだけ早まって9時40分になったし、昨今の異常なマラソンブームを考えると、遅れていくと駐車場がいっぱになって停められない事態も予想できるので、早めに出発したのだ。

朝から天気は良い。直撃は免れたとは言え、台風が来ているのだから、多少は雨が降って涼しくなることを期待してたんだけど、天気は絶好調の快晴で、風も無いし、炎天下のレースになるのは間違い無い状況だ

(ピッグ)「これは厳しいですねえ」
(幹事長)「我慢大会的な面白さはあるけどね」


炎天下のレースは厳しく苦しいんだけど、逆に面白くて楽しい面はある。

(ピッグ)「本当に楽しいのか疑問ですけど、練習はできてるんですか?当然ながら私は練習できてませんけど」
(幹事長)「全くもって不十分やなあ」


今年の春は、す〜太さんみんなの広場で讃えてくれたように、なかなか好調だった。5月末のオリーブマラソンでは炎天下にもかかわらず大会自己ベストを更新したし、6月始めの徳島航空基地マラソンでもパッとしないタイムながら一応、大会自己ベストを出した。なので、この好調をずうっと維持したいと思っていた。
だが、好調を維持したいからと言って練習量を増やす訳ではない。むしろ、好調だから練習しないでも大丈夫だろう、なんて甘い気持ちで油断しがちだ。そういう甘い気持ちを抱いたまま、6月下旬、奈良まで観光で車で往復して、その翌々日には仕事で八幡浜まで車で往復して疲れてしまった。

(幹事長)「ちなみに高松から奈良までと八幡浜までって距離が同じで驚いた」
(ピッグ)「意外に奈良って近いと言うか、八幡浜って遠いと言うか」


その疲れのせいもあって夏風邪を引いてしまった。それなのに、練習量が少ない事に気付いた焦りもあって、「ランニングで風邪を吹き飛ばそう!」なんて思って週末に無理してランニングしたら、翌日は頭痛と吐き気と下痢と悪寒の4重苦で最悪の状態となり、ひどい目にあった。

(ピッグ)「絵に描いたような自業自得ですね」
(幹事長)「あんな苦しい思いは7年前の丸亀マラソン欠場の原因となったインフルエンザ以来やなあ」


風邪は1週間でなんとか治ったが、その週末は久しぶりに支部長と自転車の朝練に繰り出し、かなり長距離を走った。そして、その翌週末は番外編に書いたように北陸の白山へ38時間弾丸日帰り登山を決行し、完膚無きまで疲れ切ってしまった。この間、ロクにランニングはしてないけど、自転車や登山だってランニングの練習代わりになるんじゃないか、なんて根拠の無い期待を抱いていた。そして、この大会の1週間前の週末になって、ようやくランニングをしてみたら、なんと、ほんの5kmも走ったら足が動かなくなってしまった。

(幹事長)「大発見だ!自転車や登山はマラソンの練習代わりにはならないってことが分かったぞ!」
(ピッグ)「もう焼けクソですね」


ということで、今回は近年まれに見るほどの練習量不足だ。春の好調と、直前の絶対的練習不足と、どっちの要素が強いかは走ってみなければ分からない。

(ピッグ)「走る前から分かってるような気がしますけど」
(幹事長)「やっぱり、そう思う?」


ここまで練習不足でありながら危機感が乏しいのは、夏場の山岳マラソンなので、最初から良いタイムを期待していないからだ。汗見川マラソンは、数年前にハーフマラソンの部ができてからは一昨年に1回参加しただけだが、とんでもなく暑い時季の山岳マラソンなので2時間を切るのは不可能だろうと思っていたら、なんとかギリギリで2時間を切ることができた。ただ、それはスタート直前にスコールが降り、高気温が少し和らいだおかげだろう。そうでなければ2時間を切ることは不可能だと思う。なので、最初からタイムには期待してないのだ。

(ピッグ)「でも幹事長は常に大会自己ベストを狙ってませんでしたか?」
(幹事長)「もちろん、どんな大会であっても大会自己ベストを狙うのが良い子のあるべき姿だが、今回は非現実的な願望だわな」


どんな大会であっても当然ながら大会自己ベストは狙うが、真剣に狙ってペース配分を考える場合と、実現性の乏しい単なる願望の場合がある。今回はさすがに大会自己ベストは難しいだろうから、ペース配分なんかは考えずに成り行きまかせで走ることにする。



道路は予想通り空いていて、高速道路も順調に進んだ。唯一の不安はトイレだ。普段は7時過ぎに朝食を食べてから家でトイレに行くが、今日は家を出るのが早いので、まだ朝食は食べておらず、家ではトイレに行っていない。普段と変わったことをするとお腹を壊す原因になるので、最近はマラソン大会の日も、できるだけ朝食の時間を普段と同じにしているため、今日は現地に着いてから朝食を食べる予定なのだ。ただ、そうなるとトイレも現地ですることになるが、通常、マラソン大会の会場のトイレは、頭がクラクラするほど混んでいるので、避けたいところだ。しかし、2年前は、事前に高速道路のサービスエリアのトイレで用を足そうとしたら、既に長蛇の列が出来ていたので、諦めて会場へ行ったら、逆に会場のトイレは妙に空いていて、あんまり待たずに用を足せた。2年で状況が大きく変わってるかどうか分からないが、取りあえず現地に直行する。

車は最後まで順調に進み、現場の駐車場には予定通り7時半に着いた。この駐車場が一杯になると、遠く離れた第二駐車場に停めてバスで移動することになるので避けたかったが、まだまだ駐車場は半分も埋まっていない。なんとなく、あと1時間は遅れて来ても大丈夫のような気もする。

レース会場はクライミングセンターだ。高さ15m、幅4mの人工のクライミングウォールが2面ある西日本で唯一の屋根付き競技場だ。

会場のクライミングセンター

2年前は、このクライミングセンターのテント屋根の下が受付とともに選手の控え場所になっていたんだけど、今日はクライミングセンターの裏が待機場所になっていて、芝生の上に大きなテントが張られ、その中にテーブルとイスが並んでいる。取りあえず朝食を食べようと思ってイスに座ると、となりのテーブルに座っていた人が声を掛けてくる。

(隣の人)「もしかして幹事長さん?」
(幹事長)「え?どちらさん?」
(隣の人)「時々、みんなの広場に書き込みしている「おんちゃん」です」


おおーっ、なんと、あのおんちゃんだったのか!

(幹事長)「よく分かりましたねえ」
(おんちゃん)「だって写真載せてるじゃない」


写真ったって、ここに掲載している写真なんて小さいものだから、分かりにくいと思うんだけど。しかも、ピッグに対しても「増田さんですよね?」なんて分かっている。そこまで、このホームページを読み込んでくれているのかと思うと嬉しくなる。
話を聞くと、おんちゃんはかなりの実力者のようだ。今日は10kmの部に出るとのことで、記録を狙っているのだろうか。次のレースは我々と同じく、9月始めの四国のてっぺん酸欠マラソンに出るというし、11月には四万十ウルトラマラソンの100kmの部に出るという。

(幹事長)「100kmだなんて、よくもまあ走れますねえ」
(おんちゃん)「ペースを抑えたら誰でも走れるんよ」


おんちゃんは以前、100kmの部に出たことがあるそうで、その時は、最初の20kmの上り坂はゆっくり走り、次の20kmの下り坂は徹底して歩き、その後の60kmを走ったとのこと。普通、20kmの下り坂区間は、ちょっとでも貯金しようと思って走るもんだが、そこを割り切って歩くことにより足の疲労と故障を抑えられれば、完走はできると言うのだ。今まで、そういう発想は無かったけど、これは真実かもしれない。

おんちゃんと息ぴったり!

朝食を食べ終わると、そろそろトイレへ繰り出す。まずはクライミングセンターの内部にあるトイレに行ってみたら、おじさんが1人並んでいるだけ。ラッキーと思っていたら、しばらくすると場内アナウンスで「クライミングセンター内のトイレは女子専用となっています」なんて言われたから、慌てて退散する。次に仮設トイレに行ってみたら、数人並んでいる。仮設トイレのボックスも数個あるから少し待てば用を足せそうな気がしたけど、クライミングセンターの横にある小学校の体育館が更衣場所なっていて、そこのトイレも使えるとのこと。そっちのトイレの方がまともそうなので、そっちへ行ってみる。小学校は、すぐ横にあるんだけど、ちょっと小高くなっており、坂道を上っていく。体育館には結構な人がいたけどトイレは空いていて、待たずに入れた。ところが、ここのトイレは昔懐かしいボットン便所だった。こんなところでウォシュレットは期待してなかったけど、まさかボットン便所とは思わなかった。ボットン便所は物を落としてしまったら取り返しがつかないという恐怖あるので、慎重に行動しなければならない。ま、しかし、待たずに用を足せたので文句は言えない。

用を足して戻ってきても、まだまだスタート時間までは時間があるが、ヒマなので、そろそろ着替えることにする。

(ピッグ)「また今日も何を着るか悩むんですか?」
(幹事長)「さすがに今日は悩む余地は無いわなあ」


この炎天下では、本当は裸で走りたいくらいだ。なので、下は青森勤務時代の職場の陸上部で作った超薄手の短いランニングパンツだ。上も同じユニフォームのランニングシャツを着ようかとも思ったんだけど、6月の徳島航空基地マラソンの前に買った背中がメッシュのシャツを着ることにした。今日は日射しが強烈なので、ランニングシャツだと方や背中が日焼けしそうだからだ。ただ、このメッシュのシャツは、メッシュと言っても編み目は細かくて、徳島航空基地マラソンで着た時もあんまり涼しくはなかった。本当ならオリーブマラソンで着たメッシュのシャツを着たい。徳島航空基地マラソンで着たメッシュのシャツは虫取り網くらいの目だが、オリーブマラソンで着たメッシュのシャツは魚の網くらいの粗さだから、本当に涼しいのだ。
なーんて思いながら横を見ると、なんと!おんちゃんが僕がオリーブマラソンで着たのと同じような荒い目のメッシュのシャツを持っている

(幹事長)「うわ、それ、どこで買ったん!?」
(おんちゃん)「昔、スポーツデポで買ったんよ」


そうか、スポーツデポでも売ってたのか。でも、おんちゃんが買ったのも10年前のことで、最近はどこへ行っても売ってないとのこと。やはり今は入手できなくなってしまったのか。

(おんちゃん)「時代の流れやねえ」
(幹事長)「最後の1枚がボロボロになったから、新しいのが欲しいんやけどなあ」


こんな優れたものは、ずうっと売って欲しいんだけどなあ。

着替えを済ませたら、日焼け止めクリームをしこたま塗りたくる。これだけ塗れば大丈夫と思いたいが、今日はどんどん汗が噴き出てくるので、いくら塗っても流れ落ちていく。女性ランナーを見ると、多くの人が半袖の下に長袖を着込んだり、アームウォーマーのようなものを付けている。もちろん寒いからではなく、日焼け止めだろう。でも、いくら日焼け止めって言ったって、あれは暑いような気がするなあ。当然ながら、下もランニングタイツを履いている。

(幹事長)「見るだけで暑くなりそう」
(ピッグ)「どっちみち暑いから、あんまり変わらないのかもしれませんね」


ふだんは帽子は嫌いだけど、これだけ暑いと日射病になるといけないので、今日は帽子を被る。さらに、日射しが眩しいのでサングラスもかける

取りあえず準備も終わり、手荷物を預けたが、まだまだスタートまで時間があるので、暇つぶしにブラついていると、K岡氏に会う。つい数日前に会ったとき、彼も出場すると言ってたので、どこかで会えるかもしれないとは思っていたが、マイナーな大会なので、すぐに会えた。彼もハーフマラソンに出るとのことだ。

やる気まんまんのメンバー
(ピッグ、幹事長、片O氏)

しばらくブラつこうかと思ったけど、日なたに出ると暑くてジリジリ肌が焦げるようなので、慌ててテントの中に引き返す。
向こうでは開会式をやっているが、取りあえず無視する。あまりにも暑いからウォーミングアップなんてものは必要ない。走る前からクールダウンしたいくらいだ。
喉も渇いてきたので、水をもらいに行き、ついでに最後のトイレに行く。仮設トイレが5〜6個並んでいて、ガラガラだ。中に入ると、簡易トイレなんだけど、なかなか良い製品で、水洗のようになっている。臭いもしないし、とても清潔。これだったら、わざわざ丘の上の体育館まで行って鼻をつまみながらボットン便所で用を足す必要は無かったなあ。

気が付くと、ようやくスタート10分前になっていたが、特にアナウンスも無いし、会場には切迫感が無い。なんでかなあ、と思ってスタート地点に行ってみると、まだ集合がかかってないのだ。なぜかと言うと、スタート地点はクライミングセンターの前の道路なんだけど、まだ通行止めにしてなくて、車が通っているのだ。他に迂回路が無い道なので、スタート直前にならないと通行止めにできないのだろう。庵治マラソンと同じシステムだ。てことで、スタート地点の近くにランナーは群れながら待っている。
スタート5分くらい前になって、ようやく通行止めになり、ランナーが並び始める。シューズにタイム計測チップは付けているが、これはゴール時に計測するだけで、タイムはネットタイムではなく、グロスタイムしか計ってくれない。なので、前方からスタートしなければタイムはロスするが、所詮、ハーフマラソンの参加者は738人なので、前に並ぼうが後ろに並ぼうが、そんなに変わりはない。それに、このマラソン大会は夏場の暑い時季に坂道をひたすら登る超過酷なレースなので、最近のメジャーなマラソン大会に大挙して出てくるような初心者はあまりいないから、参加者のレベルが高く、みんな結構速くて、スタート直後の混雑も少ないのだ。て言うか、前の方にいたら周囲がみんな早くて、それにつられてオーバーペースになる危険性があるのだ。
て事で適当に並んだんだけど、どっちかと言えば、ちょっと前の方に寄り過ぎたかもしれない。

天気は相変わらずの晴天で、時折雲が流れてきて日陰になると、一気に涼しくなって嬉しいけど、あっという間に雲は飛ばされていって、すぐに炎天下に戻る。汗はタラタラ、日焼け止めクリームもタラタラだ。



あまりの暑さに緊張感も沸かないままボウッと待っていると、すぐにスタートになった。取りあえずは何も考えずに自然体で走る。
割と前の方からスタートしたもんだから、最初から順調に走り出せる。て言うか、そもそもレベルが高いレースの上、前の方には早い人が多いので、いきなり全員が全速力になり、スタート直後の混雑によるノロノロ運転は無かった。普通なら、こういう厳しいコースの場合、ペース配分を考えて無理せずにゆっくりと走り出すランナーが多いが、こんな過酷なレースに出場する選手はレベルが高いから、これくらいの坂では、スタートの合図と共に、みんなすごい勢いで一斉に駆け出すのだ。ペース配分を考えていないのではなく、ペース配分を考えても僕のレベルからすれば速すぎるのだ。普通のレースなら序盤はウォーミングアップ代わりにゆっくり走ればいいんだけど、このレースは、周りにつられて、いきなりハイペースの戦いとなるのだ。

このレースは、前半の10.5kmは、汗見川という、早明浦ダムの直後で吉野川に合流する小さな支流に沿った道を延々と上るから、基本的にひたすらずっと上り坂で、逆に折り返してくる後半は下り坂だ。ただ、汗見川は急流という訳でもないし、川に沿った坂は、そんなに激しいアップダウンではない。塩江山岳マラソンや四国カルストマラソンは、絶対に途中で歩いた。どんなに調子が良くても、どんなに気候が良くても、絶壁のような坂の前では、ただ頭を下げて歩くのみだった。マラソンというより登山の世界だ。それに比べたら汗見川マラソンの坂は、大した勾配ではない。特に、前半はずうっと上り坂ではあるが、前半の前半の5kmくらいは、大した上り坂ではない。元気なうちは、あんまり苦にならない程度の上りだ。時々、ちょっとした上りを感じるけど、大半は緩やかに上っていくだけなので、体力がある序盤では、あんまり気にならない。

とは言え、最初の1km地点のタイムを確認してびっくり。ジャスト5分くらい。予想外に速い。て言うか、いくらなんでも速すぎる。これじゃあ真冬でフラットな丸亀マラソンのペースだ。仮に絶好調だとしても、このレースにしては速すぎる。しかも今日は絶好調どころか、かなりの不調だ。いくら序盤の坂は大したことないと言っても、ちょっと速すぎる。明らかにオーバーペースだ。周囲のランナーにつられてしまったのか。ちょっと落ち着かなければならないと思ってペースを落とす。

次の2km地点でのラップは、多少、上り坂が増えてきたこともあって、1km5分半くらいに落ちた。ちょっと落としすぎ、とも思ったけど、本来これくらいのペースでいくべきなので、無理してペースを上げようとは思わない。こんな序盤で無理したら後で力尽きてしまう。ただ、気分としては、まだまだ軽快に走れている感じだ。コースは山の中の川沿いだけど、日陰と日なたは半分づつくらい。日陰でホッとしたかと思うと、またすぐ日なたになる。

次の3km地点でのラップは、少しペースアップしていたが、その次の4km地点では再び5分半くらいに落ちていた。とは言え、区間によって坂の斜度も違うので、あんまり気にするような差ではない。どっちにしても、1週間前にはロクに走れなかったし、さらに今日は暑いから、そもそもまともに走れるかどうかも不安だったけど、さすがにレースになると気合いが入るのか、結構まともに走れているような気がする。2年前のレースでのタイムをコンスタントに上回っている
こうなると、なんだか欲が出てくる。どんなレースでも、常に大会自己ベストは狙っているが、今日はこの炎天下なので大会自己ベストは無理だろうし、それどころか、完走できれば良いくらいのつもりでいた。しかし、ここまで予想外に順調に走れているので、大会自己ベストが狙えるのではないかって思い始めた

このレースは、マイナーな草レースではあるけれど、開催時季が真夏なので、給水所は多い。片道4箇所、往復で8箇所もある。しかも冷水とスポーツドリンクが用意されていて、脱水にならないよう気は遣ってくれている。冬場のマラソンなら、給水なんかパスする事が多いけど、今日はさすがに脱水になると困るので、最初からこまめに水を補給する。て言うか、最初から喉が渇いて口がカラカラだ。

このレースのコースは、「坂が厳しい」と言う人が多いが、「大したこと無い」という人もいて、評価は微妙だ。坂と言えば、かつての塩江山岳マラソンや四国カルストマラソンの絶壁のような坂をイメージしてしまう僕にとっては、実は、それほど死ぬほど厳しい坂ではない。前半の後半、すなわち5km地点を過ぎてからは坂が厳しくなるが、それでも歩くような坂ではない。ましてや、そこまでの前半の5kmは坂と言えば坂だけど、大したことはない。なので、そこまでで貯金ができれば、その後の展開がだいぶ楽になる。
なーんて思って5km地点で時計を見て、びっくり!一気にペースが落ちている。これは一体どうしたことだ?まだまだ大した坂は出てきてないと思ったけど、実は上り坂が急になっていたのか?いや、たぶん違う。坂のせいじゃなくて、早くも足が弱ってきたのに違いない。最初のオーバーペースが、早くも悪影響を及ぼしてきたのか。まだまだ大した坂は出てないのに、早くも暗雲が垂れ込めてきた。

5km地点を過ぎて少し行くと10kmの部の折り返し点がある。なんで5km地点じゃなくて少し行ったところにあるのかと言えば、10kmの部と言いながら、距離は10.3kmあるからだ。この300mの意味は不明だ。
ちょうどここで、10分遅れでスタートした10kmの部のトップ集団に追い付かれる。さすがにトップはペースが全然違う。1km3分半を切っている。

微かな記憶では、このレースは人家の無い山の中を走るため、沿道には誰もいないようなイメージだったが、実は前半の前半は時々人家があり、応援してくれる人もいた。さらに、水道の水でシャワーを作ってくれている人もいた。ただ、シャワーを浴びるとサングラスが濡れて見えにくくなるし、日焼け止めクリームも流れてしまうので、あんまり当たらないように避けて走った。
シャワー以外にも、水を流している大きなバケツもあちこちにあり、多くのランナーが柄杓で水をすくって頭からかけている。気持ちよさそうだけど、そこまでするのも面倒くさい。

前半の後半、すなわち5km地点を過ぎると、それまではちらほら田んぼもある風景だったのが、山深くなってきて、だんだん坂が厳しくなったような気がしたが、思ったほどでもない。6km地点で時計を見ても、さきほどの5km地点のペースと変わらない。5km地点で既にペースダウンしていたからだけど、さらなるペースダウンは避けられた。
しかし、そこを過ぎるとさらに坂が厳しくなる。全体的にきつくなると言うより、所々に急な坂が出てくるようになる。大会パンフレットので地図では傾斜10%のところもある。ただ、そういう坂は距離はそんなに長くはないから、庵治マラソンの最後の巨大な坂のようなきつさはない。

とは言え、少し前から、他のランナーに次々と抜かれている。みんなが揃ってペースアップしたとは到底思えないので、明らかに自分のペースが落ちているのだろう。と思って次の7km地点で時計を見ると、一気に1km6分を越えてしまった。確か2年前にも、一度だけ1km6分を超えた区間があったけど、それはまだ先にある坂が一番厳しい区間だった。今日は早くも6分を超えてしまい、明らかに2年前よりペースが遅くなってしまった
ただ、抜いていくランナーは男子が多く、女子ランナーが少ないのが救いだ。こういう時に女子ランナーに抜かれると精神的ダメージが大きい。そもそも、このレースは女子選手が少ない。最近はメジャーなマラソン大会になると女子が非常に多いが、このレースは女子が少ない。いくらマラソンブームでも、こんな過激なレースに出る女子は少ないのだろう。男子選手だって、こんな過酷なレースに出ようと、わざわざ山奥まで来る選手は、マニアックな好き者揃いなんだろう。

給水所は次から次へと出てくるので、喉が渇いて困るってことはない。給水所には水のほか、水を浸したスポンジもあり、それで顔や肩や上を拭いたいんだけど、日焼け止めクリームが落ちるのが怖いので我慢する。なぜそこまで日焼け止めクリームにこだわるかと言えば、「番外編」に書いた2週間前の白山38時間弾丸日帰り登山の時、高い山だから長袖シャツを脱ぐことはないだろうと思って日焼け止めクリームを持っていかなかったら、あまりの暑さにTシャツ1枚で登ってしまい、あっという間に腕も首筋も真っ赤に日焼けして痛い目にあったからだ。

その後も、相変わらず、そんなすごい坂が現れるっていう感じはない。坂の傾斜や大きさから言えば、庵治マラソンやタートルマラソンの方が厳しいような気がする。しかし、タイムは庵治マラソンやタートルマラソンの方がはるかに良いので、はやりこのレースの方が厳しいのだろうか。
とは言え、7〜8年前の10kmの部しかなかった頃に出場した時は、僅か10kmのレースなのに、なかなかゴールにたどり着かず、終盤はリタイアが頭をよぎったし、歩く誘惑と戦うのにも苦労した。それに比べれば、今日はリタイアなんて発想は出てこない
そうは言ってもタイムはさらに着実に落ちていき、8km地点でのラップは6分半近くにまでペースダウンしていた。非常に厳しい展開だ。追い越していくランナーはいるけど、私が追い越すランナーはほとんどいない。時々歩いているランナーを追い越すことはあっても、走っているランナーを追い越すことはない。

この辺りで、折り返してきたトップランナーとすれ違う。しばらくすると、2番目のランナーともすれ違う。すれ違いながら顔を見ると、あれ?なんだか顔も身体も城武選手に似ている。似ているどころか、どう見ても城武選手だ。でも、彼は去年の正月からアメリカに赴任している。一応、2年間はアメリカにいるはずだから、まだ帰国はしてないはずなのに。もしかして、アメリカに行ったのは一昨年だったのか。最近は自分の記憶力に自信が持てないので、分からなくなってしまった。

山深く入れば入るほど木陰が多くなり、厳しい日射しから逃れられる区間が多くなるが、風は無くなって熱気が滞留し、息苦しくなっていく。なので、日陰に入ると帽子を脱ぎ、頭を冷やす。でも、またすぐに日なたに出ると、暑くてたまらないので帽子を被る。こんな事を繰り返していると無駄な体力を消耗しているような気がする。
坂は相変わらず急になったり緩くなったりだが、9km地点のラップが少しマシになって喜んだかと思うと、次の10km地点では再び悪くなって一喜一憂するが、ま、誤差の範囲であり、全体的にリカバーできないほどの遅さであることは間違いない。
この時点で2年前のタイムと比べると、実はまだほとんど変わらないのだが、ここまでの展開が良くない。前半の前半は2年前を上回るペースだったのに、その後のペースダウンが著しく、結局、10km地点でほぼ同じになったのだから、明らかに展開が悪い。このままどんどん落ちていく一方だろう。なので、2年前のタイムを上回る大会自己ベストは不可能だろう。なので、せめて2時間切りを目標にする。

10km地点から500mほど行くと、折り返し点がある。結局、ここまでで1時間をオーバーしてしまった。2年前も折り返し点ではほんの僅か1時間をオーバーしていたが、後半の下り坂でバンバン飛ばして一気に挽回できた。しかし、今日は相当頑張らなければ2時間を切るのは難しそうだ

折り返し点を過ぎて下りに入り、僕より遅いランナーとすれ違いながら、折り返す前にすれ違った僕より速いランナーとどっちが多いか見てたが、なんとなく同じようなものか。最近のメジャーなマラソン大会では、異常なまでのマラソンブームのせいで、軽い気持ちで参加する初心者ランナーが多く、相対的な順位を見ると、以前より断然、上位に入るようになってきた。例えば丸亀マラソンで見ると、参加し始めた20年ほど前には、530人中487番目とか、589人中488番目とか、下から数えた方が圧倒的に早かった。それが最近は参加者が激増し、7986人中1993番目とか8327人中2147番目とか、上位1/4くらいの位置に上がってきた。タイムも少しは速くなってるんだけど、それ以上に遅い人が大量に参加するようになって相対的順位が上がっているのだ。しかし、このレースはレベルが高いため、せいぜい半分くらいの位置だ。しかも、最後の方のランナーでも、トボトボと歩いているランナーが少ない。さすがに、そんな人は参加していないのだろう。

すれ違いながら確認すると、ピッグは5分くらい遅れてやってきた。表情は明るく、そんなにバテているようでもないが、かなりゆっくりしたペースだ。

炎天下の厳しいレースなのに明るく楽しく走るピッグ

片O氏は、さらに5分くらい遅れてやってきた。こちらも表情は明るく元気そうと言うか、最初からタイムは気にしていないような走りだ。

敬礼をしながら走るK岡氏

折り返し点を過ぎてからの後半は、基本的に下り坂となる。上りできつかった所は、逆にとても早く走れる。当たり前だが、問題は、そのペースだ。2時間を切るためには、前半の後半、すなわち6km地点から折り返し点までの、1km6分を超えたような区間では1分は縮めなければならない。てことで、重力にまかせて転がり落ちるように走る。下り坂を大きなストライドで駆け下りると足を痛めるので良くないのだけど、残るは後半の10kmだけなので、そんな事は気にしなくても良い。スピードを出せるだけ出さなければならない。あまり急過ぎると足に負担を感じてしまうが、そんなに急な部分は少なく、大半の区間は自然体で気持ちよくスタスタと駆け下りることができる。12km地点で時計を見ると、さすがにペースアップしているが、思ったほどではない。こんなんじゃあ駄目だ。もっとペースアップしなければ2時間を切れない。

下り坂はさらに急になっていき、次の13km地点はさらにペースアップできたが、それでも物足りない。だってペースアップと言ったって、序盤の上り坂区間より遅いのだ。さらに次の14km地点では、坂が少し緩くなったせいか、また少しペースダウンしてしまった。
天気は相変わらず晴天で、時折雲が流れてくるが、すぐに飛ばされて厳しい日射しが照りつけてくる。

ペースは思ったほど上がらないものの、まだまだ下り坂が続いているので、なんとか足は動き、そういう意味では苦しくはない。15km地点16km地点でのタイムは、まだまだ若干の望みを抱くことができるペースだ。仮に、このままのペースを維持できれば2時間切りも不可能ではない。
なーんて思ったのは考えが甘く、後半の後半になると、下りを全く感じなくなってしまった。後半の後半って事は、前半の前半を逆に走っている区間であり、前半の前半はあんまり上りを感じなかったのだから、逆に走っても下りを感じないのは当たり前だ。
そして17km地点では、再び一気に6分を超えてしまった。まずい、まず過ぎる。もうちょっと頑張らないと情けないと思って走ろうとするのだけど、しんどくて力が入らない。足がしんどいと言うより、暑くて息が苦しい感じ。今年のハーフマラソンで言えば、丸亀マラソンは終盤に足が動かなくなって一気にペースダウンしオリーブマラソンは終盤まで余力が残っていてペースアップできたけど、今回は息が上がってペースアップできない状態だ。足が痛くなるんじゃなくて、しんどいって感じになるのは、最近のマラソンでは珍しい。

前半と同じく、家の前で水を掛けてくれる人があちこちにいて、ここまで避けてきたんだけど、ヨタヨタと走っていると、避けることすらできなくなって、遂に追いかけてきたおばちゃんに捕まって水を掛けられてしまった。そしたら、なんと、ものすごく気持ち良いの。水がかかったのは身体のほんの一部なのに全身が生き返ったようにリフレッシュされ、一気に元気が沸いてきた。こんなに気持ち良いんなら前半からかけてもらったら良かった。そうしてたら、もっとタイムも良かったんじゃないだろうか。
なーんて思って次の18km地点で時計を見たら、6分をさらに大幅に上回っていて、もうどう計算しても2時間切りは不可能になった。水を掛けられて蘇ったと思ったのは単なる気のせいだった。そうなると、さすがにモチベーションが無くなり、一気に力が抜けた。こうなると当たり前だけど、楽になる。精神的に楽になるんじゃなくて、実際に力を抜いたので肉体的に楽になった。もう後は適当に流すだけだ。
てことで、19km地点、20km地点と同じようなペースでのらりくらりと走る。唯一の気がかりはピッグに追い付かれる事だが、前半で5分の差を付けているので、それほど心配する事はないだろう。

猛暑をものともせず快走する幹事長

終盤になると、周囲のランナーも似たようなペースになり、私を追い抜いていくランナーもあんまりいなくなった。逆に力尽きてトボトボ歩いているランナーが増えてきた。自分はいくらしんどいと言っても、歩きたくなるようなしんどさではない。暑いけど完走はできる。それに、ゴールが近づいてくると少ないながらも人家が増えてきて、沿道で応援してくれる人も少しはいるので、なんとなく力が沸いてくる。なので、最後の1kmはちょっと気合いを入れて頑張り、ペースを上げることができたし、最後は気持ち良くゴールできた。

過激なレースだっただけに、ゴールしてからへたり込んだときの開放感は気持ち良い。結局、タイムは2時間を上回ったが、仕方ない。当然の展開だ。ハーフマラソンで2時間をオーバーしてしまったのは一昨年のオリーブマラソン以来だが、あの時も猛暑で惨敗したから、暑さのせいのような気がする。ただし、2年前のこのレースに比べたら序盤は速かったのだから、序盤のオーバーペースのせいで中盤から失速したのかもしれない
と思って記録証をもらって確認すると、タイムは悪いながらも、相対的な順位は2年前とほぼ同じで、総合順位では半分よりちょっと上っていう辺りだ。2年前は、予想外にタイムが良かったから、もっと上の順位だろうと思ってガッカリしたが、今日は逆に、もっと下かと思っていたら同じような順位だった。つまり、2年前に比べて、みんなもタイムが悪かったという訳だ。なので、やっぱり暑さのせいなのだろう。なんとなく一安心だ。



しばらく休んだら、足を引きずって冷たいトマトをもらいに行く。大きなバケツに冷えたトマトがいっぱい浮かんでいて、好きなだけ取り放題だ。いくら食べても美味しくて、5〜6個食べてしまった。さらに、ゆずジュースがあり、これも美味しかったので何杯も貰ってしまった。猛暑のレースは、レース自体もそれなりに楽しいし、充実感が残るうえ、レース後も嬉しい。

しばらくすると、ピッグが10分くらい遅れてゴールした。前半で5分差だったから、後半も僕と同じようにペースダウンしたようだ。さらに20分くらい遅れてK岡氏もゴールした。彼も同じようにペースダウンしたようだ。みんな同じようなレース展開だったから、今日の暑さは平等に堪えたようだ。

トマトも美味しいけど、このレースの一番の楽しみは、何と言っても冷たい川に飛び込むことだ。かつて上りの片道10kmコースしか無かった時も、ゴール後に近くの川に飛び込んでいたが、往復のハーフマラソンになってからも、この近くで川に飛び込むことができる。さっそくピッグを誘い、足を引きずって川に降りていく。既に数十人が川に入って気持ちよさそうに泳いだりしている。シューズとソックスは脱いで、ランニングウェアのまま川に飛び込む。川の水はものすごく冷たく、足を浸けただけで痛くなるほどだ。それでも我慢して少しずつ身体を沈めていき、心臓が止まりそうになりながら、遂には肩まで浸かる。暑く火照った体が一気に冷やされていくのが気持ち良い。さすがに長時間は無理で、早々に上がるが、それでも身体は十分に冷え切って、あれだけ暑かったのが嘘のように気持ち良くなる。肩は少し日焼けしたようだが、日焼け止めクリームを大量に塗りたくったおかげで、日焼けは少なかった。

身体を冷やして落ち着いてから控え場所に帰ると、10kmの部で早々に完走していたおんちゃんが待っていてくれた。さすがは実力者、結構、良いペースで走っていた。
おんちゃんがノンアルコールビールやらジュースやらトマトやら、いっぱいくれるので、それに甘えてすっかりくつろいで休んでいたら、場内放送で「優勝は城武選手」なんて言ってるのが聞こえた。

(幹事長)「うわ、やっぱり城武選手だった!」

城武選手は出るレース出るレースことごとく優勝して、指名手配されていたペンギンズの超エースだ。

(ピッグ)「本人がペンギンズ所属ってのを知ってるかどうかは怪しいですけどね」

表彰式が終わって、お楽しみ抽選会が始まったが、生まれつきクジ運はとても悪いので、この類の抽選会には期待しないことにしている。ただ、城武選手に会えるかもしれないので、会場へ行くと、すぐに見つかった。

(幹事長)「おいおい、どしたん?いつ帰ってきたん?」
(城武)「昨日帰ってきたばかりです」
(幹事長)「もうアメリカ赴任は終わったん?」
(城武)「いや、まだです。夏休みで帰ってきたんです」


なんと、わざわざこのレースに合わせて帰省してきたんだそうだ。参加申し込みもアメリカからインターネットでしたそうだ。それにしても、昨日アメリカから帰ってきていきなり優勝するなんて、あまりにも凄い。考えられない。暑いからってヒィヒィ言ってる場合ではないなあ。

前日、帰国したばかりなのに、いきなり優勝した城武選手

なーんてひとしきり話していたら、いきなり場内放送で名前を呼ばれた。なんと、何か抽選で当たったらしいのだ。でも、景品をもらうにはゼッケンが必要とのこと。ゼッケンは控え場所に置いたままだ。急いで名乗らないと景品を次の当選者に回されてしまう。慌てて「ゼッケンを取ってきますから待ってください!」って叫んで控え場所に帰ると、ピッグがゼッケンをバッグから取り出してくれていた。急いで会場に引き返すと、何やらむちゃくちゃ重い物を渡された。何かと思ったら、お米だった。なんでも、ここ本山町の名産の「天空の郷」ていうお米だった。あとで調べると、めっちゃ値段の高い高級米だった。こんなすごい物が当たったのは生まれて初めてだ。参加費の元を取ってしまった。期待してなかっただけに嬉しい。

さらに、控え場所に戻って弁当も受け取る。弁当は2年前と同じく、普通の弁当か、ソーメンとばら寿司の組み合わせだ。2年前は普通の弁当にして失敗だったので、今日はソーメンとばら寿司のセットをもらう。疲れ切った後には、冷えたソーメンが食べやすい。

タイムは予想通り悪かったけど、猛暑のレースを完走できて満足だし、ゴール後の足も心地よく痛いし、川も気持ち良かったし、トマトも美味しかったし、豪華な景品も貰えたし、とってもハッピーな一日だった

(幹事長)「出て良かったやろ?」
(ピッグ)「走ってる途中は苦しかったけど、ゴールすると気持ち良いですね」


来年も絶対に出なくては!


〜おしまい〜




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