第20回 北山林道駆け足大会
2018年6月10日(日)、高知県津野町において第20回北山林道駆け足大会が開催された。
津野町と言っても、地区としては旧葉山村で開かれるもので、一昨年、高知のおんちゃんから誘われて初めて参加し、去年に続き、今年で3回目の出場となるレースだ。おんちゃんに教えてもらうまで聞いたこともなかったようなマイナーなレースだが、もう、めちゃ楽しいレースだ。
そもそも名前からして「北山林道駆け足大会」だなんて聞いただけでもそそられる。「林道」で「駆け足大会」とくれば、もう、怪しさ爆発だ。しかも定員500人てことは、完全なる草レースだ。ランネットでエントリーできないのはもちろん、ネットで調べても、情報はほとんど出てこないような超マイナーな草レースだ。怪しいマラソン大会には目がない我々としては、見過ごすわけにはいかないレースだ。
〜 トンでもない激坂コース 〜
おんちゃんは実力者で、四万十ウルトラマラソンの100kmの部にも出ており、どちらかと言えば、坂のある厳しいコースが好きなM系ランナーだ。そういうハード系ランナーのお誘いなので、用心しなければならないところだが、このレースは誘ってくれて本当に良かった。
このレースは名前も怪しいが、そのコースはトンでもないものだ。距離は12.8kmしかなくて、かなり短い。しかし、最初3kmほど平坦な道を走って林道の入口に入ると、いきなり極端な急登となる。パンフレットの図面には、上り勾配は10%と書いてあり、それだけでも厳しいが、これは平均の勾配であり、当然ながらもっと急な部分もある。実際のところ、何度あるのかは分からないが、とても厳しい坂だ。急登が終われば尾根道を走るが、尾根道も決して平坦ではなく、かなりアップダウンがある。そして尾根道が終われば下りになる。下り勾配は19%なんて書いてあり、これだけでもトンでもなく急な下りだが、もちろんこれも平均の勾配であり、当然ながらもっと急な部分がある。まさに転がり落ちるように走って下るようになる。激坂の下りが終われば最後は少しだけ平坦な道が残っているが、基本的には急な坂道を上がったり下ったりするのがメインのマニアックなコースだ。道は全て舗装されているからトレイルレースとは異なるが、アップダウンで言えば、まるでトレイルレースのようなコースであり、普通のマラソン大会ではない。
こう書くと、とても厳しいレースで、楽しめるようなレースではないと思うかもしれないが、これが実に楽しい。一昨年、初めて参加した時は、恐る恐るの出場だったが、予想をはるかに上回る楽しいレースだった。上り坂はあまりに激し過ぎるから、辛いと言うより笑ってしまい、むしろ面白く感じられる。それに、厳しいと言っても、所詮、上り坂区間は数kmしかなくて、それが分かっているからペース配分なんか考える必要が無く、とにかくがむしゃらに子供みたいに走ればいい。終盤は下り坂が続いて、思いっきり駆け下りるのも楽しかった。要するに、全体でも距離は13km足らずで、ペース配分なんて考える必要がなく、最初から最後まで全力で走ればいいので、本当に楽しかった。こんなに面白くて楽しいレースは久しぶりだった。
あまりに楽しいから、ゴールする時は顔がニコニコしてしまう。
(ヤイ)「みんな本当に嬉しそうな顔でゴールしてましたからねえ」
(幹事長)「いやあ、楽しかった。あんなに楽しいレースは久しぶりやったなあ」
(ピッグ)「ほんと。思わずニコニコしながらゴールしましたからね」
ピッグも同じようにニコニコしながらゴールしたし、支部長も上り坂の急勾配区間では歩いたものの、下り坂は他のランナーをごぼう抜きして楽しんでいた。
そもそも我々は、もともと山岳マラソンには慣れている。2005年に高松市に合併吸収されるまで塩江町で毎年開催されてい た塩江マラソンは距離はハーフマラソンで、最大標高差350m、獲得標高550mの山岳マラソンだったし、今はな き四国カルストマラソンもハーフマラソンで、標高1000mを超える高原を走る山岳マラソンだった。それに比べれば今大会は最大標高差は300m程度なので未知の世界ではない。例えば塩江マラソンは、急勾配の坂を下りてからも延々とフラットなコースが続いて足が棒のようになって撃沈するのが常だったが、この大会は距離が短く、急勾配の坂を下り終えて少し走るとゴールとなるので、走りやすく楽しい気持ちのままゴールすることができる。また最近は、四国のてっぺん酸欠マラソンだとか龍馬脱藩マラソンのように、もっと極端に激坂が続くレースにも出るようになったので、この北山林道駆け足大会は苦しさじゃなくて楽しさしか感じないイベントとなっている。
また、坂だけでなく、コースレイアウト自体も魅力的だ。マラソン大会のコースと言えば、折り返し点で折り返して往復するコースが一般的だが、この大会のコースは山の中をグルッと回って一周するという周回コースなのだ。山の中をグルッと一周するってのが探検的で面白いし、山の上は見晴らしが良いし、なんとなく遠足しているような気分になれる。
さらに、この大会はレース後の抽選会が楽しい。おんちゃんチームが3年前に6人中5人もが当選したって聞いていて楽しみにしていたんだけど、実際に2年前に初参加したときは、我々も5人中4人が当選するという高確率だった。景品も、私とピッグはミカンだったが、ヤイさんと小松原選手はビール24本入りケースという豪華景品だった。続いて去年も3人中2人が当選したから、やはり、かなり高い確率で当選するのは間違いない。
〜 6月の貴重なレース 〜
この楽しいレースが6月にあるってのが、また嬉しい。一般的にマラソン大会は秋から冬、せいぜい初春までに開催される。気温が低い季節の方が走りやすいからだ。5月末のオリーブマラソンは、既に時季外れの大会であり、今年のように天気が良いと炎天下の厳しいレースになる。そのため、6月から9月にかけてはマラソン大会の閑散期になり、出場できるレースが少なくて困ってしまう。なので6月に開催されるこの大会は、とても貴重な大会だ。
なぜか四国においては、高知には夏場のマラソン大会がある。この6月の北山林道駆け足大会のほか、7月には汗見川マラソンが、9月始めには四国のてっぺん酸欠マラソンが、10月始めには龍馬脱藩マラソンが開催される。これらが開催される5ヵ月もの間、他の県ではほとんどマラソン大会は無い。暑いからだ。
なぜ他ではマラソン大会が無いような暑い時期に高知でだけマラソン大会が頻繁に開催されるかと言えば、高知の山の中は標高も高いし、夏場でも涼しいと思われがちだからだろう。もちろん、これは完全なる事実誤認であり、実際にはいくら高知の山の中と言っても、夏は暑い。とっても暑い。11年前の汗見川マラソンなんて、開催された日の気温は、開催場所である高知県本山町が全国で一番暑かったという、トンでもない状況だった。四国の山の中は暑いのだ。
でも、暑いとは分かっているが、それでも6月に開催される貴重なレースだし、コースもとっても面白そうなので、一昨年おんちゃんからお誘いがあったとき、即答で飛びついた。飛びついたのは私だけでなく、私以上に超マイナーな草レースの探求に飽くことのないピッグも飛びついた。彼は過去、赴任先の徳島や青森でも、その鋭い嗅覚で数々の草レースを開拓してきたパイオニアだから血が騒いだようだ。一方、坂が嫌いと言うか苦手な支部長は渋っていたが、強引に引きずり込んだ。
ところが、いざ申し込もうとして困った。いくら探しても申込先が全然分からないのだ。超マイナーな草レースだからネットで申し込めないのは当然だろうけど、津野町のホームページにも情報が無い。いったいどういうことだろうと思っておんちゃんに問い合わせてみると、「葉山ランニングクラブの中山さんか津野町教育委員会に電話してみて」との返事だった。葉山ランニングクラブがどういう団体なのか分からないが、電話しようとしても高知の山奥だから電波が通じない。それで津野町教育委員会に電話したら話が通じて、申込書を送ってもらった。一度参加すると、翌年からは申込書が送られてくるようになった。
ネットでエントリーできないってのは、今どき不便だが、逆に、それだからこそ我々に取っては参加しやすい大会だ。かつて汗見川マラソンもネットではエントリーできなかった。そのため一時は大会の存続すら危ぶんでいたが、ランネットでエントリーできるようになったら、あっというまに人気の大会となってしまい、今年も僅か数分で定員いっぱいになって私以外のメンバーは全員、エントリーに失敗してしまった。ネットでエントリーできるようになっても、定員が多い大会なら問題ないが、定員が少ない大会だと、ネットで申し込めるようになったら、あっという間の瞬間蒸発になってしまうのだ。
定員1300人の汗見川マラソンですらそうなのだから、定員僅か500人の北山林道駆け足大会がネットで申し込めるようになったら、1分くらいで定員いっぱいになるかもしれない。そうなると、なかなか容易にエントリーできなくなってしまう。現状のように、ネットでは情報すらほとんど得ることができないマイナーな状態だからこそ、知ってる人だけが参加できる居心地の良い大会になっているのだ。
なぜいつまで経ってもネットでエントリーできないマイナーな状態が続いているのかと言うと、なんとこの大会は実質的に個人がやっているのだ。名目としては主催者は葉山ランニングクラブとなっているが、どう見ても、この葉山ランニングクラブは会長の中山さんが一人で切り盛りしているような感じだ。津野町の教育委員会にも手伝ってもらってはいるものの、基本的に行政は主体ではない。行政が主体でない民間のマラソン大会なんて存在は極めて珍しい。そして、それが今年で20回も続いているなんて驚きだ。
運営は完全にボランティアだろうと思うけど、小さい村でこんなに大勢のボランティアを動員できるって、すごい。本当に地域に根付いたイベントになっている。また、小学校の体育館を会場に使っているし、行政と一線を画しているとは言え、小さな山村のことなので、住民が一体となって開催しているんだろうなあ。すべては中山さんの力だろうと思うけど、中山さん自身は、ランニングクラブを主催しているような体型でもない。昔はやっていたのかも知れないが。
〜 津野町へ出発 〜
レース当日の朝、早朝に起きると、高松は今にも雨が降りそうな天気だった。四国地方は既に梅雨入りしてて、天気予報ではレース当日は「雨模様」だと言っていた。2週間前のオリーブマラソンの時も天気予報は「雨模様」って予想していたが、実際には当日は晴天の炎天下のレースとなった。オリーブマラソンに限らず、香川県の方言では「雨模様」ってのは「雨が降りそうに見えるかもしれないけど、結局は全然降らないよ」って言う意味だ。が、土佐弁で「雨模様」ってのは「いきなり土砂降りになるから流されないように気をつけてね」と言う意味になる。雨が降るかどうかではなく、雨の程度の問題だ。つまり、高知の天気予報で「雨模様」になってると、雨が降るのは間違いない。去年もそうだったし、一昨年もそうだった。この時期は四国は毎年、梅雨入りしている。それでも日本一雨が少ない香川県地方ならカラ梅雨ってこともあるが、日本一雨が多い高知県では絶対に毎日雨が降り続いている時期なので、この時期に高知で開催されるマラソン大会は絶対に雨の中のレースになる。雨が前提だ。
だが、しかし、今の我々は雨を恐れていた昔の我々ではない。昔の我々なら、雨のマラソン大会なんて走る気が起きなかった。朝から雨が降っていると、空を見上げながら連絡を取り合って、結局、みんな揃って欠場って事も多かった。 しかし、8年前のオリーブマラソンで考えが変わった。その日は朝からものすごい土砂降りの雨だったので、みんなで欠場の相談をしていたら、我がペンギンズのエース城武選手から「雨がどうしたんですかっ!何を考えてるんですかっ!」と一喝され、渋々参加した。ところが、土砂降りの雨は、走りにくいどころか、気温が低くなって走りやすくて、後半の大きな坂も全然、苦にならず、最後までペースダウンすることなく、というか、坂が多い後半の方がペースアップしてタイムが良くなるという考えられないレース展開でゴールし、2時間を大幅に切る大会自己ベストとなった。私だけでなく、最後までデッドヒートを演じたピッグも快走だったし、支部長も例年なら絶対に歩く最後の大きな坂も歩かずに2時間を切る大会自己ベストを出した。もちろん、エース城武選手が優勝したのは言うまでもない。それ以来、暑い季節には、むしろ雨を好むようになったのだ。
今回も、もし天気が良ければ、炎天下での山登りレースになるので、討ち死には間違いない。なので、雨は大歓迎だ。空は今にも雨が降りそうな天気だったが、みんな平気というか、暑くなりそうにないので、喜ばしい限りだ。
今日は支部長が車を出してくれて、私んちが最後で、6時に高松を出発した。葉山村は高知の山の中とは言え、須崎市までは高速で行けるので、2時間ちょっとで着くから、6時に出れば8時過ぎには着いてしまう。スタートは10時だから随分、早い到着になる。でも、遅く行くと駐車場が辺鄙な場所になるし、途中で何かトラブルでもあると遅刻するので、少し早いが6時に出る。以前なら、少しでも遅くギリギリに家を出ていたが、最近は高齢化してきたため、多少の早起きは苦痛ではない。それに、早いと言ったって、5時20分には港に並んで奴隷船に乗り込まなければならないオリーブマラソンより、よっぽど便利だ。
(幹事長)「今年はソックス忘れてない?」
(支部長)「うん、持ってる」
(幹事長)「軍手は?」
(支部長)「軍手も持ってる」
支部長は一昨年はソックスを忘れ、去年は軍手を忘れて慌てたが、今年は準備は滞りないようだ。
交通量の少ない早朝の高速道路を順調に走りながら「この調子だと8時過ぎには到着するな」なんて言ってたら、おや?掲示板に「交通事故のため大豊〜南国で通行止め」なんて書かれている。んなアホな!こんな時に限って!誰や、こんな早朝から交通事故するんは!
でも、怒っても仕方ない。幸い、大豊〜南国なら被害は少ない。もっと手前で通行止めになっていたら、山の中のクネクネ道を走るしかないが、大豊〜南国なら、一般国道もそれほど悪い道ではない。また、南国から向こうが通行止めなら街中で時間がかかるが、南国から再び高速道路に乗れるのなら、被害は少ない。ここは冷静に落ち着いて行動しよう。それにしても、ちょっと早いかと思ったけど、早めに出発して良かった。
途中、おんちゃんから「もう到着して待ってるよ」とのメッセージが届いたが、「こっちは高速道路の通行止めで少し遅れます」と返事した。
大豊で高速道路を下りたが、思ったとおり一般国道は交通量は少ないし、順調に走れて、南国で再び高速道路に乗った時点で、せいぜい30分程度の遅れだった。
その後は順調に高速道路を走っていたが、運転している支部長と助手席に座った私がペチャクチャおしゃべりばっかりしてて、ついうっかり須崎西インターで下りるのをしくじり、次の中土佐インターまで行って引き返したりしたもんだから、さらに遅れてしまい、結局、現地に着いたのは9時近くになっていた。
〜 会場へ到着 〜
遅く到着したもんだから、恐れていたとおり、遠く離れた場所に駐車させられ、会場の葉山小学校の体育館に到着したのは受付終了ギリギリの9時直前だった。
(支部長)「どうせ受付はいつまでもやってくれるけどな」
(幹事長)「そうそう」
丸亀マラソンのような厳格な大会でない限り、普通の市民マラソン大会では多少の遅れは許される。ましてや、こういうマイナーな大会は、10時のスタート直前までなんとかしてくれるはずなので、焦る必要は無い。
受付ではゼッケンやパンフレットと一緒に、去年から採用されているタイム計測チップも配られた。一昨年は計測チップなんかは無くて、ゴール地点で係の人が横目で時計を睨みながらタイムを計測してくれていたが、去年からチップ計測になったのだ。だが、この超マイナーな草レースでチップでタイムを計測する必要性は無いように思える。距離は12.8kmという他に例を見ない中途半端な距離だし、コースは斜度が19度もある過激な山道だし、こんなレースのタイムなんて何の参考にもならないので、タイムなんて適当で構わない。各自が自分の時計で計測する自己申告制度でもいいくらいだ。
しかも、計測チップと一緒に、以前と同じように無記名の完走証も最初からから配られた。自分で適当に名前なんかを書き込む完走証だ。タイムはチップで正確に計測しながら、完走証は自分で適当に書くってのは、どういうシステムなんだろう。
到着が遅れてしまったため、ちょうど開会式が終わったところだった。ステージには今年も抽選会の景品が山のように積まれている。なんとなくレースそのものよりも抽選会の方が楽しみになってくる大会だ。
館内は既に満員状態だったが、おんちゃんが去年と同じように場所取りをしてくれていたので、我々も集まって座ることができた。毎年々々、本当にお世話になります。この大会に限らず、高知でのレースは、たいていの場合、おんちゃんに何から何までお世話になっている。本当に感謝感謝です。
(おんちゃん)「小雨が降って絶好のマラソン日和になったね」
普通なら、雨が降って絶好のマラソン日和ってことはないんだけど、この時期の激坂マラソンなので、晴天よりも雨が降った方がはるかに走りやすい。曇りだと日射しで照りつけられることはないが、湿度が高いとモワッと息苦しくて走りにくくなる。小雨で少し冷たいのがベストだ。外を見ると、微かに小雨が降っている程度なので、走りにくいことは全然ない。ちょうど良いくらいの雨だ。
(ピッグ)「調子はどうですか?」
(おんちゃん)「最近、忙しくて毎晩遅くまで仕事してて、全然、練習できてないんよ」
などと言いながら少し出てきたお腹を見せる。でも実力者のおんちゃんの事だから、多少の練習不足でも問題は無いだろう。
落ち着いたところで、ようやく朝食を食べる。本当は家を出る前に朝食を食べてトイレも済ませたいところだが、いくら早起きが苦痛でなくなったとは言え、普段より早い時間に朝食を食べるとお腹を壊す可能性が高いので、家では食べなかった。車の中で食べる事が多いんだけど、今日は車の中でも、まだお腹が空いてこなかったので、先延ばしにしていた。おにぎりは3個持ってきたが、あんまり食べ過ぎてお腹を壊すといけないので、2個で止めておく。以前はレース中にお腹を壊すことが多かったので、用心して朝食と一緒に下痢止めの薬も飲んでいたが、3年前の徳島マラソンから朝食を菓子パンからおにぎりに変えたため、その後は一度もお腹を壊さなくなった。パンに含まれるフルクタンという糖類は消化に悪く下痢になりやすいが、お米に含まれている糖類は消化が良いので、おにぎりを食べれば、もう下痢を心配する必要は無い。
食事が済んだら、着るものを決めなければならない。
(ピッグ)「例によって着るものには超心配性な幹事長ですけど、今日も悩みまくるんですか?」
(幹事長)「いえいえ、今日は悩む余地は無いですな」
この時期、炎天下のレースだったら、メッシュのシャツにしようか悩むところだが、小雨が降っているので、悩む余地無く普通のTシャツを選択する。どのTシャツにしようか少し悩んだが、せっかくなので1ヵ月前に初参加した奥四万十トレイルレースのTシャツを着た。普通の人が参加しないような厳しいレースでもらったTシャツは勲章になる。
(ピッグ)「これ見よがしに着てますね」
(幹事長)「ピッグだって、海部川マラソンで、これ見よがしに四万十ウルトラマラソンのTシャツ着てたやんか」
支部長はオリーブマラソンの時と同じように今年の丸亀マラソンのTシャツを着ている。
(幹事長)「それ、気に入ってるんやな。確かにきれいやけど」
(支部長)「いや、単に、何を着ようか考えるんが面倒くさいだけや」
おんちゃんと一緒に記念撮影
(左から支部長、ピッグ、幹事長、おんちゃん)
雨は降っているものの、冬の雨と違って寒くはないのでランニングタイツは履かない。雨が強ければ雨よけでランニングキャップもかぶるが、そんなに大した雨ではないから、嫌いなキャップもかぶらない。ランニングパンツのポケットにはハンドタオルとティッシュを入れる。朝食を変えてからお腹を壊すような事もなくなったので、もうティッシュは不要かもしれないが、何があるか分からないから私にとっては必携だ。
トイレはどうしようかなあと迷いつつ、ちょっと覗いてみたら、そんなに混雑はしてなかった。マイナーな大会は、こういう所が便利だ。でも、今日は前回のオリーブマラソンの時と同じように、もう大は我慢する態勢になったので、あまり悩まずにパスする。
最後にバナナを食べて準備万端だ。「スタート地点に移動してください」なんて館内放送されたので、外に出る。雨は小雨なので外に出るのに抵抗は無い。もう少し降っていれば、最初だけでも雨ガッパ代わりのビニール袋を被ろうかと思ったが、それも不要な小雨だ。
〜 スタート前 〜
スタート地点は三嶋様という三嶋神社の前で、会場の葉山小学校から数百m西にある。ゴール地点は会場の小学校の横なので、スタート地点からゴール地点までの数百mはコースがダブっている。
(幹事長)「なんでこんな事になってるんやろ?」
(支部長)「分からんなあ」
もう少しスタート地点とゴール地点を離せば13kmちょうどになるし、逆にダブり区間を無くせば12kmちょうどくらいになると思うんだけど、わざわざダブり区間を作って12.8kmなんていう中途半端な距離にしているのが意味不明だ。しかも以前は、スタート地点がさらに50mほど西にあったから、距離が12.85kmだったらしい。それが12.8kmになって少しだけスッキリしたが、それでもまだまだ中途半端な距離だ。
(支部長)「ま、所詮、12kmちょうどや13kmちょうどにしたところで、中途半端な距離やけどな」
(幹事長)「そらそうや」
それほど中途半端な距離なのに、正確にチップでタイムを計測するってのも不思議だ。
相変わらず小雨は降っているが、スタート地点は混雑しているので、熱気が溢れている。参加者が500人足らずの小さな大会なんだけど、スタート地点の道がとても狭いため、結構、混雑しているのだ。
参加者500人のマイナーな大会なので、普通ならスタート地点での位置取りなんか気にする必要は無い。しかし、この大会は特有の事情がある。この大会は行政が関わっていない草レースなので、交通規制は一切ない。スタートやゴールは葉山小学校前の狭い道なので車もほとんど通らないけど、しばらく行って国道197号線に出ると、車道は走れず、歩道を走らなければならない。国道自体がそんなに広い道じゃないから、歩道も狭くて、走りにくい。なので、基本的に歩道を走る区間は追い越しはできない。完全に禁止ではないんだけど、歩道から転げ落ちるリスクもあるので、みんな自重して行儀良く走る。そのため、スタートしてから国道に出るまでの1kmちょっとの間に、自分が走る適切なポジションを確保しておかなければならない。自分の本来のペースより後ろの方になると、もっと前へ出たいのに出られないフラストレーションが溜まる。逆に前の方に行き過ぎると後ろからランナーがぶつかってくる。なので適切なポジション取りが必要になってくる。そのためには、スタートの時点である程度の位置取りを考えておかなければならない。とは言っても、他のランナーの実力も分からないので、適当に真ん中辺りに位置取りする。
周囲を見回すと、今年も結構、女性が多い。定員は500人で、パンフレットには489名の名前が載っているが、そのうち女性が123人で、男性が366人だ。こんな厳しいコースの大会に女性が1/4もいるってのに感心する。女性は持久力があるからマラソンには向いていて、フラットなコースの大会だと、終盤で力尽きて足を引きずってノロノロと走っていると、一定のペースを確実にキープしたおばちゃんやおばあちゃん達に次々と追い越されてガックリするが、今日のような厳しいコースにも女性が大勢出るって、本当にすごい。
だんだんスタート時間が近づいてきたので、本日の目標を定めなければならない。もちろん、どんな時でも、どんなレースでも、大会自己ベストの更新を狙うのが良い子のあるべき姿だ。マラソンはコースや季節によってタイムが大きく変わってくるため、違うレースのタイムを比較するのは不適当なので、どんなレースに出ても、とりあえず大会自己ベストを狙うのが良い子の正しい道だ。特に、このレースは距離も中途半端だし、坂も異常に厳しいから、他のレースとは比較のしようがない。なので、目安はあくまでも過去のタイムだ。
とは言え、去年のタイムは参考にならない。そもそもの発端は一昨年12月の交通事故だ。12月4日開催の那覇マラソンに初めて参加することになり、嬉しくてワクワクしていたのに、その直前に交通事故で肋骨を3本も骨折してしまい、那覇マラソンをフイにしてしまったのだ。それで12月いっぱいは安静を余儀なくされ、1月からようやく軽くジョギングし始めたものの、1月初めの満濃公園リレーマラソンは想像を絶する遅さで惨敗した。それでも、2月初めの丸亀マラソンはタイムは遅かったものの最後までペースダウンすることなく余裕を持って完走できたし、さらに2週間後の京都マラソンも、途中で亀ちゃんに久しぶりに再会し、ずうっと一緒におしゃべりしながら走ってもらったおかげで、最後まで歩くことなく完走できた。て事で完全に復活したつもりだったのだが、今度はゴールデンウィークに剣山〜三嶺をテント担いで縦走登山したとき、急斜面を滑落して右膝の靱帯を損傷してしまい、しばらく走ることができなくなってしまった。1ヵ月後のオリーブマラソンにはギリギリ出場できたが、全く走れてなかったので空前絶後の大惨敗となった。
そして、その2週間後の北山林道駆け足大会も、似たような状況で出場したため、一昨年に比べてアホみたいに遅かった。走る力が極端に落ちていたため前半の上り坂でも苦労したが、トンでもない急勾配を転げ落ちるように駆け下りる後半の激坂は、膝が悪化しそうで本当に怖くて、あんまりスピードを上げられなかった。
なので、目安になるのは一昨年のタイムだ。一昨年は初出場だったので全く見当がつかず、取りあえず1時間15分を目標に走ったら、楽勝で1時間13分だった。
(ピッグ)「楽勝ってのは言い過ぎですね」
(幹事長)「すんませーん!」
なので、今年の目標タイムは1時間13分だ。去年に比べたら、今年は怪我も無いし、比較的、練習はできているので不安は無い。
(ピッグ)「え?珍しく練習できてるんですか?」
(幹事長)「1週間前にも丸亀市民球場のサマーナイトランに行ったよ」
丸亀市民球場は3年前にオープンした新しい野球場で、しょっちゅう一般開放されている。そして今年の5月、6月、8月は毎週月曜日の夜にサマーナイトランと称して無料開放されている。隣の丸亀競技場なら正式なトラックがあるから分かるが、野球場で走るってどういう事だろうと思ったが、行ってみると、フェンス際だけ土でもなく天然芝でもない人工芝みたいになっていて、そこをグルッと走るのだ。普通の人工芝よりはペタンコなんだけど、アスファルト舗装みたいに固くなくて、とっても走りやすいと言うか走っていて楽しい感触だ。場内には音楽も流れていて、なかなか良い雰囲気で夜の野球場を走れる。はっきりは分からないが1周400m程度らしいので、1周走るごとにタイムをチェックしながら走ると、ペースを維持しながらとてもいいトレーニングになる。オリーブマラソンの1週間前に、オリーブマラソンに今年デビューした新人女子2人と一緒に合同練習として走ったんだけど、なかなか良いトレーニングになるので、今回も1週間前に走ってきたのだ。
(ピッグ)「でも、その割にはオリーブマラソンのタイムはパッとしなかったですよね?」
(幹事長)「あれ?ほんまや!1週間前にハードな練習をするのは疲れが残って逆効果なのかっ!?」
〜 スタート 〜
スタート1分前のアナウンスはあったが、去年はカウントダウンが無かったような気がしていたので、待ち構えていると、やはりいきなりスタートのピストルが鳴った。参加者が500人と少ないので、それほどタイムロスすることなく、割りとすぐにスタート地点まで達し、そんなに混雑することもなく走り始めることができた。普通のマラソン大会なら、スタート地点を越えても、しばらくは混雑でまともに走れないが、人数が少ないうえに、こんな厳しいレースに出ようっていうランナーはレベルが高いと言うか、あんまり遅い素人ランナーは少ないため、スタートしてすぐに結構、速いペースとなる。
しかし、ここでのんびり走ってはいけない。上に書いたように、国道に出たら狭い歩道の上を行儀良く走ることになって追い越しはできないので、それまでの1kmちょっとの間に、自分が走る適切なポジションを確保しておかなければならない。とは言っても、どれくらいが適切なのかは分からないので、とりあえず頑張って速めなペースで走る。どうせ歩道を走るようになるとペースは落ちるからだ。すぐ隣をピッグが走っているので、離されないように走る。ピッグは永遠のライバルで、過去、様々なレースで勝ったり負けたりで、総合すると五分五分ってところだ。一昨年のこの大会では私が逃げ切ったが、去年は私がボロボロだったので負けてしまった。何となく、最近は負ける事が多いような気もするが、私の老化の進展が原因だろう。でも、取りあえずはピッグに離されるのは避けたい。
レース序盤に無理すると、終盤になって一気にツケが回ってきて失速するのがマラソン大会の常なんだけど、このレースは事情が異なる。序盤の3kmほどのフラットな区間が終わると、その後は急な上り坂になり、そこまでを無理して飛ばそうが自重しようが、どっちみちペースは落ちるので、最初のフラットな区間は飛ばせるだけ飛ばしていい。それに終盤は急勾配の下り坂が続くので、終盤になって失速するってことはないだろう。
しばらく走ると1km地点の表示がある。時計を見ると5分ちょっとだ。スタート直後の混雑は少なかったとは言え、多少はタイムロスがあったことを考えると、良いペースだ。
そこから300mほど走ると国道に出る。歩道はとても狭く、無理したら追い抜けないこともないが、追い抜くには車道側を走らなければならないので、歩道から落ちてしまうリスクがある。どこかに遅いランナーがいたら、そこで詰まってしまうので、全体的にペースは落ちてしまうが、今年はそうでもない。むしろ、もう少しペースが落ちてくれた方が休めるのに、なんて思うくらいのペースだ。全然、休めないぞ。
狭い歩道を走っていると2km地点の表示がある。この1kmも5分ちょっとだ。歩道は狭くて走りにくいけど、ペースは悪くない。この調子で走れれば文句は無い。ピッグは数人前を走っている。
すると、すぐ後ろからおんちゃんが話しかけてくる。おや?おんちゃん、こんな所にいたのか。いつもならずっと前を走ってるはずだけど、今日は抑えめのペースだ。
(おんちゃん)「ピッグさんとの差がジワジワと広がってますね」
(幹事長)「この少しの差が縮まらないんですよ」
無理したら着いていけないこともないが、結構しんどいので無理してピッグに着いて行くのは諦めた。
そこから500mほど走ると国道から離れ、いよいよ山の方に向いて上がっていく。狭い道だが、国道と違って車道と歩道の区別が無いので、ランナーとしては走りやすい。車が来れば避けなければならないが、交通量は少ない。て言うか、去年も一昨年も、この林道の区間は最後まで車は1台も来なかった。山道に入ったとは言え最初のうちは傾斜はとても緩やかで、3km地点で見たタイムは相変わらず1km5分ちょっとくらいだった。去年は、この時点で早くも遅れ始めたから、今年はまだ良い感じだ。
ただ、3km地点を過ぎると、少しずつ傾斜が強まってくる。まだまだ大したことはないが、確実にペースは落ちてくる。でも、ちょっと落ちすぎ。おんちゃんはずっと一緒に走ってくれてるんだけど、ピッグの背中はどんどん遠ざかっていく。
雨は相変わらず小雨で、鬱陶しくはない代わりに、少し暑くなってきてしまった。半袖のTシャツが邪魔くさく感じられる。これならメッシュのシャツにした方が良かった。
なんて思っていると、おんちゃんが「右側走っててね」なんて言いながら前に飛び出していく。一体どういう意味か分からないが、言われた通り道の右端を走っていくと、給水所が見えた。このレースは距離は短いけど、給水所は3箇所も設置されている。その最初の給水所だ。小雨は降っていても喉は渇くので、最初の給水所からちゃんと水分を補給していかなければならない。でも給水所は道の左側に設置されている。おんちゃんに言われたように右端を走っていると水を取れない。どうしたいいの?って思っていると、なんと、おんちゃんが自分の分と私の分と水を2つ取って、走りながら私に渡してくれた。
(幹事長)「うわあ、ありがとうございますっ!」
ヨタヨタ走っている私を見かねて、おんちゃんは私の代わりに水を取ってくれたのだ。なんと献身的なフォローなんだ!給水所前でのダッシュを見ると、おんちゃんは力が有り余っている感じで、そのまま走ればあっという間に見えなくなってしまいそうだが、その後も私と併走してくれる。これは精神的に非常にありがたかった。一人だと、どうしてもペースが落ちていくところだが、一緒に走ってくれているおかげでなんとか踏ん張れている感じだ。
それでも次の4km地点で見たタイムは、一気に1km6分を越えていた。
(幹事長)「うわ、こんなに落ちてる!」
(おんちゃん)「こんなもんですよ」
こんなもんだったっけ?なんか思ったよりペースダウンしているような気がする。
(おんちゃん)「ピッグさんはいなくなったけど、支部長は後ろの方かなあ?」
(幹事長)「支部長は練習不足で、不調のどん底なんですよ」
去年は、なんと、この辺りで支部長に追い抜かれたのだ。何が衝撃かと言って、支部長に上り坂で追い抜かれるほど衝撃的な事は無い。支部長とも永遠のライバルだが、負けることは少ない。なので、支部長には負けること自体が衝撃だ。しかも、負けたレースでは、追い抜かれた場所はフラットな区間だ。支部長は上り坂には極端に弱く、逆に下り坂区間は異常なまでに速い。なのでフラットな区間で追い抜かれるのは、まだ許せる。いや、許せはしないが、仕方ない。しかし、いくらこっちが怪我で練習できてなかったとは言え、上り坂で支部長に負けるなんて絶望的状況だ。
しかし、今年は私もそんなに絶不調ではないし、逆に支部長は練習不足で、2週間前のオリーブマラソンも大惨敗したので、普通に考えたら追いつかれる事はないだろう。でも、去年、上り坂で追い抜かれたのがあまりにも衝撃だったので、今年も恐怖心は払拭されていない。
4km地点を過ぎたら、本格的な急勾配の上り坂になる。この辺りから傾斜は10%を超えたようだ。さすがに厳しくて超スローペースになる。でも、歩きたいなんていう気持ちは沸いてこない。闘志は衰えていないし、おんちゃんも併走してくれているので、緊張感は持続している。
この辺りで、例年通り、道ばたでメガホンを持ったおじさんが「あんた○○番」って叫んでくれている。僕は161番って言われた。ううむ。やっぱりイマイチだ。一昨年はもっと速かったと思う。
林道はますます山深くなり、道の上を木々が覆い被さり、薄暗くなってくる。
しばらく登ると5km地点の表示があり、この1kmは一気に8分近くかかっていた。ものすごいペースの落ちようだ。こんな急な上りなら当たり前だけど。
(幹事長)「それでもペースダウンし過ぎやなあ」
(おんちゃん)「いやいや、こんなものやって」
一緒に走ってくれているおんちゃんに気の毒なペースダウンぶりだ。
その後、フラットな区間が現れ、「おや?もしかして、早くも上り坂はおしまいやったっけ?」なんてぬか喜びしたら、その直後には傾斜20%を超える激坂がしばらく続いた。そうなのだ。このコースは、もう上り坂は終わりと見せかけて、何度も裏切られ続けるのだ。
激坂が続く中、6km地点の表示があり、なんとこの1kmは9分近くかかっていた。去年よりはマシだが、いくらなんでも一昨年は一番遅かった区間でも1km8分くらいだったから、今年はやはりだいぶ遅い。こんなにペースが落ちてしまうと、目標にした一昨年のタイムは厳しいかもしれない。
6km地点からしばらく進むと、ようやく激坂区間が終わり、尾根道になる。もちろん、尾根道になってもフラットになる訳ではなく、しばらくすると再び上り坂になる。ただ、斜度はもう大したことはない。たまに急傾斜の坂もあるけど、すぐに終わり、基本的には緩やかな坂が続く。先ほどの激坂を走った後なので、緩やかな坂だと、まるでフラットに感じられてしまう。とにかく、激坂区間が終わったと思うと、ホッと一安心だ。
しばらく走ると、またおんちゃんがスッと飛び出してスイスイ走っていく。もしかしたら、と思ったら、やはり2つ目の給水所があり、また私の分も取ってくれた。ありがたい。と言うか、おんちゃんすごいなあ。
この辺りにくると、暑さが無くなり、なんとなく涼しくなってきた。とても走りやすい空気だ。
7km地点で時計を見ると、この1kmは7分を少し切っていて、ちょっとマシになった。とは言え、1時間13分を切るにはもっとペースアップしないといけない。まだ上り坂は続いているが、だいぶフラットになっているので、もっと上げなければならない。でも、頑張って走っているつもりでも、なかなかスピードは上がらない。これが今日の限界だろうか。
なんとか頑張ったつもりだが、8km地点でのラップも6分半くらいだった。なかなか厳しい戦いだ。
8km地点を過ぎてしばらく進むと、ようやく下り坂が出現する。
(おんちゃん)「ここからは下り坂やから、1時間15分は切れるよ」
なんて言ってくれるが、1時間15分を切るには、残り5kmを1km5分を切るスピードで走らなければならない。激坂下り区間なら可能だが、そんなに急な下りでもない区間で可能だろうか。
いずれにしても、遂に上り坂は終わり、後は下るだけだ。ピークの標高は335mで、下の国道からの標高差は300mほどだ。
ホッとして一気に全開で大股でガンガン駆け下りる。とは言え、最初は思ったほど急な傾斜ではない。走るには滑る心配が無くてちょうど良いんだけど、本格的な下り区間に入った訳ではない。
大股で気持ち良く駆け下りていくと、9km地点が現れる。この区間は1km5分半ほどだった。思ったよりペースアップしていない。もうちょっと上げないと1時間15分は切れない。そう思ったとたんに、なんと再び上り坂が出現する。まだ上り坂は終わってなかったのか?今年でもう3回目だと言うのに、まだコースの全貌は把握しきれていなかった。
しかし、上り坂はすぐ終わり、その後には遂に本格的な急勾配の下り坂区間が始まった。ものすごく、きつい!きつ過ぎる!傾斜20%を超える下り坂が続く。
もともと交通量の少ない林道なので、路面は苔むしていて、今日のような雨模様だと濡れた苔が滑りやすいので危険だ。もちろん、落ち葉にも気を付けなければならない。できるだけ落ち葉や苔を避けて、水たまりも避けて、駆け下りていく。ただ、去年も一昨年も同じような路面だったが、滑りかけたことも無いし、他のランナーが滑ったのも見たこと無い。落ち葉を踏んだりしなければ滑る事はないのかも知れない。ここまでのレース展開が少し情けないので、できるだけ大股でガンガン走って降りる。
とは言え、あまりに急な下り坂でブレーキを掛けすぎたせいか、次の10km地点でのラップはさっきと同じ1km5分半くらいだった。これじゃあ全然たりない。
10km地点を越えると傾斜が少し和らぎ、まだまだ急勾配とはいえ、なんとかスリップを心配せずにブレーキをかけずに思いっきり駆け下りられる程度になる。これくらいが一番速く走れる。こんな走りを長く続けていたら足を痛めそうだが、どうせあと3kmくらいだ。
この辺りは急勾配のつづら折りの道になっているので、下の方に前方のランナーが見える。そしたら、なんとピッグが少し前を走っているのが見えた。
(おんちゃん)「あれ?ピッグさん、あんな所を走ってますね。これだと追いつけますよ」
もっと前を走っているものとばかり思っていたが、ピッグはペースダウンしてきたのだろうか。それなら追いつけるかもしれない。
思い切って飛ばし続けると、11km地点が現れ、この1kmは一気に4分少々にまでペースアップできた。良い感じだ。このペースを維持できれば1時間15分は切れる。
その後、下り坂の傾斜は徐々に緩やかになっていくが、坂が終わるわけではない。傾斜が緩やかになるにつれペースも落ちていくが、下っている限り、足の疲れは感じない。もう残りは2kmも無いので、後悔しないように全力で駆け下りてるつもりだが、12km地点でのラップは1km5分を少しオーバーしていた。この時点で1時間15分は絶望となった。しかも、ピッグの背中は見えるんだけど、一向に近づいてはこない。ピッグも最後のスパートをかけているんだろうか。
〜 ゴール 〜
最後はフラットな区間になるが、それまでの下りの勢いがあるので、そんなにペースダウンはしない。あんまりペースアップはできていないとは言え、1km5分てのは普通のマラソン大会ならスタート直後の序盤のペースなので、それを終盤で出せるってのは気持ちいい。
最後にスタート地点の三嶋神社の前を通りかかった時、おんちゃんが言う。
(おんちゃん)「ここからピッグさんに追いつけるかな?」
(幹事長)「私は無理ですから、頑張ってください!」
って言うと、スルスルっとおんちゃんが抜けだし、猛スピードでピッグを追う。ただ、もう残り数百mしか残ってなかったので、さすがにおんちゃんもピッグに追いつくことはできなかった。それに続いて私もゴールした。
結局、一昨年のタイムどころか、1時間15分も切れなかったし、順位も男女トータルでも上位1/3に入れなかった。去年と違って今年は不安材料も無かったし、ずっとおんちゃんがサポートしてくれたから心も切れなかったのに、なぜだろう。なんとなく2週間前のオリーブマラソンと同じだ。特に悪いところも無いのに、なぜかタイムがパッとしない。
ま、しかし、それでも、今年も楽しかったのは確かだ。上り坂はあまりに激しくて辛いと言うより面白いし、所詮、上り坂区間も数kmしかなくて、それが分かっているからペース配分なんか考える必要が無くて走れたし、終盤は下り坂が続いて思いっきり駆け下りるのも楽しかったし、そのままの勢いでゴールに駆け込めるのも楽しい。
最後まで追いつけなかったピッグは、3年連続で似たようなタイムだった。
一方、支部長が帰ってこない。2週間前のオリーブマラソンも大惨敗してなかなか帰ってこなかったけど、今日も同じパターンだ。気長に待っていると、10分くらいして帰ってきた。ところが、なんと、ちょうど支部長がゴールする時に、反対側から一般車両が走ってきて、ゴールゲートを反対側に通過していった。いくら交通規制をしていないと言っても、ランナーが続々とゴールしている最中に、ゴールゲートを逆送していく車がいるなんて、前代未聞だなあ。その頃にゴールしてくるランナーは、みんなボロボロ状態なので、多少ゴールが遅れても文句はないだろうけど。
(幹事長)「やっぱり歩いた?」
(支部長)「上り坂はもちろん、終盤の下り坂でも歩いたで」
(幹事長)「え?下りで歩いたん?」
下りに強い支部長は、例によって後半の下りでバカみたいに飛ばしまくり、いっぱい追い抜いたんだけど、それで足が限界に達してしまい、終盤の緩やかな坂では遂に歩いてしまったらしい。
〜 抽選会 〜
このレースの大きな楽しみはお楽しみ抽選会だが、レースの制限時間が2時間15分もあるから、お楽しみ抽選会までは、まだ1時間以上もある。てことで、去年と同じように、近くにある葉山の郷という温泉に入りに行く。レースの日は特別にタダで入れるのだ。歩いて行くには少し遠いけど、マイクロバスで送り迎えしてくれる。なんて親切なシステムなんだ。
ただ、温泉と言う割には、お風呂はとても狭い。去年、初めて行くまではスーパー銭湯みたいなのをイメージしていたんだけど、宿泊施設に付属した小さなお風呂で、洗い場は4人分しかない。湯船も狭い。なので、タイミングによっては、とても混雑する可能性があるので、取りあえず急いで出掛ける。
温泉に入ると、やはり混雑していて、洗うのに数人が並んで待っていた。でも取りあえず湯船に入って体をほぐしていたら、そのうち少し空いてきて、無事に体も洗えた。マラソン大会の後の温泉は、本当に気持ちいい。特に今日みたいに雨で濡れた体を洗い流すのは気持ちいい。
さっぱりして会場に戻り、ゆっくり食事をとる。食事は今年もソーメンとばら寿司が配給される。マラソン大会の後の疲れた体には、一般的なお弁当はおかずがフライものや焼き魚なんかが多く、なかなか喉を通りにくいから、うどんとかソーメンに限る。
そのうち表彰式が始まったが、食事中だったので、ほとんど聞いてなかった。と思ったら、終始、私をサポートしてくれたおんちゃんが飛び賞の150位に当たり、賞品をもらっていた。良かった良かった。
その後は、第20回記念大会としての記念行事が始まった。何があるのかと思ったら、地元に伝わるお神楽が始まった。お神楽にはあまり興味は無いので、後ろを向いて昼食を食べていたが、妙に軽快なリズムだ。イメージしていた普通のお神楽のリズムじゃなくて、なんとなくラテンのビートに乗った軽快なリズムだ。それでステージを見ていたら、踊りの方もなかなか軽快で面白い。実に楽しい。もっと見ていたかったくらいだ。
その後、1時前になって、お楽しみ抽選会が始まる。このお楽しみ抽選会は、主催者の葉山ランニングクラブの中山さんが村内きっての有力者であり、町内のあらゆる商店から寄付をかき集めてくるため、景品がめちゃめちゃ多くて多彩だ。今年もトレーニングウェアやランニングシューズから始まり、扇風機やテーブルなど、普通の抽選会では出てこないような景品が色々と出てくる。シューズなんかサイズが違うと履けないから、当選した人のサイズを聞いて、後から送ってくれるのだそうだ。そして景品の数が多いから、当然ながら当選確率が異常に高い。おんちゃんのグループは、3年前は6人中5人が当選したというし、我々も一昨年は5人中4人が当選したし、去年も3人中2人が当選した。ここまで続くと偶然ではなく、大いに期待できるのだ。
まず最初はランニング用シャツとかから始まり、次々と色んな景品が出てくるが、当然ながら1つ1つ抽選のクジを引いて当選者を発表していくので時間がかかる。すると、すぐに支部長が寝始める。一昨年も支部長はすぐに寝てしまったが、結局、一昨年は支部長だけが何も当たらなかったため、最後まで起こさなかった。去年も支部長はすぐに寝てしまったが、支部長のゼッケン番号が呼ばれたもんだから、慌てて叩き起こして賞品を取りに行ってもらった。今年も支部長はすぐに寝てしまったので、ピッグと2人で3人分の番号を聞き漏らさないように必死で発表番号を聞く。普通のクジなら、まず当たらないだろうと思って真剣さが欠けるが、異常なまでの高確率なので、気合いを入れて聞き続ける。
だんだん景品も残り少なくなってくるが、最後まで気は抜けない。て言うか、最後の方が良い景品があるのだ。最後は缶ビール24本入りケースと、発泡スチロールの箱に入った地元の鮎だ。ビールは20箱程度積まれているから、当たってもおかしくない。て言うか、一昨年は小松原選手とヤイさんがビールが当たったくらいだから、今年も当たってもおかしくはない。なーんて期待してたんだけど、結局、当たらなかった。残るは鮎だが、これも当たらなかった。結局、今年は3人とも誰も当たらなかった。おんちゃんのグループは何人か当たっていたのに、うちのグループは誰も当たらなかった。こういう時もあるのかなあ。残念。ま、あくまでマラソン大会であり、抽選会はおまけだ。
〜 次の戦い 〜
去年と同様に、これからも夏場は厳しい山岳レースが続く。7月末には汗見川マラソンがあり、9月始めには四国のてっぺん酸欠マラソンがあり、そして10月始めには龍馬脱藩マラソンがある。今回も含めて全て高知の山の中で行われる山岳マラソンだ。
まずは7月末の汗見川マラソンだが、「エントリー受付が始まったら、速やかにエントリーしないと、あっという間に定員いっぱいになってしまうよ」と、あれだけ口を酸っぱくして周知しているのに、なんと他のメンバーは全員エントリーが遅れてしまい、定員いっぱいになってはじかれてしまった。
(幹事長)「君らは、やる気あるんか?」
(支部長)「そやかて、たった数分でいっぱいになるとは思わなかったで」
一応、悪あがきとして郵便振替による抽選申込にエントリーしたが、競争率が高くて全員討ち死にとなった。なので、今年の汗見川マラソンは私一人だけの参加となった。
(おんちゃん)「いや、実は私もエントリーに失敗してしまって」
(幹事長)「なんとかーっ!」
おんちゃんは汗見川マラソンにはずうっと出場していたんだけど、今年は残念な結果になってしまった。
汗見川マラソンは、早明浦ダムの周辺の山の中で開催されるが、いくら山の中と言っても、実は決して涼しくはない。最初に書いたように、11年前に出たときは、その日の全国一番の高温を記録したような場所だ。いくら標高が高くても、四国の山の中は暑いのだ。しかも、仮に下界よりは多少は気温が低かったとしても、山の上は直射日光がギラギラ照りつけてきて、体感温度はむしろ高い。でも、個人的にはその暑さが好きだ。頑張るぞ!
〜おしまい〜
![]() 戦績のメニューへ |