第19回 北山林道駆け足大会
2017年6月11日(日)、高知県津野町において第19回北山林道駆け足大会が開催された。
昨年、高知のおんちゃんから誘われて初めて参加したレースだ。それまで、こんなレースは聞いたことがなく、存在すら知らなかった。
一般的にマラソン大会は秋から冬、せいぜい初春までに開催される。気温が低い季節の方が走りやすいからだ。5月末のオリーブマラソンは、既に時季外れの大会であり、今年のように天気が良いと炎天下の厳しいレースになる。そのため、6月から9月にかけてはマラソン大会の閑散期になり、出場できるレースが少なくて困ってしまう。
以前は6月の貴重なレースとして徳島航空基地マラソンがあった。6月に開催される貴重なレースという以外に、超マイナーな草レースなので一般には無名なため参加しやすく、しかも飛行場の滑走路を走れるという全国的に見ても極めて貴重なレースだったので、毎年参加していた。ところが自衛隊の広報活動見直しにより、去年は中止になってしまった。
そこへ降ってわいたようにおんちゃんから北山林道駆け足大会のお誘いがあり、飛びついたのだ。
このレースに飛びついたのは、6月に開催される貴重なレースというだけではない。まず名前からして「北山林道駆け足大会」だなんて聞いただけでもそそられる。「林道」で「駆け足大会」とくれば、もう、怪しさ爆発だ。しかも定員500人てことは、完全なる草レースだ。
ワクワクしながら急いでネットで調べてみたが、ネットには情報が少ない。超マイナーな草レースだから仕方ないが、どうやら高知県津野町の旧葉山村で開かれる山岳レースのようだ。コースは「上り勾配10%、下り勾配19%のきついコース」だなんて書いてある。なぜ上り勾配と下り勾配が異なるのか意味不明だが、10%としても上りでは相当に厳しい急坂だ。ますます、そそられる。
矢野プロが参加した事があるとのことだったので聞いてみると、やはり坂は厳しく、その厳しさは汗見川マラソン以上らしい。ただ、ひたすら10.5km上って、同じコースを下って帰ってくる折り返しコースの汗見川マラソンと違い、周回コースなので上り勾配と下り勾配が異なるらしい。そして、勾配は厳しいけど、全体の距離は12.8kmなので、上り区間の距離は汗見川マラソンよりずっと短い。なんだか楽しそうなコースだ。
でも、いくら探しても申込先が全然分からない。超マイナーな草レースだからネットで申し込めないのは当然だろうけど、津野町のホームページにも情報が無い。いったいどういうことだろうと思っておんちゃんに問い合わせてみると、「葉山ランニングクラブの中山さんか津野町教育委員会に電話してみて」との返事だった。葉山ランニングクラブがどういう団体なのか分からないが、電話しようとしても高知の山奥だから電波が通じない。それで津野町教育委員会に電話したら話が通じて、申込書を送ってもらった。
このレースには、私だけでなくピッグも飛びついた。超マイナーな草レースの探求心では、ピッグは私を遙かに上回り、青森でも徳島でも、その鋭い嗅覚で数々の草レースを開拓してきたパイオニアだ。
(ピッグ)「ええですねえ。魅力的ですねえ。定員500人だなんて、文句なしの草レースですねえ。
徳島航空基地マラソン以上に魅力的ですね」
一方、坂が苦手な支部長はイマイチ乗り気でなかったが、我々に押されて、最終的には参加を決めた。支部長は、かつては絶望的なほど坂に弱かったが、レフコ・トライアスロンの成果により実力がアップしており、龍馬脱藩マラソンやオリーブマラソンの大きな坂も歩かずに走るようになど、坂に対する苦手意識は薄れてきているからだ。
小松原選手にも声をかけたら、彼も興味津々で即、出場を決めた。
ただ、ヤイさんもエントリーはしたんだけど、直前に出場したオリーブマラソンで肉離れが悪化してしまい、レースには不参加で、応援にだけ来てくれた。
て事で、去年、実際にレースに出たのは私と支部長、ピッグ、小松原選手だったが、予想通りと言うか、期待以上に楽しいレースだった。
(ヤイ)「本当に嬉しそうな顔でゴールしてましたからねえ」
(幹事長)「いやあ、楽しかった。あんなに楽しいレースは久しぶりやったなあ」
上り坂があまりに激し過ぎるから、辛いと言うよりむしろ面白かったし、所詮、上り坂区間は数kmしかなくて、それが分かっているからペース配分なんか考える必要が無く、とにかくがむしゃらに子供みたいに走ればいいし、終盤は下り坂が続いて思いっきり駆け下りるのも楽しかったし、本当に楽しかった。こんなに面白くて楽しいレースは久しぶりだった。
ピッグも同じようにニコニコしながらゴールしたし、支部長も上り坂の急勾配区間では歩いたものの、下り坂は他のランナーをごぼう抜きして楽しんでいた。
さらに、この大会はレース後の抽選会が楽しい。矢野プロは「結構、抽選に当たりやすく、景品がもらえますね」と言ってたし、おんちゃんも「去年は6人で行って5人が抽選に当たりました」ってことだったが、実際に我々も5人中4人が当たった。しかも、私とピッグはミカンだったが、ヤイさんと小松原選手はビール24本入りケースが当たった。とんでもない高確率だし豪華景品だった。
てな事で、本当に楽しかったレースなので、私と支部長とピッグは今年も迷わず参加した。でもヤイさんは、直前のオリーブマラソンも欠場したように、肉離れの具合が一向に良くならないため、こういう坂の勾配が激しい危険なレースは回避するとのことで、申込みしなかった。
〜 大きな不安 〜
実は私も、今年は万全の状態からはほど遠く、大きな不安を抱えていた。去年の暮れから怪我続きなのだ。そもそもの発端は去年12月の交通事故だ。12月4日開催の那覇マラソンに初めて参加することになり、嬉しくてワクワクしていたのに、その直前に交通事故で肋骨を3本も骨折してしまい、那覇マラソンをフイにしてしまったのだ。それで12月いっぱいは安静を余儀なくされ、1月からようやく軽くジョギングし始めたものの、1月初めの満濃公園リレーマラソンは想像を絶する遅さで惨敗した。それでも、2月初めの丸亀マラソンはタイムは遅かったものの最後までペースダウンすることなく余裕を持って完走できたし、さらに2週間後の京都マラソンも、途中で亀ちゃんに久しぶりに再会し、ずうっと一緒におしゃべりしながら走ってもらったおかげで、最後まで歩くことなく完走できた。て事で完全に復活したつもりだったのに、3月の徳島マラソンでは原因不明の空前絶後の絶不調で途中リタイアし、絶望の底に沈んだ。全く原因が分からなかったから、マラソンそのものに対する不安が出てきて、ちょっと沈んだ気分が続いていた。
(ピッグ)「私には原因が分かってますよ。スノーボードとか登山とか遊んでばっかりで練習してないからですよ」
(幹事長)「3ヶ月間も自宅謹慎していた君に言われたくないな」
ピッグは2人の子供さんがこの春、受験だったから、奥さんから自宅謹慎処分を下され、1月の満濃公園リレーマラソンや2月の丸亀マラソンには出場できなかった。
(幹事長)「子供が受験やったら父親は家に居ない方が良いんじゃない?」
(支部長)「家におったら勉強の邪魔になるやろ?」
(ピッグ)「もういい加減に同じ会話は止めてください!」
自宅謹慎処分が解けてピッグがレースに復帰したのは3月末の徳島マラソンだ。真面目なランナーなら自宅謹慎処分中でも自主トレに励み、復帰戦でいきなり活躍するって事もあり得るが、怠け者のピッグに限って、そんな地味なトレーニングを真面目に積んでいるはずがないのに、復帰戦となった徳島マラソンではいきなり好タイムで私らを蹴散らしてしまった。それに対して私の場合は、スノーボードや登山に行ってたのは確かだが、全くランニングのトレーニングをしてなかった訳でもないのに、原因不明の絶不調が続いていたのだ。
(支部長)「だから、それは不調なんじゃなくて歳のせいやってば」
そういう事もあって、あんまり走ることに気乗りがせず、山にばっかり登っていたら怪我をしてしまった。「登山部の活動」のコーナーに書いたけど、ゴールデンウィークに剣山〜三嶺をテント担いで縦走登山したとき、最後の三嶺からの下山途中で急斜面を滑り落ちて足を捻ってねんざ状態になったのだ。最初は軽く考えていたが、帰ってから数日経っても痛みが引かないので整形外科で診てもらったら、右膝の内側側副靱帯損傷てことで思ったより重症だった。膝の内側の靱帯なので、前後の動きはマシだが、足を内側に動かそうとすると痛みが走る。去年の年末の交通事故で肋骨を骨折したのと同じく、こういう怪我は自然治癒を待つほかはなく、サポーターである程度固定しながら治るのを待つことになった。
その時点で、医者に1ヵ月後に開催されるオリーブマラソンの出場の可否について聞いてみたら、「ちょっと厳しいと言わざるを得ませんねえ」という答えだったが、できれば出場したかった。別にそんなに重要な大会ではないが、大好きなレースだし、2週間後にある北山林道駆け足大会の準備の意味合いもあるから、仮に万全な状態に戻らなくても、タイムは気にせず、膝に負担がかからないようにゆっくり走りたいと思った。そしてレースの3日前に再び整形外科へ行き、再度、医者に聞いてみたら、「注意して走るのなら出てもいいかなあ」なんて予想外の出場OKゴーサインが出た。
ただ、怪我してからそれまで1ヵ月の間、全く走ってなかったから、慌ててその日に3kmほど走ったものの、走りにくいサポーターを着けて走ったからか、腰が痛くなってそれ以上は走れなかった。そんな状態でオリーブマラソンに出たもんだから、21kmを完走できるかどうかすら不安だったが、なんとか完走はできた。ただタイムは異常なほど悪く、炎天下で惨敗を繰り返していた頃と比べても悲惨な大惨敗ぶりだった。もちろん、それは1ヶ月間、ランニングができなかったせいだろう。そして、そのオリーブマラソンから僅か2週間後の今回の北山林道駆け足大会だって状況は似たようなものだ。1ヶ月間、全く走らなかったのに、いきなりオリーブマラソンで21kmを走ったもんだから、後遺症が出て、まだ膝は万全とは言えない。むしろ、ちょっとだけ悪化したような気もする。そのため、この2週間も、練習はほとんど控えていたのだ。
こんな状態で坂が厳しい北山林道駆け足大会のコースをまともに走れるのか、とても不安だった。上りのきつさも不安だが、急勾配の下りを思いっきり駆け下りるのは、膝が悪化しそうで本当に怖い。大丈夫だろうか。
もちろん、だからと言って欠場するなんて選択肢は無い。ここで欠場なんかしたら、ただでさえどんどん劣化している脚力が致命的なまでに弱ってしまう。それに、こんな楽しいマラソン大会を欠場するのはもったいない。
てことで、今年は3人での参加となった。
〜 津野町へ出発 〜
朝、起きると、高松は今にも雨が降りそうな天気だった。これは、去年と全く同じ状況で、四国地方はレースの数日前から梅雨入りし、当日の天気予報も「曇りときどき雨」ってな感じだった。香川県なら「曇りときどき雨」と言うのは「今にも雨が降りそうに見えるけど、結局は全然降らないよ」って言う意味だが、高知で「曇りときどき雨」と言うと「いきなり土砂降りになるから流されないように気をつけてね」と言う意味だ。なので雨が降るのは間違いない。
だが、しかし、今の我々は雨を恐れていた昔の我々ではない。昔の我々なら、雨のマラソン大会なんて走る気が起きなかった。朝から雨が降っていると、空を見上げながら連絡を取り合って、結局、みんな揃って欠場って事も多かった。 しかし、6年前のオリーブマラソンで考えが変わった。その日は朝からものすごい土砂降りの雨だったので、みんなで欠場の相談をしていたら、我がペンギンズのエース城武選手から「雨がどうしたんですかっ!何を考えてるんですかっ!」と一喝され、渋々参加した。ところが、土砂降りの雨は、走りにくいどころか、気温が低くなって走りやすくて、後半の大きな坂も全然、苦にならず、最後までペースダウンすることなく、というか、坂が多い後半の方がペースアップしてタイムが良くなるという考えられないレース展開でゴールし、2時間を大幅に切る大会自己ベストとなった。私だけでなく、最後までデッドヒートを演じたピッグも快走だったし、支部長も例年なら絶対に歩く最後の大きな坂も歩かずに2時間を切る大会自己ベストを出した。もちろん、エース城武選手が優勝したのは言うまでもない。それ以来、暑い季節には、むしろ雨を好むようになったのだ。
今回も、前日や前々日は天気が良くて全国的に夏日となり、こんな炎天下で走ったら倒れるの間違いなしって状態だったから、雨は大歓迎だ。
今日はピッグが車を出してくれて、私んちが最後で、6時ちょうどに出発した。葉山村は高知の山の中とは言え、須崎市までは高速で行けるので、2時間ちょっとしかかからない。5時半には港に並んで奴隷船に乗り込まなければならないオリーブマラソンより、よっぽど楽ちんだ。
車に乗り込むと、さっそく朝食を食べる。本当は家を出る前に朝食を食べてトイレも済ませたいところだが、いくら早起きが苦痛でなくなったとは言え、普段より早い時間に朝食を食べるとお腹を壊す可能性が高いので、家では食べず、車に乗ってから食べるのだ。朝食はおにぎり3個だ。お腹を壊さないように、ゆっくりと時間をかけて噛みしめながら食べる。以前はレース中にお腹を壊すことが多かったので、用心して朝食と一緒に下痢止めの薬も飲んでいたが、一昨年の徳島マラソンから朝食を菓子パンからおにぎりに変えたため、その後は一度もお腹を壊さなくなった。パンに含まれるフルクタンという糖類は消化に悪く、下痢になりやすいが、お米に含まれている糖類は消化が良いので、おにぎりを食べれば、もう下痢を心配する必要は無い。ゆっくり時間をかけておにぎりを3個食べれば万全だ。さらにスタート直前に食べるバナナも持ってきている。
交通量の少ない早朝の高速道路を走って高知県内に入ると、雨が降り出した。やはり高知は香川と違い確実に雨が降る。須崎で高速道路を降り、道の駅でトイレに入り、結構がんばってみたが、まだ大は出なかった。時間的には、もう出てもいい時間なんだけどなあ。
国道197号線を通って津野町に入ると雨はだんだん弱まってきた。去年に比べたら、だいぶ小雨だ。
(幹事長)「去年は支部長がソックスを忘れたとてコンビニでソックス買ったよなあ」
(支部長)「あ、いかん、軍手忘れた!」
(幹事長)「今日は暑くないから汗を拭く軍手は要らんのとちがう?」
てことで、支部長は軍手無しとなったが、問題は無いだろう。
〜 会場へ到着 〜
レースは10時スタートで、受付は9時までとなっている。もちろん、こういう草レースの場合、受付時間を過ぎてもスタートギリギリまで許してくれるのが常なので、何の不安も無かったが、ちゃんと8時過ぎには現地に着いた。それでも去年と同じく、みんな集合が早くて、会場の近くの駐車場は既に満車で、少し離れた場所に駐車させられた。でも、雨はほとんど上がった状態だったので、傘もささずに会場である葉山小学校体育館に歩いていく。
受付では最初から無記名の完走証が配られたので、去年と同じくタイムは計測してくれないんだろうと思ったら、なんと今年はタイム計測チップも配られた。
(幹事長)「こ、こ、こ、これは一体、な、な、な、何があったんやろかっ!?」
(支部長)「わ、わ、わ、分からんっ!」
去年は確か、ゴール地点で係の人が横目で時計を睨みながらタイムを計測してくれていた。この超マイナーな草レースに相応しいタイム計測方式だと思ったんだけど、なんで今年はチップで計測するようになったんだろう。距離は12.8kmという他に例を見ない中途半端な距離だし、コースは斜度が19度もある過激な山道だし、こんなレースのタイムなんて何の参考にもならない。なので、タイムなんて適当で構わない。各自が自分の時計で計測する自己申告制度でもいいくらいだ。一体どうした事だろう?
館内は既に満員状態だったが、おんちゃんが場所取りをしてくれていた。いつもいつも大変お世話になり、ありがとうございます。おんちゃんは、なんと7時前には到着していたとのこと。そこまで早く来ると、車もすぐ側に停められるのだそうだ。
おんちゃんと一緒に記念撮影
(左からピッグ、支部長、おんちゃん、幹事長)
9時になると開会式が始まる。普通、どんなマラソン大会でも、開会式なんかとは無縁で好き勝手振る舞う私たちだが、この大会は控え場所である体育館で開会式をやるので、自動的に参加することになる。開会式にはこの大会の主催者である葉山ランニングクラブの中山さんが登場する。教育委員会にも手伝ってもらってはいるものの、基本的に行政が主体ではない民間のマラソン大会なんて存在は珍しい。しかも、それが今年で19回も続いているなんて驚きだ。
運営は完全にボランティアだろうと思うけど、小さい村でこんなに大勢のボランティアを動員できるって、すごい。本当に地域に根付いたイベントになっている。また、小学校の体育館を会場に使っているし、行政と一線を画しているとは言え、小さな山村のことなので、住民も行政も一体となって開催してるんだろうなあ。すべては中山さんの力だろうと思うけど、中山さん自身は、ランニングクラブを主催しているような体型でもない。昔はやっていたのかも知れないが。
開会式で中山さんは「昨日のような天候だったら地獄だったけど、雨が降って絶好のマラソン日和になりました」って言ってる。まさにその通りで、この時季は雨でも降らないとマラソンには暑すぎる。でも、ちょうど梅雨時で、雨の年が多いのかも知れない。特に高知は雨が多いから、意外に絶好のマラソンの季節なのかも知れない。
このマラソン大会は、距離は12.8kmと短いが、坂が厳しい山岳マラソンだ。ただ、そもそも我々は、もともと山岳マラソンには慣れている。2005年に高松市に合併吸収されるまで塩江町で毎年開催されてい た塩江マラソンは、距離はハーフマラソンで、最大標高差350m、獲得標高550mの山岳マラソンだったし、今はな き四国カルストマラソンはハーフマラソンで、標高1000mを超える高原を走る山岳マラソンだった。それに比べれば今大会は最大標高差は300m程度なので未知の世界ではない。問題は傾斜だ。どれくらいの急勾配なのかが問題だ。距離がハーフマラソンより短いだけに、傾斜はきついのだ。
どれくらい傾斜がきついかと言えば、パンフレットには上り勾配10%、下り勾配19%と記載されている。しかも、これは上り区間や下り区間の平均勾配であって、部分的にはもっともっと傾斜がきつい。上り区間で傾斜がきついところは、走っても歩いても速度は全く変わらなくなるし、下り区間で傾斜がきついところは、足の骨が砕けてしまいそうな感覚で転がり落ちる。しかも今日のように雨で路面が濡れていると、スリップの危険性も高まる。とってもトリッキーなコースなのだ。中山さんも「滑りやすいので気を付けてください!」って言ってる。
ただ、塩江マラソンは急勾配の坂を下りてからも延々とフラットなコースが続いて足が棒のようになって撃沈するのが常だったが、この大会は距離が短く、急勾配の坂を下り終えたら即ゴールとなるので、その点は走りやすく、楽しい気持ちのままゴールすることができる。
開会式が終われば、着るものを決めなければならない。
(ピッグ)「例によって着るものには超心配性な幹事長ですけど、今日も悩みまくるんですか?」
(幹事長)「いえいえ、今日は悩む余地は無いですな」
いくら雨が降って気温が低めだと言っても、この季節は薄着に限る。でも、炎天下でもないので、オリーブマラソンなんかでよく着る秘密兵器のメッシュのシャツではなく、袖無しの白のシャツを着る。このシャツも、背中側は少しメッシュになっている。そして、下は顔を拭くタオルやティッシュを入れられるようにポケットが付いた少し長目のランニングパンツを履く。
着替えが終わり、会場のトイレがすごく空いていたので、再び大の方に入って頑張ってみる。結構、長時間粘ったが、結局、大は出なかった。この時間で出ないのなら仕方ない。これならレース中に出たくなることも無いだろう。最後にバナナを食べて準備万端だ。
〜 スタート前 〜
会場に到着した頃は、ほぼ完全に雨は止んでいたんだけど、いつの間にか再び降り始めている。そんなに大した雨ではないが、雨に打たれると少し冷たい。スタート時間が近づいてきたが、9時50分までに集合すればいいので、ギリギリまで粘る。意外に大粒の雨が降っているので、雨よけのために、普段は被らない帽子を被って外に出る。
雨が降ってると、外に出る時は嫌な感じだが、いったん外に出て雨に濡れてしまうと、割りとあっさりと平気になる。雨が当たると多少は冷たいが、走り始めるとちょうど良くなるだろう。それに、去年はスタート前までかなり激しく雨が降ってて、支部長なんかは雨ガッパ代わりのビニール袋を被ったりしたが、今年は小雨なので、そんな必要は無い。
スタート地点は三嶋様という三嶋神社の前で、会場の小学校から数百m西にある。ゴール地点は会場の小学校の横なので、スタート地点からゴール地点までの数百mはコースがダブっている。
(幹事長)「なんでこんな事になってるんやろ?」
(支部長)「分からんなあ」
もう少しスタート地点とゴール地点を話せば13kmちょうどになるし、逆にダブり区間を無くせば12kmちょうどくらいになると思うんだけど、わざわざダブり区間を作って12.8kmなんていう中途半端な距離にしているのが意味不明だ。しかも以前は、スタート地点がさらに50mほど西にあったから、距離が12.85kmだったらしい。それが12.8kmになって少しだけスッキリしたが、それでもまだまだ中途半端な距離だ。
(支部長)「ま、所詮、12kmちょうどや13kmちょうどにしたところで、中途半端な距離やけどな」
相変わらず小雨は降っているが、スタート地点は混雑しているので、熱気が溢れている。参加者が500人足らずの小さな大会なんだけど、スタート地点の道がとても狭いため、結構、混雑しているのだ。
周囲を見回すと、意外に女性も多い。今日の参加者は定員が500人で、パンフレットには474名の名前が載っている。男女別では女性が107人、男性が367人だ。こんな厳しいコースの大会に女性が2割以上もいるってのに感心する。女性は持久力があるからマラソンには向いていて、フラットなコースの大会だと、終盤で力尽きて足を引きずってノロノロと走っていると、一定のペースを確実にキープしたおばちゃんやおばあちゃん達に次々と追い越されてガックリするが、今日のような厳しいコースにも女性が大勢出るって、本当にすごい。
だんだんスタート時間が近づいてきたので、本日の目標を決めなければならない。もちろん、どんな時でも、どんなレースでも、大会自己ベストの更新を狙うのが良い子のあるべき姿だ。マラソンはコースや季節によってタイムが大きく変わってくるため、違うレースのタイムを比較するのは不適当なので、どんなレースに出ても、とりあえず大会自己ベストを狙うのが良い子の正しい道だ。特に、このレースは距離も中途半端だし、坂も異常に厳しいから、他のレースとは比較のしようがない。このレースは去年が初出場なので、大会自己ベストってのは、つまり去年より良いタイムを出すってことだ。
(幹事長)「本来なら去年のタイムを上回りたいけど、今年は怪我のせいで練習できてないから難しいやろなあ」
1ヵ月半前の登山による膝の故障もなんとか治り、2週間前のオリーブマラソンは完走することができたが、休養期間の急激な脚力の衰えにより、空前の大惨敗を喫したので、今日だって厳しい戦いが予想される。でも、他に目安も無いので、取りあえず去年のタイムを目標にする。去年はスタート前に目標タイムを1時間15分に設定したが、結果は楽勝で1時間15分を切れた。
(ピッグ)「楽勝ってのは言い過ぎですけどね」
(幹事長)「すんません」
取りあえず、今年も目標タイムは1時間15分に設定した。
〜 スタート 〜
いよいよピストルが鳴らされて一斉にスタートする。参加者が500人と少ないので、それほどタイムロスすることなく、割りとすぐにスタート地点まで達し、またそんなに混雑することもなく走り始めることができた。
普通のマラソン大会なら、スタート地点を越えても、しばらくは混雑でまともに走れないが、人数が少ないうえに、こんな厳しいレースに出ようっていうランナーはレベルが高いと言うか、あんまり遅い素人ランナーは少ないため、スタートしてすぐに結構、速いペースとなる。
この大会は行政が関わっていない草レースなので、交通規制は一切ない。スタートやゴールは葉山小学校前の狭い道なので車は通らないけど、しばらく走って国道197号線に出ると、車道は走れないから、歩道を走らなければならない。国道って言っても197号線は狭い道なので、歩道も狭く走りにくい。なので、基本的に歩道を走る区間は追い越しは禁止らしい。完全に禁止はできないだろうけど、歩道から転げ落ちるリスクもあるので、自重した方が良いらしい。そのため、スタートしてから国道に出るまでの1kmちょっとの間に、自分が走る適切なポジションを確保しておかなければならない。自分の本来のペースより後ろの方になると、もっと前へ出たいのに出られないフラストレーションが溜まる。逆に前の方に行き過ぎると後ろからランナーがぶつかってくる。
なので適切なポジション取りが必要になるが、どれくらいが適切なのか分からないので、とりあえず頑張って速めなペースで走る。すぐ前をピッグが走っているので、離されないように走る。ピッグは永遠のライバルで、過去、様々なレースで勝ったり負けたりで、総合すると五分五分ってところだが、今回は怪我の影響もあるので、ピッグに着いていけるところまで着いていこう。
レース序盤に無理すると、終盤になって一気にツケが回ってきて失速するのがマラソン大会の常なんだけど、このレースは事情が異なる。序盤の3kmほどのフラットな区間が終わると、その後は急な上り坂になり、そこまでを無理して飛ばそうが自重しようが、どっちみちペースは落ちるので、最初のフラットな区間は行けるとこまで行けばいい。それに終盤は急勾配の下り坂が続くので、終盤になって失速するってことはないだろう。ピッグの前にはおんちゃんが軽快に走っていくが、そこまで無理して着いていくのは控えて、取りあえずピッグの背後に着いていく。
しばらく走ると1km地点の表示がある。時計を見ると5分を少し切っている。スタート直後の混雑は少なかったとは言え、多少はタイムロスがあったことを考えると、良いペースだ。
そこから300mほど走ると国道に出る。事前に忠告された通り、歩道は狭い。とても狭い。無理したら追い抜けないこともないが、追い抜くには車道側を走らなければならないので、歩道から落ちてしまうリスクがある。最初から車道を走れば落ちる心配は無いが、それは危ないので禁止だ。どこかに遅いランナーがいたら、そこで詰まってしまうので、全体的にペースは落ちてしまうが、仕方ない。何も考えずに、ピッグの後ろを着いていく。
狭い歩道を走っていると2km地点の表示がある。この1kmもかろうじて5分を少し切っている。歩道は狭くて走りにくいとは言え、ペースは悪くない。この調子で走れれば文句は無い。
なーんて思ったんだけど、少しずつピッグが離れていく。無理したら着いていけないこともないが、結構しんどいので着いて行くのを諦めた。
そこから500mほど走ると国道から離れ、いよいよ山の方に向いて上がっていく。狭い道だが、国道と違って車道と歩道の区別が無いので、ランナーとしては走りやすい。車が来れば避けなければならないが、交通量は少ない。て言うか、結局、最後まで車は1台も来なかった。山道に入ったとは言え最初のうちは傾斜はとても緩やかだ。まだまだペースダウンはしていない。と思ったんだけど、3km地点でのラップは1km5分をだいぶオーバーしている。早くも良くない兆した。
3km地点を過ぎると、少しずつ傾斜が強まってくる。まだまだ大した傾斜ではないんだけど、確実にペースが落ちているのが自分でも分かる。
雨はすっかり上がり、袖無しのシャツでちょうど良い体感温度となってきた。雨上がりなので湿度が高く、呼吸も楽だ。コンディションとしては何の不満も無い。それなのにペースがどんどん落ちていく。
このレースは距離は短いけど、給水所は3箇所設置されていて、最初の給水所が早くも現れる。まだまだ喉は渇いてないけど、こまめに給水しなければ後で悪影響が出るので、ちゃんと水分を補給していく。立ち止まらず無駄の無い動きで給水し、タイムロスを限りなくゼロにしているんだけど、どんどんペースダウンしているので、あんまり効果は無い。
(ピッグ)「立ち止まって飲んでもタイムはほとんど変わらないんじゃないですか?」
(幹事長)「分かってるけど、鮮やかに給水できると嬉しいやんか」
まだまだ激しい上り坂とは言えないのにペースはどんどん落ちていき、4km地点でのラップは、なんと1km6分半にまで落ちた。衝撃の落ち方だ。しかも、周囲のランナーも似たようにペースダウンしているのなら許せるが、周りのランナーはどんどん前に行く。後ろからもどんどんランナーが追い抜いていく。周りのランナーが一斉にペースアップする訳はないので、明らかに自分だけがペースダウンしているようだ。
などと思っていたら、なんと、支部長が横を抜いていくではないかっ!
(支部長)「一人だけペースダウンして落ちてくるランナーがおるなあと思ったら、幹事長やんか」
(幹事長)「ひえ〜、支部長に追い付かれたっ!」
何が衝撃かと言って、支部長に上り坂で追い抜かれるほど衝撃的な事は無い。支部長とも永遠のライバルだが、基本的に負けることは少ない。丸亀マラソンや徳島マラソンやオリーブマラソンやタートルマラソンで負けた事は、どのレースもたぶん1回か2回だ。なので、支部長には負けること自体が衝撃だ。2週間前のオリーブマラソンでも、過去初めて支部長に負けたため、ものすごい衝撃を受けた。膝の故障による1ヵ月間の完全休養のため走力が激減していたからだが、それでも衝撃だった。しかし、追い抜かれた場所は、フラットな区間だった。支部長は上り坂には極端に弱く、逆に下り坂区間は異常なまでに速い。なのでフラットな区間で追い抜かれるのは、まだ許せる。いや、許せはしないが、こっちが絶不調なんだから仕方ない。しかし、いくらこっちが絶不調のどん底で喘いでいると言っても、上り坂で支部長に負けるなんて、あり得ない!絶対にあり得ない事態だ!上り坂で支部長に抜かれるほど自分が落ちぶれたなんて、もう絶望だ。もうマラソンなんか止めてやるっ!
(支部長)「そこまで言わんでもええがな」
(幹事長)「君には私の絶望が理解できないだろう」
(支部長)「いや、さすがに上り坂で追い付くとは思わんかったけどな。
私に上り坂で負けるなんて、よっぽど調子が悪いんやなあ」
今日は状態が最悪だから、終盤の下り坂区間で支部長に追い付かれるのは危惧していた。支部長の下り坂のスピードは尋常ではないからだ。なので、いかに前半の上り坂区間で差を広げ、貯金を作っておくかが支部長との勝負の分かれ目だと思っていた。それなのに!ああ、それなのに!なんと、その上り坂区間で支部長に追い抜かれるなんて、もう世も末だ。
(幹事長)「マラソン大会なんて、この世から無くなってしまえ!」
(支部長)「ほな、お先」
支部長の背中が着実に遠ざかっていく。しかし、これで勝負を諦めた訳ではない。上り坂区間とは言え、まだまだ傾斜は大したことない。傾斜が大したことないのに支部長に追い抜かれたのは衝撃だが、もっと傾斜がきつくなると支部長は確実に歩く。そしたら追い抜き返せるはずだ。ここで頑張って食らいついていかなければならない。
良く見ると、支部長の少し前にピッグが走っているのを見つけた。て事は、ピッグは遙か前方に行ってると思ってたけど、ペースダウンしているようだ。このまま支部長が頑張れば、ピッグも追い抜くかも知れない。私の調子がどん底に悪いのは確かだが、ピッグまで上り坂で追い抜くとなると、支部長はいつになく調子が良いのかもしれない。
4km地点を過ぎたら、本格的な急勾配の上り坂になった。この辺りから傾斜は10%を超えたようだ。さすがに厳しくて超スローペースになる。でも、歩きたいなんていう気持ちは沸いてこない。なんとか走り続けて支部長を逆転しなければならない。
前を見ると、案の定、支部長が歩き始めている。チャンスだ!このチャンスで一気に支部長を逆転しなければならないぞ。ところが、なかなか歩いている支部長に追いつけない。なぜなら、走っているつもりでも、歩いているのと同じようなスピードだからだ。周囲のランナーを見ても、私の様に走っているランナーと支部長のように歩いているランナーがいるが、みんなスピードは似たようなものだ。歩いていてもしっかり歩いているランナーは走っているランナーと変わらないのだ。て言うか、私は意識としては走っているんだけど、両足が同時に宙に浮いている瞬間はほとんどなく、つまり気持ちとしては走っているつもりでも、実際には歩いているようなものなのだ。去年はもっとしっかり走れていたような気がする。いくらスピードダウンしても、もっと速かったような気がする。
しばらく登ると5km地点の表示があり、この1kmはなんと9分近くかかっている。もうあり得ないくらいのペースダウンぶりだ。これじゃ歩いている支部長に追いつけないのも無理はない。
それでも、ほんの少しずつは支部長との差が詰まってきてるんだけど、時々、上り坂の傾斜が緩やかになる部分がある。そうなると、支部長はすぐに走りを再開し、再び差が広がってしまう。普通、いったん歩き始めると、すぐに走りを再開するのは億劫になるもんだけど、今日の支部長は隙さえあればすぐに走り始める。やっぱり調子が良いのか?
その後、フラットな区間が現れ、「やった!早くも上り坂はおしまいか?」ってぬか喜びしたら、その直後には傾斜20%を超える激坂がしばらく続いた。それでも気持ちとしては走り続けているんだけど、自分の足を見る限り、歩いているとしか思えない。
激坂が続く中、6km地点の表示があり、なんとこの1kmは10分近くかかっていた。去年は一番遅かった区間でも1km8分くらいだったから、今年は2分も遅いってことだ。いくら弱っているからと言っても、ここまで遅くなる事ってあるんだろうか?こんなペースでは、取りあえずの目標である1時間15分は絶対に不可能だ。
6km地点からしばらく進むと、ようやく激坂区間が終わり、フラットな区間になる。まだコースの半分程度だから、まだまだ上りは続くんじゃないかって思っていたら、案の定、しばらくすると再び上り坂になったが、斜度はもう大したことはない。たまに急傾斜の坂もあるけど、すぐに終わり、基本的には緩やかな坂が続く。先ほどの激坂を走った後なので、緩やかな坂だと、まるでフラットに感じられてしまう。上り坂でなければ、まだまだ走れそうだ。
給水所はパスせず、ちゃんと水分を補給していく。
7km地点でのラップは、1km7分台になっていた。さっきよりはだいぶマシになったが、それでもまだ十分に遅い。一体どうしたんだろうなあ?まだ上り坂は続いているが、だいぶフラットになっているので、自分ではもっと速く走っているように感じられるんだけどなあ。
きつい上りさえ無ければ自分では足が快調に回っているような気がしているんだけど、次の8km地点でのラップも、まだ7分を切れなかった。体感のスピードと全然違う。
8km地点を過ぎてしばらく進むと、ようやく下り坂が出現する。ピークの標高は335mで、下の国道からの標高差は300mほどだ。遂に上り坂は終わり、後は下るだけか。ホッとして一気に全開で大股でガンガン駆け下りる。もともと交通量の少ない林道なので、路面は苔むしていて、今日のような雨模様だと濡れた苔が滑りやすいので危険だ。もちろん、落ち葉にも気を付けなければならない。できるだけ落ち葉や苔を避けて、水たまりも避けて、駆け下りていく。とは言え、まだまだ過激なほど急な傾斜ではない。本格的な下り区間に入った訳ではない。
9km地点でのラップは1km6分ちょっとだ。さっきよりは速くなったとは言え、下り坂の割りには、全然速くない。なぜだっ!これ以上、ペースアップすることは出来ないのか?なーんて思ってたら、再び上り坂が出現する。まだまだ上りと下りが混在した区間だったのか。
とは言え、上り坂はすぐ終わり、その後には遂に本格的な急勾配の下り坂区間が始まった。ものすごく、きつい!きつ過ぎる!傾斜20%を超える下り坂が続く。雨で苔が濡れているし、濡れた枯葉も落ちているし、滑るんじゃないかって不安があるが、ここまでのレース展開が余りにも情けないので、できるだけ大股でガンガン走って降りる。
とは言え、あまりに急な下り坂でブレーキを掛けすぎたせいか、次の10km地点でのラップはさっきと同じ1km6分ちょっとだった。下り坂なのに6分すら切れなかっただなんて、徹底的にガッカリだが、それでもレースを捨てる訳にはいかない。
てことでモチベーションを維持したまま走り続けると、10km地点を越えてからは傾斜が少し和らぎ、まだまだ急勾配とはいえ、なんとかブレーキをかけずに思いっきり駆け下りられる程度になった。これくらいがちょうど良くて、一番速く走れる。こんなに思いっきりガンガン駆け下りたら、怪我してなくても膝に悪影響が出そうで不安だが、怪我が治ったばかりの膝が痛み出しそうな気配はなく、もう悪化する心配はしなくてもいいようだ。あと3kmくらいだから、このまま持ちそうだ。
快調に走った結果、11km地点でのラップは、一気に1km4分半くらいにペースアップできた。今さら飛ばしたってタイムは絶望的だが、4分台の区間が出れば気持ち良い。
その後、下り坂の傾斜は徐々に緩やかになっていくが、坂が終わるわけではない。傾斜が緩やかになるにつれペースも落ちていくが、下っている限り、足の疲れは感じない。12km地点でのラップは5分台に落ちていたが、最後の1kmはラストスパートする。まだ微かに下り基調なので、大股で走っていける。今さら頑張っても意味は無いが、ゴール地点が見え始めた時に、女子3人組が追い抜いていくので、ここは許してはならないと思うと不思議なパワーが一気に沸いてきて、そいつらを抜き返して再び1km5分を切るペースでゴールした。
〜 ゴール 〜
最後だけ頑張っても、所詮はものすごい大惨敗タイムだった。1時間15分どころか1時間20分すら切れない信じられない大惨敗タイムだ。
ゴールすると支部長とピッグがにこやかに出迎えてくれた。
(支部長)「なかなか快調に走れたなあ」
(ピッグ)「やっぱり、このコースは楽しいですねえ」
ピッグは去年と似たようなタイムだったが、支部長は去年より大幅にタイムを短縮していた。私が極端に遅かったのは事実だが、そうだとしても、私を上り坂で追い抜いていったのだから、もう「坂に弱い支部長」というのは当てはまらない。明らかにレベルアップしている。やはりレフコトライアスロンの成果なんだろうか。
(支部長)「今年も最後の下り坂ではゴボウ抜きにして、ほんとに楽しかったな」
(幹事長)「コースが楽しいのは確かやけど、ここまで惨敗したら悩んでしまうなあ」
結局、去年のタイムより7分半も遅かった。1km当たりの平均では35秒も遅い。
(幹事長)「確かに怪我が治るまで完全休養したけど、僅か1ヵ月間くらい休んだだけで1km当たり30秒以上も遅くなるって、あり得る?」
(支部長)「筋力の衰えは早いからな。歳とって骨折したら、そのまま寝たきりになるくらいやからな」
まだ寝たきりにはならないにしても、マラソン大会に出るようになって20年以上になるが、その間に積み上げてきた成果が僅か1ヵ月で失われるなんて、早すぎるんじゃないか?
(幹事長)「怪我する前のレベルに戻るのに、また20年もかかるのか?
20年も経ったら80歳になってしまうぞ!」
(ピッグ)「80歳になっても走ってたら大したものですけど」
(支部長)「幹事長のレベルやったら1ヵ月くらい真面目にトレーニングしたら、すぐ回復するって」
1歳しか歳が違わない支部長の進化を見ると、まだまだ年齢から来る衰えではないはずだ。よし、もっと真剣にトレーニングするぞ!
〜 抽選会 〜
このレースの大きな楽しみはお楽しみ抽選会だが、レースの制限時間が2時間15分もあるから、お楽しみ抽選会までは、まだ1時間以上もある。てことで、近くにある葉山の郷という温泉に入りに行く。今日は特別にタダで入れるのだ。歩いて行くには少し遠いけど、マイクロバスで送り迎えしてくれる。なんて親切なシステムなんだ。
ただし、行ってみてびっくり。とても狭いのだ。てっきりスーパー銭湯みたいなのをイメージしていたけど、宿泊施設に付属した小さなお風呂だった。洗い場は4人分しかない。それでも空いていたので、ゆっくり体を洗い、さて浴槽に入ろうとして後ろを振り向いてびっくり。いつの間にか大勢のランナーが押し寄せてきて、狭い風呂場の中は洗い場を待つ人でびっしり混雑していた。ほんの少し早かっただけで助かった。
さっぱりして会場に戻り、ゆっくり食事をとる。食事はソーメンとばら寿司が配給される。マラソン大会の後の疲れた体には、一般的なお弁当はおかずがフライものや焼き魚なんかが多く、なかなか喉を通りにくいから、うどんとかソーメンに限る。
そのうち表彰式があり、聞いていたら、男子の優勝者は、なんと45分を切るタイムだった。あの厳しい上り坂があるコースで45分を切るなんて、一体どういう走り方をするんだろう。と思っていたら、女子の優勝者も1時間を切っていた。もう、あり得ない。信じられない。どういう走り方をしているのか見てみたいものだ。
上位陣の表彰の後は、連続出場者の表彰があった。まず、第1回から19年連続で出場している人が表彰された。私も丸亀マラソンとかオリーブマラソンとかタートルマラソンなんかは20年以上出ているが、どれも欠場した年があり、連続出場となると18回連続の満濃公園リレーマラソンが最高だ。
(ピッグ)「それでも18年も連続出場ってすごいですね」
(幹事長)「もっとまともなレースだったら威張れるんやけどなあ」
19年連続出場者の次は10年連続出場者の表彰があり、なんと、おんちゃんの名前が呼ばれた。
(幹事長)「こんな過激なレースに10年も連続出場って、凄いですねえ」
(おんちゃん)「もう病みつきやな」
おんちゃんは賞状代わりの木のプレートと、缶ビールをもらっていた。
その後、1時前になって、お楽しみ抽選会が始まる。このお楽しみ抽選会は、主催者の葉山ランニングクラブの中山さんが村内きっての有力者であり、町内のあらゆる商店から寄付をかき集めてくるため、景品がめちゃめちゃ多くて多彩だ。今年もシャツやシューズから始まり、扇風機や花火など、普通の抽選会では出てこないような景品が色々と出てくる。シューズなんかサイズが違うと履けないと思うが、みんな喜んでもらっていく。そして景品の数が多いから、当選確率が異常に高い。おんちゃんのグループは、一昨年は6人中5人が当選したとのことだし、我々も去年は5人中4人が当選した。
まず最初はランニング用シャツとかから始まり、次々と色んな景品が出てくるが、当然ながら1つ1つ抽選のクジを引いて当選者を発表していくので時間がかかる。すると、すぐに支部長が寝始める。去年も支部長はすぐに寝てしまったが、結局、去年は支部長だけが何も当たらなかったため、最後まで起こさなかった。
支部長が寝てしまったので、ピッグと2人で3人分の番号を聞き漏らさないように必死で発表番号を聞く。普通のクジなら、まず当たらないだろうと思って真剣さが欠けるが、異常なまでの高確率なので、気合いを入れて聞き続ける。なかなか当たらないなあ、なんて思い始めた頃、突然、ピッグの番号が読み上げられた。当たったのは蚊取り線香のアースマットだった。
(ピッグ)「実用的なものが当たりました」
(幹事長)「奥さんの厳しい目をかわせる景品やな」
その後も真剣に聞き続けていると、次は支部長の番号が読み上げられた。慌てて支部長を叩き起こす。支部長は寝ぼけて、何が何やら分からない状態だったが、ヨタヨタとステージの方に行き、訳が分からないまま長野県産のリンゴをもらってきた。
(支部長)「何が何やら分からんかったから、感激がイマイチやった」
だんだん景品も残り少なくなってくるが、最後まで気は抜けない。て言うか、最後の方が良い景品があるのだ。最後は缶ビール24本入りケースと、発泡スチロールの箱に入った地元の鮎だ。ビールは20箱程度積まれているから、当たってもおかしくない。て言うか、去年は小松原選手とヤイさんがビールが当たったくらいだから、今年も当たってもおかしくはない。なーんて期待してたんだけど、結局、当たらなかった。残るは鮎だが、これも当たらなかった。結局、今年は3人中2人が当たり、私だけがはずれてしまった。ま、確率的にはこんなもんか。去年1人だけはずれた支部長が今年は当たったし。
一方、10年連続出場者表彰で缶ビールをもらったおんちゃんは、お楽しみ抽選会では、なんと缶ビールを入れるクーラーボックスをもらった。うまいこと出来てるなあ。
〜 次の戦い 〜
去年と同様に、これからも夏場は厳しい山岳レースが続く。ただでさえ暑くて走るのが厳しい季節なのに、コースまで坂が多くて厳しいレースが続くのは理由がある。暑い季節だから、少しでも気温が低い山岳地帯でレースを開催しようと主催者が考えるからだ。もちろん、そんな甘い話はない。10年前に汗見川マラソンに出たときなんか、この世のものとは思えないようなあり得ない暑さで、「四国山地の真ん中の高原で、こんなに暑いんだったら、下界は地獄のような暑さだろうなあ」なんて思っていたら、なんと、その日は、汗見川マラソンが開催された高知県本山町が全国で一番暑かったという、トンでもない状況だったから、標高が高いからといって安易に涼しさを期待してはいけない。それに、仮に下界よりは多少は気温が低かったとしても、山の上は直射日光がギラギラ照りつけてきて、体感温度はむしろ高い。
だが、夏場は他に選択肢が無いから山岳マラソンに出るしかない。で、例年なら次のレースは7月末の汗見川マラソンなんだけど、今年は同じ時に開催される富士登山競走のエントリーに成功したから、そちらに出場する。もう楽しみで楽しみで、ずっとワクワクしっぱなしだ。
その後も、9月始めの四国のてっぺん酸欠マラソン、10月始めの龍馬脱藩マラソンと、去年に続いて山岳マラソン4レースが続くというハードなスケジュールにしている。これだけハードなレースをこなせば、去年の年末の交通事故に端を発するどん底の絶不調状態から何とか抜け出せるんじゃないかと期待したいぞ。
(支部長)「いや、だから、それは不調なんじゃなくて歳のせいやってば」
〜おしまい〜
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